連載 festina lente
「あとはよろしく」の陰に
佐藤 裕史
1
1慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター
pp.895
発行日 2011年5月10日
Published Date 2011/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402105187
- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
映画『英国王のスピーチ(The King's speech)』は,世界大戦開戦の国難にあって国民向けに演説が出来るところまで重い吃音を乗り越えた英国王George六世の実話を描く.父George五世の死去,継位した兄Edward八世の行状,緊迫する欧州情勢といった歴史的興味とは別に私の関心を引いたのは,高名な医師たちが治療に失敗し,結局一番王を助けたのは,無資格だが練達の外国人Lionel Logueであった点である.植民地出身で,医師でなく資格も学位もない彼を取り巻きは退けようとするが,その私心のない誠実さと治療手腕から,王は周囲の意見を排して彼を頼みとし,吃音は改善する.
吃音は治療経験がないので,「積ん読」してあった神経心理学の良書を,映画の予習に引っ張り出した1).吃音治療の第一線で,国家資格のない頃から苦労してきた言語臨床の実務家の手になるこの本は,現場の苦心と工夫,暖かさと治療者としての覚悟に満ちている.
Copyright © 2011, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.