臨牀透析 32巻1号 (2016年1月)

高齢者の透析導入を再考する

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高齢者における透析導入等の意思決定プロセスにおいて,複数の視点が並存する状況に注目して次の諸点を考察する.(1) 医療の役割は<人生>の展開を目指して<生命>を整えることであり,無条件に<生命>を維持することがよいわけではない.(2) 人には皆で協働して生きようとする姿勢<皆一緒>と,別々に生きようとする姿勢<人それぞれ>が並存しており,各人は相手との関係に応じて両姿勢をブレンドしつつ対応している.家族内では<皆一緒>が支配的であることに由来して,<自分>の場合と<家族>の場合とで一見矛盾する言動が結果する.(3) 必要に応じて社会的ケアを受けることが推奨されるが,際限なくケアを受けてよいわけでなく,<各人の最善>と<社会資源の総量>とを併せ考える必要がある.

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2013年末の慢性透析患者の平均年齢が67.2歳と,透析患者の半分近くが高齢者となってきた.高齢者は併発症を一つ以上持ち,老年症候群,サルコペニア,フレイルになりやすいとされる.透析医療者もそれらの病態を認識し,早期発見および治療に努め,高齢透析患者のQOLおよびADLを改善・維持する必要がある.

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わが国では高齢化社会が急速に進行しており,高齢者人口および高齢者慢性腎臓病(CKD)患者が増加している.また透析導入患者の高齢化も進行している.腎臓は加齢に伴い構造変化として肉眼的には腎萎縮,組織学的には糸球体硬化,間質線維化,尿細管萎縮がある.機能的変化としては,加齢に伴う腎機能の低下が腎疾患による腎機能低下に重なることになる.末期腎不全へのリスクを回避するためには,これらの高齢者CKD患者の特徴および問題点を理解し,適切な診断と治療が必要となる.

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日本透析医学会統計によると,2013年に後期高齢者(75歳以上)の透析導入は13,865人で総導入患者の38.4%に相当した.一方,2013年12月末時点では,75歳以上の透析患者は92,519人で全患者数の30.3%と算出された.維持透析患者の3人に1人が後期高齢者ということになり,透析患者の高齢化を改めて痛感する.しかし,後期高齢者既導入患者のすべてが自覚的・他覚的に必ずしも望ましいADL(日常生活動作)やQOL(生命の質)を得ているわけではないことも知られている.当該患者について,後期高齢者の平均余命を勘案しつつ,慢性腎不全のほかの重大な臓器障害の存在や患者性格の透析療法への適合性などが慎重に検討されなければならない.CKD 2(eGFR 60~89 mL/min/1.73 m2)またはCKD 3(eGFR 30~59 mL/min/1.73 m2)の病期から保存療法を地道に継続できている患者であれば,そのままそれを継続し,単にある一定の数値をもって「透析導入」と短絡することは得策ではない.

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要介護高齢慢性腎臓病(CKD)患者の生命予後は不良である現実を踏まえた場合,高齢CKD患者においては,良好な栄養状態と体力の保持をはかり,フレイルを予防することは,保存療法の重要な目標である.一方,要介護高齢患者の透析導入後の予後は,生存率,QOLともに不良であり,透析治療による医学的利点は確認されていない.このような現実を踏まえ,欧米では透析導入の判断に際してはpatient-centered care,shared decision makingに基づいた議論が盛んになっている.透析非導入を選択する例には,患者の尊厳を損なわずにQOLを維持できる具体的療法・ケアを提供することが必要だが,本邦においてはこの整備は大きな課題である.

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透析患者の高齢化が問題視されているが,個人差や家庭背景はさまざまである.したがって,単に透析のmodalityや一般的特徴だけで杓子定規に透析法を選択することはできない.一般に高齢者はガイドラインで採用される臨床研究の対象から外れており,ガイドラインの推奨事項がそのまま適応できるかは不明であるが,ガイドラインを十分に理解しておく必要があるのはいうまでもない.高齢者における血液透析(HD)・腹膜透析(PD)の利点・欠点は通常のそれとは少し趣が異なることを踏まえ,一人ひとりの実情に即した選択が必要である.

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高齢者にバスキュラーアクセス(VA)作製を行う場合に注意する点として,皮膚の菲薄化,心機能の低下,動静脈の荒廃,栄養状態や日常生活動作の悪化が挙げられる.穿刺のしやすさ,心臓や末梢循環への影響など合併症の少なさから,前腕橈側の自己血管内シャント(AVF)がもっとも理想的なVAである.橈骨動脈に高度な石灰化を伴っても軟化処置(硬化した血管壁を攝子で圧潰することで吻合を可能にする処置)を行うことで吻合が可能になる.それ以外の部位でのAVF作製や人工血管を用いたVA では欠点が増え,それらの欠点を最小限にする工夫が必要になる.とくに人工血管は,なるべく皮膚や心臓に負荷をかけず,穿刺や修復が行いやすいデザインが要求される.必要最低限の血流が安定して流れ続けるシャント作製を心がけ,高度な末梢動脈疾患や心不全を合併している場合は非シャント性のVAを考慮する.

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腹膜透析(PD)は高齢者の腎代替療法としてよい適応であることは周知の事実であり一定の良好な成績も報告されている.PD導入の際に,最初に越えなければならない重要な関門はペリトニアルアクセス(peritoneal access;PA)の留置術である.十分に機能するPAが存在してこそ良好なPDが維持できる.高齢者に使用するカテーテルや留置術に関しては,他の年齢層の患者のそれと基本的なコンセプトに差異はないが,高齢者に特有な,身体的・精神的な特徴や衰え,陥りやすい合併症に対しては相応の注意を十分に払う必要がある.

