medicina 48巻5号 (2011年5月)

今月の主題 脂質異常症―動脈硬化症を予防するためのStrategy

木下 誠
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 わが国においては生活の欧米化に伴い,虚血性心疾患や脳梗塞を代表とする動脈硬化症の発症年齢が低下し,発症頻度も増加してきている.現在,わが国の死亡率の25%以上が動脈硬化性疾患によるもので占められると考えられている.動脈硬化症は血管の異常をきたす病態であり全身性の疾患とも考えられるため,個々の疾患の治療に対応するのはもちろんのこと,その予防を念頭に置いた診療が必要となってくる.

 動脈硬化症の進展には,脂質異常症,糖尿病,高血圧症,喫煙といった危険因子が重要な役割を果たしていることが明らかになっている.本特集ではその危険因子による動脈硬化の成因をまとめた後に,脂質異常症治療に焦点をあわせて動脈硬化の予防・治療について議論を展開することとした.

理解のための29題

動脈硬化症と脂質異常症の理解のために

リポ蛋白の代謝経路 荒井 秀典
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ポイント

★リポ蛋白代謝の異常が脂質異常症につながる.

★LDLコレステロールの増加,HDLコレステロールの低下が動脈硬化につながる.

★動脈硬化の予防のためには,LDLコレステロールとHDLコレステロールの管理が重要である.

動脈硬化症と脂質異常症の理解のために 【動脈硬化症発症に及ぼす各危険因子の影響】

脂質異常症が果たす役割 横出 正之
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ポイント

★動脈硬化症の発症進展に脂質異常症とくに高LDLコレステロール血症が深くかかわる.

★レムナント,small dense LDLも動脈硬化発症にかかわる可能性があると考えられている.

★低HDL血症は動脈硬化性疾患のリスクとなる.

★大規模脂質介入試験は高LDLコレステロール血症の改善が動脈硬化症リスク低下につながることを実証した.

高血圧症が果たす役割 木庭 新治
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ポイント

★高血圧と動脈硬化は相互に関連し,動脈硬化性心血管疾患の発症・死亡リスクを高める.

★高血圧は血管壁に機械的ストレスや酸化ストレスをもたらし動脈硬化を進行させる.

★高血圧では血管内皮機能障害により一酸化窒素が減少し,活性酸素種が産生される.

★血圧の上昇とともに血管リモデリングが進行し,動脈硬化プラークが形成される.

★降圧療法は動脈硬化プラークの安定化に重要である.

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ポイント

★糖尿病患者では初期から大血管症が認められ,非糖尿病患者と比較して心血管疾患発症が2~4倍高く,重症度も高い.

★糖尿病患者では,高TG血症,低HDL血症といった動脈硬化を促進する危険因子が重複しやすい.

★糖尿病患者では,small dense LDL,酸化LDL,糖化LDLなど動脈硬化を惹起する物質の増加を含む脂質代謝の質的異常を有する.

★食後高血糖,負荷後高血糖は冠動脈疾患の危険因子であり,耐糖能障害の段階から心血管疾患の危険因子となる.

喫煙が果たす役割 山下 静也
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ポイント

★喫煙は癌,肺疾患,消化器疾患などと強く関連するだけではなく,冠動脈疾患・脳血管疾患,閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化性疾患の独立した強い危険因子でもある.

★タバコ煙中の生理活性物質による血管運動機能異常,炎症,血清リポ蛋白異常,遺伝素因,血栓易形成性などが想定されている.

★酸化ストレスの亢進,特にLDLの酸化は喫煙による動脈硬化発症・進展の中心的な役割を果たしている.

動脈硬化症の非観血的診断法

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ポイント

★頸動脈超音波検査は潜在的な動脈硬化重症度評価および直接的な脳血管疾患発症リスクの評価に用いられる.

★潜在性動脈硬化重症度評価には内膜・中膜壁厚(intima-media thickness:IMT)測定および粥状動脈硬化病変(プラーク)評価が用いられる.

★総頸動脈遠位側のIMTは普遍性・再現性に富んだ指標である.

★IMTは冠動脈疾患および脳血管疾患発症の予測指標である.

★頸動脈高度狭窄症例や低輝度プラークを有する症例では症状の有無にかかわらず神経内科専門医への診療依頼を考慮する.

