神経研究の進歩 25巻3号 (1981年6月)

特集 神経系の機能形態学

組織細胞化学の新しい技術

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はじめに

 近年,螢光顕微鏡は,組織や細胞に分布する種々の物質の定性的,定量的検索に用いられるほか,標識された細胞の探索にも活用され,その応用範囲はきわめて広い。

 螢光fluorescenceの定義は,物理学的には必らずしも一定していない。しかし生物学的には,短波長の光,すなわち紫外線を吸収し,長波長の可視光線を放出するような物質,すなわち螢光物質を対象として,それらを顕微鏡下にとらえれば足りるので,厳密な定義の確立を要しない。

螢光抗体法 前田 敏博
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 はじめに ある特定物質をその抗体を用いて可視化する方法―免疫組織化学―はCoonsら1)により螢光色素を標識して始められたが,この方法は現在なお螢光抗体法として広く用いられている。いっぽう近年Nakane2),Sternberger3)らによって酵素抗体法が導入され,感度においてすぐれている,永久標本となる,電顕レベルでの観察が可能であることなどにより一般化されつつある。しかし螢光抗体法にもすぐれた点があり,場合に応じて両方法を使い分けるのが望ましいと思う。なにがすぐれているかといえば,1)方法が簡便である。すなわちステップの少ない分だけ人工産物出現の危険が少ない。2)コントラストがよいの2点がまず挙げられる。したがって特異的に抗原が高濃度に存在する場所だけが確実に観察される。言い換えれば,抗原がある量以上ある場所は強く輝き,それ以下は陰性となり中間的まぎらわしさがない。つまり感度の落ちる分だけ特異性が高いとも言えるので,新しい物質を免疫組織化学で染め出すとき,とりあえず螢光抗体法で観察した所見を間違いの少ないものとして取り上げるのはよいことであろう。また酵素抗体法でまぎらわしい場合など螢光抗体法て注意深く観察してみることが勧められる。しかしこれが陰性であるからといって決して無いわけではない。

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 Nakaneにより考案された酵素抗体法(ペルオキシダーゼ標識法peroxidase-labeled antibody method)は組織内の「物質の特異的局在を観察する」免疫組織細胞化学の一技法として近年種々の分野で盛んに利用されている。その理由として本法は,他の免疫組織化学的技法と比較し,いくつかの長所があることがあげられる。たとえば螢光抗体法との比較では,染色標本が通常の顕微鏡で簡単に観察できること,標本の保存が半永久的であること,また電顕的観察ができる点などがあげられる。また,フェリチン抗体法と比較してみると,光顕・電顕両方とも観察できること,さらに標識に用いるペルオキシダーゼの分子が小さく組織細胞内への標識抗体の浸み込みがよい点などが長所としてあげられる。とくに酵素抗体法によりミトコンドリアを含めた種々の細胞小器官内の物質の局在の観察ができる点は,きわめて有用と思われる。

 本法の神経組織の観察への応用は,他の分野に比べまだ多いとはいえないのが現状であろうが,最近,視床下部における種々ペプチドの局在観察が盛んに行なわれてきており,S−100proteinのような神経組織に特異的と思われる物質も観察されている。われわれの研究室でも,ヒト,ラット視床下部におけるACTH系ペプチドの局在観察を中心に神経内分泌学neuroendocrinologyの酵素抗体法の導入を試みている。

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はじめに

 神経毒素(neurotoxin)やレクチン(lectin)などを,あらかじめフェリチン(ferritin)3,7,23,29,31),ペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase,HRP)22,30),あるいは125I1,24)などで標識し,中枢神経組織を構成する細胞表面における結合部位の分布様式を形態学的に検討し,神経系の特性を膜レベルで解明しようとする試みがなされている。ここでは細胞レベルの認識過程で主要な役割を果たすと考えられている細胞表面の糖鎖13)と荷電33)とをフェリチン法を主体とし,ついでHRP法と併用した具体的な検索例を二,三挙げ,神経研究に関する細胞化学的アフローチの一端を紹介したい。

