臨床皮膚科 71巻13号 (2017年12月)

連載 Clinical Exercise・124

Q考えられる疾患は何か? 高橋 愼一
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症例

患 者:28歳,男性

主 訴:右頰部および右肘部の腫瘤

家族歴・既往歴:特記すべきことなし.

現病歴:10年前より右頰部,左肘部の腫瘤を自覚し,前医での治療歴により縮小していたが再発し,当院を受診した(図1a,b).左肘は腫瘤のため衣類の袖を通せない状態であった.

初診時現症:右頰部に11×8cm大,左肘に12×13cm大の弾性硬の皮下腫瘤を認めた.

初診時検査所見:末梢血白血球数3,800/μl(好酸球57%),IgE 13,000IU/ml(正常値:170以下).

マイオピニオン

皮膚外科を学ぶということ 中村 泰大
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 1. 皮膚外科手術は皮膚科医,形成外科医のどちらが行うべき?

 皮膚疾患の治療で外科手術が最も適切な治療と判断された場合,果たして皮膚科医,形成外科医のいずれが手術すべきであろうか? 「皮膚外科」とは,「皮膚科学の知識が基本になる疾患の手術治療学」と定義される.この定義に基づけば,皮膚外科手術に携わる限り,皮膚科学の十分な知識があることが不可欠である.もし皮膚科学の知識が全くない形成外科医が存在するなら,そのような形成外科医は皮膚外科手術に従事すべきでない.一方,皮膚科学の十分な知識を有するも,全く手術の修練を受けていない皮膚科医が,見よう見まねで手術することがあれば,これは患者への傷害行為に等しい.もしこのような皮膚科医が存在するなら,ましてや科の収益のためだけにこのような行為がまかり通っているとしたら,絶対に許されないことである.

 皮膚外科手術が必要な患者にとって不利益なのは,手術の修練を受けていない皮膚科医が,皮膚科学の知識のない形成外科医に手術を丸投げするケースである.「連携して診療する」という言葉は一見理にかなった美しい響きに聞こえるが,これでは,皮膚科医は手術を依頼する形成外科医に対して適切な術式のアドバイスはできないし,形成外科医は皮膚科学の知識のないまま,全く不必要と考えられる過剰・過大な手術や再建を行ったりすることが危惧される.このような連携診療ならば患者にとってはむしろ害悪である.

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要約 成人の急速進行性円形脱毛症(rapidly progressive alopecia areata:RP-AA)には点滴静注ステロイドパルス療法(パルス療法)が有効とされ,本邦の多くの施設で実施されている.日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドラインの推奨ステロイド投与量が一般的なパルス療法の半量であるためか同療法が全身状態に与える影響は注目されていない.そこでわれわれの施設でパルス療法を施行した広汎型RP-AA 35例の治療中,治療後の全身症状,臨床検査データの変化を詳細に調査した.有害事象としての不眠,頭痛は投与初日〜2日目,筋緊張・筋痛は投与3日目以降に生じる傾向があった.多くが基準範囲内での変化ではあるが単球数(%),血清Ca値,血清IgG値が投与前と比較し投与4日目に有意に低下した.血清IgG値の低下が実施数か月後まで持続した例もみられた.パルス療法は予想以上に患者の全身状態に影響し,長期的に影響を残す可能性が示唆された.

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要約 35歳,女性.約6年前に全身性エリテマトーデスと診断され,プレドニゾロン(PSL)内服で加療されていた.約2か月前より背部に発赤を伴う皮下硬結が散在性に出現,その後潰瘍を形成したため当科入院となった.背部の潰瘍を伴う紅斑から皮膚生検を施行した.病理組織学的に軽度の液状変性とリンパ球主体の脂肪織炎を認め,深在性エリテマトーデスと診断した.血管炎や血栓症はみられなかった.血液検査では凝固系の異常なく,抗リン脂質抗体症候群も否定的であった.PSLの増量やシクロスポリン内服などを行ったが潰瘍の上皮化が進まないため,アスピリンを投与した.その後潰瘍は速やかに上皮化した.病理組織学的に血栓は検出されなかったが,より深部での血栓や循環不全が潰瘍の原因であった可能性が推察された.