MSCT(multi slice CT) 横山 直之
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ポイント

★冠動脈カルシウム・スコアは,心臓CT検査による冠動脈石灰化の定量評価に用いられる.

★冠動脈CT造影検査により冠動脈狭窄の有無や重症度の評価が可能になった.

★冠動脈CT造影検査により急性冠症候群の原因となる不安定プラークの評価が可能となりつつある.

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ポイント

★動脈硬化を定量化する検査法として,血管機能測定法の開発が行われてきた.

★脈波伝播速度(PWV)は測定の簡便さもあり普及したが,血圧依存性が問題となった.

★心臓足首血管指数(CAVI)は血圧非依存性の新たな血管機能指標として期待される.

現在までに明らかにされたエビデンス

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ポイント

★脂質異常症治療薬は多数の大規模臨床試験により総死亡率や心血管イベントの抑制が示された.

★スタチン,フィブラート,EPAは,抗炎症作用や血管内皮改善作用,抗血栓作用などを併せもつ.

★脂質異常症治療薬の心血管イベント抑制には,脂質代謝改善作用に加えて各薬剤の多面的な作用が影響を及ぼしていると考えられる.

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ポイント

★脂質異常症と脳卒中との関連性は,脳出血や脳梗塞などの病態により異なる.

★高コレステロール血症および低HDL血症は,脳梗塞の危険因子である.

★スタチンによる脂質低下療法は脳卒中,特に脳梗塞の発症抑制効果を示す.

★スタチンによる脳卒中の再発抑制については用量や脳出血リスクのさらなる検討を要する.

★本邦の脂質低下療法と脳卒中に関するエビデンスとしてはMEGA study やJELISがある.

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ポイント

★慢性腎臓病では脂質異常が生じる.

★脂質異常症は心血管疾患と腎機能悪化の予測因子である.

★脂質低下治療にて蛋白尿減少・腎機能保持または改善がみられる.

★脂質管理が慢性腎臓病における心血管保護・腎保護の両面に役立つ可能性がある.

ガイドラインをめぐって

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ポイント

★脂質異常症の中で,高LDLコレステロール血症,低HDLコレステロール血症,高トリグリセライド血症は冠危険因子である.

★上記以外の主要危険因子には,高血圧,糖尿病,喫煙,家族歴,男性・加齢がある.

★一次予防では,高LDLコレステロール血症以外の危険因子を評価することが重要で,それに応じてLDLコレステロールの管理目標値を設定する.治療においては生活習慣の改善が優先である.

★二次予防においては,生活習慣の改善と同時に薬物療法が必要で,LDLコレステロール100mg/dl未満を目標にする.

ガイドラインをめぐって 【ガイドラインを使う際の注意点】

LDLコレステロールの評価 島野 仁
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ポイント

★LDLコレステロールは,動脈硬化性疾患のリスクに応じた管理目標値を設定する.

★LDLコレステロールの測定は,Friedewaldの式(LDL-C=TC-TG/5-HDL-C)が原則である.

★高トリグリセリド血症の管理指標にはnonHDLコレステロール(TC-HDL-C)が優れる.

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ポイント

★TG値は食事や飲酒による変動幅が大きく,検査は原則として12時間以上絶食とする.

★食後高脂血症も動脈硬化の危険因子であるが,現時点では基準値が明確にされていないため,空腹時の測定値150mg/dlをもって高TG血症と診断する.

★高TG血症ではレムナントやsmall dense LDLの増加を認め,動脈硬化の原因となる.

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ポイント

★動脈硬化性疾患予防のための治療として,LDLコレステロール低下療法に加えHDLコレステロール(HDL-C)が脚光を浴びている.

★HDL-C値は冠動脈疾患イベントと強く逆相関し,HDL-C 40mg未満でリスクが急上昇することから,HDL-C<40mg/dlを低HDL血症と定義する.

★低HDL血症の原因として多いのは肥満,糖尿病,高中性脂肪によるもので,治療としては生活習慣の改善が重要である.

★高HDL血症に対する評価は定まっておらず,現時点で積極的な治療の適応はなく,必要に応じたほかの危険因子の是正が重要である.

