リハビリテーション医学 55巻7号 (2018年7月)

特集 筋萎縮性側索硬化症

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 筋萎縮性側索硬化症という疾患,そして罹患患者の存在は,近年メディアなどで取り上げられる機会も少なくない.いわゆる進行性の“難病”に対しては,細やかな対応の積み重ねが生活の質を変え,包括的かつ継続的なかかわりが必要となる.こうした地道な取り組みが重要である一方で,科学技術の進歩は患者の生活機能を大きく変える可能性を秘めている.高まりつつあるリハビリテーション医学,医療への期待に応えるべく,筋萎縮性側索硬化症の基礎を今一度振り返るとともに,最新の知見を学ぶための特集を企画した.

▷ 担当:山田 深,企画:編集委員会

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要旨 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,大半が孤発性であるが,一部に家族性ALSが存在し,原因遺伝子が次々に同定されている.国際的なALSの診断基準は早期診断の感度を向上させるため,下位運動ニューロン障害について臨床症状と針筋電図所見を同等に扱うようになった.ALSの予後不良につながる要因には,球麻痺発症,呼吸障害発症,栄養状態不良などがあり,薬物療法に加えて全身管理として栄養や呼吸の管理が重要である.また,ALSの病態にSOD1やTDP-43の関与が明らかとなり,発症機序や疾患修飾因子を標的とした根本的治療の開発が期待されている.

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要旨 ALSのリハビリテーション治療は,対症療法の1つとして位置づけられる.患者が可能な限り自立した生活を送ることができ,quality of life(QOL)を保てるよう,リハビリテーションでは発症早期から終末期まで,患者の機能障害とその変化を評価し,経時的にゴールとプログラム設定・見直しを行いながら,運動療法や呼吸理学療法,福祉用具や機器の導入,介助指導などを行う.呼吸障害や摂食・嚥下機能障害に起因する栄養障害は生命予後に直結し,コミュニケーション障害は患者や介護者のQOL低下につながる.呼吸や栄養管理・予後に関する患者の意思決定は他職種と情報共有が欠かせない.患者と介護者に治療のみならず緩和ケアとしてもリハビリテーション医療を実践する.

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要旨 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は特異的に随意運動が障害される進行性疾患であり,特に呼吸筋麻痺は生命予後に直結する.他にも進行性筋ジストロフィーなど呼吸筋麻痺をきたす疾患はあるが,ALSの呼吸管理の難しさは呼吸機能低下と同時に嚥下障害を伴うことにある.両者の機能低下は密接に関係し,患者のQOLに直結する.そのため,単に呼吸管理を行うだけでなく,誤嚥への対応が重要となる.病状の進行に伴い,管理のノウハウがあるので,多職種で対応するとよい.また,治療の選択が命の選択になるため,適切な意思決定支援が必要である.

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要旨 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,中年期まで普通に社会生活を送っていた人に発症し,その人の生活や人生に大きく影響する.しかし,現在,情報コミュニケーション技術や支援機器により,ALS患者各人の経験や能力を活かした職業などの社会とのつながりの可能性が広がっている.「生活機能」に着目した支援のあり方は,難病法や障害者総合支援法の大きな課題であり,特にALS患者に対しては,発症後早期から一人ひとりの希望や強みなどに応じてカスタマイズされた生活・人生の充実に向けて,職場や家庭,地域社会の環境整備や,生命・生存,生活,人生を総合的に支える地域支援体制など,多くの挑戦課題がある.

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要旨 地域包括ケアシステムでは,人工呼吸器を装着し日常生活動作(activities of daily living:ADL)全介助の状態で在宅療養生活を送るALSなどの神経難病患者においてもリハビリテーション医療のかかわりが重要である.しかし,神経難病のリハビリテーション治療は,脳血管疾患や外傷に代表される急性発症疾患の急性期発症モデルの,急性期リハビリテーション治療・回復期リハビリテーション治療・維持期リハビリテーション治療と受け継がれていく一般的な地域リハビリテーション医療の支援体制に当てはまらないため,提供が十分でないばかりでなく,人材育成・研修についても独自の研修拠点を考える必要がある.稀少疾患であるため専門病院以外での経験が蓄積しにくく,一般的な知識技術の伝達だけでは十分なスキルアップを確保することが困難である.さらに,相談窓口・連携を意識する必要がある.

