呼吸器ジャーナル 66巻1号 (2018年2月)

特集 呼吸器救急診療ブラッシュアップ—自信をもって対応できる

序文 西川 正憲
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 救急診療では,呼吸器疾患に限らず,致死的重症患者や一瞬の判断の誤りが生命に関わる重大な疾患にも自信をもって対応できることが求められる.救急患者の重症度は多岐にわたり,同一疾患であってもその重症度は患者によって違う.また,同一患者であっても,重症度も病態も時々刻々と変化する.救急診療にあたっては,まずは①視診(第一印象を含めた患者の外観),問診(病歴聴取),触診,打診,聴診による患者全体の印象・所見からの評価,②バイタルサインをはじめとした客観的な患者情報に基づく評価から鑑別診断を想起し,遅延なく必要な検査をするとともに,初期対応を行いながら,総合的に可能性の高い診断,治療および管理を行う.こうしたプロセスは,すべての診療の基本であり,救急診療は医師としての臨床能力を最大限に発揮できる場である.

 本特集では,Ⅰ.総論,Ⅱ.呼吸器徴候からみた救急診療,Ⅲ.基本となる対応法,Ⅳ.知っておきたい検査,Ⅴ.主な疾患からみた救急マネージメントに分けて,いずれも臨床経験豊富なエキスパートの先生方に執筆をお願いした.

Ⅰ.総論

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Point

・救急診療では,非心停止患者に対しても,第一印象,初期ABCD,2次ABCDを通じて得られたバイタルサインや所見に加え,簡潔な病歴聴取と的確な身体診察の所見から適切に緊急度・重症度を評価する.

・視診(患者の外観),バイタルサインの測定・評価,病歴聴取,身体診察および臨床医としての五感を重視した診療能力を高めておく必要がある.

Ⅱ.呼吸器徴候からみた救急診療

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Point

・呼吸困難の原因病態は多岐にわたり,呼吸器疾患と心疾患のみではない.

・低酸素血症を伴わない呼吸困難を生じることがあり注意を要する.

・呼吸困難の診療においては,初期評価としてABCDアプローチ(A;Airway,B;Breathing,C;Circulation,D;Dysfunction of central nervous system)を行い,必要とされる初期治療を迅速かつ的確に行う.

・呼吸困難の原因検索は,注意深い病歴聴取により得た情報,身体所見,検査所見を総合して診断する.

咳嗽 金子 正博
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Point

・咳嗽は,頻度が高く,鑑別が多岐にわたり,重症度の幅が広い,油断すべからざる症候である.

・急性咳嗽の多くは感染症によるが,持続期間が長くなるほど感染症以外の原因が多くなる.

・突然発症/急速に増悪する咳嗽,喉の痛み/胸痛/呼吸困難を伴う咳嗽では,緊急を要する疾患の可能性を考える.

・遷延性/慢性咳嗽,喫煙者,聴診で異常所見を認める場合は,必ず胸部X線写真で評価する.

血痰・喀血 倉原 優
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Point

・血痰および喀血をみたら肺結核,肺癌を常に念頭に置きつつ,肺アスペルギルス症,気管支拡張症,非結核性抗酸菌症,特発性喀血症の4疾患をまず想起する.

・目の前で喀血している患者を診た場合,緊急的な気道確保が必要かどうかをまず考える.

・喀血に対する止血剤の投与のエビデンスは乏しい.

・重度・難治性の喀血では,気管支動脈塞栓術(bronchial artery embolization;BAE)を考慮する.

胸痛 横江 正道
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Point

・救急診療における胸痛への対応は,まず,生死にかかわる胸痛を念頭に置いて対応を進めていくことになる.

・しかし,いつも生死にかかわる胸痛ばかりではないので,少し対応がゆっくりでも問題がない胸痛が主訴となる疾患の理解も必要である.

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Point

・誤嚥性肺炎は,夜間の不顕性誤嚥で起こる.

・大量の胃内容物誤嚥の場合は,非心原性肺水腫(Mendelson症候群)を生ずる.

