呼吸器ジャーナル 66巻2号 (2018年5月)

特集 症例から考える難治性びまん性肺疾患—病態と最新治療戦略

序文 本間 栄
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 本特集では,びまん性肺疾患のなかで特に日常臨床で見逃してはいけない難治群について,病態・治療戦略を中心に症例提示を交えながらその道のエキスパートに執筆して頂いた.

 最初に総論として肺線維症の概念と今後の展望,画像からみる特発性間質性肺炎の分類について解説頂いた.次に各論として,特に特発性肺線維症(IPF)は原因不明の特発性間質性肺炎の多くを占め,5年生存率30%以下という極めて予後不良の疾患で,合併する肺癌や急性増悪により死亡する例が多いため,基本的な治療法の確立とともに,このような合併症に対する治療法の確立が喫緊の課題である.そこで,慢性期IPFの病態,薬物療法とその作用機序,非薬物療法(酸素療法とリハビリテーション),急性増悪期の病態,最新の薬物療法の進歩とその作用機序,肺癌合併時の外科療法の適応と術後増悪の予防,化学療法の適応と限界について概説して頂いた.また,臨床現場で混乱することが多い,非特異性間質性肺炎,特発性分類不能型間質性肺炎の診断と管理,治療についてもご執筆頂いた.

Ⅰ.総論

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Point

・2017年初頭,日本の国情に合った,慢性期治療だけでなく急性増悪や合併肺癌に対するクリニカルクエスチョンに対応したエビデンスに基づいた標準的な治療法を呈示するわが国初のIPFの治療に特化した「特発性肺線維症の治療ガイドライン2017」が公表された.

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Point

・特発性肺線維症(IPF)の画像診断は分布と性状(蜂巣肺の有無)が重要で牽引性気管支拡張との区別は必要だが難しい.

・非特異性間質性肺炎(NSIP)の基本は胸膜下,気管支血管周囲束での均一な浸潤影であり,特発性器質化肺炎(COP)の典型例は移動する陰影,PPFEの診断は胸部単純X線写真が重要である.

Ⅱ.特発性間質性肺炎 1)特発性肺線維症 ①慢性安定期

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Point

・特発性肺線維症は,多様な遺伝的背景と環境因子に関連した慢性炎症および繰り返す肺胞上皮の損傷などにより発症するとされている.

・家族性間質性肺炎においては,サーファクタント関連蛋白,テロメラーゼ関連蛋白,ムチン関連蛋白の異常が認められており,さらにゲノムワイド関連解析により特発性肺線維症の関連遺伝子が新たに複数報告されている.

・吸入物質が原因で肺に線維化を起こす過程には,その物質の肺局所への到達と残留,生化学反応,免疫反応,線維化反応とともに,その個体における環境的因子,遺伝的因子が関わっている.

・特発性肺線維症の肺局所での病態は,繰り返す上皮傷害とそれに引き続く上皮機能と創傷治癒機転の異常であるとされる.ERストレスの亢進,酸化ストレスの増加,テロメア短縮,エピジェネティックス,オートファジー機能の低下などが関わっていると考えられている.

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Point

・わが国のIPFの治療ガイドライン2017では,「慢性安定期のIPF患者にピルフェニドンを投与することを提案する(推奨の強さ2,エビデンスの質B)」と記述されている.

・これまでの臨床試験の結果から,ピルフェニドンは疾患進行の抑制(FVCの悪化抑制)のみならず,全死因死亡やIPF関連死亡のリスク低下をもたらす可能性がある.

・ピルフェニドンの主な副作用は食欲減退,光線過敏性反応,悪心,腹部不快感である.

・実臨床においては,ピルフェニドンの有効性と有害事象とのバランスを見極めながら治療開始・継続の是非を判断することが重要である.

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Point

・特発性肺線維症(IPF)においてニンテダニブが努力性肺活量(FVC)の低下と急性増悪の発症を抑制することが報告されている.

・日本人では肝障害の発現が比較的多く,体格との関連が指摘されている.

・ピルフェニドンとの比較や併用に関するエビデンスは乏しく,今後の課題である.

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Point

・特発性肺線維症に対して抗線維化薬(ピルフェニドン,ニンテダニブ)が使用可能となり,国際ガイドラインにおいても推奨治療となっている.

・抗線維化薬単剤での治療効果は十分とは言えず,併用療法に期待がもたれている.

酸素療法 坪井 永保
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Point

・肺線維症患者では,体動時には安静時の血液ガス分析からは予測不可能な高度なdesaturationが起こり,これを改善するための酸素必要量は他疾患に比べ高流量である.

