臨床雑誌外科 80巻10号 (2018年9月)

特集 エビデンスからみた治療リスクの評価

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食道癌診療においては,疫学的因子,臓器の解剖学的特性,リンパ節転移傾向,低栄養,手術の高度侵襲性などによるリスクがあり,腫瘍進行度とリスク評価をもとにした治療戦略の立案が需要である.本稿では,全身および主要臓器の評価について述べ,また,National Clinical Database(NCD)システムのフィードバック機能risk calculatorによる個々の症例のリスクの算出についても概説する.

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食道癌手術は侵襲の高い手術であり,高齢者,喫煙および飲酒の影響で,術前合併症を有する症例が多い.ハイリスク症例の要因をあげたうえで,術前から推奨される一般的な予防策,呼吸,循環,栄養,糖尿病,せん妄,肝疾患合併疾患についての対策をまとめた.予防策と周術期を通してのチームでの早い対応が重要である.

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近年,増加傾向にある高齢者や重篤な併存疾患を有するハイリスク胃癌症例においては,個々の症例に応じたリスク評価のもとに最適な治療選択を行うことが肝要である.リスク評価のツールとして,本邦ではNational Clinical Database(NCD)のビッグデータを利用したrisk calculatorをはじめ,E-PASSなどの包括的なスコアリングシステムも開発されてきた.適切なリスク評価のもとでの治療適応の決定や治療法選択が,今後の胃癌治療の成績や患者の生活の質(QOL)の向上につながると思われる.

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胃癌手術においても,個々の症例の術前リスク評価を適切に行い,術後合併症発生を予防する必要がある.特に,最近では80歳以上の高齢者手術症例が増加し,併存疾患の多さから,術前準備にも時間を要することもまれでない.本邦ではNational Clinical Database(NCD)のデータ解析からリスクカリキュレータが開発され,大いに活用すべきと考える.また,周術期管理センターを立ち上げ,多職種により多方面から管理を行うことがチーム医療の意義を最大限に発揮でき,術後合併症発生予防に重要と考える.

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直腸癌に対する治療法は,切除可能であれば原則手術である.しかし,人工肛門を含めた排便障害や,排尿・性機能障害などの手術治療に起因する後遺症が術後の生活の質(QOL)に与える影響は大きく,癌に対する根治性と術後のQOLのバランスを十分吟味する必要がある.また,化学放射線療法などの集学的治療や,ロボット支援手術を含めた腹腔鏡手術の長所,短所を理解し,根治性およびQOLの向上への取り組みも重要である.

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直腸癌手術はいまだにやや術後合併症の多い術式であり対策が必要である.縫合不全対策の手技として,左結腸動脈温存,脾彎曲授動,自動縫合器や吻合器の選択,一時的人工肛門造設やインドシアニングリーン(ICG)血流評価などがあげられる.創感染に対する腸管の機械的前処置の効果には統一見解がなく,今後の検討がまたれる.術後イレウスには早期離床などのリハビリテーションが一般的である.いずれの合併症予防も多角的に取り組むべきものである.

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肝癌治療において外科的切除は重要な位置を占めるが,そのリスクは決して低くなく,しばしば重篤な合併症を伴い致死的となる.肝切除後の合併症発症に関するリスクファクターとしては,患者因子・腫瘍因子・手術因子・術後因子に大別され,患者因子としては肝予備能・加齢・栄養状態・サルコぺニア・術前合併症など,腫瘍因子としては腫瘍径・脈管浸潤・胆管浸潤など,手術因子としては肝切除量・術中出血量・胆道再建の有無など,術後因子としては感染・胆汁漏・腹腔内膿瘍の存在などがあげられる.これらの因子は複雑に関連して高ビリルビン血症や肝不全などのさらなる重篤な合併症を引き起こすため,それぞれの患者のリスクを的確に把握して手術適応決定・術式選択・周術期管理を慎重に行うことが肝切除術の安全性を高めるために重要である.

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肝細胞癌特有の手術リスクとしては,背景肝の因子,腫瘍の因子,手術の因子に分けられる.背景肝の因子としては肝予備能,門脈圧亢進症,腫瘍因子としては門脈侵襲,静脈侵襲,胆管侵襲といった脈管侵襲が主要脈管に及んでいる場合,手術の因子としては肝切除率の術前評価や,腫瘍の主座,大きさにより胆汁漏,大量出血の可能性がある場合などがあげられる.いずれの場合も重要なことは,リスクとなりうる因子をあらかじめ認識し,その対策を準備しておくことである.

