臨床皮膚科 72巻13号 (2018年12月)

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要約 11歳,女児.歯科矯正器具を装着してから両手足の爪が変形した.初診時,両手指の爪甲は粗糙かつ菲薄化し,萎縮していた.爪甲近位部と遠位部は層状に剝離し,点状凹窩を伴っていた.全身の皮膚や口腔粘膜に病変はみられなかった.爪生検による病理組織学的検討を行ったところ,爪上皮にリンパ球の浸潤と液状変性,真皮上層にリンパ球浸潤を認めた.臨床像と病理組織像から爪扁平苔癬と診断した.原因検索のため金属パッチテストを施行したところ,歯科矯正器具の成分であるクロムなどが陽性であった.矯正器具の除去により,爪変形は著明に改善した.爪に限局する扁平苔癬は稀とされている.特に小児では,爪以外の病変を伴わず,非典型的な臨床像を呈する傾向にあり,診断に苦慮する.不可逆的な爪変形を生じる前に,爪生検による早期診断,原因検索を行うべきと考える.

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要約 48歳,男性.職業は土木作業員.作業中に生コンクリートがズボンの隙間から入り,両側大腿と両側の長靴内の下腿が浸漬された.4時間後に疼痛が出現したが放置し,8時間後に紅斑がみられたため洗浄したが,15時間後に疼痛が増悪し救急搬送された.両下腿の長靴の履き口に沿って全周性の紅斑,小水疱,びらんを認め,下腿内側に線状の紅斑,大腿前面にも紅斑,小水疱を認めた.ステロイド外用薬,潰瘍治療薬などで保存的に加療し大腿の紅斑は色素沈着となったが,下腿の病変は2週間後に白色から黄色の壊死組織の付着する深い潰瘍を呈した.デブリードマンと分層植皮術後,1週間持続吸引療法を施行した.植皮の生着は良好で,術後約2週間後にはほぼ上皮化し退院となった.セメント熱傷は,初診時軽症に見えても重症化しやすく慎重に経過をみる必要があると考えた.

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要約 症例1:56歳,女性.症例2:69歳,男性で皮疹出現数か月前よりプラセンタ局注の施行歴があった.両者ともに体幹四肢に光沢を伴う紅斑を認め,特に摩擦部位に一致して症状をより強く認めた.全身検索にて特に異常所見はなく,病理学的に膠原線維の増生を認め,generalized morpheaと診断した.症例1はタクロリムス外用で紅斑は軽快したが,下着の摩擦部位に光沢の強い脱色素斑が残存し,その後も皮疹の新生を認めている.症例2はプラセンタ・マッサージを中止し,ステロイド内服とタクロリムス外用にて加療し,帯状の淡い光沢を伴う紅斑を残し軽快した.2例とも摩擦などの機械的刺激が影響した可能性が示唆されたが,すべてが摩擦のみでは説明できず推測にとどまる.

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要約 77歳,男性.職業は歌手.初診数か月前から口唇,両頰粘膜,歯肉に黒褐色斑が多数出現し当科を受診した.指腹に淡い色素斑を散在性に認めたが,脱毛や爪甲線条はみられなかった.口唇粘膜の病理組織像で表皮基底層にメラノサイトの軽度の増加とメラニンの増加がみられ,真皮浅層にメラノファージが集積していた.同症の家族歴,消化管ポリポーシスはなく,副腎機能検査は正常で,脱毛や下痢症状も認めなかった.以上より,Laugier-Hunziker-Baran症候群と診断した.本疾患の病因は,加齢などによる内因性の要因が主体とされるが,外的刺激によるとする報告もある.今回,自験例では職業柄,通常よりも口唇口腔内への刺激は大きいと思われたが,手指の色素沈着については外的刺激を示唆するエピソードはなく,加齢による内因性のものを考えた.過去10年の報告例とともに報告する.