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要約 65歳,男性.以前からメロン,モモ,キウイ,バナナなどの果物を食べると口腔内違和感や軀幹の蕁麻疹が出現していた.某日13時頃,焼肉屋で牛肉,焼肉のタレ,生野菜,ビール,白飯を摂取した.同日16時頃,腹部に蕁麻疹が出現した.さらに17時頃に呼吸困難感,意識消失発作を起こし近医へ救急搬送された.当初は焼肉のタレに含まれた果物成分による口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome:OAS)を疑った.しかし抗原特異的IgE検査では牛肉がクラス3,豚肉がクラス2と陽性であり,プリックテストで牛肉,豚肉が陽性を示した.ウエスタンブロット法により,患者血清中にセツキシマブに含まれるgalactose-α-1, 3-galactose(α-gal)糖鎖エピトープを認識すると思われるIgE抗体を検出し,遅発型牛肉アナフィラキシーと診断した.牛肉アレルギーは遅発型アナフィラキシーであること,牛肉や豚肉以外にも注意すべき食物や薬があることを患者にしっかりと指導することが重要である.

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要約 22歳,女性.夕食時,焼マツタケ,カツオのたたき,アジの刺身を食べた.夕食直後に,口腔内のしびれ,咽頭部違和感,嚥下痛が出現した.その後入浴していると,全身に発疹が出現した.救急措置を受けて回復したが,精査目的で当科を受診した.生の各食品を用いた,プリック・プリックテストはすべて陰性であった.そこで,各食品を生理食塩水の中ですり潰し,抽出した上澄み液を用いたプリックテスト,スクラッチテストを施行した.マツタケの抽出液のスクラッチテストのみが陽性となり,自験例をマツタケによるアナフィラキシーと診断した.過去に11例のマツタケアレルギーの症例が報告されているがマツタケ摂取後に入浴し,アナフィラキシーを生じたのは自験例のみであった.入浴が運動誘発のように症状を増悪させることを改めて認識した.

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要約 82歳,女性.全身の膨疹を主訴に当院を受診し,同日入院となった.入院後,抗ヒスタミン薬の内服を開始したが膨疹の消退は不十分であった.膨疹出現の数日前から咳嗽があったこと,入院時の採血でCRP 1.45mg/dlと炎症反応の軽度亢進を認めたこと,発熱がみられたことなどから感染性蕁麻疹を疑い,ミノサイクリン100mg/日の内服を開始した.その後,速やかに膨疹の新生はなくなった.入院3日目に採取した抗Chlamydophila pneumoniae(CP)IgM抗体価が有意に上昇しており,自験例をCPに伴う感染性蕁麻疹と診断した.CPによる感染性蕁麻疹の報告は海外で数例認めるのみで,本邦では自験例が初の報告例である.難治性蕁麻疹の診療に際しては,同感染症が関与している可能性も考慮し,抗CP抗体価の測定も諸検査の一項目に加えるべきと考える.

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要約 66歳,男性.30歳頃に臀部の「500円玉程度」の大きさの皮疹に気付いた.その後,皮疹は臀部全体に拡大し,足関節周囲や下肢にも広がった.初診時,臀裂部を避け左右臀部の広範囲に数mm〜1cm程度の茶褐色斑が多数あり,それらが融合し過角化黒褐色局面を形成していた.病理組織学的には過角化と錯角化円柱を多数認め,verrucous porokeratosisと診断した.マキサカルシトール軟膏外用を行ったところ,過角化は改善し患者の満足が得られた.Verrucous porokeratosisは汗孔角化症の稀な亜型であり確立した治療法はないが,マキサカルシトール軟膏外用は試みるべき治療の1つと考えた.

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要約 7歳,男児.生来健康.幼児期より体幹に数か所,淡褐色の結節性病変を認めていた.自覚症状を伴わず自宅で経過観察していたが,初診約1週間前から圧痛が出現したため当科を受診した.初診時,軀幹を中心として全身に境界明瞭で弾性硬の結節が散在していた.結節表面は淡褐色であり,いくつかは有毛性だった.組織学的所見では,真皮内に紡錘形細胞により構成され,verocay bodyが多く存在するAntoni A型の神経鞘腫であった.脳・脊髄造影MRI所見で両側聴神経および脳神経系と脊髄に多発する腫瘍を認め,神経線維腫症2型(neurofibromatosis type 2:NF2)と診断した.NF2においては皮膚腫瘍を有する例が多いものの,皮膚症状を契機として診断に至る例は稀である.多発する神経鞘腫など,NF2に特徴的な皮膚症状の際にはMRI検査などにより神経系腫瘍の有無を精査し,NF2の早期診断に寄与できると考えた.