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はじめに

 医学・生物学領域で走査電子顕微鏡(SEM)がその研究手段として用いられるようになってすでに久しい。中枢神経系の研究に限っても,脳室表面に見られるciliaやいわゆるsupraependymal cellの観察5,20)など,この間に数多くの報告がなされてきた。また,発生期を対象としたものでは,神経管の形成過程の観察が報告されている3,24)。しかし,従来のこれらSEMによる研究は,管腔内表面と外表面の違いこそあれ,臓器の表面観察の段階にとどまるものが多く,組織・細胞発生の解明という見地からは,方法論的にも不満足なものであった。このような目的でSEMを用いるには,組織の劈開面を作り出したうえでその面を観察することが要求されるが,この観察法がSEMフラクトグラフィである。中枢神経系の発生過程の検索に本法を用いると,光学顕微鏡や透過型電子顕微鏡(TEM)による従来の観察ではうかがい知ることのできなかった所見が得られることが明らかとなった13,14,16)

 ところで,SEMフラクトグラフィと類似したものに割断法(cracking method)がある。割断法とは一般に,樹脂包埋した組織や凍結させた組織をノミのような刃物で割り,脱樹脂または解凍後,割面をSEMによって観察するものである。

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はじめに

 オートラジオグラフィー(autoradiography,以下ARGと略す。語源的にはradioautographyが正しいが,1970年頃よりautoradiograhyと慣用されている)は放射性同位元素(radioisotope,RI)のβ崩壊または電子捕獲によるβ線のエネルギーを組織その他の生体構成要素上で写真学的に検出する方法である。すなわち,ARGの特徴はRI標識された物質が生体内へ取り込まれ,合成,代謝される過程を構造と関連づけられることである。他のRI分析方法,たとえばシンチレーション・カウンターなどのほうが精度は高く,定量性もよいが,ARGは,①組織,細胞内に存在するRI標識物質を視覚的に捉えうる唯一の方法であり,②同一構造内における標識物質の移動を検出でき,また,③特定の組織,細胞を標識する手段としても用いられる。このような特徴を活用したARGによる組織,細胞学的研究は1960年代以降数多く行なわれ,細胞生物学の発展に大きく寄与している。

 化学的に写真乾板が感光するという現象はRIの発見される以前から知られていたが,この現象が科学的に利用されたのはRIの発見,原子核乳剤の開発など関連分野の進歩を経たのちである。とくに,第二次大戦期間におけるRIの開発および写真技術の進歩は間接的にARGを生物学の分野へ本格的に応用するみちを拓いたのである。

分析電子顕微鏡 水平 敏知
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I.分析電子顕微鏡とは

 有効な付属装置を含めた高性能透過型電子顕微鏡と,電子プローブ・微小部X線分析装置を使いやすく一つにまとめあげた装置を最近では分析電子顕微鏡,analyticalelectron microscope,略して分析電顕と呼ぶことが多い。

 生物・医学領城での電子顕微鏡(電顕)の応用・普及は目覚ましいものがあり,条件がよければ蛋白分子を,そして金属では原子を見ることも可能である。このような高度の分解能に対する要求の一方では見えている像を構成する元素群の検出,その定性および定量が求められるようになった。

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I.まえがき

 神経組織中に存在する微量金属の作用については,従来その分析法が確立されていなかったこともあり,不明なことが多かった。近年,水銀その他の金属が公害発生になんらかのかかわりを持っていることが判明するに及び,環境の金属汚染が大きな社会問題となり,これら金属の生体中での作用の究明が急がれるようになった。とくに金属元素には重篤な神経毒性を示すものが多いことが知られており,神経疾患と金属代謝の関係について強い関心が払われている(八瀬9),1980)。しかし,正常な生体の神経組織中では,脳関門による抑制作用もあって,金属元素の存在量は他の生体組織中に比べて微量であるため,その分析はきわめて困難であった。その結果,脳および神経系全体を一検体として分析せざるを得なく,そのため,各組織における金属元素の作用についての情報が得がたかった。しかし近年,微量分析技術の飛躍的な向上に伴ない,種々高感度の分析法が開発され組織分析が可能になった。その一つが原子炉を用いる放射化分析(activation analysis)である。

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 horseradish peroxidase(HRP)の神経終末や神経細胞内への取込みおよびその逆行性軸索輸送,順行性軸索輸送を利用した神経線維連絡の研究については,Kristensenら(1971)12,13)が骨格筋や舌などにHRPを注入し脊髄運動ニューロン,延髄舌下神経核のニューロンにおいて,筋終板付近から取り込まれたHRPが逆行性軸索輸送により運ばれ,それらのニューロンの核周部に存在することを証明して以来,末梢神経系のみならず中枢神経系においても,膨大な研究発表がこの10年間に行なわれている16)。このHRP利用による線維連絡の研究は従来から行なわれていた中枢神経系の一定領城を脳定位手術的に電気凝固などにより破壊し,ニューロンの核周部の変性に伴なう順行性軸索変性を経た終末変性を変性終末鍍銀法や電顕により観察することにより,線維連絡を追求する方法や,アミノ酸の同位元素を一定領域に投与した後,その軸索輸送をオートラジオグラフにより調べることによる線維連絡研究法に取って代わるぐらいによく用いられている。しかし,HRPの取込み機構は,軸索輸送の標識に用いられる色素などの蛋白についても同様であるが,現在なお詳細にはわかっていない。

