眼科 60巻9号 (2018年9月)

特集 糖尿病網膜症の最新情報を読み解く

序論 門之園 一明
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糖尿病網膜症は,眼科医が日常診療で遭遇する頻度の高く,最も関心の高い疾患のひとつです。これは,糖尿病網膜症はその患者数が多くさらに失明原因の主因であるからでしょう。糖尿病網膜症は,長足の進歩がみられるものの,2007年の国の国民健康・栄養調査によれば約2,200万人の糖尿病患者が存在すると類推され,そのなかで視機能に強く影響を及ぼすであろう患者数は200万人を超えると類推されています。さらに,高齢化により患者数は増え続け,難治症例も増加し続けているのが現状です。このため,この分野では多くの研究者により日々あたらしい知見が生まれています。

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抗VEGF薬と副腎皮質ステロイド剤を用いた薬物治療は,糖尿病網膜症の治療を一変させた。現在も多数の新薬の臨床試験が進められており,実用化が期待されている。こうした状況のもと,個々の症例における治療の最適化を図るうえでは,各薬剤の特性を十分に理解しておくことが重要となる。本稿では基礎的な観点から,糖尿病網膜症の薬物治療について概説する。さらに,臨床試験が進められているangiopoietin(Ang)-Tie2シグナルを標的とした薬物治療について紹介する。

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糖尿病患者は全世界的に増加の一途をたどり2035年には患者数が約6億人に達することが予測されている1)。近年の硝子体手術などの治療の進歩により多くの患者は増殖糖尿病網膜症による失明を回避可能となりつつある。一方,糖尿病黄斑浮腫(diabetic macular edema:DME)は糖尿病網膜症の全進行過程で認められ,糖尿病患者の約10~26%,単純糖尿病網膜症の段階であっても6%程度に生じ,視力低下の原因となるといわれ2),増殖糖尿病網膜症のように失明の原因とまではなりにくいが就労年齢層での社会的失明の原因として問題となる3)。DMEの病態は複雑で,血管透過性亢進・血管閉塞による血流障害・膠質浸透圧低下・後部硝子体膜の牽引などさまざまな要因が関与して起こることが知られている。なかでも,血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)の血管透過性亢進作用がDME発症に果たす役割は大きく,近年の大規模臨床研究における抗VEGF薬の良好な治療効果もこのことを裏付けている。従来,DMEは網膜局所光凝固(毛細血管瘤直接凝固/グリッド凝固)やステロイド局所投与により治療が行われてきたが,実臨床の場では難治性の症例も散見された。本邦ではDME治療における抗VEGF薬としてafliberceptとranibizumabが使用の認可を受けており,その良好な治療効果から抗VEGF薬治療はわが国においてもDME治療における第一選択となりつつある4)。本稿ではDMEに対する抗VEGF薬治療についてafliberceptとranibizumabの比較を交えながら解説する。さらに,今後,臨床の場に登場する可能性のある新しい抗VEGF薬についても概説する。

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光干渉断層血管撮影(optical coherence tomography angiography:OCTA)は,広く普及した光干渉断層計(OCT)を用いて,連続的にB-scanを撮影し3次元のen-face画像を構築する機能を拡張した新しい技術である。同部位を高速で複数枚撮影することによって得られるmotion contrast,すなわち,血流の動き(赤血球の動き)の情報のみを信号(flow signal)として画像化することで,網脈絡膜の血管構築を非侵襲的に描出することができる。そのため,OCTAは糖尿病網膜症における微小血管病変を非侵襲的に評価できる新たなツールとして大きな注目を集めている1)。一方で,通常の眼底検査に加え,OCTとフルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluorescein angiography:FA)があれば,糖尿病網膜症の診療は十分に可能であり,OCTAが必須の検査とはいえない。しかし,急速に進化するOCTAをもし使える環境があるならば,そこにOCTAを追加することで,さらに緻密で高度な診療を実現できることは疑いようのない事実となりつつある。簡便かつ非侵襲であることによる反復撮影,層別解析や,造影剤漏出の影響を受けないことによる境界明瞭な血管描出などといった利点から,糖尿病網膜症における血管病変の新たな評価基準が構築されてきている。また2018年度から診療報酬も算定できるようになり,最近のwide angle viewing OCTAは,FAの代用としてのOCTAの存在価値をさらに高めている。本項では,OCTAから得られる糖尿病網膜症の新知見を黄斑部と周辺部に分けて整理し,引用文献を多めに記載して原著を辿れるようにした。今後標準検査となり得るOCTAを理解し,活用する一助となれば幸いである。