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要約 69歳,男性.初診の約15年前より項部に皮下腫瘤を自覚し,徐々に増大傾向を認め,近医皮膚科を受診し,当科を紹介受診した.触診にて項部に7×3cm大で,弾性軟の可動性良好な腫瘤を触知した.CTで不整な密度の高い部位がみられ,MRIでT1強調像,T2強調像で不均一な信号を示し,隔壁様の線状の低信号がみられ,脂肪抑制ガドリニウム造影T1強調像では軽度の造影剤増強効果を示した.脂肪肉腫との鑑別に苦慮したが,臨床経過,生検結果から良性脂肪性腫瘍を考えて全身麻酔下に腫瘍を全摘出した.術後の病理組織学的所見より線維脂肪腫と診断した.術後1年が経過したが再発は認めない.項部に生じ,緩徐に増大する,CT,MRIで脂肪成分が主体だが,内部不均一で,軽度の造影剤増強効果がみられる腫瘍に遭遇した場合,線維脂肪腫も考慮すべきであり,造影効果の評価は良性悪性の判断に有用であると考えた.

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要約 62歳,男性.5年前から右母指爪下痛が出現し,近医にて生検施行され有棘細胞癌と診断された.当科初診時,爪床に5mm大の紅色結節を認め,爪甲は変形隆起していた.ダーモスコピーでは,ほぼ全体が無構造な紅色領域で一部に毛細血管増生がみられた.全身検索では腋窩リンパ節腫大や他臓器転移は認めず,爪甲を含め全摘出術を施行した.術後6か月のCTにて右小臀筋内に腫瘤を認め,全摘出術を施行された.病理にてlow-grade fibromyxoid sarcomaの診断であった.皮膚有棘細胞癌術後2年6か月でのCTにて縦隔リンパ節腫大を認め,気管支鏡検査を施行した.病理では扁平上皮への分化を疑われる像であったが,免疫染色TTF-1が陽性であったことから肺原発の未分化癌と確定診断され,放射線照射および化学療法が施行された.癌術後の経過観察に際しては,重複癌の存在も意識することが望まれる.

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要約 61歳,男性.2007年頃から嚥下困難や呂律の回りにくさがあり,2011年3月に当院神経内科で重症筋無力症,胸腺腫と診断を受けたが,通院を自己中断していた.2012年6月に重症筋無力症の悪化で再受診し,プレドニゾロン内服を開始するとともに,胸腺摘出術を施行した.その後プレドニゾロンを増量し,タクロリムスの内服を追加したところ,両足底に暗赤紫色調の結節が出現した.皮膚生検の結果からKaposi肉腫と診断した.2011年4月に胃潰瘍に対して上部消化管内視鏡で生検を行った際の病理組織からも,Kaposi肉腫の所見があったことが,後の検討で明らかとなった.本例におけるKaposi肉腫発症の原因として,血清IgG値が低値であり,胸腺腫に低γグロブリン血症を合併し免疫抑制状態にあった可能性を考えた.さらにその後のステロイドや免疫抑制剤の内服によって,増悪したのではと推察した.

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要約 68歳,女性.初診7年前より関節リウマチに対し,メトトレキサート(MTX)投与を受けていた.初診8か月前より下肢を中心に痂皮を伴う結節が出現し,徐々に増加した.左下腿に蜂窩織炎を発症したため前医に入院し,MTXを中止の上,抗菌薬治療を行われた.経過中,硬膜外膿瘍を合併したため当院神経内科へ転院となり,皮膚病変に関して当科を紹介受診した.四肢に大豆大までの結節が散在しており,左下腿には皮膚潰瘍を伴っていた.血液検査では可溶性IL-2レセプター(sIL-2R),血中Epstein-Barr(EB)ウイルスDNA値が軽度上昇していた.病理組織像ではCD20陽性B細胞を認め,in situ hybridizationではCD20陽性B細胞にほぼ一致してEBER陽性であった.以上よりメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患と診断した.MTX中止後も皮疹の改善に乏しく,MTX中止後6週目にリツキシマブ単独投与を開始し,計4クール施行した.リツキシマブ投与後,潰瘍は縮小,結節も消退し,EBウイルスDNA値も正常範囲内に復した.

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要約 27歳,男性.右アキレス腱部を何かに咬まれ,直後より呼吸困難感,冷汗,嘔気が出現し救急搬送された.右アキレス腱部に2か所の牙痕があったが周囲の腫脹は目立たなかった.来院時の血液検査で血小板数が0.6×104/μlと著明に減少し,血尿,血性嘔吐,眼瞼結膜出血などの症状を認めた.受傷2時間後にマムシ抗毒素血清6,000単位を投与し,2時間後には血小板数は17.8×104/μlに回復した.受傷8時間後からCK値,WBC数が徐々に上昇,全身の筋肉痛も出現し,受傷32時間後にはCK値は79,530U/lと著明に上昇した.腎保護目的に大量輸液を行い,合併症なく第16病日に退院した.「血小板減少型」マムシ咬傷は毒素が直接血管内に注入されることにより生じると考えられており,早期のマムシ抗毒素血清の投与が必要である.また,通常のマムシ咬傷と比較し局所所見が軽度であることが多く,受傷早期に正確に診断し,適切な治療を開始することが重要と考えた.