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膵癌の治療法は画像所見に基づいた切除可能性分類に従って選択されるのが一般的であり,膵癌診療ガイドラインやNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインでは,切除可能性分類に従った治療アルゴリズムが呈示されている.患者個々によって治療リスクは異なるため,患者個々でリスク評価を行い,リスクに応じた治療法の選択も必要である.National Clinical Database(NCD)ではフィードバック機能としてrisk calculatorをユーザーへ提供している.Risk calculatorでは,膵頭十二指腸切除の術後30日死亡予測発生率,手術関連死亡予測発生率,Clavien-Dindo GradeⅣ以上予測発生率,膵液瘻グレードC予測発生率を求めることができ,日常診療の参考に利活用することができる.

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術前治療が必要な閉塞性黄疸発症を伴う膵頭部癌に対しては,術後感染性合併症予防目的に,胆道メタリックステントを挿入する.呼吸器合併症予防を目的に近年の新しい観察項目を用いた術中輸液方針や術前のプレハビリテーションを行い,さらに内臓過多症例には栄養療法・減量も行う.術後の門脈狭窄ハイリスク群に対しては静脈グラフト置換を選択するなど,膵癌外科合併症を予防することで,より安全な膵臓周術期管理を試みている.

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はじめに 急性虫垂炎に対する腹腔鏡下虫垂切除術(laparoscopic appendectomy:LA)はその安全性や有効性が明らかになり,現在では多施設で積極的に行われるようになってきた1,2).しかし軽度な炎症の虫垂炎から高度炎症の虫垂炎へと適応が拡大されていく中で,LAの手術時間や術後遺残膿瘍の懸念,高い手術コストなどを指摘する報告もある3~5).一方で医療コストの削減は各施設の課題であると思われるが,手術点数としてはLAは開腹虫垂切除術(open appendectomy:OA)より高額である.そこで本稿では急性虫垂炎に対してより適切な術式選択のために,LAとOAについて,炎症の程度別に手術成績や医療コストを比較・検討した.

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はじめに 特発性縦隔気腫(spontaneous pneumomediastimun,idiopathic mediastinal emphysema)は,CTの普及により一般的病態となりつつあるが,多くは若年者や小児で,高齢者の報告は少ない1,2).気管支系胸膜直下の肺胞破裂から縦隔に進展した気腫と考えられているが3~5),以降の気道内圧上昇原因さえ除去できれば,気腫自体に対する治療も入院経過観察も不要とする意見もある6).一方,食道や気管気管支病変に由来する気腫では縦隔炎から致命的となりうる.気腫消退までの期間は,未認識の致命的原病態から縦隔内への空気流入が続いている進行性二次的病態の鑑別に有用な情報と思われるが,指針となる集計は少ない.今回,食事摂取後の咽頭痛,心窩部痛で発症した肺線維症を基礎とした高齢女性の縦隔気腫を経験したので,過去10年間に医中誌Webで「縦隔気腫」のキーワードで検索しえた症例記載が十分で気胸の合併がない128例の集計と合わせて,経過観察方針を含めた診療戦略についても考察したので報告する.

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はじめに 食道狭窄症では,小児においては先天性のものが多く認められるが,成人では重症食道炎や食道悪性疾患,食道手術後などによる二次的なものがほとんどであり,特発性のものは非常にまれである.今回われわれは,特に発症機転を認めない成人女性における特発性頸部食道狭窄を経験したので報告する.

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はじめに 腹腔鏡補助下胃全摘術(laparo­scopy-assisted total gastrectomy:LATG)は,胃癌治療ガイドラインにおいて依然,臨床研究としての治療という位置づけではあるが,開腹胃全摘術に比べ術後疼痛の軽減,早期腸管機能回復などの利点から近年積極的に導入されている1~3).癒着が少ないため4),開腹手術と比較して術後の癒着性イレウスの頻度は低いとされているが5,6),一方で内ヘルニアによるイレウスの報告が散見される.自動縫合器を用いた食道空腸吻合(overlap法など)では,吻合の際にワーキングスペースの確保のために横隔膜脚を切離し,食道裂孔を開大することが必要な場合がある7,8).そのため,開大した食道裂孔を通り,腸管が縦隔あるいは胸腔内へ脱出する危険性がある.今回,LATG術後に発生した食道裂孔ヘルニア嵌頓による絞扼性イレウスに対して,緊急手術を行い整復した症例を経験したので報告する.