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要旨 筋萎縮性側索硬化症(ALS)では,症状の進行とともに音声によるコミュニケーションが困難になる.コミュニケーションの代表的な代償手段である重度障害者用意思伝達装置は,障害者総合支援法に基づき補装具として支給を受けることができる.ただし,その機種および入力スイッチは多種存在しており,障害状況,使用環境,利用者のニーズなどを総合的に判断し,できるだけ長期にわたり実用的な使用が可能なものを検討して処方することが重要である.また,2018年度から補装具の借受け制度が開始されたが,適切に運用されればALSのような進行性の疾患に対して有用な制度であると考えられる.

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要旨 ALSにはいくつかの病型があるが,摂食嚥下障害はどの病型でも経過中ほとんど必発である.比較的急速に進行するが,経過には個人差があり,咽頭期障害先行タイプと口腔期障害先行タイプがある.残存機能を生かすとともに,姿勢調整や摂食動作への介入,体得している代償嚥下の評価を行う.

適切な栄養管理により体重減少を抑えることが生命予後延長に寄与するので,PEGの導入についても早めの説明と対応を行う.進行期には,呼吸筋麻痺への介入や誤嚥防止術の提案も並行して行う.

摂食嚥下障害の早期評価と早期介入が重要であり,進行の早い疾患であってもリハビリテーション介入が有用であるという認識をチーム医療として共有し,食べる・味わう楽しみを支える多職種のかかわりが必要である.

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要旨 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は神経・筋疾患の代表であり,重篤な運動ニューロン疾患である.原因治療法のみならず,運動機能を改善させる治療として,筋力トレーニング,持久力トレーニング(endurance training)などの有効性は検証されてこなかった.神経変性疾患に対する神経可塑性を促進する研究は,神経系は再生しないというドグマにより研究されてこなかった.NCY-3001試験でALSを含む神経筋8疾患に関するサイボーグ型ロボットHybrid Assistive Limb(HAL)の短期の治療効果と安全性は検証されている.長期治療効果としてどの程度,進行を緩やかにできるのか,医薬品などとの複合治療で機能改善効果が長期に得られるかが今後の課題と考えている.HALの運動単位電位の解析機能を利用したサイバニックインターフェースは,装着者の運動現象を利用しない,生体現象方式の重度障害者用意思伝達装置として実用的に使用できることが示され,CyinTM(サイン)と命名され製品化された.

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 日本は世界に先駆けて高齢化が進行しています.団塊の世代800万人が75歳の後期高齢者となる2025年問題は有名です.2025年には団塊の世代の医療保険も介護保険もすべて国が担保することになり,日本の存在自体が危ぶまれています.高齢化によって,①人口構成の変化と人口減少,②疾病構造の変化,③医療内容の変化が問題となります.

 ①2010年頃から日本はすでに人口減少が始まっています.高齢者は2025年以降もしばらく増加し,2040年頃から減少します.また,地域格差も重要です.大都市では当面高齢者が増加するため,緩やかな人口減となりますが,地方や過疎地では高齢者自体もすでに減少しており,大幅な人口減少が始まっています.2050年には人の居住している地域の2割が無人化するといわれます.

Interview 第2回日本リハビリテーション医学会学術集会 会長インタビュー

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第2回日本リハビリテーション医学会秋季学術集会は,上月正博会長(東北大学)のもと,仙台国際センターを会場として,11月3日(金)〜5日(日)の3日間で開催されます.本学術集会への思いやプログラム内容について,上月会長におうかがいしました.

