私と読書
お互いの苦悩を理解しあうための1冊—「障害新生児の生命倫理」を読んで
大倉 興司
1
1日本家族計画協会遺伝相談センター
pp.442-443
発行日 1991年5月25日
Published Date 1991/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611900326
- 有料閲覧
- 文献概要
生病老死は人間の宿命と考えられている。しかし,生を得てからの必然は老と死だけである。病は絶対ではない。医学の進歩と医療の普及は病を減らし,特に感染症からの死を免れさせてくれるようになった。その結果,寿命も延び,人間は死から遠ざかったように錯覚し,特に日本人は健康だけが正義で,健康でないことは不正義であるかのように思い,健康への異常ともいえる信仰が人びとのこころを占めるに至った。
生命を永らえることへの執心が,もしかすると死ぬことより辛い日々を病む人に強いてはいないかという思いは,口には出せないが,その局面に立ったことのある人は痛感してきた。いわば本音と建前との,現実と社会の目との板挟みに,医療側だけでなく患児の家族も苦しんできた。
Copyright © 1991, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.