臨床雑誌外科 71巻11号 (2009年11月)

乳癌治療の最前線

乳癌ガイドライン 園尾 博司
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早期の乳癌に対するガイドラインとしてSt.Gallen推奨がわが国でもっとも多く用いられているが、本年大幅に改正された。今回のSt.Gallen推奨2009では従来のリスクカテゴリーが廃止され、ホルモン療法、抗HER2全身療法および化学療法などの全身療法の適応基準が新たに示された。本稿では、St.Gallen推奨2009における改正の要点を述べるとともに、現時点での術前・術後薬物療法および手術療法のコンセンサスについて概説する。

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マンモグラフィ検診は世界で唯一有効性が検証された方法である。乳癌死亡率減少の達成には対策型のみならず任意型も含めた精度の高いがん登録による事業評価や種々の方策による受診率向上が必要である。超音波の検診への導入は有効性を検証するため現在進行中の大規模臨床試験(J-START)の結果をまつ必要がある。超音波講習会への参加により標準的方法を習得しマンモグラフィを含めた総合的な検診精度の向上が望まれる。

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乳癌の治療方針の決定における乳癌画像診断の役割は非常に大きい。MRIは術前広がり診断や術前薬物治療後の腫瘍範囲診断に有用である。FDG-PETは腫瘍のviabilityを定量化可能で、術前薬物治療の早期効果判定への応用が期待される。腫瘤非形成の乳癌に遭遇する機会が増えてきたが、吸引式組織生検装置は生検精度の向上に有用である。複雑多様化した画像検査所見を有効に治療に反映させるためには放射線科医、病理医、外科医のコミュニケーションが重要である。

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わが国でも乳房温存療法は早期乳癌の標準治療となり、全手術の約60%に行われている。さらに、近年、乳房温存手術に、左右バランスのとれたきれいな乳房を残す技術が学問として整理され、従来から乳房切除術後に行われてきた乳房再建術に加えて、これらの手術手技を総称してoncoplastic surgeryといわれるようになった。今後、形成外科の専門医と協調しつつ、乳腺専門医をめざす医師への教育プログラムに組み入れていくことが望まれる。

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センチネルリンパ節生検は優れたリンパ節転移診断法の一つである。その保険収載がまたれるところであるが、すでに早期乳癌を対象に実地臨床に導入されている。センチネルリンパ節生検によって腋窩リンパ節郭清の個別化がすすみ、郭清に伴う後遺症は半減した。ただし、リンパ節マッピングの工夫、センチネルリンパ節微小転移の意義、非センチネルリンパ節の転移予測、術前化学療法後のセンチネルリンパ節生検の妥当性など課題もある。センチネルリンパ節生検の現況と展望について報告する。

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乳癌手術の縮小化に伴い人工物による乳房再建の需要が増加している。本法はほかの部位に新たな瘢痕をつくらず、患者の肉体的負担も軽い。また術者側も特別な技術を要さず、乳癌手術と同時に行っても手術時間が極端に延長することもない。しかし整容的に対称的な再建乳房を得るためには、ティッシュ・エキスパンダーやソフトコヒーシブシリコンインプラント(ともにアラガン社)といった人工物を正しく選択する必要がある。それには健側乳房の幅、高さ、厚みを計測し、乳房切除術後の残存組織量を把握してそれらに合致したものを選択することが重要である。

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乳癌初期治療における薬物療法は、外科手術、放射線治療といった局所治療との合力において乳癌という疾病を完全治癒せしめることを最大の目標として実践すべきものである。術前薬物療法は、先に述べた治癒という目標に加え、患者容姿の整容性ならびに日常生活機能の保全を目的とした臓器温存および見張り番リンパ節生検検査を用いた高水準外科手術を可能にする点において、優良な貢献をすること必定である。術後薬物療法も同様に乳癌という疾病の完全治癒をめざすものである。しかるに、治療対象である微小転移は不可視であるがゆえ、その効果の発現を確認することがきわめて困難である。確率論的推論技術を駆使した臨床判断の展開が重要であるが、同時に不確実性に関する想いを馳せ、標準治療を尊重し、根拠なき独断による治療の実践は厳に慎むべきである。