(聞き手:海老原覚編集委員長)

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はじめに

 65歳以上の人口割合である高齢化率でみると,日本はすでに1970年には高齢化社会(7%以上)の仲間入りを果たし,今から11年前(2007年)には超高齢社会(21%以上)に突入していた1).そして,団塊の世代が後期高齢者となる2025年には高齢者人口が3,677万人(うち,後期高齢者2,180万人)に達する(高齢化率30.0%)2).その結果,2025年の社会保障給付費は年金・医療・介護を合わせて148.9兆円にまで膨らむと推計されているが(「2025年問題」)3),医療・介護の部分は平均寿命と健康寿命の差の影響を直接受けるので,国は「健康寿命の延伸」と「健康格差の縮小」を喫緊の課題に挙げ,「健康日本21(第二次)」構想を強力に推進している4).また,地域医療をベースに医療と介護のサービス保障を強化した「どこに住んでいても,その人にとって適切な医療・介護サービスが一体的に提供され,かつ受けられる社会の構築」を目標に地域包括ケアシステムの整備を行っている5) (図1).

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はじめに

 リハビリテーションにおける理学療法や作業療法の基本となる訓練に,関節可動域訓練と筋力増強訓練がある.関節可動域訓練では,その手技の良否は可動域を獲得するうえで非常に重要な要素である.では,最適な手技とはどのように身に着けることができるのだろうか? それを身に着けるためには,基本となる骨関節の3次元的動きを十分に理解することではないかと考えている.やみくもな可動域訓練は必ずしも意味のあるものではないのである.

 しかし,骨関節の3次元的な動きは,生きた人間では皮膚に覆われているために直接観察することができない.例えば,肩関節の動きの際には肩甲骨は皮膚の下を大きく滑動している.それを直接みることができないことが「肩のリハビリテーションは難しい」といった俗説が広まる1つの理由となっていると思われる.本稿では,文字数の制限上すべての関節に関して言及できないが,いくつかの代表的な関節に関して,その一部を紹介することで,「骨関節の動き方を知ってリハビリテーションに活かしましょう」という本論文のタイトルにある目的の重要性を,関節の動きを少しでも体感していただくことで認識していただければ幸いである1)

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はじめに

 脊髄損傷は,古代エジプトのパピルス文書に詳細な症状が記載されているように,古くから知られている病態であり,包括的治療が導入されるまで死亡率は80%に及び,「an ailment not to be treated(治療すべき病態ではない)」ともいわれていた1).脊髄損傷は単なる運動・感覚神経麻痺ではなく,支配されるすべての臓器に影響が及ぶ多臓器障害である.症状は急性期から慢性期まで大きく変化し,生命にかかわる合併症も少なくない.

 1940年前後に米国ではDr. Munro,英国ではSir Guttmanにより包括的治療が開始されると,生命的な予後が飛躍的に改善し,現在では,重度の麻痺患者でも対麻痺では健常人の約90%,四肢麻痺でも約70%となっている2).パラリンピックは,英国での脊髄損傷者の運動会が発展したものであり,1964年の日本開催時にパラリンピックと命名され,現在の興隆を迎えている3)

 脊髄損傷受傷後の合併症発生の影響は,入院期間延長,死亡率増加だけでない.損傷脊髄内では脊髄-血管関門が破綻し,恒常性が失われているため,全身状態の悪化が,脊髄機能に悪影響を与えることが推測される4).一方で,脊髄損傷後の合併症のほとんどは適切に管理をすれば予防可能であり,脊髄損傷者の生命予後・生活の質(QOL)に直結する.包括的治療とは,脊髄損傷治療に携わる者が,急性期から生活期に至る問題点を把握し,それを見据えながら各場面の医療にあたることであり,予後予測に基づいたリハビリテーションと合併症の予防が中心となる.

 脊髄損傷専門医が中心となって,各分野の専門医師,訓練を積んだ看護師・リハビリテーションスタッフ,ソーシャルワーカーなどの多職種からなるチームが,受傷早期から生活期まで緊密な連携を取る必要がある.脊髄損傷治療の専門施設がほとんどない日本では,リハビリテーション科医が受傷早期からチームの中心となることが望ましい.本稿では,脊髄損傷者に対するリハビリテーション医療を行うにあたって,必要な知識を整理する5)

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■ 意義

 変形性膝関節症(膝OA)を診療するうえで必須ともいえるローゼンバーグ撮影を提唱した論文である.最近報告されたROAD studyの結果から,40歳以上を対象とすると,膝OAの有病率は男性42.6%,女性62.4%であり,X線で診断される膝OAの有病者数は2,530万人(男性860万人,女性1,670万人)とされている.しかしながら,一次性のものが多く,原因は不明である場合が多い.膝OAの補助診断として,通常の臥位でのX線像(Xp)に立位正面のXpを加えて撮影することが多い.しかしながら,立位正面で撮影する方法に比較して,45°の膝屈曲位での立位で撮影する方法が,関節軟骨摩耗をより顕著に表すことをローゼンバーグらは報告した(ローゼンバーグ撮影).正常であれば内側は4mm以上,外側は5mm以上の関節裂隙がみられるが,ローゼンバーグ撮影で内側関節裂隙が1〜2mmであれば,かなり進行した膝OAであると結論づけた.