ガイドラインをめぐって 【脂質異常症をどの程度に管理すべきと考えるか】

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ポイント

★スタチンによる脂質低下療法の意義は一次予防・二次予防ともに大規模臨床試験の結果から明らかであり,LDLコレステロール(LDL-C)低下に依存して,心血管イベントは減少する.

★予後不良とされる急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)も積極的脂質低下療法により予後改善効果は実証されており,現在LDL-C達成目標値はより下げる方向にある.

★スタチンによる心血管イベント抑制機序はプラークの安定化が主体と考えられているが,プラーク退縮の関与についても臨床試験結果が報告されている.

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ポイント

★脳梗塞の一次予防,二次予防には脂質異常症のコントロールが重要である.

★一次予防にはLDLコレステロールを治療ターゲットとしたスタチンの投与が勧められる.

★積極的なLDLコレステロール低下療法による脳卒中発症抑制のエビデンスが蓄積されつつある.

★高血圧を合併した脂質異常症のスタチン治療では脳卒中予防の観点から十分な降圧治療を行う.

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ポイント

★2型糖尿病に伴う脂質異常症は,高中性脂肪血症,高LDL血症,低HDL血症が多い.

★糖尿病に伴う脂質異常症の管理目標は,LDLは120mg/dl未満と動脈硬化予防のために厳しく設定されている.

★大規模臨床試験から,フェノフィブラートの投与で,糖尿病の三大合併症の抑制の可能性が示されている.

★日本ではスタチンとフィブラートの併用は原則,禁忌であるが,海外の試験では,併用で心血管イベント発症率が31%低下した.

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ポイント

★脂質異常症と高血圧症の疫学/介入試験

★高血圧症を合併した脂質異常症の管理目標値について,最近の研究結果やガイドラインを踏まえて検討する.

★脂質異常症患者における高血圧症患者の降圧薬について,脂質代謝の病態を考慮して選択する.

CKDを合併する場合 渡辺 毅
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ポイント

★CKDは独立した動脈硬化リスクであるので,脂質異常症の治療とアルブミン尿減少,腎保護,腎不全病態の改善を目指した治療を同時に行う必要がある.

★進行したCKDでは,一般にLDL-Cが高いほど心血管死亡率が低い傾向にあるが,低栄養,全身炎症のない患者では逆の関係がある.

★ネフローゼ症候群では,Ⅱ型脂質異常症,非ネフローゼCKDでは,メタボリックシンドロームに類似の高TG血症,高IDL血症,低HDL血症,TG含量の多い質的リポ蛋白異常が特徴である.

★CKDでは,LDL-C値とともに(空腹時または食後)non-HDL-C値は,心血管イベント・予後に対する予知および治療指標である.

★スタチン治療の心血管リスク軽減効果は,保存期CKDでは非CKDより良好であるが,透析患者では証明されていない.

脂質異常症の治療

生活指導の実際 松島 照彦
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ポイント

★エネルギー制限,禁酒などの生活習慣の変更は苦痛を伴うものである.

★リスクの意味と生活改善の位置づけを詳しく説明し動機付けをもたせる.

★生活改善がもつ疫学的,生化学的背景を説明し,取り組みへの意欲をもたせる.

★患者が自己効力感をもてる具体的な行動目標の設定を支援する.

★苦痛に共感しつつ,かつ,新しい習慣が身に付けば苦痛がとれることを説明する.

スタチンの使い方 大須賀 淳一
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ポイント

★LDL-C値を低下させる薬剤の中で,スタチンは第一選択薬である.

★他の脂質異常症治療薬との併用では,副作用の発現に注意が必要である.

★長期に治療するので,適正かつ安全に用いるべきである.

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ポイント

★LDL-C高値の第一選択は現在でもスタチンである.

★高用量のスタチンでも脳・心血管疾患を完全には予防できない現実がある.

★TG,HDL-C,sdLDLなど,LDL-C以外の要因の是正も必要である.

★効果不十分例では他剤の併用がLDL-C低下に有効である.

★スタチンとフィブラート,ニコチン酸の併用では横紋筋融解症に注意する.

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ポイント

★冠動脈疾患の既往のない患者を対象とした一次予防,既往のある患者を対象とした二次予防ともに,LDLコレステロール値を下げることで心血管イベントを低減しうる.

★脂質異常症の治療では,動脈硬化診療ガイドラインに準じてリスクの層別化を行い,提唱された管理目標値をめざす.

