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肺癌の内科,外科,放射線治療はここ数年で飛躍的な進歩を遂げている.外科治療で特筆すべきことはHRCT画像所見に基づき小型肺腺癌の術式が選択されつつある点である.すなわち単なる腫瘍全体の径の測定からスリガラスを除いたsolid結節のサイズがより予後を反映することが明らかになった.その結果,HRCTによる画像所見をベースにT因子が変更になりTNM分類が第8版に改定された.また,N2症例に対する集学的治療の進歩も特筆すべきである.N2症例はsingle stationからbulky N2まで極めてヘテロな集団であり,その正確な診断に基づく適切な治療法選択が必要である.すなわち,1)根治的化学放射線療法,2)一期的手術,3)手術+術後補助化学療法,4)術前化学(放射線)療法後の手術などの複数の選択肢の中から個々の症例に適した治療のmodalityを選択する.1),3)は標準的な治療法であるが,2)は術後化学療法の適応外の場合,4)はエビデンスが乏しいため臨床試験として行われるべきである.放射線治療においては高精度放射線治療の技術の進歩が顕著であり,小型肺癌に対する外科治療との比較試験も行われている.
一方,進行・再発非小細胞肺癌に関してはここ10年の原因遺伝子の同定と阻害薬の臨床導入などにより,いわゆる個別化治療(precision medicine)が実践されており,半年に一度,薬物治療のガイドラインが改定されるなど進歩が速い.EGFRあるいはALK陽性の肺癌に関しては,各々EGFR-TKI,ALK-TKIが複数承認され上市されている.また,最近,ROS-1さらには,BRAFの遺伝子異常も同定され,それぞれの阻害薬が使用可能になっている.これら分子標的治療薬の登場により,Ⅳ期非小細胞肺癌の予後は従来の1年数カ月から2〜3年(あるいはそれ以上)に延長した.一方,これら分子標的治療薬は1年前後で耐性になることが知られ,その耐性克服は臨床的に急務である.2年前にEGFR-TKIの約半数の耐性に関与するT790M遺伝子変異に対する特異的阻害薬である第3世代のEGFR-TKIであるオシメルチニブが登場し高い臨床的有用性を発揮している.一方,従来の殺細胞性抗がん薬しか選択肢がなかったドライバー遺伝子変異陰性の非小細胞肺癌に2年前から免疫チェックポイント阻害薬が承認され,2次治療(ニボルマブ,ペムブロリズマブ),さらには1次治療(ペムブロリズマブ)で実地診療の現場で使用可能となっている.今後は,真の効果予測因子の開発が待たれる.新しい血管新生阻害薬であるラムシルマブもドセタキセルとの併用2次治療で使用可能となった.一方,小細胞肺癌に関する治療の進歩は乏しく分子標的治療薬や免疫療法薬,血管新生阻害薬などの有効性は示されていない.1次治療のみならず2次治療においても小細胞肺癌は治療選択が乏しいのが現状である.新たなる治療薬の開発が望まれる.
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