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要約 56歳,女性.20歳時に発症した関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)に対し,51歳時よりエタネルセプトによる加療を開始された.53歳時より両側臀部から大腿屈側に瘙痒を伴う皮疹が多発し,徐々に皮疹の範囲および瘙痒感が増悪したため当科を受診した.皮膚病理組織は肉芽腫像を呈し,真皮中層ではinterstitial granulomatous dermatitis(IGD)に特徴的とされる,変性した膠原線維を中心とする裂隙を組織球が取り囲む所見を,真皮浅層ではpalisading neutrophilic granulomatous dermatitis(PNGD)に特徴的とされる,変性した膠原線維に組織球と好中球が浸潤する所見を有した.IGDおよびPNGDはRAなどの全身性疾患に伴って生じる肉芽腫性皮膚疾患であり,同一スペクトラムの疾患と考えられている.自験例は双方の特徴を有していた.RAの加療をエタネルセプトからトシリズマブに変更後,皮疹はRAの病勢とともに改善した.

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要約 34歳,女性.3年前に帝王切開術を施行し,第1子を分娩した.初診1か月前より右下腹部帝王切開瘢痕部に月経時に疼痛を伴う皮下結節を自覚した.子宮内膜症を疑い,全摘術した.病理組織像では,細胞成分に富む浮腫性間質内に単層円柱上皮ないし立方上皮からなる腺腔を認めた.免疫染色でエストロゲンおよびプロゲステロンレセプター,CD10が陽性であり,腹壁子宮内膜症と診断した.全摘後に再発は認めていない.腹壁子宮内膜症は全子宮内膜症の1.4%で稀な疾患である.本邦の腹壁子宮内膜症89例の検討では,全例で手術歴があるものの,月経関連症状を認めたものは51%にすぎず,臨床診断が困難な場合が多い.自験例は詳細な問診にて診断しえたことから,腹部手術瘢痕部に皮下腫瘤を認めた場合は,本症を鑑別疾患に挙げ,既往手術歴や痛みの性状などを確認する詳細な問診が重要であると考えた.

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要約 80歳,女性.初診40年前より右前胸部に褐色扁平隆起性結節を自覚していた.1年前よりその一部に紅色乳頭状結節が出現し,中央部が隆起し,易出血性となったため当科を受診した.扁平隆起性結節は10×20mm大で,正中側は褐色,外側は紅色を呈していた.結節中央には7mm大のびらんを伴う紅色隆起性病変があった.病理組織学的に褐色部と中央の隆起部は表皮内に基底細胞様細胞が増殖し,偽角質囊腫を認め,脂漏性角化症の像であった.一方,外側の紅色部は表皮全層性に異型ケラチノサイトが増生し,異常角化細胞も認めBowen病と診断した.2つの病変は組織学的に連続しており,臨床経過とあわせて脂漏性角化症に発生したBowen病と考えた.稀ではあるが,脂漏性角化症にBowen病などの皮膚悪性腫瘍を生じた例が以前より報告されており,臨床像が変化した際には悪性化の可能性を考慮し,積極的に精査すべきと思われる.

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要約 57歳,男性.盲腸癌と診断され,当院外科で回盲部切除術を行った.4か月後,CTで肺に多発転移を認め,化学療法を開始した.以後,約3か月ごとにCTを行ったが,肺転移に著変なく,他臓器への転移はみられなかった.回盲部切除術から1年半後,臍部に疼痛を伴う結節が出現し,2か月後に当科を受診した.皮膚生検で盲腸癌によるSister Mary Joseph's noduleと診断した.CTを行ったところ,肝に転移を認めた.2000年以降の本邦報告例では,盲腸癌を含む大腸癌の診断時にSister Mary Joseph's noduleを認めず異時性に生じた例は,自験例を含めて26例中6例と比較的少なかった.また,Sister Mary Joseph's noduleを生じた大腸癌の患者は,同病変を生じた胃癌の患者に比べて,肝転移を併発している頻度が高かった.Sister Mary Joseph's noduleは予後不良の徴候として知られるが,原発臓器や発症する時期により,予後に多少の差異がみられる可能性が考えられた.

