地域リハビリテーション 12巻7号 (2017年7月)

特集 脳性麻痺者の加齢による変化と対応

伊藤 隆夫
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 近年の保健・医療・福祉の発展によって,脳性麻痺者も長期の生活を維持できるようになってきました。しかし,一方で加齢に伴う頸椎症や脊椎側弯症,股関節脱臼などの「二次的障害」による身体機能の低下とそれによる日常生活活動の低下や社会参加の機会の減少が問題となってきています。

 本特集では,脳性麻痺者の加齢によって生じる身体的な機能低下と,養育者や介護者の高齢化など社会的な課題も含めながら,在宅支援のあり方について考えていきたいと思います。

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はじめに

 脳性麻痺において,二次障害は1970年代から地域共同作業所で働く中高年の脳性麻痺者の中に運動能力が低下するなどの現象が報告され1),注目されるようになった。

 二次障害とは,疾患の原障害と区別して,その経過に引き続いて起こる障害をいい,従来は脳性麻痺の頸椎症などに代表される整形外科的問題に多く使われていた。しかし現在では,内科的問題,精神的問題も含めて幅広く考えられるようになっている。

 本稿では,成人脳性麻痺者の生活実態と機能低下の現状,それらに関連する二次障害について整形外科的,内科的,精神的問題に分け概説し,さらに,身体機能変化に伴って変化するリハニーズについて検討する。

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脳性麻痺者の成長に応じた住環境整備の考え方

 一口に脳性麻痺といってもその障害像の幅は広く,本人の身体機能の状況や保護者の考え方などによって住環境整備(福祉用具の導入や住宅改造の実施など)は個別性が高いものになる。

 しかし,共通して住環境整備とは,本人の自立性向上と介助負担の軽減という役割を担っている。ただ高齢者の住環境整備と比較して難しいのは,子どもの発達や成長の変化にどう対応していくかであろう。図1は,脳性麻痺児者のライフステージと日常生活活動(ADL)との関係を表した概念図である。本人の身体機能や成長段階に合わせて適切な住環境整備をすることにより期待される活動を得ることを示している。幼児期から必要に応じて福祉用具を導入するなどの住環境整備により,生活の中でできることを増やすことが肝要である。また,学齢期以降も本人のできることを維持しながら,親の介助負担を軽減する住宅改造などを積極的に実施していくことが望ましい。個人差は当然あるものの,基本的な住環境整備の考え方はこのように,ADLの向上および維持する役割を担っており,さらには本人の生活の質の向上や社会参加につながる役割を果たすことが期待できる。

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はじめに

 重症心身障害児・者の全国共通の課題に,① 在宅医療を要する児の増加,② 急変時に受診できる病院が少ない,③ 障害者と親の高齢化,④ レスパイトしたいときに預かってもらえる施設が少ないがある。さらに,⑤ 高校卒業後も在宅で生活を続けたいという親が多い。「There is no place like home(自宅がいちばん)」という小児科の格言があるように,成人への移行期に在宅で健康に過ごすにはどんな工夫が必要かについて,在宅医療との関連でまとめた。

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はじめに

 脳性麻痺のリハは,主に小児・成人分野において発展してきたが,近年,高齢社会の到来とともに脳性麻痺者の寿命が延びたことや予防医学・予防リハへの関心などから,昨今,加齢に伴う二次障害が注目されている1〜3)

 本稿では,高齢脳性麻痺者への訪問リハに必要な視点や実際について,事例を通じて論じる。

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はじめに

 40歳の誕生日を迎えた時に同僚から「40歳は初老ですよ」と言われた。筆者自身,40歳になりたての頃は老化を意識することはなかったが,40歳代も後半にさしかかると,小さな文字が読みづらくなった。いわゆる老眼症状が出始めてからは自らの老化を意識するようになった。現在,50歳代半ばであるが,ADLで困る時がある。立って靴下をはく時にバランスを崩し,ふらつくことがある。バランスをつかさどる感覚の衰えもあるかもしれないが,大腿四頭筋の筋力が落ち,片足で立った時に支える力が弱くなったのだ。そこで,努めて大学の階段を使うようにした。研究室がある5階まで登るのがきつくなくなると,ふらつかずに靴下がはけるようになった。教科書に書いてあるように老化による筋力の衰えと筋トレによるADLの回復を実感する出来事であった。