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後期高齢者の血液透析への導入は,緊急避難的な要素をもっている場合もある.そのため,導入初期に,腹膜透析への移行や治療からの離脱も含めて,再検討する必要が生じている.導入間もない患者を受け入れた施設の看護師には,「安楽な通院維持透析を継続できる」というこれまでの役割だけでなく,「今こそ透析を伴った生活をどう構築するかについて考える」時期として位置づけ,総合的な支援をするという新たな役割が付与されている.患者の理解力や家族の状況,介護力,社会資源の活用状況など,あらゆる角度からアセスメントし,患者の生命の質(QOL)にとってもっとも適した「腎不全ライフ」を再構築するために,関係職種と力を合わせ,尽力しなければならない.

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本稿では最初に高齢者の心理社会的特性について, (1) 精神機能の老化(感覚器官,集中力と理解度の低下,学習意欲の低下),(2) 老化による性格変化(レイチャードの5類型),(3) 社会性の変化(役割,経済,仲間,環境の喪失)という点から述べる.次に高齢者がケアを受けるときにもちやすい否定的感情について,怒りと落胆を中心に説明する.最後に,高齢者ケアで重要な心がけとして「関心を向けること」「出会いとニーズを大切にすること」を説明する.

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本邦の高齢者の腎移植は増加傾向にあり,60歳以上のレシピエントは全体の約20%を占める.高齢者の腎移植における特徴は,急性拒絶反応の発現は少ないが,感染症による死亡が多い.そのため5年生存率,生着率は90%より低いが,他の年齢と比べてdeath censored graft survivalは変わらない.高齢者は免疫抑制が過多になりやすいが,一度拒絶反応を起こすと,腎機能を喪失しやすい.60歳以上のドナーは生体腎移植で年々増加して43.6%に達している.高齢ドナーの術後は腎不全にならないように,外来でのフォローが重要である.高齢者の腎移植は透析での生存率を上回り,生着率も比較的良好であるため,生活の質を改善するために考慮すべきであると考える.

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日本は世界でもっとも急速に高齢化が進行している医療先進国であり,その未来は世界の医療の未来を示すものと考えられている.今後本邦における高齢者の増加,それに伴う医療費の増加は避けられない.税金を負担する生産年齢人口は1990年代をピークに減少に転じている.わが国の医療保険制度は,国民皆保険,現物給付制度,さらにフリーアクセスを特徴としている.そのために,すべての国民は少ない自己負担で優れた透析医療を受けることができる.その結果,わが国の透析患者の予後は世界でもっとも優れた成績を示している.このような優れた末期腎不全医療の状況を今後も維持していくために,われわれは未来の透析医療に関して医療費の面からも考える必要がある.高齢者透析では日常生活動作(ADL)の維持,そして満足度の高い医療の面から在宅透析である腹膜透析(PD)は一定の評価がなされている.また予防医療,在宅医療,さらに透析の中止と非導入などに関しても国民の間で議論すべき時期にきている.

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患者は死をどのように受け止め,何を準備するべきなのか.医療者・家族は看取りの準備をどうするのか.患者の看取りの場はどこなのか.死は,高齢透析患者が迎える人生最後の出来事であり,人生を全うするための不可欠な瞬間であるが,患者が死をどのように意識しているかを知ることは重要である.すべての人は人生の最終局面である「死」を迎える際に,「最善の医療およびケア」を受ける権利を有する.そのために事前指示書は有用な手段であり,残されていく家族の意思と看取りへの準備も大切である.そして,医療者に与えられた医療・介護のなかで,"看取り"こそは,もっとも崇高な行為である.看取りは,死の瞬間ではなく,死までの生を看取ることである.

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50歳代男。無尿を主訴とした。左上葉原発非小細胞性肺癌の再発に対する化学療法後であった。4日前より全身浮腫および労作時呼吸困難が出現し、前日のクレアチニン(Cr)が19mg/dL台と著明な上昇を認めたため、緊急透析を行った。急性腎不全の原因として造影剤腎症および薬剤性腎症を考え内服薬を中止し血液透析を継続したが、10日経過しても尿量が増えず、腹部エコーと腹部CTにて両側腎杯の軽度水腎症所見と腹膜播種を認めた。腹膜播種により腎後性急性腎不全をきたしていると考え、入院第17病日にステント挿入術を施行した結果、尿量の劇的な増加および血中尿素窒素(BUN)とCrの低下を認めた。第19病日にステント閉塞により無尿となったが、第23病日に腎瘻造設後は尿量が確保でき、体重の持続的な減少、Crの持続的な低下およびBUNの低下傾向が認められた。癌治療再開のため第36病日に再転院した。

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維持血液透析を行っている30名(男24名、女6名、平均年齢63.0±10.5歳)を対象に、透析直前・直後に、腹囲およびデュアルインピーダンス(BIA)法による腹部全断面積・除脂肪面積・腹部脂肪面積(皮下脂肪面積・内臓脂肪面積)の測定を行い、測定値について評価と有用性を検討した。BIA法による測定値は、透析直後は透析直前に比べ腹部全断面積・除細胞面積・皮下脂肪面積はいずれも有意に低値であったが、それぞれの値から算出された内臓脂肪面積に有意差を認めなかった。透析直前・直後のいずれもBIA法による内臓脂肪面積測定値はCTによる測定値と強い相関を示した。透析患者の腹囲は透析前後にかかわらずCTによる内臓脂肪面積と正の相関を認めたが、BIA法とCTとの相関係数よりも低値であった。BIA法では除水による腹部脂肪測定値への影響が少なく、透析患者においてもBIA法による測定値が内臓脂肪蓄積の評価に応用できる可能性が示唆された。

基本情報

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臨牀透析
32巻1号 (2016年1月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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