・重症COPDのように高二酸化炭素血症を来す可能性がある患者には経皮的動脈血二酸化炭素分圧測定器によるPtcCO2の連続測定が有用である.

・高二酸化炭素血症を来しているⅡ型呼吸不全例に対しては在宅酸素療法とともにNPPVによる換気補助の適応も検討する.

・気腫合併肺線維症(CPFE)は肺高血圧症や肺癌を合併しやすく,混合性換気障害を呈する.酸素療法は労作時に高流量の酸素が必要で,かつ重症COPD患者のように高二酸化炭素血症を来す可能性があるため上記すべての可能性を考慮して診療に当たらなければならない.

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Point

・間質性肺炎において,呼吸リハビリテーションは,「呼吸困難→不活発→廃用→運動能さらに低下→さらに呼吸困難増悪」という悪循環から脱するために重要な治療オプションである.

・間質性肺炎患者の呼吸リハビリテーションの恩恵は,廃用の要素が大きい患者ほど大きいものと思われる.

・間質性肺炎の呼吸リハビリテーションは多職種連携で包括的に行う必要があり,患者教育のための適切な教材の存在が重要と思われる.

Ⅱ.特発性間質性肺炎 1)特発性肺線維症 ②急性増悪期

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Point

・IPFの急性増悪の診断基準には歴史的な変遷があるが,国際的ワーキンググループより最新の診断基準が提案されている.

・IPFの特徴である通常型間質性肺炎(UIP)に加え,急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の特徴とされるびまん性肺胞障害(DAD)がオーバーラップする病態と考えられる.

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Point

・特発性肺線維症の急性増悪の病態は急性肺損傷に即して考える.

・ステロイドパルス療法が急性増悪の初期病態を改善する基礎的な根拠はある.

・急性増悪後の線維化抑制を考慮した治療戦略が求められる.

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Point

・特発性肺線維症の急性増悪に対しては一般的にステロイドや免疫抑制薬が用いられている.

・従来治療にリコンビナントトロンボモジュリンを上乗せすることにより生存率が改善することが報告されている.

Ⅱ.特発性間質性肺炎 1)特発性肺線維症 ③肺癌合併

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Point

・間質性肺炎合併肺癌に対する手術療法では,9.3%に術後急性増悪が発症し,その死亡率は43.9%と非常に高い.

・男性,急性増悪の既往歴,術前ステロイド投与,KL-6>1,000U/ml,%VC≦80%,画像でのUIP pattern,区域切除以上の7因子が急性増悪発症リスク因子として同定され,リスクスコアが作成された.

・ピルフェニドンによる術後急性増悪予防効果に期待が寄せられている.

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Point

・間質性肺炎合併肺癌に対する化学療法の適応は治療効果と急性増悪のリスクを総合的に判断する必要がある.

・一次化学療法として,非小細胞肺癌ではカルボプラチンとパクリタキセル療法が,小細胞肺癌ではプラチナ製剤とエトポシド療法が行われることが多い.

・二次化学療法に関しては定まったレジメンはない.

Ⅱ.特発性間質性肺炎 2)その他の特発性間質性肺炎

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Point

・特発性NSIPの診断は慎重にすべきで,基礎疾患に伴う2次性NSIPかどうか検索すべき.画像所見だけでNSIPパターンと簡単には判断しない.時間経過の画像を比較すべき.

・分類不能型と診断した場合には,最も考えられる診断名に準じてマネージメントを行い,疾患経過,薬剤反応を予測して対応していくことが重要.

Ⅲ.その他の難治性びまん性肺疾患

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Point

・上肺野に優勢な肺線維症であり,上肺野の線維化・収縮とともに胸郭の扁平化が進む症例がある.

・肺線維症と扁平胸郭に起因するchest wall diseaseの両者の生理学的特徴を併せもつ.

・特発性PPFEと基礎病態のもとで発症する二次性PPFEがある.

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Point

・サルコイドーシスは全身性疾患であり,それぞれの臓器病変において自然軽快,病変持続,病変悪化があり,難治性病態は臓器ごとに異なる.

・難治性肺サルコイドーシスは,種々の要因で病状の進行をコントロールできない慢性進行性の病態であるが,重症肺サルコイドーシスが治療抵抗性で難治化することは稀である.

・難治性肺サルコイドーシスには,ステロイドのみで治療が困難な難治症例や感染症のリスクが高い場合,メトトレキサートをはじめとする免疫抑制薬や生物学的製剤の併用または単独使用が考慮される.

