臨床雑誌内科 116巻3号 (2015年9月)

心臓弁膜症-初期診断・治療・管理のすべて

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過去半世紀の間に,心臓弁膜症の診断と外科治療は驚くべき進歩を遂げた.診断の進歩を支えてきた中心的検査は心エコーであり,心エコー自身もMモードから,Bモード,カラードプラと進化を遂げた.近年活躍が目覚ましい3D心エコー,徐々にエビデンスが蓄積されている運動負荷心エコーや,急速な勢いで発展しているCT,MRIなども加わり,今日でも弁膜症診断は日々進歩している.一方で外科治療も進歩が目覚ましい.僧帽弁形成術は標準術式としてすでに確立され,近年ではMICS,TAVI,MitraClipといった低侵襲治療も発展している.

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人工弁は弁口面積や抗血栓性(機械弁),抗石灰化技術(生体弁)が向上している.今後はスーチャーレス生体弁の登場でより簡便な植え込みが可能になる.僧帽弁形成術は多様なテクニックと外科医の技量向上により形成可能な範囲が広がっている.大動脈弁形成術は弁形態の条件を満たせば安定した成績が得られている.胸骨を温存する低侵襲心臓手術(MICS)アプローチが普及しつつある.的確な患者選択のもと行えば早期回復や輸血量減などの利点がある.経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)は,ハイリスクな重度大動脈弁狭窄症患者に有用な治療である.ハートチームによる適応検討,プランニング,手技の実施が重要である.

問診・身体所見と初期検査 羽田 勝征
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病歴聴取,身体所見と胸部X線像,心電図所見を合わせれば疾患の方向性がわかる.1つの情報・所見を追加するたびに鑑別診断を考える思考が大切である.考えない検査からは臨床能力は向上しない.心雑音は逆流性弁膜症重症度評価の一指標になる.身体所見と心エコー検査所見との絶え間ない対比が診察能力を高める.診断確定後の再診察・再評価,および反省はさらに重要である.

心エコー検査 高谷 陽一 , 伊藤 浩
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心エコー検査は弁膜症の診断,重症度評価そして治療方針の決定において必須である.心エコー検査は弁や周囲構造物の形態評価や弁膜症機序の検討に有用である.弁膜症の重症度は定量的に評価することが大切である.経食道心エコーによる詳細な弁形態の評価が手術適応の検討に必須である.3D経食道心エコーは,視覚的に弁膜症の構造を把握でき,術式など決定するうえで重要である.またリアルタイムで評価でき,術中のモニタリングにも有用である.

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心臓弁膜症の血行動態評価におけるカテーテル検査の位置づけは少しずつ変化してきている.心臓カテーテル検査により弁膜症の重症度評価,治療適応の決定,血行動態評価を行うことができる.

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心臓弁膜症は機能診断が重要であるため,現在もその評価の中心は心エコーであり,基本的にCTやMRIの適応は心エコーで評価が困難な場合に限られている.MRIは弁膜症における心機能の正確な評価や,心筋遅延造影を用いて梗塞や虚血による僧帽弁膜症の診断に用いることができる.CTは弁膜症のなかに鑑別を要する複合成人先天性心疾患の解剖学的評価や大動脈弁疾患における大動脈を含めた全体の評価にはきわめて有用である.近年,大動脈弁狭窄症の治療法として経カテーテル大動脈弁留置術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)が登場し,この候補となる患者の術前診断にもCTは重要な役割を担っている.

大動脈弁狭窄症 中谷 敏
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大動脈弁狭窄症は左室に圧負荷をきたし,左室肥大,コンプライアンスの低下,心筋障害を引き起こす.最近は加齢変性に伴う大動脈弁狭窄症が増加している.当初は無症状で経過するが,症状が出現すれば予後不良である.診断のきっかけは心雑音の聴取であるが,確定診断,重症度評価には心エコー検査が必須である.偽性高度大動脈弁狭窄症や奇異性高度大動脈弁狭窄症のように,圧較差が低くても弁口面積が小さい病態がある.大動脈弁狭窄症は進行性の疾患であるため,無症状であっても定期的観察が欠かせない.大動脈弁置換術が標準的治療であるが,最近はハイリスク例に対し経カテーテル的大動脈弁留置術が行われる.