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乳癌に対する内分泌療法は組織内にエストロゲンレセプター(ER)がわずかでも発現している場合には適応となり、選択的ER機能修飾薬(SERM)、卵巣機能抑制薬(LHRHアゴニスト)、アロマターゼ阻害薬(AI)が用いられている。閉経前にはLHRHアゴニストとSERMの併用が推奨される。閉経後ではSERMよりAIの優位性が臨床試験で証明されており、後者が主役となった。術後療法としては5年間投与されることが多く、再発においても一次治療として用いられる。

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HER2陽性乳癌治療は、trastuzumabの劇的な臨床的有用性によって分子標的治療薬の時代に突入した。さらに、HER2陽性乳癌治療にlapatinibも保険承認され今後の臨床的有用性が期待されるところである。そこでtrastuzumab、lapatinibをはじめとした分子標的治療薬から、現在臨床試験段階にあるpertuzumab、neratinib、trastuzumab-DM1などの分子標的治療薬について最新の知見および臨床的問題点を含めて述べる。

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乳房温存療法では、術後の乳房照射を行うことで、乳房切除術と同等の治療効果が得られることが知られている。標準治療は約5~6週間の50Gyの全乳房照射±腫瘍床に対するboost照射であるが、腋窩リンパ節転移多数例では、鎖骨上窩の予防照射も行われるようになってきた。また最近では、1回の線量を増加させて3週間で治療を終了する短期法、低リスク群に対して腫瘍局所のみに部分照射して5日間で治療を終了する加速乳房部分照射などが検討されている。

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局所進行乳癌に対する乳房切除後例、特に腋窩リンパ節転移陽性例においては、乳房切除後放射線療法(postmastectomy radiation therapy:PMRT)が行われている。従来は鎖骨上窩および胸骨傍リンパ節領域が放射線照射されてきたが、近年では胸壁と鎖骨上窩リンパ節領域への治療が主流である。その適応と実際の治療方法、副作用について概説する。

進行・再発乳癌に対する治療 吉本 賢隆
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進行・再発乳癌は難治性とされるが、治療法の進歩により生存期間は延長している。特にアロマターゼ阻害薬、分子標的治療薬(trastuzumab、lapatinib、bevacizumab)、新しいタキサン系薬剤、難治性のトリプルネガティブ乳癌に対するpoly-adenosine 5'-diphosphate-ribose-polymerase(PARP)阻害薬が注目される。また、低用量で継続的な投与法であるメトロノミック化学療法、限局した転移巣に対する局所治療の意義について言及した。

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乳癌病理診断の役割を明らかにするために、「乳癌診療において病理診断はなぜ必要か」と自問自答を試みてみた。日ごろ自分が行っている病理診断業務を整理すると大きく三つあり、第一に癌であることの確定診断(裏返すと癌でないことの確定診断)であり、第二にどのような癌であるかの評価(個別化治療を適正に行うために)、第三に治療の評価である。これらはすべて患者のための情報であり、正しく行うことが大切である。

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49歳男。約1ヵ月前からの嚥下時のつかえ感と前胸部痛で近医を受診し、胸部下部食道の有茎性腫瘤を指摘され当科紹介受診した。上部消化管内視鏡で切歯から40cmに褐色調の有茎性腫瘤を、食道造影で胸部下部食道に境界明瞭な隆起性病変を、腹部造影CTで同部位に不整に淡く造影される腫瘤と胃小彎に腫大したリンパ節を認めた。術前HE染色では高頻度な核分裂の肉腫・肉腫様形態で粘膜基底層にjunctional activityを有し、免疫染色でメラニン色素を認めた。以上より、食道原発メラニン欠乏性悪性黒色腫と診断して右開胸開腹中下部食道切除、2領域郭清、胸腔内経路胃管再建D2を施行した。病理所見よりメラニン欠乏性悪性黒色腫、T1b、N2、M0、StageIIと確定診断した。胃粘膜への腫瘍の浸潤は認めなかった。術後にDAV化学療法を施行し、経過観察中の術後6ヵ月のPET-CTで多発骨転移を認めた。

