連載 フランス出産事情—変わりゆく出産・助産婦・病院・12
フランスの産院を訪ねて②—世界の注目を集めたピティヴィエ
舩橋 惠子
1
1桜美林大学国際学部
pp.426-434
発行日 1991年5月25日
Published Date 1991/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611900324
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
ピティヴィエへの道
おそるおそるかけた電話に答えてくれた助産婦の声は,とてもやさしかった。「いいですとも。いつでもあなたが来たいと思った時にいらっしゃい。予約なんかいりません」。
7月初め,私は,まるで魂が吸い寄せられるようにして,一人ピティヴィエへの途についた。パリのオーステリッツ駅から急行に乗って1時間半ほど南に行ったエタンプという町で降り,タクシーを30分ほど飛ばして,いくつかの町を通り抜け畑や牧場の側を走って,ようやく昼前にピティヴィエの町に着いた。バスは1日に2本ぐらいしか通っていない田舎町である。これでは,いくらピティヴィエの病院がすばらしくても,地域の人であるか自家用車を持っているかでなければ,非現実的な選択肢である。心配症の私にしては珍しく,帰りの交通手段も考えずに,やみくもな情念にかられて来てしまった。病院は,想像していた以上に大きかった。はたして,スタッフは快く迎え入れてくれるだろうか。私は病院を見上げて,大きな息をした。
Copyright © 1991, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.