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はじめに

 簡単な反射運動,外界刺激の知覚,さらに複雑な行動,記憶,思考という神経系の機能を理解しようとするとき,どのような神経細胞のグループ,あるいは個々の神経細胞が相互に連絡しているかという知識なくしては考えを進めることができない。そのため一世紀にわたって中枢神経系のいろいろの部位に損傷を与えた後細胞体から軸索終末に向かう変性を髄鞘,軸索に求める順行性変性法,あるいは逆方向に軸索から細胞体に及ぶ変化を見る逆行性変性法などを用いて線維連絡の研究が続けられてきた。このうち後者についてはHRPの軸索内逆行性輸送を利用する方法が開発されこれに取って替わられた感がある。本特集の別項で述べられている。いっぽう順行性の変性法についてはNauta-Gygax法あるいはその変法であるFink-Heimer法などの鍍銀法によって中枢神経系の線維連絡が隈なく明らかにされたようであったが,どの程度末端まで軸索の変性が捉えられているかという点,それに脳内に傷をつける時の副損傷が実験結果にどのような影響を及ぼしているかということが常に問題となっていた。電子顕微鏡下に変性軸索終末を求めてより詳細に線維結合様式を解明しようという試みも,とくに後者の問題を解決できなかった。

 ここに登場したのが外界から投与された物質をニューロンが取り込み,処理するという生理的な過程を利用する方法である。

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 神経生理学の研究において,対象とする神経細胞の形態を知ることはその電気生理学的な諸性質を知ることとともに重要な意義を持っている。とくに神経回路網を解析し,そこで行なわれている情報処理機構を究明して行くさいに,神経細胞の位置,大きさ,樹状突起や軸索の拡がりの形態を知ることはその神経細胞の入出力の空間的分布を明らかにして行くうえできわめて有意義である。ここでは,Procion yellowの開発(StrettonとKravitz,1968)以来とくにポピュラーになった細胞内染色法の概要を紹介し(Procion yellow法についてはすでにKaterとNicholsonによるSymposium Proceedingsがあるので参照されたい),脊椎動物網膜回路網の解析に応用して得られた知見を御紹介したい。

細胞内染色法—HRP法 林 治秀
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 単一神経細胞について機能的性質を調べている生理学者にとってはその形態の同定,また形態を観察している解剖学者にとってはその機能的役割を知ることは,最も関心のあるところである。HRP(horseradish peroxidase)を使用した細胞内染色法は,これらの要求を満たして神経細胞の電気生理学的反応と光顕レベルでの形態との対応関係を明らかにするばかりでなく,同定された細胞の電顕による観察・分析から局所神経回路19)をも明らかにするすぐれた方法である。この方法は急速に脚光をあび,その応用により現在すでに多くの成果があげられている。筆者はこれを脊髄後角細胞3,4,15)と一次求心性神経線維17)の機能・形態の解析に応用したので,その経験に基づいて方法の概要とそれによって得られた知見を紹介したい。

DBHの組織化学 永津 郁子
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はじめに

 ドーパミン-β-水酸化酵素(dopamine-β-hydroxylase;EC14・2・1;DBH)はカテコールアミンであるドーパミン(dopamine:DA)のエチルアミン側鎖のβ位炭素を水酸化して,エタノールアミン側鎖を持つノルアドレナリン(noradrenaline:NA)とする一原子酸素添加酵素である。従来の酵素組織化学法は酵素反応の過程で基質より遊離する生成物を発色剤で呈色させる方法で,この方法ではDBHを染色することはできない。DBHを染色するためにはDBHの酵素蛋白質の局在をその抗体を用いて検出する免疫酵素組織化学法が必要である。