・嚥下性細気管支炎という誤嚥を繰り返し,細気管支炎を生ずる病態がある.

Ⅲ.基本となる対応法

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Point

・動脈血ガス分析とパルスオキシメータは呼吸状態や酸塩基平衡を調べる重要な検査である.

・呼吸不全・酸塩基平衡の病型とA-aDO2を評価することは疾患の鑑別に有用である.

・呼吸器疾患・循環器疾患などの疾患ごとの評価のポイントについてまとめた.

呼吸管理 桑野 公輔
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Point

・各デバイスの特性を理解し必要に応じて使い分けることができるようになる.

・常に最新の見識に触れられるように論文検索する習慣を身につける.

循環管理 遠藤 智之
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Point

・個々の患者の背景や病態を繰り返し評価し,早期に真の原因に対する介入を行う.

・point-of-care ultrasoundと血液ガス分析で早期の病態把握に努める.

・重症病態では,侵襲的動脈圧モニタリングを躊躇しない.

・心臓外で心臓を圧迫しうるコンパートメントについての評価を忘れない.

Ⅳ.知っておきたい検査

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Point

・緊急気管支鏡が必要となるケースを把握することが重要である.

・それぞれのケースにおいて,手技の手順を想定しておくことが重要である.

・冷静に自分の手技の限界を把握し,どこまでが必要最小限の治療にあたるのかを判断できるようになるのが理想である.

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Point

・「肺エコー」では,気胸,肺水腫,COPD・喘息,肺炎を評価できる.

・救急診療では,「緊急度」を意識して診察することが重要である.

・時間を意識し,エコーを診察に取り入れたものが「救急超音波診」である.

Ⅴ.主な疾患からみた救急マネージメント

喘息の増悪 渡辺 徹也 , 平田 一人
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Point

・喘息増悪(発作)は,突然の発作から短時間かつ急激に進展し,心肺停止を来しうる致死的疾患であり,呼吸器救急診療で迅速かつ適切な初期治療が望まれる.

・喘息増悪(発作)の重症度評価を速やかに行う.

・患者個々の疾患背景,重症度を考慮し,増悪(発作)初期治療を使い分ける.

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Point

・日本呼吸器学会によるCOPDのガイドラインとGOLDのガイドラインの内容を中心に,COPD増悪の救急マネージメントについて述べる.

・COPD増悪の治療では,ABCアプローチ〔A(antibiotics),B(bronchodilators),C(corticosteroids)〕と呼ばれる薬物治療と,酸素療法や換気補助療法(NPPV,IPPV)が重要である.

・COPD増悪の患者は,短時間で状態が変化することが多く,患者の状態を全体像としてとらえ,速やかに治療を開始することが重要である.

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Point

・呼吸不全への対応をしながら,多くの鑑別疾患を想起する.原疾患,過去の急性悪化時との相違を評価して鑑別に役立てる.

・しばしば原因は複合的でかつ致死的な状況となるので,救命のために盲目的な治療となるのはやむを得ない.

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Point

・急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は難治性の呼吸不全をもたらし,高い死亡率を呈する予後不良な症候群である.

・2012年に診断の特異性向上を目指した新たな定義(通称「Berlin定義」)が公表された.間接損傷原因の代表である敗血症については2016年に新しい定義が発表されている.

・ARDSの主たる病理像はびまん性肺胞傷害(DAD)と呼ばれる定型的な肺胞傷害である.近年ではバイオマーカーやgenetic variantを用いたフェノタイプが提唱されている.

重症肺炎・胸膜炎 三木 誠
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Point

・重症肺炎は,予後不良の肺炎であり,死亡のリスクが高い肺炎群を指す.

・重症肺炎に対して,広域の抗菌薬でエンピリック治療を開始し,免疫調節薬(ステロイドやマクロライド系抗菌薬)の適応を検討する.

・重症肺炎の進行を止められない場合には,薬剤・宿主・細菌側の問題や非感染性疾患である可能性について再検討すべきである.