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Point

・リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis;LAM)は,異常な平滑筋様細胞(LAM細胞)が,肺や体軸リンパ節で増殖して病変を形成し,病変内にリンパ管新生を伴う腫瘍性疾患である.

・シロリムスは,肺機能異常を有するまたは呼吸機能が進行性に増悪するLAM患者において,現時点で呼吸機能低下の抑制が示されている唯一の治療薬である.

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Point

・自己免疫性肺胞蛋白症(自己免疫性PAP)では抗Granulocyte Macrophage colony-stimulating Factor(GM-CSF)自己抗体が原因とされている.

・自己免疫性PAPは重症度に応じて治療方針を決定する.全肺洗浄による治療が行われるが(保険適用),近年rhGM-CSFの吸入療法が試験的に実施されている(保険適用外,治験実施中).

・続発性PAPは血液疾患,特にわが国では骨髄異形成症候群が多い.

・自己免疫性PAPと先天性PAPは厚生労働省指定難病である.

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Point

・吹雪様と称される特徴的な胸部X線写真所見を示す常染色体劣性遺伝疾患である.

・多くの患者は健康診断などで若年時に偶然発見される.

・中年以降になり初めて呼吸不全症状が現れる.

・現時点で確立された治療法はないが,将来,ゲノム編集による疾患治療の良い対象になる可能性がある.

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Point

・「眼皮膚白皮症」に含まれるヘルマンスキー・パドラック症候群(HPS)患者に合併する難治性の間質性肺炎である.

・いくつかのHPS原因遺伝子のなかでも特定の遺伝子変異をもつ患者が30〜40歳以降に発症する.

・遺伝子異常に基づく他の多くの進行性家族性肺線維症と同様に,効果的な治療法の確立が待たれている.

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Point

・閉塞性細気管支炎(bronchiolitis obliterans;BO)は,特発性もしくは様々な原因により細気管支領域における包囲性狭窄や細気管支内腔の閉塞を来す疾患である.

・明らかな胸部X線写真において異常所見を伴わず,呼吸機能検査上の顕著な閉塞性障害を伴い労作時の呼吸困難を呈してきた場合,BOを鑑別に挙げられることが診断の一歩になる,

連載 Dr.長坂の身体所見でアプローチする呼吸器診療・12

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●はじめに

 気管支喘息は,「喘息予防・管理ガイドライン」1)で「気道の慢性炎症を本態とし,臨床症状として変動性を持った気道狭窄(喘鳴,呼吸困難)や咳で特徴付けられる疾患」と定義されている.COPD(chronic obstructive pulmonary disease)は,「COPD診断と治療のためのガイドライン」2)で,「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患である.呼吸機能検査で正常に復すことのない気流閉塞を示す.気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に作用することにより起こり,通常は進行性である.臨床的には徐々に生じる労作時の呼吸困難や慢性の咳,痰を特徴とするが,これらの症状に乏しいこともある.」と定義されている.このような現在の定義,疾患概念が確立したのはCOPDのほうが早く1970年代の後半,喘息は1980年代の中頃である.

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症例1 76歳女性

【現病歴】入院2年前に胸部X線画像で左肺野の空洞性病変を含む異常陰影を指摘され当院を紹介受診した.胸部CTでは空洞,結節,粒状影,気管支拡張があり,喀痰抗酸菌検査で肺M. avium症と診断した.左網脈中心動脈閉塞症を有し,エタンブトール(EB)使用について同意を得られなかったため,アミカシン(AMK),リファンピシン(RFP),クラリスロマイシン(CAM)による加療を開始した.AMK投与後から時折めまいと耳鳴りを訴えたため,1カ月後にAMK→シタフロキサシン(STFX)200mg/日に変更した.入院3カ月前に喀痰から検出されたM. aviumがCAM耐性でありCAMを中止,RFPとSTFXで加療が継続された.徐々に呼吸困難が進行し,定期の胸部X線で偶発的に左気胸の存在が判明したため同日入院した.穿刺脱気で肺の拡張は得られなかったものの,胸腔ドレーン留置に同意を得られなかった.発症2カ月後の胸部X線画像では気胸はある程度改善していた.発症半年後に右胸部痛があり,右気胸を発症した.入院加療の希望はなく,発症10カ月後に自宅で死亡した.

【胸部単純X線写真】左気胸を発症し加療により改善したが,退院半年後に対側に再発した(写真a〜d).

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次号予告

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基本情報

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呼吸器ジャーナル
66巻2号 (2018年5月)
電子版ISSN:2432-3276 印刷版ISSN:2432-3268 医学書院

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