 1967年,Udenfriendの研究室のGibbら4)によりDBHの特異的抗体が作製され,これを応用してその後にDBHの免疫組織化学によるNAニューロンの局在が証明された。DBHはNAと同一顆粒内に貯蔵され7,20),またNA4)とともに軸索を流れて11,14)軸索末端からexocytosisにより3,27)放出される。ゆえにNAニューロンにはDBHが特異的に存在する。DAはドーパ(DOPA)からドーパ脱炭酸酵素(dopa decarboxylase:DDC)により生成される。DOPAはチロシンからチロシン水酸化酵素(tyrosine hydroxylase:TH)により生合成される。

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はじめに

 近年,比較的分子量の小さい生物活性ペプチドが中枢および末梢神経,消化管,膵などにわたって広く分布していることが知られるとともに,また,同一の物質がその存在する場所によって生物学的機能または意義を異にする点が指摘されている。これらのうちのあるものは従来から視床下部性のreleasing hormoneとして知られていたペプチドが神経系の広い部分に分布していることが明らかになったものである。そして,CCKZ,ACTH,インシュリン,グルカゴン様の免疫活性を示す物質が脳内に存在することが認められている。しかしこれらの物質が神経伝達物質として存在するのか,または単なるneuromodulatorとして従来から知られたconventionalneurotransmitterに対して調節的役割を演じているのにすぎないのか,さらにこれらいわゆる神経ペプチド相互の機能的関連および神経ペプチドとモノアミン,アセチルコリン,GABAその他の伝達物質と神経ペプチドの間の関係はどのようであるかということが論議の対象となっている。

 これらの物質を脳内で同定する第一段階として,中枢神経の各部分についてラジオイムノアッセイによって測定がなされたことは当然である。しかしこれらの物質を機能との関連において論ずるためには,形態の立場から光学顕微鏡的にその脳内局在を確かめるとともに,電子顕微鏡によって細胞内における存在様式を観察することが大切である。

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はじめに

 近年神経組織の蛋白の研究は急速な進歩を遂げ,数多くの神経組織に特異な蛋白が見出されてきて,その物理化学的性質も次第に明らかとなってきた。いっぽう免疫組織学の発展は目覚ましく,本特集号の別章で紹介されているように,数多くの特異的で感度のよい方法が考案されてきた。すなわち従来生化学のレベルでしか論じることができなかった脳特異蛋白は免疫組織化学の助けを得て,その局在を明確にすることができるようになった。そのためこれら蛋白の研究は飛躍的に進み脳内における機能的役割も論じられるようになった。

 また病理学の分野においては,神経系の各種腫瘍は従来の形態学的検索によりその分類や起源が判断されていたが,これら脳特異蛋白の抗体を用いることにより,より的確な診断をも行ないうるようになった。

 

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はじめに

 放射性ゼノン(Xenon)により脳の局所血流量を定量的に求めることが可能である。こうした脳循環動態の把握は脳血管障害の病態生理を正しく理解するのに必要であるばかりでなく,治療方針を立てるうえで不可欠なものとなりつつある。脳循環の定量的測定が1945年以来行なわれてきたが,その歴史を要約すると,

 第一期1945〜1960:Kety & Schmidtの笑気(N2O)吸入法による全脳平均循環測定1,2)

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はじめに

 脳は非常に異なったレベルの機能活動を営む解剖学的,機能的単位より成っており,しかもそれらは時間的,機能的にそれぞれ変化してゆく。他の組織は一般的にはるかに均質で,同一の機能を持つ細胞より成り,共通した刺激ならびに統御作用に対し,同様なしかも同期した反応を示す。しかし中枢神経は無数のsub-unitから成り,おのおのは固有の機能的な伝導路やネットワークのセットに統合され,神経系の関与する多くの働きの中でただ一つ,またはほんの少しのみに関与する。どのように神経系が機能するかを理解するには,興奮と抑制の機構のみならず,それ以上にそれらの詳細な局在や神経sub-unitと特殊機能の関係に関する知識が必要である。

 歴史的には中枢神経の研究は,主に特殊機能に関係した機能局在と伝導路のマッピングに集中していた。行動学的には破壊や刺激により,電気生理学的には電気的記録や誘発電位反応で,組織化学的には螢光法,免疫螢光法および順行性,逆行性axoplasmic flowによるオートラジオグラフ法などのさまざまな方法で行なわれた。これら多くのconventionalな方法にはサンプリングに問題がある。一般的に1回の実験にてただ一つのpotential pathwayが検索可能で,しかも陽性所見のみが意味を持つ。そのうえ,一つの伝導路を証明したとしてもそれは機能への関与の可能性を示すのみで,正常な機能における実際の関与を示すとは限らない。