・胸膜炎は,原因疾患を鑑別し,適した治療を選択する.

急性肺血栓塞栓症 塚原 健吾
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Point

・急性肺血栓塞栓症の早期診断と重症度評価,迅速で適切な治療が重要である.

・本疾患を念頭に置いて診療することで,異常所見を見逃さないようにする.

・診断を疑うポイントは低酸素血症,右室負荷所見,凝固能亢進の存在である.

急性心不全の合併 鈴木 昌
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Point

・慢性心不全と慢性呼吸不全とは合併していることが多いので,両者の急性増悪は常に念頭に置く.

・BNPとFEV1.0%で分類することは理にかなっている.

Oncologic Emergency 草野 暢子
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Point

・Oncologic Emergencyとは,がん患者において,早急に対応しなければ重篤かつ不可逆的な機能障害を来したり致命的な状況になりうる病態を指す.

・がん患者の診療においては,このような病態になりうることを常に念頭に置いて,早期発見・早期治療ができるように注意しておく必要がある.

気胸・縦隔気腫 阿南 英明
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Point

・胸部X線写真以外に超音波検査や胸部単純CT検査を適切に組み合わせて診断する.

・気胸の程度を判断して,中等症以上の場合には基本的初期治療である胸腔ドレナージや胸腔穿刺を実施する.さらに,適応に基づく根治療法としての外科治療を選択する.

・気胸と緊張性気胸の違いとして呼吸異常だけでなく循環異常の存在を意識して適切な身体所見の把握に努めることが重要.

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Point

・アナフィラキシーショックは,「アレルゲンなどの侵入により,複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され,生命に危機を与え得る過敏反応であるアナフィラキシーに,血圧低下や意識障害を伴う場合」と定義される.

・アナフィラキシーに関しては国際的なガイドラインが存在し,わが国の実情に合わせた日本のアナフィラキシーガイドラインがある.

・アナフィラキシーショックの初期対応において用いられる薬物として,アドレナリンの筋注が第一選択薬である.

・プレホスピタルケアとして,アドレナリン自己注射製剤は保険適用となっている.

連載 Dr.長坂の身体所見でアプローチする呼吸器診療・11

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 検診(健診)は,あまり症状のない疾患の発見に役立つ.結核検診では早期発見で蔓延を防ぎ,がんであれば早期発見,治療を目指す.市町村の住民検診などの対策型検診は集団の死亡率,罹患率の低減,人間ドックのような任意型検診は個人の死亡リスクの低減が目標である.症状がない状態での早期発見を期待するが,京都府の統計では,がん検診の受診理由の約10%が気になる症状があったから,であるという1)

 少し古い報告2)だが,1998年には25歳以上の成人の約60%が定期結核検診を受診した.結核発見率は受診者10万人対,学校検診で3,職場検診で6,住民検診で16,うち排菌ありは35%であった.40歳以上では,1名の結核患者の発見コストは440万円であった.2014年の人口10万対の結核罹患率は,全国で15,大阪市が37,あいりん地域では3843)で地域差が大きい.

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症例1 56歳男性(図1)

 X−4年10月の人間ドックで胸部異常陰影を指摘され,他院を受診した.右上葉に空洞形成・気管支拡張病変を認め,喀痰培養からMycobacterium avium complex(MAC)が検出され,肺MAC症と診断した.X−3年6月に当院を紹介受診し,症状が軽度だったため無治療で経過観察していた.その後,時折血痰があり,咳嗽・喀痰も増悪した.右上葉の空洞・気管支拡張病変周囲に不整形陰影が出現し,アスペルギルス症の合併が疑われた.

【血液検査所見】CRP 0.01mg/dl,ガラクトマンナン抗原1.0,β-Dグルカン<3.5pg/ml,アスペルギルス沈降抗体陽性.

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次号予告

奥付

基本情報

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呼吸器ジャーナル
66巻1号 (2018年2月)
電子版ISSN:2432-3276 印刷版ISSN:2432-3268 医学書院

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