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要約 86歳,女性.頭頂部に生じた紫斑で当科を受診した.初診時,頭頂部に中央は血疱を呈する3cm大の紫紅色斑が1か所みられ,生検結果から血管肉腫と診断した.遠隔転移を認めなかったため,病変の切除および分層植皮術を行ったが,術後約1か月で,植皮部とは離れた後頭部に病変が出現し,その後も多発した.本人,家族ともに,これ以上の積極的な治療は行わず,可能な限り自宅で過ごすことを希望された.対症療法としてMohsペーストの塗布を試みたところ,出血,滲出液,悪臭のコントロールができ,在宅管理が可能となった.しかしながら,腫瘍自体の増殖は抑えられず,術後24か月で,骨破壊および硬膜浸潤をきたした.この時点でも遠隔転移は認めなかった.術後26か月,全身状態の悪化と疼痛のために入院し,呼吸不全にて永眠された.Mohsペーストは,低侵襲で簡便な緩和医療として,切除不能な表在性腫瘍に対して有用な方法の1つであると考えた.

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要約 24歳,男性.初診5か月前から左腋窩に有痛性の皮下腫瘤を自覚した.化膿性リンパ節炎の診断で複数の医療機関で各種抗菌薬の内服により加療されたが,症状が増悪したため当科を紹介され受診した.初診時左腋窩に皮膚びらんと発赤・腫脹・熱感を伴う3cm大の弾性硬の皮下腫瘤を触知した.超音波やCT検査で腫瘤周囲に炎症所見を認めたことより,抗酸菌や真菌を含む感染性リンパ節炎,悪性腫瘍のリンパ節転移,悪性リンパ腫などを鑑別に皮膚と皮下腫瘤を一塊にして全摘生検を施行した.抗酸菌を含む細菌・真菌培養検査はすべて陰性で,病理組織学的に表皮から真皮では異型の乏しいリンパ球主体の炎症細胞が浸潤し,深部の皮下脂肪織では異型リンパ球の密な増殖を認めた.異型細胞はCD30・ALK・EMA陽性で,ALK遺伝子の再構成を確認しALK陽性全身型未分化大細胞型リンパ腫(anaplastic large cell lymphoma:ALCL)と診断した.血液内科でCHOP療法6クールと放射線照射施行し完全寛解となった.自験例のように全身型ALCLでは病理組織学的に真皮から脂肪織浅層にかけて炎症細胞が密に浸潤し,病変の主座が深部に限局している可能性があり,深部組織を含めた検体採取の必要性が示唆された.

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要約 83歳,男性.前立腺癌に対してホルモン療法を受けていた.当科初診3か月前に右前胸部に皮下腫瘤が出現した.腫瘤は次第に発赤,腫脹を伴うようになり,自壊したため当科を受診した.前立腺癌治療前のCT検査で右肺中葉末梢に結節影を認めており,呼吸器内科で経過観察中であった.右前胸部に自壊した皮下膿瘍を認め,わずかに粘稠度のある膿性滲出液を伴っていた.病変部からグラム陽性桿菌が検出され,培養の結果はNocardia abscessusであった.排膿により右肺の陰影が若干改善したため,肺ノカルジア症が皮下へ波及したと考えた.呼吸器内科でスルファメトキサゾール/トリメトプリム合剤の内服加療が開始され,皮膚潰瘍は1か月後に上皮化した.肺から直接皮膚病変へ波及する疾患には放線菌,結核,原発性肺癌などがある.胸壁の潰瘍性病変では,基礎疾患の確認,病変部の生検や培養など総合的な検索が必要と考えられた.