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糖尿病黄斑浮腫(DME)に対する標準的治療は,時代とともに変遷している。1980年代ではレーザー治療が広く行われ,90年代には硝子体手術による治療も導入された。2000年代はステロイドや抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬といった薬物治療が中心となった。特に抗VEGF薬は脳梗塞や心筋梗塞の発生リスクが懸念されるものの,浮腫改善効果が劇的で,比較的安全と考えられ,DME治療の第一選択として使用されることが多い。ただし,抗VEGF薬に限らず,薬物治療はその治療効果を維持するには頻回投与が必要となる。抗VEGF薬単独治療において他の治療と併用もしくは切り替えをする前に何回注射するか,とのアンケート調査では23%の網膜治療の専門家が3回と答え,18%は少なくとも5回と答えた1)。ただし抗VEGF薬は高額な薬でもあり,頻回投与により医療経済や患者にとっての負担が大きくなることも問題として挙げられる。抗VEGF薬が効きにくい症例の特徴を見極め,限られた注射回数でも有効な治療効果が得られる工夫を模索することも重要であろうと思われる。

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現在の糖尿病網膜症に対する硝子体手術の適応は,増殖糖尿病網膜症(PDR)と糖尿病黄斑浮腫である。以前のPDRへの硝子体手術の適応は6か月以上持続した硝子体出血と黄斑にかかる牽引性網膜剥離であった。しかし,黄斑剥離を生じてから長期間経過すると黄斑部視細胞の機能低下により,視力の回復が難しくなることから,早期に手術を行うようになってきた。現在では,1か月間持続する硝子体出血,黄斑剥離になりそうな牽引性網膜剥離,進行性の線維血管増殖に対しても硝子体手術の適応が広がっている。軽度の増殖性変化に対しても,PDR症例では後部硝子体膜剥離がないことが多く,網膜新生血管が硝子体皮質を足がかりに伸展し,線維血管組織となって将来黄斑に牽引を生じることがあるので,早期の硝子体手術が有効であると考える。このように,少しでも良質な術後視機能を目指して,より早期からの硝子体手術による介入が推奨され,増殖糖尿病網膜症への適応は拡大してきている。

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内科,眼科の治療の進歩や患者への啓蒙活動が功を奏し,メタ解析の結果によれば,世界における糖尿病網膜症(diabetic retinopathy:DR)の有病率は,2000年以降には,それ以前の報告と比べ半減した1)。しかし,2000年から2015年にかけての推定網膜症患者数は,糖尿病患者数の増加を反映し,7,490万人から1億250万人に増加した。このような状況においては,“発症させない,進展させない”予防を重視した対策が重要である2)。

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糖尿病網膜症は腎症,神経障害と並ぶ糖尿病3大合併症でありそのなかでも最も頻度が高い合併症である1)。Wisconsin Epidemiologic Study of Diabetic Retinoipathy(WESDR)によると1型糖尿病患者では罹病期間20年でほぼ全例に,2型糖尿病患者では15年で約8割に糖尿病網膜症が認められたと報告されている。以前は成人の失明原因第1位であったが,さまざまな網膜症に対する治療の効果により現在では第3位となっている。

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糖尿病網膜症の診断と治療はカラー眼底からの病期診断とともに発展してきた。病期診断は眼科医がカラー眼底を判読し,決められた特徴量をもって病期分類するもので,加療の目安として重要な診断である。しかしカラー眼底の判読のような,画像による一般物体認識は2015年に人工知能(AI)がヒトを正確性で上回った。このAIの進歩と糖尿病網膜症の病期診断への応用について解説する。