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慢性大動脈弁閉鎖不全症は種々の要因にて生じうる.拡張期の血液逆流にて左室拡張末期圧の上昇と左室径の拡大をもたらす.有症候性や左心機能低下例では術後の予後が悪化するために,定期的に心エコー検査を施行し適切な手術のタイミングを計る必要がある.術式としては大動脈弁置換術が基本であるが,一部の症例で大動脈弁形成術や自己弁温存大動脈基部置換術の適応となる.

僧帽弁狭窄症 福 康志
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リウマチ熱の減少により新規の僧帽弁狭窄症の患者に遭遇する機会は激減しているが,治療後の残存や再発もしくは連合弁膜症として僧帽弁狭窄症の治療を行う機会は少なくない.軽症~中等度の僧帽弁狭窄症では,心拍数コントロールを中心とした薬物療法を行うが,心房細動を合併した場合には,とくに血栓塞栓症の予防が重要となる.薬物療法を行っても症状がある重症僧帽弁狭窄症の患者は,外科的治療の適応である.経皮経静脈的僧帽弁交連裂開術(PTMC)の適応も基本的には外科手術と同様であるが,PTMCは弁形態などの条件が合えば外科手術に匹敵する治療法であり低侵襲で安全に施行できることから,適応が拡大してきている.

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近年,虚血性心疾患あるいは拡張型心筋症に伴う機能性僧帽弁閉鎖不全症(機能性MR)が増加している.また,僧帽弁逸脱症に対する弁形成術の技術が進歩し,その適応が広がっている.症状や不整脈の出現,弁形成術の可否は術後の遠隔予後に大きく影響することから,重度MRでは無症状の段階から手術適応を考える必要がある.また,今後は経皮的僧帽弁クリッピング術の導入も考えられ,MR治療法の変遷について常に注目する必要がある.

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三尖弁閉鎖不全(TR)の約80%は弁自体には障害を認めず,右心系の圧負荷や容量負荷による弁輪拡大,弁尖の牽引などが原因の二次性TRである.二次性TRの大半は左心系弁膜症に関連して認められる.中等度以上のTRは独立予後規定因子であることを念頭に置く.右心系の弁膜症はTRも含め心エコーでの定量評価が困難であり,重症度評価は半定量評価が一般的である.二次性TRは左心系弁膜症修復後に改善するとは限らないため,とくに弁輪拡大例では軽度以上の三尖弁閉鎖不全も修復の適応となりうる.

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慢性腎不全,血液透析患者に合併する心臓弁膜症は,石灰化病変が原因となることが多い.厳格な水分管理による心不全症状出現の遅れが,外科的治療開始のタイミングを遅らせることがある.わが国の透析患者では,その長期生存率を考慮して,できれば抗凝固療法が不要な弁形成術を広く適応していくことが望まれている.近年は,これまで人工弁置換術を余儀なくされていた症例であっても,自己心膜を使用するなど外科的治療の進歩により,抗凝固療法が不要な手術も普及している.

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成人期を迎えた先天性心疾患症例数は激増している.複雑心奇形の代表であるFallot四徴症は比較的予後のよい疾患であるが,術後遠隔期の肺動脈弁逆流・狭窄とそれに引き続く合併症(上室性・心室性不整脈)に注意する.まれに突然死する症例がある.房室中隔欠損の術後の房室弁逆流の増加に注意する.多くはクレフト部の硬化変性による逆流である.成人期に弁置換のタイミングがくることが多い.また房室ブロックになりやすい.

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弁膜症の術前評価は,エコー所見だけで判断する時代から,症状,画像所見,周術期リスクを多角的に評価する時代に移行している.弁置換後の評価に関しては,抗凝固管理と系統的な人工弁劣化のモニタリングが必要である.人工弁置換後は,侵襲的な手技や手術のため抗凝固療法の中止を判断せねばならないこともあるが,ハイリスク症例のみheparinによる抗凝固療法置換を考慮する.抜歯,体表手術,消化管内視鏡検査では原則として抗凝固療法を継続する.

