呼吸器ジャーナル 65巻4号 (2017年11月)

特集 肺癌—最新の治療戦略と失敗しないための秘訣

序文 高橋 和久
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 肺癌の内科,外科,放射線治療はここ数年で飛躍的な進歩を遂げている.外科治療で特筆すべきことはHRCT画像所見に基づき小型肺腺癌の術式が選択されつつある点である.すなわち単なる腫瘍全体の径の測定からスリガラスを除いたsolid結節のサイズがより予後を反映することが明らかになった.その結果,HRCTによる画像所見をベースにT因子が変更になりTNM分類が第8版に改定された.また,N2症例に対する集学的治療の進歩も特筆すべきである.N2症例はsingle stationからbulky N2まで極めてヘテロな集団であり,その正確な診断に基づく適切な治療法選択が必要である.すなわち,1)根治的化学放射線療法,2)一期的手術,3)手術+術後補助化学療法,4)術前化学(放射線)療法後の手術などの複数の選択肢の中から個々の症例に適した治療のmodalityを選択する.1),3)は標準的な治療法であるが,2)は術後化学療法の適応外の場合,4)はエビデンスが乏しいため臨床試験として行われるべきである.放射線治療においては高精度放射線治療の技術の進歩が顕著であり,小型肺癌に対する外科治療との比較試験も行われている.

 一方,進行・再発非小細胞肺癌に関してはここ10年の原因遺伝子の同定と阻害薬の臨床導入などにより,いわゆる個別化治療(precision medicine)が実践されており,半年に一度,薬物治療のガイドラインが改定されるなど進歩が速い.EGFRあるいはALK陽性の肺癌に関しては,各々EGFR-TKI,ALK-TKIが複数承認され上市されている.また,最近,ROS-1さらには,BRAFの遺伝子異常も同定され,それぞれの阻害薬が使用可能になっている.これら分子標的治療薬の登場により,Ⅳ期非小細胞肺癌の予後は従来の1年数カ月から2〜3年(あるいはそれ以上)に延長した.一方,これら分子標的治療薬は1年前後で耐性になることが知られ,その耐性克服は臨床的に急務である.2年前にEGFR-TKIの約半数の耐性に関与するT790M遺伝子変異に対する特異的阻害薬である第3世代のEGFR-TKIであるオシメルチニブが登場し高い臨床的有用性を発揮している.一方,従来の殺細胞性抗がん薬しか選択肢がなかったドライバー遺伝子変異陰性の非小細胞肺癌に2年前から免疫チェックポイント阻害薬が承認され,2次治療(ニボルマブ,ペムブロリズマブ),さらには1次治療(ペムブロリズマブ)で実地診療の現場で使用可能となっている.今後は,真の効果予測因子の開発が待たれる.新しい血管新生阻害薬であるラムシルマブもドセタキセルとの併用2次治療で使用可能となった.一方,小細胞肺癌に関する治療の進歩は乏しく分子標的治療薬や免疫療法薬,血管新生阻害薬などの有効性は示されていない.1次治療のみならず2次治療においても小細胞肺癌は治療選択が乏しいのが現状である.新たなる治療薬の開発が望まれる.

Ⅰ.総論

肺癌治療のオーバービュー 高橋 和久
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肺癌の治療方針

 肺癌は現在日本人において癌死の第1位であり,今後,人口の高齢化に伴いその数は益々増加するものと推測される.またCTの普及に伴い早期症例が増加しているが,今なお診断時に手術可能な症例は40%である.肺癌の治療方針を決定するうえで重要なことは,1)臨床病期,2)組織型,3)全身状態(performance status;PS),4)年齢,5)併存症である.基本的には臨床病期と組織型を基に標準的治療を選択するが,PS,年齢,併存症により標準的治療を行えないことが多々ある.

 肺癌のTNM分類を図1,組織型別,臨床病期別の治療方針を図2に示す.肺癌の治療では多くの病期で化学療法が行われる.表1に肺癌治療で頻用される抗癌剤(殺細胞薬),分子標的治療薬,免疫チェックポイント阻害薬とレジメンを示す.進行非小細胞肺癌では,組織型の確定後に上皮成長因子受容体(EGFR)と未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)およびROS-1遺伝子検査,PD-L1蛋白発現検査を行って,薬剤選択が行われる(図3A).

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Point

・2017年1月より肺癌のTNM分類が第8版に発効となった.

・新TNM分類(第8版)では,T因子,M因子が改訂された.

・T因子は腫瘍径により細分化され,M因子のうち,従来のM1bは単臓器単発転移に限定され,多発転移はM1cに分類されることとなった.

・T因子の決定は,clinical,pathologicalともに,(非浸潤成分を除いた)浸潤成分の最大径に基づくことが明記された.