綜説

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ほんの10年前まで,脈絡膜と緑内障というと濾過手術の合併症である脈絡膜剥離以外思い浮かばなかったはずである。我々は超音波画像診断装置(B-mode echo)でしかその形状を測定,推察できなかった。OCT(optical coherence tomography:光干渉断層計)の開発,特に深部強調画像EDI(enhanced depth imaging)-OCTが出現してからは精密な脈絡膜厚を測定できるようになった。多数の網膜疾患の病態解明に繋がった一方で,緑内障患者と脈絡膜厚との関係に明確な答えは出なかった。しかしながら近年開発されたOCT-angiography(OCTA)により,乳頭周囲脈絡網膜萎縮(parapapillary atrophy:PPA)内の脈絡膜毛細血管網の脱落が報告され,乳頭周囲の脈絡膜解析による緑内障のさらなる病態解析が進んでいる。今回の綜説では日常遭遇する脈絡膜剥離から,最新のOCTAや脈絡膜への眼圧下降を目指したデバイスの動向まで触れてみたい。

近視と緑内障 西山 一聖 , 三木 篤也
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近年アジアを中心に近視の患者数は急速に増加している。世界では既に16億人が近視であり,2020年には25億人になるといわれている1)2)。近視は10歳代で特に進行するが,有病率には人種差が大きく白人に比べ東・東南アジア人でその割合が高い3)。

機器・薬剤紹介

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3D Visual Function Trainer-ORTe(以下,ORTe:ジャパンフォーカス社)は日常臨床に必要な複数の自覚的視機能検査および視能訓練を高い検査効率で短時間に施行することを目的とした視機能検査・訓練装置である。ORTeは視力検査(通常遠見視力検査),視力検査(両眼開放下片眼視力検査),同時視検査(眼位検査含む),融像検査(融像幅測定含む),近見立体視検査,遠見立体視検査,Visual Function Trainer(VFT)-HESS検査(9方向眼位検査),VFT-Striated glass Test,VFT-4Dots Test,三杵法検査,VFT-Aniseikonia検査,Preferential Looking法の計12の検査法,および弱視・斜視訓練が可能である1)2)(図1)。これまでも多目的視機能検査装置の開発はさまざま取り組まれていたが,臨床機器としては機能に制限があった。その原因は視標を提示する3Dモニタのクロストーク(右眼映像と左眼映像の漏れ)の制御が困難であったことが最大の要因である。2010年以降,3Dモニタの基本性能が格段に向上したことを背景に,ORTeは有効検査角30°の専用フルハイビジョン3Dモニタを搭載している。またORTeの両眼分離には偏光眼鏡方式が採用されている。偏光眼鏡には直線偏光と円偏光がある。これまで眼科臨床における両眼分離には直線偏光(Titmus Stereo Tests)が用いられてきた。直線偏光は映像提示面と眼鏡の傾きズレに弱く,少しでも眼鏡(患者頭部)が傾くと両眼分離が崩れてしまう欠点があった。直線偏光の問題点を解消するために,ORTeは円偏光眼鏡による両眼分離を採用しており,直線偏光に比べて頭部の傾斜による両眼分離の崩れを大幅に軽減している。ORTeで測定された検査結果はシノプトフォアやHESS赤緑試験の検査結果と高い互換性を持つことが示されている3)。ORTeでは従来の自覚的視機能検査がコンピュータグラフィックスにより簡便で応用範囲が広く再現されている反面,従来の自覚的視機能検査の原理を改めて確認する必要がある。また,ORTeの検査距離や両眼分離法は従来の検査法と異なるため,検査結果の解釈について十分な理解が必要である。

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これまでの連載で,なぜ多変量解析が用いられるのか,どのように説明変数を選択するとよいのかを考えてきました。多変量解析は複数の説明変数がアウトカムにどのように関連するのか,交絡因子による影響を取り除きつつ解釈できる形でモデル化する方法として大変有用な方法であることをみてきました。今回は説明変数のほうに注目をしてみたいと思います。今回のお題は,多変量解析で回帰係数を報告する際に,たとえば年齢1歳あたり,あるいは年齢10歳あたりなどさまざまな報告がありますがそれをどのように選択したらよいかということです。言い換えますと,説明変数が連続変数である場合に,説明変数の単位をどのように指定して回帰係数を推定するのがよいかということかと思います。