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要約 2歳,男児.生後5か月で左上腕外側にBCGワクチン接種し,その後は排膿もなく常色皮膚となっていた.2歳1か月で同部位に発赤が出現し痂皮を伴う紅色局面があり,その後腫れて排膿もみられるようになり当科に紹介され受診した.初診時,左上腕外側のBCG接種部位に痂皮を伴う小豆大の浸潤を触れる暗紅色の結節あり.頸部,腋窩,鼠径部のリンパ節腫大はなかった.病理組織はLanghans巨細胞を伴う肉芽腫が島状にみられた.皮膚培養でMycobacterium tuberculosis complex陽性,multiplex PCR法ではBCG菌を検出し,BCG肉芽腫と診断した.加療は行わずに経過観察したところ,病変は自然消退し,略治した.BCG接種から1年8か月後に,発赤のない瘢痕から肉芽腫を生じた例は稀である.BCG肉芽腫は自然治癒しうる病変と考えられ,慎重な経過観察が必要である.

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要約 55歳,男性.健診で白血球減少を指摘されるも放置していた.初診2週間前より右腋窩〜前胸部に皮疹を自覚し,急速に拡大したため受診した.初診時,右腋窩に15×12cmの膿海に覆われ中央に潰瘍形成を伴う境界明瞭な紅斑局面を認めた.病理組織学的に好中球主体の炎症細胞浸潤を認め,血管炎の所見はなかった.抗菌薬を投与したが皮疹は拡大した.臨床経過,病理組織所見より壊疽性膿皮症(pyoderma gangrenosum:PG)と診断した.また,高度の貧血があり骨髄検査にて骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes:MDS)と診断された.ステロイド内服にて潰瘍は徐々に上皮化したが.MDSは治療抵抗性であった.過去のPG・MDS合併例ではステロイド全身投与にて自験例同様,PGの経過は良好だが,MDSの病勢は増悪したとする症例が多く,両者の病勢は相関しない可能性が示唆された.

マイオピニオン

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 1. はじめに 凍結凝固はほとんど研究されていない

 凍結凝固療法はHPV(human papillomavirus)感染や良性皮膚腫瘍および日光角化症などの日常の皮膚科診療に頻繁に用います.−196℃の液体窒素が,冷却剤として使用され,綿球のスワブにて適用されます.凍結凝固の主のメカニズムは凍結壊死による直接効果に加え,微小血栓による血流障害,および免疫学的効果からなるとされています.

 多発した青年性扁平疣贅では一部のみを冷凍することで冷凍凝固をしていない他の病変が炎症を起こして治癒することがあります.これは冷凍凝固による免疫活性化作用と考えられます.放射線療法ではアブスコパル効果として認識されているのと同様の効果と考えられます.しかし,免疫学的効果のメカニズムについてはほとんど知られておりません.私たちは凍結凝固のマウスモデルを作成し,凍結壊死によるバリア機能の破壊と免疫学的効果の相乗関係につき検討しました.

連載 Clinical Exercise・136

Q考えられる疾患は何か? 森田 明理
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症例

患 者:67歳,男性

主 訴:両下肢に多発する紫斑

家族歴:特記すべきことなし.

既往歴:高尿酸血症(47歳),心臓弁膜症(65歳)

現病歴:X年2〜5月にかけて歯科治療を受けた.7月初旬より約10日間39℃台の発熱が持続し当院内科を受診した.心雑音あり.入院後ペニシリンG 2,400×104単位/日の投与を開始され,大動脈弁置換術を施行された.その後,両下腿に紫斑が出現し,徐々に拡大してきたため,同月末に当科を紹介された.

初診時現症:両足背から膝上にかけて大小不同,不整形の紫斑が多発し,新旧の皮疹が混在していた.個々の皮疹は軽度の浸潤を触れる,いわゆるpalpable purpuraであった(図1a,b).

