臨牀透析 36巻5号 (2020年5月)

特集 近未来の透析医療

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日本の透析患者生存率は世界のトップとなっている.これは透析機器・血液浄化器の開発,透析システムの整備に多くを負っており,学会,臨床工学技士会,業界の協力関係が大きな役割を果たしてきた.しかし世界一の生存率であると誇っているが,それが逆に新たな治療技術の開発へのモチベーションを弱め,生存率の頭打ちとともに透析療法自体の老齢化が徐々に進展してきているのかもしれない.今後,原点に立ち返って個々の症例に合った透析治療を再考する必要があるであろう.透析療法のイノベーションをはかるために,学会,技士会,業界のさらなる協力関係とともに,次世代への透析科学の伝承が重要となる.

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IT(information technology)技術の進歩は目覚ましく,医療のなかにも活用が進んできている.今般,労働者の労働環境の改革が進められるなか,医療従事者もそのかぎりではない.労働集約的要素をもつ透析医療についても,限られた医療従事者で安全で質の高い透析医療の提供をしていくことが求められている.従来,医師を含む医療従事者が行っていた業務を正確に実施するための対策を考えていく必要がある.その施策として,AI(artifi cialintelligence)技術などを活用し診断や医療機器などの操作を行うことが求められてきている.これらの新しい分野に対応できる体制作りが必須である.しかし患者に対し心の通う治療や支援を行う多職種によるチーム医療を実践することがもっとも大切なことである.

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現在の血液透析(HD),血液透析濾過(HDF)で中核をなすダイアライザとダイアフィルタの近未来の仕様を考える.ダイアライザに求められる基本性能は変わらないが,近未来の在宅透析の普及に備えて,長時間,短時間頻回治療を考慮した仕様が望まれる.前希釈HDF では見かけの血流量が400~500 mL/min となるので,ダイアフィルタの血液入口圧を抑制するために,中空糸内径をやや太いものにする.後希釈HDF ではアルブミンの漏出を抑制するために細孔径がやや小さな膜を選択し,透水性能は大面積化で担保する.濾過性能を優先する場合には,ダイアフィルタは濾過器として設計するほうがよい.

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新規モニタリング技術の開発・導入により,透析療法も少しずつ進化し続けている.すなわち患者やダイアライザ・装置から発信される情報をもとに,その患者に適した条件の治療へと誘導する「ナビゲーション透析システム」の開発が近未来的に可能と思われる.今後,RPA(robotic process automation)やAI(artifi cial intelligence)を活用した透析装置が開発されることはいうまでもない.ここでは近年開発された,もしくは近い将来開発可能なモニタリング技術についていくつか紹介し,ナビゲーション透析システムの可能性について述べる.

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透析装置は現在まで,モデルチェンジごとに進化し,除水制御機構,自動化機能,モニタリング機能,安全制御機構など安全で質の高い透析療法を提供し,今後も進化していくものと考える.透析通信システムは,透析装置間の通信共通化から施設間の情報共有,さらには災害時の施設間通信など,近未来に向けて,なおいっそうの発展が期待される.在宅血液透析用透析装置は,遠隔モニタリングシステムをさらに充実させ,在宅血液透析の適正化と安全性の向上がはかられると考える.wearable 透析機器などの可能性としては,抗血栓性などの問題から未だしばらくは時間が必要といえる.今後の透析装置は,AI(artifi cial intelligence)やIoT(internet of things)を導入活用して,さらに進歩していくものと考える.

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災害時に使用可能な携行型血液浄化装置としては,小型で消費電力が少なく,バッテリー駆動が可能で,操作が簡単で,長時間使用可能な装置が望まれる.われわれは極細中空糸を用いた小型フィルタと小型遠心ポンプを用いて,携行可能な血液浄化装置を開発している.現在のところ,2 週間ほどの長期にわたって連続治療が可能な装置が開発できた.今後さらに改良を重ね,臨床で使えるレベルの装置にしていきたいと考えている.

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近年脚光を浴びている人工知能(AI)は,おもにパターンを認識する機械学習に基づき,ビッグデータから自動的に特徴を抽出し答えを提示するが,その過程はブラックボックスであり説明はできない.しかし,臨床の現場では個の症例の病態を説明できることが必須である.そのためには,特徴抽出プログラムとしてのシミュレーションとAI を融合させた設計が必要であると考えている.生体反応の断片的な少ない情報を深い洞察でつなぎ合わせシミュレーション化し,そのつなぎ目の調整にAI を利用するのである.腎性貧血の場合,赤血球産生系のシミュレーション化が有用であり,説明できるAI の標的はヘモグロビン(Hb)ではなく赤血球数である.

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わが国では高齢化とともにCKD・透析患者の増加は継続することが予想される.高齢患者には低栄養が合併しやすく,栄養状態は生命予後に直結する.彼らの栄養状態の改善には,栄養管理が不可欠であるが,高齢患者にとって食事記録の継続は困難である.そこで,筆者らは,人工知能(AI)・情報通信技術(ICT)を活用することで,食事記録の継続と栄養摂取量の正確な推定を行うことを可能にする食事療法管理システムを開発した.このシステムでは,食事内容の認識に機械学習の一種であるディープラーニングが搭載されており,高い精度を達成している.このシステムの使用により,患者を中心とした医療システムの一部として効果的な栄養指導が期待できる.