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目的

バルベルト緑内障インプラント手術(BGI)は難治性緑内障に対する手術選択のひとつである。BGIを施行後1年以上経過を追えた糖尿病網膜症例の術後成績をレトロスペクティブに検討した。

方法

順天堂医院においてBGIを施行し,1年以上経過を追えた糖尿病患者21例21眼(男15眼:女6眼,平均年齢55.1±8.8歳)を対象に矯正視力,眼圧,合併症をレトロスペクティブに検討した。BGIはすべてプレートが350mm2で毛様体扁平部から挿入し,被覆部には保存強角膜を使用した。

結果

術前眼圧は41.3±9.2mmHg,術後12か月の眼圧は13.5±3.9mmHgと有意な低下を認め,点眼スコアも術前4.5から術後2.3と有意な低下を認めた。経過中2眼に光覚消失を認めた。術後合併症として,チューブ閉塞,チューブ露出が1眼ずつ。糖尿病網膜症に関連して術後網膜剥離を1眼,糖尿病黄斑浮腫の発症が1眼,繰り返す硝子体出血を2眼に認めており,強い視力障害を残している。

結論

BGIは糖尿病網膜症による血管新生緑内障が原因の高眼圧を抑える効果が非常に高く,今後も糖尿病網膜症の高眼圧治療に対するチューブインプラント手術の適応は拡大していくと考えられるが,一方で深刻な合併症も存在しそれを克服するまでには至っていない。

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目的

当科では上下直筋の短縮・後転において,上下偏位に応じて積極的に大量移動を行っている。今回,上斜筋麻痺における下直筋鼻側移動術の,上下矯正量別の回旋矯正効果,上下矯正効果を検討した。

方法

対象は2010年10月から2016年1月までに,下直筋後転+鼻側移動術を施行し1年以上経過を追えた42症例である。併用する下直筋の後転量が5mm未満と5mm以上の群に分け,各群における鼻側移動1筋幅あたりの回旋矯正効果(回旋変化,°/幅)と,後転1mmあたりの上下偏位矯正効果(上下変化,°/mm)を調べ,2群間で比較した。斜視角は大型弱視鏡で測定し,術直後,術後3か月,術後1年の眼位を検討した。

結果

術後1年の第一眼位において回旋変化は5mm以上群で7.7±5.3(以下,単位°),5mm未満群で6.1±2.8,上下変化は各々1.4±1.0,1.5±1.3であった。回旋変化は5mm以上群において,術直後よりも術後1年で有意に増加した。上下変化は両群ともに,術直後よりも術後1年で有意に増加した。下方視眼位で,回旋変化は各々6.6±5.3,7.1±10.7,上下変化は各々1.1±0.8,1.9±0.9で,全結果において,両群に有意差はなかった。

結論

下直筋後転5mm以上の矯正でも,通常行われる4mm程度までと同様の矯正効果が見込める。下直筋後転+鼻側移動術では,術直後よりも術後1年で上下,回旋ともに矯正効果が増加する可能性がある。

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目的:強度近視等視神経乳頭形状異常のため緑内障の判別がつきにくい症例に対し,磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging:MRI)を施行し,緑内障性視神経萎縮の判定の補助となるか検討した。

症例:眼底検査で緑内障が疑われ,鑑別が困難な2症例と前視野緑内障の疑いの1症例に頭部MRIの冠状断撮影,Short TI inversion Recovery法(STIR法)を用い視神経(O)と脳白質(W)の信号輝度比を測定し,視神経萎縮の有無を判定した。

結果:症例1では視神経/脳白質信号輝度比(O/W)は1以下と低く,視神経萎縮を認めず,症例2ではO/Wが1.4以上と高く,緑内障が疑われ,2回計測することで視神経萎縮の進行も認めた。前視野緑内障が疑われる症例3ではO/Wが1.7以上と視神経萎縮を認めた。

結論:緑内障の診断が困難な症例においてO/W測定は早期より視神経萎縮の検出が可能であり,緑内障診断の補助,治療方針の検討,患者への説明に有用であった。前視野緑内障の時点でO/Wが上昇している可能性があると考えられた。

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眼科
60巻9号 (2018年9月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0016-4488 金原出版

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