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目次

欧文目次

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 遺伝性血管性浮腫はC1インヒビターの欠損(1型)または機能障害(2型)によって引き起こされ,時に致死的となる疾患である.本試験では国際前向き多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照用量設定第Ⅲ相試験にてC1インヒビター製剤CSL830皮下注射の遺伝性血管性浮腫に対する治療有効性と安全性が評価された.対象はスクリーニング前の3か月間の中で,連続した2か月の間に発作が4回以上出現した1型ないし2型の遺伝性血管性浮腫患者である.患者をクロスオーバーデザインにてCSL830を40IU/kgまたは60IU/kgの用量で週に2回16週間投与しその後にプラセボを16週間投与する群と,逆の順序で投与する群の合計4群に無作為に割り付けた.主要有効性エンドポイントは血管性浮腫の発作回数(回/月)とし,副次的有効性エンドポイントは発作回数がプラセボと比較して50%以上減少した患者の割合と血管浮腫に対するレスキュー投与を行った回数とした.CSL830 40IU/kg,60IU/kg投与群ではプラセボ群と比して発作の出現率が有意に低下した〔40IU投与群−2.42回/月 95%信頼区間(CI)−3.38〜−1.46(p<0.001);60IU投与群−3.51回/月 95%CI−4.21〜−2.81(p<0.001)〕.発作回数がプラセボに比して50%以上減少した患者の割合は40IU群で76%(95%CI 62〜87),60IU群で90%(95%CI 77〜96)であった.レスキュー治療を要した回数は40IU群1.13回/月(プラセボ群5.55回/月),60IU群0.32回/月(プラセボ群3.89回/月)であった.有害事象の発症割合はCSL830投与群とプラセボ投与群で同等であった.以上よりC1インヒビター予防的皮下投与が遺伝性血管性浮腫の急性発作の頻度を有意に減少させることが示された.

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 がんに対する薬物療法は急速に進歩している.

 従来の殺細胞性抗がん薬に加え,分子標的治療薬,さらに近年では免疫チェックポイント阻害薬も数多くのがん腫で使用可能となっている.それぞれの単剤での使用だけでなく,併用療法ではカテゴリーを超えた薬剤同士の組み合わせが治療成績のさらなる向上を可能としている.しかしそれは同時に多様な副作用に対応しなければならないことを意味する.

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 言いたいことを言うと伝わらない,というサブタイトル.衝撃的ですね.故日野原重明先生は,「医師は聞き上手になりなさい,患者は話し上手になりなさい」と講演でよくおっしゃっていました.話し上手な医師が多いように思われていますが,実は言いたいことが伝わっていないケースが多いのも事実です.その原因が,単に言いたいことを言っていたからだ,というのが本書の主張です.

 読者の皆さんも,学会や講演会などで医師のプレゼンテーションを聞く機会があると思います.複雑で大量のスライドを次々とめくりながらものすごい勢いで話す講師,体全体をスクリーンに向けて自分の世界に夢中になっている講師など,さまざまなケースが思い出されます.一方で,世界的なプレゼンテーションをTEDやYouTubeなどでみると,面白くてかつ勉強にもなるので,つい何時間も見てしまうことがあると思います.これは一体,何が違うのでしょうか.

次号予告

「臨床皮膚科」歴代編集委員

あとがき 大山 学
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 一見同じように見える東京の街も実際にそこで長い時間を過ごすと地域ごとに明らかな違いがあることがわかる.私が生まれ育ち,今も住み続けているのは「城南」と呼ばれる地域にある古くからの寺町であるが,勤務する大学は「多摩」あるいは「武蔵野」と呼ばれる東京の西の地域に位置している.以前の勤務地は新宿区であり,まさに都心であった.これらの各地域に腰を据えてそれぞれを比べてみると,いわゆる下町vs.山の手といった表面的なものではない差異が見えてくる.

 どれが優れているなどと言うつもりは全くないが,自由が丘と吉祥寺,そして四谷では全く同じ内装のチェーン店でも,流れる時間や「気配」が違うのである.しかし,それを抽出して言葉にしようとすると実に難しい.例えば,家人との間で「実に城南的」とか「多摩っぽい雰囲気」という会話は成り立つが,各々の言葉が指すものを具体化するのは難しい.それはデータだけでは判断できない「街とそこにある暮らし,人びとの息づかい」をわれわれが感じるからに違いない.

基本情報

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臨床皮膚科
72巻13号 (2018年12月)
電子版ISSN:1882-1324 印刷版ISSN:0021-4973 医学書院

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