★二次予防患者では生活指導とともに,速やかに薬物療法を開始する.

★医療経済面からも,リスク群ごとの絶対的リスク低減を考慮したガイドラインの作成が望まれる.

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ポイント

★空腹時が正常でも,食後高トリグリセライド血症は治療の対象である.

★500ないし1,000mg/dl 以上では,膵炎も考慮する.

★続発性が圧倒的に多く,摂取カロリー制限,運動,体重の適正化が必要である.

★増加しているリポ蛋白がVLDLだけかどうかを鑑別する.

★フィブラートかスタチンかは,高リポ蛋白血症の表現型と合併症による.

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ポイント

★FHは,LDL受容体およびその関連遺伝子の変異による遺伝病であり,常染色体性優性遺伝型式をとる.

★FHの診断には,高LDL-C血症,皮膚結節性黄色腫,腱黄色腫の存在とともに,家系内にFHや若年性冠動脈疾患患者がいることが決め手となる.

★FHは若年性冠動脈疾患を併発するため,食事療法などの生活習慣の改善とともに,薬物療法が必要である.

★FHホモ接合体は極端な高LDL-C血症を示し,薬物に対して抵抗性を示すため,LDLアフェレーシス治療が必要である.

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ポイント

★女性の冠動脈疾患および脳梗塞の発症,死亡リスクは明らかに男性より低い.

★女性の閉経前はLDL-C値が男性より低い.しかし閉経後は上昇し男性より高くなる.HDL-C値は終生女性が男性より高い.

★女性の高LDL-C血症に対する薬物治療の適応は,慎重に検討する必要がある.

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ポイント

★小児の脂質異常症には原発性が多く,家族解析が確定診断のために必要である.

★治療の基本は原発性,続発性にかかわらず生活習慣の適正化である.

★FHに関しては,学童期以降では積極的な治療管理が必要である.

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ポイント

★老年者はADLなどを含む“心身の健康状態”を考慮して治療の必要性を考える.

★老年者も食事療法,運動療法といった生活習慣の改善を図ることが基本である.

★無理な食事療法はかえって健康を損なう恐れがある.

★運動は脂質異常症の改善のほか転倒,うつ,認知機能悪化の防止にも効果が期待できる.

★薬物は少量から開始し,投与開始4週間以内に有害作用の有無と効果の確認を行う.

今後期待される新薬 塚本 和久
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ポイント

★脂質異常症治療ガイドラインの目標値に到達しない症例の割合は,高リスク群や二次予防群で高い.

★PCSK9阻害薬,CETP阻害薬,MTP阻害薬などの脂質の値を良好な方向に導く薬剤の開発・臨床試験が進行している.

★脂質レベルには大きく影響しないものの,動脈硬化症を抑制すると考えられる薬剤の開発も進められている.

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本座談会では,動脈硬化症予防に焦点をあわせて,脂質異常症の治療理念,治療の実際を採り上げます.

治療を行ううえで重要な日本動脈硬化学会による『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版』は,作成時点までの疫学研究や予防試験の結果を基に作成されたものですから,新たなエビデンスなどにより変化していく可能性があります.

その改訂を見据えて,今後ガイドラインがどのように展開されていくか,現在までに提示されたエビデンスを基に,臨床からの要望なども織り交ぜてご議論いただきました.

REVIEW & PREVIEW

時間治療の現状と将来 大戸 茂弘
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最近の動向

 社会の少子化および高齢化が進むなかで,集団の医療から個の医療へとその重点が移りつつある.現在,個体間変動要因の代表例である遺伝子多型に関する研究およびその治療への応用は確立されつつあるが,遺伝子診断のみでは説明できない現象もある.したがって,医薬品適正使用のさらなる充実を図るには,個体間変動のみならず個体内変動に着目した研究の充実は必至である.こうした状況のなかで,投薬時刻や投薬タイミングにより薬の効き方が大きく異なることがわかってきた(時間薬理学)1,2).最近では,医薬品の添付文書などに服薬時刻が明示されるようになってきた.生体リズムを考慮した時間制御型DDS(drug delivery system),服薬時刻により処方内容を変更した製剤,生体リズム調整薬が開発されている.その背景には時計遺伝子に関する研究の発展が挙げられる.体内時計の中枢は,視神経が交差するSCN(suprachiasmatic nucleus)に位置し,時計遺伝子により制御されている.睡眠障害,循環器疾患,メタボリックシンドローム,癌などの疾患発症リスクおよび薬物輸送・代謝リズムにも時計遺伝子が深くかかわっている.治療において,これまで蓄積された時間薬理学的所見を整理して体系化していく必要がある.