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僧帽弁狭窄症は左房に対する圧負荷,僧帽弁閉鎖不全症は左房に対する容量負荷,大動脈弁疾患は左室拡張末期圧の上昇に伴う左房の圧負荷により心房細動が発生する.僧帽弁疾患に伴う心房細動は手術時期を判断する一因となり,僧帽弁形成術・弁置換術の際にはMaze手術の同時手術が推奨される.大動脈狭窄症は左室に対する圧負荷,大動脈弁閉鎖不全症は左室に対する容量負荷,僧帽弁閉鎖不全症は左室に対する容量負荷により心室頻拍・心室細動が発生する.重症大動脈弁狭窄症は心室頻拍により容易に血行動態の破綻をきたし,心臓突然死の原因となる.弁膜症に伴う徐脈性不整脈に対して,非心房細動合併例では生理的ペーシング(DDDペーシング),慢性心房細動合併例では心室ペーシング(VVIペーシング)が推奨される.

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新規抗凝固薬はリウマチ性僧帽弁狭窄症と人工弁で使用できない.NOACは大規模試験で検証されたCHADS2スコアの患者で使用されるべきであり,各試験で対照としたwarfarin治療の質が大きく異なることに留意する.減量基準を設けて検証された薬剤の性能は,その減量基準を守る範囲で発揮されるものと考え,厳格に減量基準を守るべきである.とくに心房細動患者では,まずPCIありきではなく,PCIがDAPTと抗凝固療法併用期間の頭蓋内出血の増加に優るメリットがあるかどうかを考えるべきである.

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感染性心内膜炎の診断は疑うことが,重要である.感染性心内膜炎の診断の基本は,血液培養と心エコーである.感染性心内膜炎を疑った患者は,完全にそれが否定されるまでは,感染性心内膜炎として対応を続ける.感染性心内膜炎を予防するためには,抗菌薬の予防投与だけではなく,ハイリスク患者に対して感染性心内膜炎のリスクを説明し,発症早期に診断する努力を怠らないことが重要である.

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心臓弁膜症に対する薬物治療の意義:心臓弁膜症治療の根幹は物理的に弁膜症に起因した圧容量動態の異常を解消することにある.すなわち基本的にはその根本的解消を目指し,外科的治療もしくはカテーテル的治療を検討することになる.しかし,そこでより安定した状況を持続させ,あるいは侵襲的治療を前提に,より有利な状況で手術に臨むために患者の血行動態の改善や症状の緩和を図ることが内科的治療の目的となる.各種弁膜症の内科的管理のポイント:本稿では代表的な弁膜症である大動脈弁狭窄症,大動脈弁閉鎖不全症,僧帽弁狭窄症,僧帽弁閉鎖不全症について触れるが,とくに重症の大動脈弁狭窄症や大動脈弁閉鎖不全症,進行性の感染性心内膜炎などの症例では急激な血行動態変化や症状の変化を呈することがあり注意を要する.逆に僧帽弁位疾患,とくに機能的な僧帽弁閉鎖不全では心不全の改善(体液量の至適化)に伴い逆流量や症状が改善する症例をしばしば経験する.そのため長期的なフォローアップや至適な手術のタイミングの判断には注意を要する.大動脈弁狭窄症の薬物治療の難しさ:本稿ではとくに薬物治療選択に難渋することが多い大動脈弁狭窄症に焦点をおいて概説する.

心臓弁膜症のオーラルケア 森 良之
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心臓弁膜症患者の歯科治療について,以下に注意する.(1)歯科治療によって誘発される危険性のある感染性心内膜炎の予防には,抗菌薬の予防投与と口腔ケアを行う.(2)抗凝固療法中である患者の出血をコントロールするために,原則投薬継続下で局所止血剤を使用する.(3)症状の悪化を防ぐうえでのストレスの軽減のため,鎮静法などを併用する.