肺癌の分子異常と診断 萩原 弘一
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Point

・非小細胞肺癌ではEGFR遺伝子変異の発見以来,様々な分子診断手法が導入されてきた.

・最近,リキッドバイオプシーが保険承認され,多遺伝子変異検査の導入も視野に入っている.

・各検査手法には固有の限界があり,それを理解することが検査手法の導入,臨床応用に必要である.

Ⅱ.早期肺癌症例の治療戦略

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Point

・臨床病期Ⅰ期の非小細胞肺癌に対する標準治療は外科切除である.

・切除肺癌の予後は年々良好になってきている.

・外科手術の標準術式は肺葉切除であるが,縮小切除の適応も広がっている.

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Point

・非小細胞肺癌のstage Ⅱ〜Ⅲ期は様々な対象病変から構成されており,治療戦略を一概に述べることはできない.

・N2肺癌を除いたstage Ⅱ〜Ⅲ期非小細胞肺癌の治療戦略をcN1肺癌,T3臓器浸潤肺癌,肺尖部胸壁浸潤肺癌,T4臓器浸潤肺癌に分けて述べる.

・術後補助化学療法は5年生存率で4.1〜8.6%の上乗せ効果が示唆されているが,今後は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を併用した術後補助化学療法が期待される.

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Point

・肺非小細胞癌N2症例の治療は放射線治療,外科的治療,化学療法といった集学的治療が要である.

・治療法選択に当たっては,N2の性状(単発・多発など)や患者の全身状態などを踏まえ,内科,外科,放射線科での集学的検討が必須である.

放射線治療のトピックス 中山 優子
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Point

・放射線治療技術の進歩により,肺癌に対しても高精度放射線治療が施行されるようになった.

・切除不能Ⅰ期非小細胞肺癌に対する治療法として,体幹部定位放射線治療は標準的治療となった.

・局所進行肺癌に対する強度変調放射線治療や粒子線治療の適応については今後の課題である.

Ⅲ.進行・再発肺癌の最新治療

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Point

・EGFR,ALK,ROS1遺伝子異常陰性あるいは不明の進行・再発非扁平上皮非小細胞肺癌,もしくは扁平上皮癌,かつPS 0〜1の患者に対してはPD-L1 TPS 50%以上の場合ペムブロリズマブが推奨される.

・上記条件のうちPD-L1 TPS 50%未満かつ75歳未満の場合はプラチナ併用化学療法が標準治療である.

・組織型,PS,年齢,合併症に応じた適切な治療選択が重要である.

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Point

・EGFR遺伝子変異が陽性の切除不能進行肺腺癌の第一選択薬はEGFR-TKIである.

・各薬剤により副作用の特徴が異なるが,いずれも減量により継続可能なことが多い.

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Point

・ALK融合遺伝子は強力ながん遺伝子であり,ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺癌(ALK肺癌)において,その増殖や生存はALKに大きく依存している.

・ALK肺癌に対しては,ALKチロシンキナーゼ阻害薬(ALK-TKI)が著効する.

・ALK-TKIは,プラチナ併用化学療法と比べ有意に無増悪生存期間(progression free survival;PFS)を延長することが示されており,1次治療から推奨される.

・複数のALK-TKI(クリゾチニブ,アレクチニブ,セリチニブ)が承認されており,それぞれの薬剤の特徴を知ることが重要である.

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Point

・EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌の2次治療には,耐性遺伝子変異T790Mが陽性であればオシメルチニブが有効であり積極的に腫瘍の再生検を行うべきである.

・EGFR遺伝子,ALK融合遺伝子陰性の非小細胞肺癌の2次治療は,免疫チェックポイント阻害薬,ドセタキセル+/−ラムシルマブ,S-1,ペメトレキセドである.

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Point

・次世代ALK阻害薬は第1世代ALK阻害薬治療後でも有効であるが,化学療法より優れているかについてはエビデンスがない.

・ALK陽性肺癌に対する免疫療法については情報が不足しており,現時点ではALK阻害薬や化学療法を優先して考慮する.

・各ALK阻害薬の耐性機序を解明し,耐性プロファイルに基づくsequential therapyが今後の治療戦略を考えるうえで重要である.

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Point

・本邦,欧米のいずれのガイドラインにおいても,Salvage settingにおける化学療法については明記されていない.

・PS,各種臓器機能,合併症の有無などを含む全身状態を症例ごとに十分に検討し,患者本人の希望を踏まえたうえで,化学療法を行う必要がある.

・化学療法を行う場合,使用歴のない化学療法レジメンを選択するか,それまでの化学療法で効果が高かった薬剤の再投与が検討される.

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Point

・小細胞肺癌の治療は,依然として細胞障害性抗癌薬が中心である.