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I.はじめに

 炭素,窒素,酸素などのアイソトープで各種の化合物を作り,その動態を人体外から測定できるとしたら,その医学・医療への恩恵は計り知れないものがあろう。神経系の機能形態の研究にも大変な武器となるに違いない。

 しかし,これを実現するには,大きな技術的難関が二つある。その一つは化合物の製造に関するもので,炭素,窒素,酸素のアイソトープのうち人体投与が可能でかつ体外から測定できるような性質を持った放射線を放射するものは11C,13N,15Oに限られることである。これらは半減期が分の単位と短く,しかもサイクロトロンによる核反応で作られるので,サイクロトロンを病院内に設置し,核種の製造から薬剤の製造まで病院内で迅速に行なわなければならない。

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I.はじめに

 線条体黒質変性症(striatonigral degeneration,以下SND)とオリーブ・橋・小脳萎縮症(olivopontocerebellar atrophy,以下OPCA)の病変が同一例においてしばしば合併して出現し,また,Shy-Drager症候群が剖検上しばしばSNDやOPCAの病理組織像を伴なっていることから,近年これらの疾患を包括する概念としてのmultiple system atrophyという名称が用いられる趨勢にある。いっぽう,これら3者は必ずしも合併するとは限らず,また合併していてもそれぞれの病変の強さに強弱があり,臨床像の上からもかなりの差異があるのが通例である。最近われわれは生前にSNDと診断され,剖検上明らかなSNDの組織像に加えて典型的なOPCA病変を示し,かつ脊髄病変を認める1例を経験した。さらに近年SNDの剖検例で被殻に出現し,注目されているいわゆるputaminal pigmentsについても組織化学的および電子顕微鏡的検索を行なった。その結果,本例の線条体とりわけ被殻においてneuromelaninと思われる顆粒や鉄陽性顆粒の出現を観察した。以上の所見に基づき臨床病理学的検討と文献的考察を行なった。

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I.序

 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮dentatorubropallidoluysian atrophy(DRPLA)はSmith21,22)が歯状核赤核系と淡蒼球ルイ体系の両者に変性性病変を有した1症例で,初めて提唱した名称である。臨床経過は小脳性の歩行,言語障害にchoreoathetosisが加わり,後に眼球運動異常も認められた。

 いっぽう,わが国において,臨床的にはHuntington舞踏病類似の特色を持ち,病理学的には同様の歯状核赤核系と淡蒼球ルイ体系の両者に変性性病変を有する症例の報告がここ数年間に相ついだ。われわれはDRPLAの4剖検例を検索する機会を持ち,臨床上の諸問題の分析と検討を行なった(病理学的問題については第2報で報告する)。4例のうち,症例1,2はSmithの報告例と臨床像が類似し,小脳性運動失調にathetoid不随意運動と眼球運動異常が加わったもので,ことに症例2は症例1の臨床病理学的観察を基に,生前からDRPLAと診断していたものであることが特筆される。症例3はわが国でいくつか報告されているHuntington舞踏病類似症例に近い臨床像を呈し,症例4は上記のものに較べ複雑な臨床経過を呈したが,症状の性質は症例1,2と共通点を持っていた。

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はじめに

 本邦ではParkinson病に対するlevodopa単剤(L単剤)による治療が始められてからすでに10年,carbidopa・levodopa合剤(C・L合剤)が試用され始めてからすでに7年の歳月が経過した。いずれの薬剤も治療効果はかなりすぐれているが,ことにC・L合剤の有用性がよりまさっていることはこれまでの多くの報告で確認されてきた。しかし,いずれの薬剤を用いても治療開始数年後からかなりその効果が減退し,症状の日内変動,副作用などによって症状のコントロールが困難となる例が漸次増加することも指摘されている1〜3,13,15,17)。われわれは先に本邦の27施設でC・L合剤による治療が3年以上継続して行なわれた239例について,L単剤による治療中の資料と比較して,C・L合剤による長期治療の有効性と安全性について検討した結果を報告した9)。この中にはL単剤による治療が先に行なわれ,後にC・L合剤による治療に移行したものが多く,通算して治療期間が10年に及ぶ症例も少なからず含まれている。ここではL単剤,C・L合剤を合わせたlevodopa長期治療例の10年間の治療経過についてまとめてみた。

基本情報

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神経研究の進歩
25巻3号 (1981年6月)
電子版ISSN:1882-1243 印刷版ISSN:0001-8724 医学書院

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