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血液透析患者では透析前後の独特の血糖プロファイルが明らかにされており,透析前後の血糖変動のみならず,透析日と非透析日では血糖の変動パターンが大きく異なることがある.近年では,皮下組織の間質液のグルコース濃度からアルゴリズムを用いておおよその血糖値を表示する持続血糖測定器(CGM)が,透析患者における適切な血糖管理に役立ち始めている.海外ではAI を用いた血糖管理アプリの利用が始まっており,将来的には透析患者への応用も期待される.糖尿病網膜症のAI による自動診断なども含め,糖尿病領域におけるAI 活用は,さらなる加速が予想される.

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急性腎障害(AKI)を発症した患者の短期予後ならびに長期予後は不良であり,発症予防や早期診断による重症化予防が重要である.近年,人工知能(AI)によるAKI 発症予測モデルの開発がなされ,2019 年にはGoogle のAI 部門であるDeepMind 社が,AKI の発症を48 時間前にリアルタイムで予測可能なモデルを開発した.AKI の発症を事前に予測(pre―AKI alert)できれば,適正な介入によりAKI 発症の予防あるいは重症化予防が可能となり,患者予後の改善が期待できる.一方,これらの予測モデルは完全なものではなく,モデルの感度を上げれば偽陽性も多く診断され,医師の警告疲労(alert fatigue)にも繫がりかねない.いわゆる“pre―AKI e―alert”に対して,患者のAKI 発症リスクをどのように再評価し,どのような対応をとるかについては最終的に医師の判断に委ねられており,医師の責任はますます重大となってくる.

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腹膜透析(PD)は基本的には在宅透析療法であり,遠隔医療との親和性が高い.2018 年に登場した新しい自動腹膜透析(APD)装置「かぐや」とPD 用治療計画プログラム「シェアソース」は,遠隔医療の機能を有する画期的なシステムである.このシステムでは,「かぐや」が収集した治療データを「シェアソース」によりインターネット上で確認することや,また「シェアソース」を通じて「かぐや」のPD 処方を変更することが可能であり,診療の質の向上や効率化,PD 治療の最適化,トラブルや異常の把握や対応の迅速化,医療者間の情報共有による連携強化などの効果が期待される.

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過疎地にも小さな透析施設を数多く設置することと,そのすべての施設に透析専門医を常勤させることは,両立困難である.福島県立医大病院では,2018 年春より地方のパートナー病院に透析遠隔支援サービスを提供している.パートナー病院に透析専門医は常勤しておらず,非専門医と看護師および臨床工学技士が日常診療に当たる.両病院に電子カルテ,透析コンソールのオペレーションシステム,通信の端末を設置し,福島県立医大病院の透析専門医が共有された情報を基にパートナー病院に指示・処方・処置の提案を行う.2020 年には福島県立医大病院内に正式に「透析遠隔支援室」が設置された.地域医療としての維持血液透析の新たなモデルとして提案したい.

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急性腎障害(acute kidney injury;AKI)は全入院患者の約20 %が発症し,とくに集中治療室ではその頻度が40~50 %に達する.重症化し,血液浄化まで要するようなAKI は予後悪化に直結するとあって,早期診断・早期介入がAKI 診療上の喫緊の課題とされてきた.以下では人工知能(artifi cial intelligence;AI)の一つであるディープラーニング技術を用いて,臨床現場におけるAKI の発症予測を目指した研究結果を紹介する.

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人工材料を用いて作製した現行の小口径人工血管(口径6 mm 未満)は,抗血栓性,抗感染性,生体適合性などの面で解決すべき課題が多く残されており,ブレイクスルーが待ち望まれてきた.近年,ヒト人工多能性幹細胞(iPS 細胞)をはじめとした幹細胞研究や組織工学技術が発展するなかで,自己の細胞を用いた立体組織・臓器再生への期待が高まっている.人工材料をまったく含まず,細胞だけで任意の立体構造体を構築するバイオ3D プリンタに着目し,外科的血行再建に用いる小口径細胞製人工血管の研究,開発に取り組んできた.本コラムでは,臨床応用を目指した透析用の自家細胞製人工血管の可能性と将来展望について述べたい.

OPINION

Chasm 考 安藤 康宏
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Chasm は深い峡谷の意で,キャズムあるいはカーザムと発音される.この言葉はマーケティングコンサルタント,J. ムーアが1991 年の著作“Crossingthe chasm”に示したいわゆる「キャズム理論」でマーケティング関係者に広く知られるようになった.

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症 例:40 歳代,女性 主 訴:呼吸苦 既往歴:30 歳代に右卵巣囊腫(性状不明)手術 家族歴:特記事項なし 妊娠出産歴:2 経妊・2 経産(いずれも普通分娩)

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多発性囊胞腎(polycystic kidney disease;PKD)において,囊胞感染症はしばしば発生する重篤な合併症である.閉鎖腔である囊胞内の感染であるため抗菌薬治療が奏効しにくく,難治化し再発を繰り返すことも多い1).今回,発熱と感染囊胞に一致しない非限局性の腹痛を認め,腹部CT が診断に有用であったPKD の腎囊胞感染を経験したので報告する.

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目次

次号予告・頻出略語一覧

編集後記

基本情報

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臨牀透析
36巻5号 (2020年5月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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