連載 手を見て気づく内科疾患・29

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患 者:62歳,主婦

病 歴:47歳時に全身性エリテマトーデスを発症した.現在プレドニン4mg/日を内服中で安定している.以前から右母指の爪が,ときどき剥離することがあった.今回,爪甲剥離後に爪の色が緑色に変化していることに気がついた.

連載 研修おたく海を渡る・65

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 どれだけ多くの患者が臨床試験に参加するかは,がんセンターであるための重要な基準の一つでもあります.12%というのが,僕のいるがんセンターの2010年度の実績です.日本に比べると,アメリカでは臨床試験の認知度は高いですが,それでも,過去に人体実験まがいの臨床試験(Tuskegee syphilis experimentなど)が行われたこともあり,拒否感を示す人も少なくありません.

 がん治療領域においては,臨床試験は,標準治療あるいは,現在使用可能な抗がん剤での治療の効果がなかった時に用いることができる「最後の望み」と捉えられたり,あるいは最初から考慮に入れるべき選択肢の一つと考えられることもあります.そのため,より多くの臨床試験をそろえることは,大学病院付属のがんセンターのみならず,開業医グループでも重要なセールスポイントとなるのです.

連載 The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・21

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救急レジデントH:

 多彩な既往歴をもつ認知症の82歳男性が介護施設から搬送されました.施設からの情報によると,今朝から興奮状態でスタッフの言うことを聞かないとのこと.食欲はここ2日ほどないけれども,発熱などはないということでした.患者さんは「助けて,助けて」というだけで,それ以上の情報を得ることはできませんでした.

 既往歴はアルツハイマー型認知症,高血圧,脂質異常症,糖尿病,冠動脈疾患,心房細動,心不全,COPD(慢性閉塞性肺疾患)とたくさん.主な服用薬はドネペジル,アテノロール,リシノプリル,シンバスタチン,メトホルミン,アスピリン,吸入のサルブタモールとイプラトロピウムです.最近始まった薬はないようですね.

連載 festina lente

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 映画『英国王のスピーチ(The King's speech)』は,世界大戦開戦の国難にあって国民向けに演説が出来るところまで重い吃音を乗り越えた英国王George六世の実話を描く.父George五世の死去,継位した兄Edward八世の行状,緊迫する欧州情勢といった歴史的興味とは別に私の関心を引いたのは,高名な医師たちが治療に失敗し,結局一番王を助けたのは,無資格だが練達の外国人Lionel Logueであった点である.植民地出身で,医師でなく資格も学位もない彼を取り巻きは退けようとするが,その私心のない誠実さと治療手腕から,王は周囲の意見を排して彼を頼みとし,吃音は改善する.

 吃音は治療経験がないので,「積ん読」してあった神経心理学の良書を,映画の予習に引っ張り出した1).吃音治療の第一線で,国家資格のない頃から苦労してきた言語臨床の実務家の手になるこの本は,現場の苦心と工夫,暖かさと治療者としての覚悟に満ちている.

連載 アレルギー膠原病科×呼吸器内科合同カンファレンス・14

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後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回は,少し珍しい男性の全身性エリテマトーデス(SLE)患者さんです.55歳の男性で,1年前の健診で蛋白尿を指摘され他院に検査入院しSLEと診断されたようですが,多忙のため退院後は通院していませんでした.今回は激務の後に体調を崩したとのことで当院救急外来を受診し肺炎の診断で入院となりました.特に問題となるような既往歴は入院時は把握できませんでしたが,診察上明らかに栄養状態が良好ではない印象で,また喫煙者でした.入院時の胸部画像の解説と経過をお願いしてもよろしいでしょうか.

連載 医事法の扉 内科編・5

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 今回は,医師法21条の届出義務について検討します.医師には,食品衛生法に基づく食中毒患者の届出や,いわゆる感染症法に基づく感染症患者の届出などの義務がありますが,医師法上の届出義務は,異状死についてです.医療現場では届け出るべきかどうか悩むケースが意外と多いので,届出範囲をできるだけ明確に決定できるようなツールが求められます.