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要約 68歳,女性.初診1か月前から2日に一度の頻度で山に筍掘りに行っていた.初診3日前より39℃を超える発熱と倦怠感が出現し,初診1日前から軀幹・四肢に自覚症状のない爪甲大までの淡い紅斑が出現し,倦怠感が強く歩行困難となった.血液検査で血小板数が6.1×104/μlと低下し,肝機能障害を伴った.血液と右頸部の痂皮においてRickettsia japonica DNAが陽性で,Orientia tsutsugamushi DNA,SFTS virus RNAは陰性であり,日本紅斑熱と診断した.ミノサイクリン塩酸塩200mg/日の点滴加療をしたが,発熱が39℃を超え症状の改善がみられなかったため,入院3日目よりレボフロキサシンの点滴を併用したところ速やかに解熱し歩行可能な状態となった.重症化や難治化が疑われる症例では,早期からミノサイクリン塩酸塩・レボフロキサシン注射薬の併用も検討すべきと思われた.

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要約 78歳,女性.20歳時に前額部に瘢風様の鱗屑を伴う褐色局面が出現し,疣贅状表皮発育異常症の可能性を指摘され,遮光するように指導された.2011年5月細菌性髄膜炎で当院内科に入院中当科を初診した.初診時,前額部,前頸部,胸部,背部に鱗屑を伴う褐色から紅色の局面がみられた.ダーモスコピー像では,角化と左右非対称な単一な網目状の褐色斑,淡紅色の領域がみられ,褐色斑は毛孔部を避けて分布していた.病理組織像では,厚い角質,表皮内に澄明変性細胞の集塊を認めた.また澄明変性細胞の核に一致して,抗human papillomavirus(HPV)抗体染色は陽性で,背部の鱗屑より抽出したDNAよりpolymerase chain reaction法にてHPV5型が検出された.疣贅状表皮発育異常症と診断した.明らかな免疫異常がなく,患者が遮光を長年行っていた結果,癌化はみられなかった.

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欧文目次

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 毛髪疾患の患者の病勢を把握するためにhair pull testは簡便で非侵襲的であるため一般に行われている.Hair pull testの方法としては,母指,示指,中指の3本を用い,ゆっくりと髪の毛を引っ張る方法が一般的とされている.それを頭頂部,側頭部2か所,後頭部の計4か所で施行し,抜けた本数が引っ張った本数のうち10%以内であれば陰性,それ以上であれば陽性と定義している報告もあった.

 しかし,hair pull testはその低い感度と施行者による差が生じやすいために,その結果は参考程度となることも多かった.また平均でどのくらい健常者でも抜毛を認めるのかに関する考察や,しっかりとした検査前のガイドラインはなく,髪質による影響も考慮されないままhair pull testは行われてきた.

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 CRISPR/Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats/CRISPR associated protein 9)は,細菌や古細菌の有する免疫機構として発見された.細菌に侵入した外来ウイルスやプラスミドDNAはCas蛋白により数十塩基まで断片化され,CRISPR座位に取り込まれる.さらに,CRISPR座位から転写されたRNAと相補的に結合する外来DNAをCas蛋白が切断し,ウイルスを効率的に排除していることが明らかとなった.これを応用し,任意の標的配列に相補的な配列を含むガイドRNAとCas蛋白を用いることで,容易にノックアウトやノックインが可能なゲノム編集技術が確立された.デュシェンヌ型筋ジストロフィーは,X染色体上のジストロフィン遺伝子変異によりジストロフィン蛋白が欠損し,骨格筋障害や運動機能低下をきたす疾患である.モデルマウスにおいて,ナンセンス変異を有するエクソン23をエクソン・スキッピングにより読み飛ばすことでジストロフィン蛋白が生成され,運動機能も改善することが他の研究により示されている.本研究では,同様のモデルマウスにおいてCRISPR/Cas9を用いて変異を有するエクソンを切除し,ジストロフィン蛋白生成や運動機能改善が得られるかを検討した.CRISPR/Cas9とエクソン23を挟むイントロンの特定配列に対応するガイドRNAを導入したウイルスベクターを作成し,モデルマウスの前脛骨筋に局所注射した.局所注射後,同部位のDNAではエクソン23が欠失しており,他のエクソンに挿入や欠失などの遺伝子変異はなかった.同時に少量ではあるがジストロフィン蛋白が生成され,筋線維上に発現していることが確認された.さらに運動機能検査において,無治療群と比較して筋力増強,反復運動時の筋力維持率向上が得られた.ウイルスベクターを異なる経路で投与した際の効果についても検討され,静脈投与により心筋の機能改善が得られた.本研究の結果から,デュシェンヌ型筋ジストロフィー・モデルマウスにおいてCRISPR/Cas9を用いたゲノム編集による治療効果が示された.今後,実臨床や種々の遺伝子疾患への応用が期待される.

