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人工知能(AI)は今や,確実に人間の知能を上回りはじめています.囲碁の世界ではAlphaGoが世界ランクトップの棋士に3戦3勝を収め,将棋ではPonanzaが現役名人に勝利しました.プロ棋士は十数手先まで読み進めると言いますが,一手一手に選択肢が多数あり,合計すると膨大な数の指し手を予測する必要があります.人間は「大局観」という独特の形勢判断により,読み筋の途中で結論を出し,最善手を効率的に決めることができます.大局観は経験や勘に基づく知識,すなわち「暗黙知」の領域のもので,解が出るまで計算するコンピューターが苦手とする分野と考えられていました.しかし,計算能力が圧倒的に進歩すると読み筋の途中で形勢判断する必要もなくなり,近年ではAI自身が考えた手を自分で良かったか悪かったか判断し,学習しているといいます.また,現在のスーパーコンピューターの1,000倍も演算速度の速い「量子コンピューター」なるものが開発されようとしているそうです.AIが自らを規定しているプログラムを自身で改良するようになると,永続的に指数関数的な進化を遂げ,その結果,ある時点で人間の知能を超えて,それ以降の発明などはすべてAIが担うようになり,人間が予測できなくなるのが2045年であるという予測がありますが,あながち嘘ではない気がします.
皮膚科の診断に画像解析としてAIを導入する研究が進められています.今年の『Nature』にはdeep learningを用いて皮膚病の13万枚の写真を学習し,有棘細胞癌と脂漏性角化症の鑑別,メラノーマと母斑細胞母斑の鑑別を皮膚科専門医と同等のレベルでこなしたという論文が出ていました.皮膚科医の経験と勘はすでに追いつかれています.画像解析による診断には良い点が多々ありますが,皮膚科医が必要とされなくならないか,臨床診断の正否を判断する役割のある皮膚病理診断もAIにとられてしまったら人間は手も足も出ないのかなど,形態学にこだわる皮膚科医としては心穏やかではいられません.しかし,人間には他人の感覚との通有性をもつ人間性があり,個々の患者さんに最善である治療を総合的に決定するのは人間であるはず(だと信じたい)です.2045年以降もそれがAIや総合診療医ではなく皮膚科医であることを切に願っています.皆様にとって2018年が良い年でありますように.
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