 医師法21条は,「医師は,死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは,二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」と定めています.この規定は明治時代から引き継がれており,当初は,伝染病の流行拡大防止,犯罪の早期発見・治安維持が目的だったようですが,前者の目的については,いわゆる感染症法「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」12条に移行され,後者が現時点での届出義務の趣旨と解されています.この点について最高裁は,「届出義務は,警察官が犯罪捜査の端緒→1を得ることを容易にするほか,場合によっては,警察官が緊急に被害の拡大防止措置を講ずるなどして社会防衛を図ることを可能にするという役割をも担った行政手続上の義務と解される.そして,異状死体は,人の死亡を伴う重い犯罪にかかわる可能性があるものであるから,上記のいずれの役割においても本件届出義務の公益上の必要性は高い」と述べています(平成16年4月13日判決;都立広尾病院ヒビテン静注事件).

連載 今日の処方と明日の医学・12

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医薬品は,変革の時代を迎えています.国際共同治験による新薬開発が多くなる一方で,医師主導の治験や臨床研究などによるエビデンスの構築が可能となりました.他方,薬害問題の解析から日々の副作用報告にも薬剤疫学的な考察と安全対策への迅速な反映が求められています.そこで,この連載では医薬品の開発や安全対策を医学的な観点から解説し,日常診療とどのように結びついているのかをわかりやすくご紹介します.

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 閉塞性動脈硬化症の頻度は世界で3,000万人を超えると考えられているが,わが国においての正確な疫学データは存在しない.しかしながら,世界に類を見ない超高齢社会を迎え,なおかつ糖尿病をはじめとする閉塞性動脈硬化症(ASO)あるいは末梢動脈疾患(PAD)のリスクファクターのepidemicを併せもったわが国においてのASO診療の重要性は急速に高まっているといえる.ASOは以前考えられていたほど単純な疾病ではない.その病型・重症度が多彩であるだけでなく,合併疾患も多彩である.しばしば冠動脈疾患を合併するが,ASOが併存すること自体がその患者の予後を大きく左右する.しかしながら,最近そのスクリーニングと診断プログラムは必ずしも十分に普及しているとは言えない.また,ある意味では冠動脈疾患より多くの治療選択があるにもかかわらず,その認識は必ずしも十分ではない.一方で多くの循環器専門施設がASOあるいはPAD症例の増加を実感し,この疾患への診療プログラムを充実させてきていることも事実である.しかしながら,これまで一般医や研修医を対象とし,ASOに特化した専門書は多くなかった.

 今回発刊された閉塞性動脈硬化症診療マスターブックは福岡大学医学部心臓・血管内科講座主任教授の朔啓二郎先生編集でわが国を代表するASOおよびPADの専門医が各章を担当し,わかりやすく実践的にそしてコンパクトにまとめられている.基本的事項から最先端のエビデンスおよび治療までを網羅して,研修医から循環器専門医まで十分に対応してくれる.ぜひ手元において活用してもらいたい一冊である.

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 本書では精神科,内科,神経内科,外科・麻酔科,婦人科・腫瘍科・皮膚科領域において薬物治療中に見られた症状をケーススタディとして示し,それを薬物相互作用の観点から解析している.薬物相互作用の理解は患者が訴える症状を適切に診断し,対処するうえで極めて重要である.つまり,薬物相互作用の理解は薬物治療中に見られる症状を「新たな症状ととらえ不要な検査や追加処方」を避けるうえで重要であり,かつ,その知識は適切に対応するうえで必要不可欠である.関連する知識は最近の分子遺伝学の発展で大きく進歩しており,本書はかかる進歩を踏まえて合理的に理解できるように工夫して書かれている.

 第1章の定義に関する内容では臨床家がしばしば誤解する基質,阻害薬,誘導物質などの解説が平易に記載されており,理解を助けている.