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 本年6月に仙台で開催された第113回日本皮膚科学会総会の書籍販売コーナーの一角で,本書を偶然発見したとき,「おお,ついに…」と思わず口走った.16年前,短い期間であったが,著者の技術を少しでも吸収するために門戸をたたき,末席からそのメス捌きを見ていた者として非常に感慨深いことであった.

 ご存知,日本における皮膚外科の第一人者である大原國章先生の待望の一冊が刊行された.「大原アトラス」シリーズ4巻目にして,ついに真打登場といったところであろうか.本編を早く見たいところであるが,まず目に留めておきたいのは序文である.皮膚の手術は部位,疾患,年齢などが多様な故に,ガイドライン,マニュアル.そしてアルゴリズムなどはあてにならず,最適な手術を選択するためには,より多くの引き出しを持つことが重要だ,と著者は述べている.治療ガイドラインやらアルゴリズムが次々と発表され,目にすることが日常茶飯事になった昨今からすると,皮膚外科とは何と捉えどころのないファジーな学問なのだと思われる諸先生方がおられるかもしれない.しかし,本文の頁を一枚一枚捲って見ていただきたい.その意味するところが.著者の圧倒的な経験数から導かれるべきして,導かれた真理であることがわかるはずである.そして,それこそが皮膚外科学の醍醐味でもあると感じることができるだろう.

次号予告

「臨床皮膚科」歴代編集委員

あとがき 石河 晃
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 人工知能(AI)は今や,確実に人間の知能を上回りはじめています.囲碁の世界ではAlphaGoが世界ランクトップの棋士に3戦3勝を収め,将棋ではPonanzaが現役名人に勝利しました.プロ棋士は十数手先まで読み進めると言いますが,一手一手に選択肢が多数あり,合計すると膨大な数の指し手を予測する必要があります.人間は「大局観」という独特の形勢判断により,読み筋の途中で結論を出し,最善手を効率的に決めることができます.大局観は経験や勘に基づく知識,すなわち「暗黙知」の領域のもので,解が出るまで計算するコンピューターが苦手とする分野と考えられていました.しかし,計算能力が圧倒的に進歩すると読み筋の途中で形勢判断する必要もなくなり,近年ではAI自身が考えた手を自分で良かったか悪かったか判断し,学習しているといいます.また,現在のスーパーコンピューターの1,000倍も演算速度の速い「量子コンピューター」なるものが開発されようとしているそうです.AIが自らを規定しているプログラムを自身で改良するようになると,永続的に指数関数的な進化を遂げ,その結果,ある時点で人間の知能を超えて,それ以降の発明などはすべてAIが担うようになり,人間が予測できなくなるのが2045年であるという予測がありますが,あながち嘘ではない気がします.

 皮膚科の診断に画像解析としてAIを導入する研究が進められています.今年の『Nature』にはdeep learningを用いて皮膚病の13万枚の写真を学習し,有棘細胞癌と脂漏性角化症の鑑別,メラノーマと母斑細胞母斑の鑑別を皮膚科専門医と同等のレベルでこなしたという論文が出ていました.皮膚科医の経験と勘はすでに追いつかれています.画像解析による診断には良い点が多々ありますが,皮膚科医が必要とされなくならないか,臨床診断の正否を判断する役割のある皮膚病理診断もAIにとられてしまったら人間は手も足も出ないのかなど,形態学にこだわる皮膚科医としては心穏やかではいられません.しかし,人間には他人の感覚との通有性をもつ人間性があり,個々の患者さんに最善である治療を総合的に決定するのは人間であるはず(だと信じたい)です.2045年以降もそれがAIや総合診療医ではなく皮膚科医であることを切に願っています.皆様にとって2018年が良い年でありますように.

基本情報

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臨床皮膚科
71巻13号 (2017年12月)
電子版ISSN:1882-1324 印刷版ISSN:0021-4973 医学書院

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