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はじめに 魚骨による消化管穿通・穿孔の報告は散見されるが,胃切術後の輸入脚に迷入した報告は1例のみであり,Billroth-Ⅱ法再建後の症例であった.幽門側胃切除術,Roux-en Y再建後の輸入脚に魚骨が穿通したきわめてまれな1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

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はじめに 小腸憩室はMeckel憩室を除けば非常に少なく,大部分は無症状で経過するが,出血,穿孔などで緊急手術となる場合がある.出血部位の同定および止血治療に難渋することや,また手術の際に切除範囲が問題となることがある.今回われわれは,回盲部切除を必要とした出血性小腸憩室の1例を経験したので文献的考察を含めて報告する.

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はじめに 妊婦に対する腹腔鏡下虫垂切除術の安全性に関して,開腹手術と比較して胎児死亡率が高いとの報告もあったが1,2),米国消化器内視鏡外科学会3)において,腹腔鏡手術は妊娠中のいかなる時期であっても安全に施行可能であるとの見解が出されていることや,直近のシステマティックレビューにおいては4),腹腔鏡下手術による胎児死亡率の増加は,術式を決定するほど強いものではないと結論づけられており,報告例が増加している.しかし,妊娠中に発症した高度炎症性虫垂炎(壊疽性・穿孔性・膿瘍形成性)に対して腹腔鏡下手術を施行した報告例は少ない.今回,妊娠中期に発症した穿孔性虫垂炎に対して腹腔鏡下手術を施行し,術後合併症なく安全に出産にいたった1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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はじめに 横隔膜ヘルニアは成人では比較的まれな疾患であり,特に横隔膜腱膜部にヘルニア門をもつ横隔膜腱膜ヘルニアはきわめてまれである.今回われわれは,右側横隔膜腱膜ヘルニアによる絞扼性腸閉塞の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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はじめに 持続携行式腹膜透析(CAPD)施行中の患者では,鼠径ヘルニアの発症がしばしばみられる.CAPD患者においても治療の原則は手術であるが,その術式選択に関しては各施設により異なっている.CAPDにおける合併症としてもっとも頻度の高い合併症として腹膜炎があり,従来はメッシュへの感染に対する懸念からメッシュを使用しない術式が用いられてきたが,近年ではメッシュを使用した方法でも安全に施行可能であるという報告が散見される.しかしながら腹腔鏡法でヘルニア修復術を行ったという報告はまれである.今回,CAPD施行中の患者に発症した鼠径ヘルニアに対し腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術(TAPP法)を行い,良好な経過を得られたため報告する.

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はじめに 腰部における解剖学的脆弱部位として,上腰三角(Grynfelt-Lesshaft’s triangle)と下腰三角(Petit’s triangle)が知られている.まれに同部位にヘルニアが生じることがあるが,現段階では標準的術式として確立されたものはない.近年,腹腔鏡手術により修復した症例も散見されるが,体表アプローチがより有効と考えられた1例を経験したため報告する.

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はじめに 限局期胃びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)は完全寛解率,無増悪生存率が高く長期生存が期待できる疾患である.今回われわれは限局期胃DLBCLが寛解し,23年後に発症した異時性膵頭部癌を経験したので報告する.

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はじめに 大腸癌術後の再発症例に対する治療方針は,可能な限り外科的切除を行うことである1).今回われわれは上行結腸癌根治術後1年以内の早期に発症した多発脾腫瘤例を経験した.再発が否定できず腹腔鏡下脾摘術を行ったが,最終的な病理学的診断は類上皮細胞性肉芽腫であった.大腸癌根治術後に比較的まれなサルコイドーシス様脾病変を併発し術前診断に難渋した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

基本情報

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臨床雑誌外科
80巻10号 (2018年9月)
電子版ISSN:2432-9428 印刷版ISSN:0016-593X 南江堂

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