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現在,心臓弁膜症は非リウマチ性弁膜症がほとんどである.若年・壮年の弁膜症には発症に遺伝要因の関与があると考えられる.心臓弁膜症の一部は単一遺伝子病であるが,多くは多因子病である.単一遺伝子病としての心臓弁膜症にはMarfan症候群,Ehlers-Danlos症候群など結合組織疾患が含まれる.心臓弁膜症の発症進展には大動脈疾患と同様にシグナル伝達系(TGF-β,NOTCH)の関与があると考えられ,大動脈疾患で考慮され臨床試験が行われているARBの効果など,今後の研究成果とその応用が期待される.

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弁膜症の診断に大きな役割を果たす画像診断技術を補完し,さらに予測医療にまでつなげる技術としての数値シミュレーションについて紹介した.大動脈弁の病変や手術に用いられるグラフトのデザインは血行動態および弁に加わるひずみに大きな影響を与え病態の進展を左右するものと考えられる.これらの情報はシミュレーションによってのみ得られるものであり,今後個別モデルに基づくテーラーメイド医療に応用されていくことが期待される.心臓シミュレータとの結合によるテーラーメイド医療のさらなる展開について述べた.

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37歳男。右手のしびれ、気分不良、後頭部の重苦しさが出現して救急車にて受診し、体温37.5℃と微熱、髄液検査で細胞数と蛋白の増加を認めた。また、造影MRIで右側頭葉内側の一部に造影効果を認め、arterial spin labelingで血流増加を認めた。なお、来院時はJCS1であったが、救急車乗車から病室入室までの記憶が欠落していた。単純ヘルペス脳炎を疑ったが、検査所見で単純ヘルペスウイルスに対する髄液内抗体産生は証明されず、血清および髄液梅毒反応が陽性を示した。神経梅毒と診断し、ペニシリンG(2400万単位/日、14日間連日静注)による駆梅療法を行ったところ、臨床症状および検査所見は改善した。

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84歳女。胸部圧迫感、四肢筋力低下および四肢しびれ感を主訴とした。高血圧および狭心症で通院加療中であり、10年前からふらつきに対し苓桂朮甘湯を内服していた。超音波検査などから急性心筋梗塞は否定的であり、血液生化学検査で著しい低カリウム血症を認めたことから、低カリウム性ミオパチーを疑った。苓桂朮甘湯は中止とし、カリウム製剤を用いてカリウムの補正を開始し、5日後にspironolactoneの内服を追加した。その後、臨床症状や検査所見が改善したため、低カリウム性ミオパチーと診断した。内分泌学的な精査が必要と考え、造影CTによる副腎の精査を行ったが、副腎に異常は認めなかった。しかし、偶発的にStage IVの膵癌を発見した。患者希望により更なる内分泌学的精査は行わず、spironolactoneの内服を継続したのみで退院となった。半年以上が経過した現在までカリウム血症の再発は認めていない。

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54歳男。労作時息切れ、全身倦怠感を主訴とした。血液検査で正球性正色素性貧血、網状赤血球の著減を認めた。血液生化学検査では総蛋白の増加、蛋白電気永動でモノクローナルな高γ-グロブリン血症を認めた。また、IgMの高値を認め、免疫電気永動検査でIgM κ typeのM蛋白を確認した。可溶性IL-2レセプターは上昇、エリスロポエチンも著明に上昇していた。骨髄検査では赤芽球の著明な低下を認め、小リンパ球から形質細胞にいたるB細胞が増加していた。以上より、原発性マクログロブリン血症に後天性慢性赤芽球癆を合併したものと判断した。赤芽球癆に対しciclospolinとrituximabによる化学療法を導入し、貧血は改善した。しかし、IgM値は低下せず横ばいであることから、原発性マクログロブリン血症の増悪は認めないものの寛解には至っていない。Ciclospolinによる維持療法を継続している。

基本情報

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臨床雑誌内科
116巻3号 (2015年9月)
電子版ISSN:2432-9452 印刷版ISSN:0022-1961 南江堂

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