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要旨

目的:本研究の目的は日本におけるリハビリテーション医学領域の研究登録状況を調査し,今後のリハビリテーション医学研究のあり方について検討することである.

方法:UMIN-CTR(2005年以降)の登録データを用い,リハビリテーション医学領域の介入研究を網羅的に検索した.研究デザインや結果公開状況,登録時期などのデータを収集し,検討を行った.

結果:21,410件のデータより,529件の研究が抽出された.研究デザインは並行群間比較が54%と最も多く,有効性の検討を目的とした研究が65%と多かった.比較試験の86%はランダム化がなされており,53%はブラインド化がなされていた.研究開始前の事前登録は50%あり,事後登録研究に比べ,結果の公開割合が少なかった.

結論:研究登録数は経年的に増加していたが,研究の透明性を確保するためにも事前登録を心がける必要があると考えられた.リハビリテーション医学領域においても臨床研究を適切に計画・登録できる医療者のさらなる育成が重要だと考えられた.

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今回の改訂までの経緯

 平成30年3月5日,官報に平成30年度診療報酬改定の内容が公表された.当委員会においては,前回平成28年度診療報酬改定後,学会誌などを通じて関連項目の改定についてその概要を報告するとともに,日本リハビリテーション医学会会員を対象にアンケート調査を行い,平成30年度診療報酬改定について討論を重ね,内科系学会社会保険連合(内保連)および外科系学会社会保険委員会連合(外保連)を通じて,日本リハビリテーション医学会として提案(表1)を作成し,内保連においては,内保連リハビリテーション関連委員会(20医学会)において協議し,提案書(表2)を提出した.また,全国リハビリテーション医療関連団体協議会診療報酬分科会においても協議を重ね,連名で提案書を提出した.

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 藤田保健衛生大学リハビリテーション部門は総勢550名を超えるスタッフを抱える日本最大のリハビリテーション医学・医療の拠点.2018年1月には回復期リハビリテーション病棟がオープンし,満床に近い状態が続いています.4月27日には開棟記念見学会が開催されました.(文責:広報委員会)

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 2018年4月26日(木)〜28日(土)まで東京国際フォーラムで,第62回日本リウマチ学会総会・学術集会が開催されました.朝鮮半島では歴史上大きな会談があった記念すべき日でした.今回は7,000人の参加者が集まり盛大な大会でした.学会長は本学横浜市立大学大学院医学研究科運動器病態学教授齋藤知行先生,テーマは「素心探求」でした.リウマチ医療もメトトレキサート(MTX)と生物学的製剤による治療方針が安定期を迎え,その中での学術集会となりました.そのため,生物学的製剤導入前患者の高齢化に伴う治療変更と,生物学的製剤導入後の寛解期患者の維持の問題,医療高度化に伴う専門性の集約と地域医療の乖離などが発表され議論されました.リウマチ友の会メンバーの高齢化と新規患者の孤立化の声もありました.患者に寄り添った多職種とのチーム医療のシンポジウムがあり,一方で,早期診断や治療抵抗患者に対する見極め方や,内服や手術の日進月歩の最先端医療の発表,合併症や類似疾患(肺疾患,血管炎,その他の膠原病)に対する攻略,聴衆参加型のプログラムも豊富でした.リウマチ医療の中でリハビリテーション科医のあり方が問われる時期と感じました.参加発表の機会をいただきました齋藤知行先生や横浜市立大学整形外科の諸先生方に感謝いたします.

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リハビリテーション医学
55巻7号 (2018年7月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1881-3526 日本リハビリテーション医学会

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