・限局型では放射線化学療法,進展型では化学療法が主体である.

・近年では小細胞肺癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の応用も検討されている.

小細胞肺癌の2次治療 宇田川 響
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Point

・小細胞肺癌は初回化学療法後の早期に再発・増悪を来す.

・再発小細胞肺癌は再発までの期間でsensitive relapseとrefractory relapseに分類される.

・小細胞肺癌の2次化学療法として,AMR療法,NGT療法,CDDP+ETP+CPT-11療法が行われる.

支持療法の進歩 髙橋 由以 , 岸 一馬
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Point

・がん化学療法を行う際,有害事象は切り離すことができない.

・有害事象のマネージメントは化学療法を受ける患者のQOL維持に寄与し,適切な抗がん薬治療の提供につながる.

・がん化学療法施行時に遭遇率の高い有害事象に対する支持療法として,制吐療法と顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte-colony stimulating factor;G-CSF)製剤の使用に関して概説する.

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Point

・オンコロジーエマージェンシーは多臓器にわたる多彩な病態であることを常に念頭に置くべきである.

・適切な診断と迅速な治療によりQOLの悪化は防げるため,呼吸器内科医を中心としたチーム医療の役割は極めて大きい.

・免疫関連有害事象は新しいがん救急のカテゴリーとして認識すべきである.

・特にdriver mutation陽性例では,緊急症から脱したのちに分子標的療法による長期生存が望める可能性が高い.

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Point

・脳転移病変に対する治療モダリティーには,手術・定位放射線治療・全脳放射線治療・薬物療法がある.

・手術は転移巣が3cm以上の症例,あるいは長期生存が見込まれる症例に考慮されてよい.

・10個までの転移病変であれば全脳放射線治療よりも定位放射線治療が推奨される.

・全脳放射線治療は遅発性白質脳症が発生するため,長期生存が期待される症例では可能な限り避けることが望まれる.

緩和ケア 井上 彰
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Point

・緩和ケアは終末期に限った医療ではなく,抗がん治療と並行して行うべきものである.

・疼痛,呼吸困難,その他様々な身体症状に対しては,ガイドラインに沿った標準治療を行う.

・不安や抑うつ,せん妄などの精神症状も軽視せず,必要に応じて躊躇せずに専門家に相談する.

Ⅳ.肺癌治療における費用対効果

肺癌治療における費用対効果 後藤 悌
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Point

・医療における費用対効果には評価方法があり,がん治療もそれに当てはめることができる.

・費用対効果を評価することと,社会がその負担をどこまで許容するかは別の問題である.

・現在の日本は,負担と比べて遥かに高額な医療が提供されている.その影響は将来世代の負債として波及している.

連載 Dr.長坂の身体所見でアプローチする呼吸器診療・10

胸部画像と身体所見 長坂 行雄
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 胸部画像と身体所見を対比すると,身体所見によって画像の判断が容易になり,画像所見で身体所見が裏付けられる.例えば,ウィーズが主訴で胸部画像に異常がなければ,気管支喘息の可能性が高い.肺底部でクラックルを聴取し,ばち指があれば間質性肺炎の可能性が高い.胸部X線で異常がはっきりしなくても,CTでは淡いすりガラス陰影や,牽引性気管支拡張の所見が得られるはずである.逆に派手な画像所見があっても,まったく自覚症状や,身体所見には異常がないこともある.いずれも診断の大きなヒントになる.具体的なイメージがつかみやすい症例を提示する.

連載 症例で学ぶ非結核性抗酸菌症・13

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症例1 63歳女性

【現病歴】11年前に胸部異常陰影をきっかけに肺MAC症(Mycobacterium avium)と診断され,リファンピシン(RFP),エタンブトール(EB),クラリスロマイシン(CAM),ストレプトマイシン(SM)で治療されたが陰影の改善は乏しかった.排菌が少なかったため,9年前から治療は中止のうえで経過観察された.3年前から陰影が悪化し,喀痰抗酸菌塗抹が陰性から2+となったため,加療目的で当院を紹介受診した.その後,当院でRFP 600mg/日,EB 750mg/日,CAM 800mg/日による治療が開始され,経過中に数カ月間のアミカシン(AMK)点滴を追加するも陰影は改善しなかった.M. aviumの感受性結果ではCAM耐性〔ブロスミックNTM(極東製薬工業)MIC>32〕であった.画像陰影もさらに悪化するため,外科手術も含めた治療目的に入院した.喀痰抗酸菌検査では塗抹3+,培養陽性が持続している.

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基本情報

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呼吸器ジャーナル
65巻4号 (2017年11月)
電子版ISSN:2432-3276 印刷版ISSN:2432-3268 医学書院

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