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69歳男。狭心症と喉頭癌に対する放射線療法の既往があった。3ヵ月前より嚥下困難を自覚し、食道癌を疑われて当科紹介受診となった。上部消化管内視鏡で門歯列より38cmから4cm長に隆起性病変を認め、上部消化管造影および腹部CTで食道Lt~Aeに腫瘤を認めた。術前生検より低分化型扁平上皮癌 cStageIIIと判断し右開胸開腹食道亜全摘、2領域郭清、胸腔内胃管再建術を施行した。食道下部に5×4cm大の3型腫瘍を認め、病理所見より類基底細胞癌、T3 N0M0 IM0、StageIIと診断し、術後に3種類の補助化学療法を行った。術後11ヵ月に肝S6の径2cmの大孤立性転移病変(LDA)を認め、肝部分切除術を施行した。術後17ヵ月の肝S4の1cm大のLDAに対し経皮的エタノール注入療法を施行し、術後1年11ヵ月経過し、増悪なく経過中であった。

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60歳男。心窩部痛を主訴に受診し、腫瘍マーカーCEA、CA19-9の上昇、胃内視鏡で口側は食道・胃境界部(ECJ)直上まで浸潤し噴門部から胃体中部小彎側に一部崩れた周堤を伴う腫瘍を認め、腹部CTで胃体上部に壁外伸展する腫瘤で胃小彎側にリンパ節の腫大を認めた。Borrmann分類type3の胃癌と判断し手術を施行した。大網およびDouglas窩の多数結節の術中迅速検査で腹膜播種と診断し、根治的手術は不可能なため胃全摘術、D1郭清、Roux-en-Y再建、胆嚢摘出術後にCDDPを腹腔内に散布した。腫瘍はBorrmann 2型、50×70mmで断端には約2cmのマージンがあり、病理所見では管状腺癌、中分化型、se、n1、M0、P1、CY1、PM(-)、DM(-)、ly 3、v1、stageIV、根治度Cであった。術後20日にS-1+CDDPの併用療法を行ったが全身に皮疹を生じ、CDDPを中止してS-1のみの減量内服を継続した。1年2ヵ月の単独内服後のCTで左副腎と脾門部リンパ節の腫大を認めてPTXに変更したが直後にほっ疹を認めたため、S-1+CPT-11に変更した。その8ヵ月後のCTで腹水貯留と左副腎の増大を認めFOLFIRIを13クール施行、更に左副腎の増大、腫瘍マーカーの上昇、両眼瞼の発赤を認めDOC/TXTを5クール施行したが全身衰弱と疼痛増悪のためターミナルケアに移行した。良好な疼痛コントロールを得たが術後3年に癌悪液質のため死亡した。

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70歳男。恥骨後前立腺全摘出術施行の約2年後に生じた両側鼠径部膨隆を両側鼠径ヘルニアと診断した。右鼠径ヘルニアに対し根治的手術を施行したが、ヘルニア門が通常より正中に近く膀胱ヘルニアまたは腹部瘢痕ヘルニアと判断し、ヘルニア門周囲を剥離してメッシュプラグ法を施行した。4ヵ月後に左鼠径ヘルニアの手術目的で入院した。CTで前回手術時に挿入したメッシュプラグと左鼠径ヘルニアを認めた。腹腔鏡を挿入し前回手術を確認、左鼠径部、下腹壁動静脈内側にヘルニア門を認め、内鼠径ヘルニアと診断した。ヘルニア嚢は周囲と癒着しておらず還納は容易であり腹腔鏡下手術が可能と判断した。ヘルニア嚢の背側から腹膜を剥離し、ヘルニア門を確認後にメッシュ挿入スペースを作成し、腹腔前腔にComposix-Kugel Patch S-sizeを挿入して恥骨・Cooper靱帯ほかヘルニア門周囲をタッカーで固定し、腹膜縫合した。手術翌日より離床・経口摂取を開始し術後6日で退院した。

基本情報

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臨床雑誌外科
71巻11号 (2009年11月)
電子版ISSN:2432-9428 印刷版ISSN:0016-593X 南江堂

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