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 研修医が希望する本は,ポケットに入るサイズで,読みやすい,という条件がある.本書はまさにそれを満たしており,本書の読者対象である研修医や膵癌診療に携わっている若手医師には心強い味方である.特に豊富な図や写真は,要点が一目瞭然で理解でき,長い文章よりも効果的である.例えば,103~108ページの膵癌進展度評価では,「上腸間膜静脈浸潤を伴う膵頭部癌」と「上腸間膜静脈浸潤を伴わない膵頭部癌」のCT画像を横断像と3D像で比較しながら示している.ほかにも,ある所見を伴う例と伴わない例を図示しているので,日頃症例検討会で先輩医師が議論の対象にしている重要所見について,典型的画像を自己学習できる.内視鏡診断のポイントでは,鮮明な写真で内視鏡機器や内視鏡像が呈示されており,非常にインパクトがある.

 治療では切除可能例と切除不能例に分け,特に化学療法に関しては,各レジメンの図示,禁忌や休薬・再開の方法・副作用対策(192~194ページには患者説明用の記載あり)についての具体的な記述が大変参考になる.またフルオロウラシルやS-1とほかの薬剤の併用療法の中でオキサリプラチンを取り上げ,現時点ではまだ保険適用未承認ではあるが,最新情報を知ることができ,著者同様に読者も臨床試験の結果に注目したくなる内容である.治療効果の判定には2009年に改訂されたRECISTガイドラインver. 1.1の要点が表3-17として掲載されている.

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第7回消化器病における性差医学・医療研究会を下記の要領で開催致しますので,ご案内申し上げます.上部・下部消化管から肝胆膵疾患まで,性差という生物学的特性からのアプローチによる各疾患の病態,予後,治療法に至るまで幅広く一般演題を募集致します.奮ってご参加,ご発表いただきますようお願い申し上げます.

日時●2011年7月23日(土)13:00~

会場●東京ガーデンパレス(東京都文京区湯島)

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日時●2011年6月18日(土)13:00~17:30

場所●東京コンファレンスセンター・品川大ホール(東京都港区港南)

第4回「呼吸と循環」賞 論文募集
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 医学書院発行の月刊誌「呼吸と循環」では,「呼吸と循環」賞(Respiration and Circulation Award)を設け,呼吸器領域と循環器領域に関する優れた論文を顕彰しております.第4回「呼吸と循環」賞は,第59巻(2011年)第1号~第12号の「呼吸と循環」誌に掲載された投稿論文(綜説は除く)のうちオリジナリティのある論文を対象とし,原則として呼吸器領域1編,循環器領域1編(筆頭執筆者各1名,計2名)に,賞状ならびに副賞10万円を授与いたします.

 「呼吸と循環」誌の投稿規定(http://www.igaku-shoin.co.jp/mag/toukodir/kokyu.html)をご参照のうえ,奮ってご投稿ください.

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次号予告

編集室より Y
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●東日本大震災から1カ月.余震は続き,原子力発電所の事故処理は先が見えません.長期滞在を余儀なくされている避難所で,喫煙や飲酒の是非が取り沙汰されました.つい「度を過ぎなければよいのでは……」と弱気になってしまった私に,「非常時だからこそ,依存性のある薬物はやめるべき」と断言した方は,「その人のために心を鬼にするのが優しさだ」と仰いました.たしかに,正論です.でも,諭されて実行できるくらいなら,そもそも喫煙や飲酒という「わかっちゃいるけど,やめられない」状態には陥らないだろうなぁという違和感も拭えないのです.●一昔前の患者教育では「正しい知識が行動変容を導く」とされていましたが,一筋縄ではいかないのが現実です.本特集のテーマである脂質異常症診療は,「将来起こりうる動脈硬化性疾患」というリスクを患者が納得して治療を続けられるかが鍵となります.「リスクがある」と聞かされても,「すぐ死ぬわけではない」と否認し,喫煙や飲酒を「いざとなれば止められる」と高を括り,「人はいずれ死ぬ」と諦める態度を示す患者にどう接したらよいか.正解はないからこそ,内科医の腕の見せ所ではないでしょうか.●未曾有の大震災の余波は,各地の診療現場にも襲いかかりました.そのような状況にもかかわらず,お原稿を書き上げてくださった先生方に,この場を借りて御礼申し上げます.編集室にできることは,ご提供いただいた叡智を心待ちにしてくださる読者の皆様へお届けすることです.どうぞ日常診療にお役立ていただければ幸いです.

基本情報

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medicina
48巻5号 (2011年5月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

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