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はじめに
脊髄損傷は,古代エジプトのパピルス文書に詳細な症状が記載されているように,古くから知られている病態であり,包括的治療が導入されるまで死亡率は80%に及び,「an ailment not to be treated(治療すべき病態ではない)」ともいわれていた1).脊髄損傷は単なる運動・感覚神経麻痺ではなく,支配されるすべての臓器に影響が及ぶ多臓器障害である.症状は急性期から慢性期まで大きく変化し,生命にかかわる合併症も少なくない.
1940年前後に米国ではDr. Munro,英国ではSir Guttmanにより包括的治療が開始されると,生命的な予後が飛躍的に改善し,現在では,重度の麻痺患者でも対麻痺では健常人の約90%,四肢麻痺でも約70%となっている2).パラリンピックは,英国での脊髄損傷者の運動会が発展したものであり,1964年の日本開催時にパラリンピックと命名され,現在の興隆を迎えている3).
脊髄損傷受傷後の合併症発生の影響は,入院期間延長,死亡率増加だけでない.損傷脊髄内では脊髄-血管関門が破綻し,恒常性が失われているため,全身状態の悪化が,脊髄機能に悪影響を与えることが推測される4).一方で,脊髄損傷後の合併症のほとんどは適切に管理をすれば予防可能であり,脊髄損傷者の生命予後・生活の質(QOL)に直結する.包括的治療とは,脊髄損傷治療に携わる者が,急性期から生活期に至る問題点を把握し,それを見据えながら各場面の医療にあたることであり,予後予測に基づいたリハビリテーションと合併症の予防が中心となる.
脊髄損傷専門医が中心となって,各分野の専門医師,訓練を積んだ看護師・リハビリテーションスタッフ,ソーシャルワーカーなどの多職種からなるチームが,受傷早期から生活期まで緊密な連携を取る必要がある.脊髄損傷治療の専門施設がほとんどない日本では,リハビリテーション科医が受傷早期からチームの中心となることが望ましい.本稿では,脊髄損傷者に対するリハビリテーション医療を行うにあたって,必要な知識を整理する5).
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