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CRISPR/Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats/CRISPR associated protein 9)は,細菌や古細菌の有する免疫機構として発見された.細菌に侵入した外来ウイルスやプラスミドDNAはCas蛋白により数十塩基まで断片化され,CRISPR座位に取り込まれる.さらに,CRISPR座位から転写されたRNAと相補的に結合する外来DNAをCas蛋白が切断し,ウイルスを効率的に排除していることが明らかとなった.これを応用し,任意の標的配列に相補的な配列を含むガイドRNAとCas蛋白を用いることで,容易にノックアウトやノックインが可能なゲノム編集技術が確立された.デュシェンヌ型筋ジストロフィーは,X染色体上のジストロフィン遺伝子変異によりジストロフィン蛋白が欠損し,骨格筋障害や運動機能低下をきたす疾患である.モデルマウスにおいて,ナンセンス変異を有するエクソン23をエクソン・スキッピングにより読み飛ばすことでジストロフィン蛋白が生成され,運動機能も改善することが他の研究により示されている.本研究では,同様のモデルマウスにおいてCRISPR/Cas9を用いて変異を有するエクソンを切除し,ジストロフィン蛋白生成や運動機能改善が得られるかを検討した.CRISPR/Cas9とエクソン23を挟むイントロンの特定配列に対応するガイドRNAを導入したウイルスベクターを作成し,モデルマウスの前脛骨筋に局所注射した.局所注射後,同部位のDNAではエクソン23が欠失しており,他のエクソンに挿入や欠失などの遺伝子変異はなかった.同時に少量ではあるがジストロフィン蛋白が生成され,筋線維上に発現していることが確認された.さらに運動機能検査において,無治療群と比較して筋力増強,反復運動時の筋力維持率向上が得られた.ウイルスベクターを異なる経路で投与した際の効果についても検討され,静脈投与により心筋の機能改善が得られた.本研究の結果から,デュシェンヌ型筋ジストロフィー・モデルマウスにおいてCRISPR/Cas9を用いたゲノム編集による治療効果が示された.今後,実臨床や種々の遺伝子疾患への応用が期待される.
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