 人は誰でも年をとる。加齢により身体も老化していく。それは,脳性麻痺者も同様である。三島1)は,日本脳性麻痺の外科研究会が2009年度に健康に関して40歳以上を対象にして行ったアンケート調査から,移動機能能力の低下を感じた年齢は10歳代から始まり,30〜40歳代がピークであること,アテトーゼ型と混合型に上肢機能低下が多かったこと,特に,アテトーゼ型では移動能力機能低下の割合が高く,頸椎症との関連も推察されたと報告している。以前,OTとして勤務していた施設に,アテトーゼ型の方がいらっしゃった。ADLも自立され,仕事もしっかりとこなされていた。しかし時折,身体の痛みを訴えられており,よく「脳性麻痺は老化が早い」とおっしゃっていたのを思い出す。

 以前,OTとして担当した,もしくは,かかわりがあった30〜50歳代になる4名の脳性麻痺者の方に今回,インタビューすることができた。語られた内容をもとに加齢よる変化に対してOTとして何ができるのか検討した。

 なお,インタビューを行うにあたり,その目的を説明し同意を得て行った。また,写真の掲載についても同意を得ており,かつ,本人たちからの申し出により顔を隠さずに掲載する。

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はじめに

 脳性麻痺者は早期に診断されることが多く,患者はもとより,養育者に対しても初期の段階から長期にわたって支援をすることが重要となる。リハを行う際には将来の状態を想定し,常に先を見越して,将来起こる可能性のある問題には早めに対処していく必要がある。

 また,一口に脳性麻痺といっても,その症状は病型や重症度,麻痺の部位などにより非常に複雑であり,支援の形も個々の症状に合わせた多様なものとなる。

 さらに,種々の合併症を抱えていたり,成長や加齢によって生じる二次障害も起こる可能性があるため,これらに対するリスク管理も徹底することが大事である。

 本稿では,STとしてリハ病院での外来や訪問リハを通して,小児から成人の脳性麻痺者にかかわってきた経験から,脳性麻痺の成長に応じた在宅支援への実際について,思うことを述べる。

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 私がPTの道を選んだ背景には,一冊の本との出会いがあった。小学1年生から剣道を習い,中学・高校では主将を務めた。当時憧れていた剣道部の先輩が警察官の道へ進んだことをきっかけに,私も同じ道を目指していた。部活を引退した高校3年生の夏,参考書を買いに出向いた本屋で,ふと中学生の頃に通っていた塾の講師から「理学療法士」という職業について教えてもらったことを思い出した。私はPTに関する本を何冊か立ち読み,故 砂原茂一先生の『リハビリテーション』1)を購入した。「重度障がい者であっても,生きているかぎり生きがいを感じさせるのがリハビリテーションである」「自らの生きがいを感じ,自分の人間としての価値を自ら認めることができるためには,価値観の大きな転換が必要である」「何もできなくても存在していることだけで生きる意味がある」夢中になって読み進め,出てくるキーワードの数々に心打たれた。そして高校生の私は,進路を変える決断をした。

 年齢や障がいの程度にかかわらず,理学療法を必要とするすべての方に対応できる専門職でありたいと願い,現職である八尾はぁとふる病院に就職した。回復期リハ病棟と外来リハを兼務して4年目になる頃,院内で訪問リハを立ち上げる話が浮上した。好奇心旺盛な私は,当時の上司に「ぜひかかわらせてほしい」と懇願し,3つの部署を5年間兼務させてもらった。利用者を受け渡す双方の立場(入院と在宅生活)を同時期に経験できたことは,互いの役割への理解が深まるだけでなく,時間の使い方の習熟にも功を奏した。加えて,8年間夜診でスポーツ選手の支援に携われたことも現在の訪問リハ業務に役立っている。特に,在宅の場で転倒や急変を発見した時の対応力や目標達成に向けた計画とその実行能力は,スポーツ復帰を目指す方への支援から学んだと言っても過言ではない。

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 私たちの学校では年に1回,全学生を対象とした海外研修「マレーシアスタディツアー」が実施されます。今回は,参加を希望した作業療法士科学生7名と教員2名,他校の参加者5名を含め,総勢14名で研修に臨みました。

 本研修はマレーシアのペナン島を中心に行われ,現地で推進されている地域リハビリテーション(CBR:Community Based Rehabilitation)を経験すること,日本と異なる文化や特色を体験することを目的としています。プログラムの主な内容は,現地作業療法士からのレクチャー,地区病院や知的障害者の就労支援施設,早期療育センターの訪問,ホームステイなどを10日間にわたって経験します。まず現地では事前学習として,マレーシアに長期滞在経験のある日本人の作業療法士からマレーシアの歴史,医療や暮らしの現状,日本との違いなどを教わりました。

連載 訪問リハに役立つフィジカルアセスメント—“気づき”と“療法士判断”・第7回

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事例紹介

 事例は伊藤さん(仮名),83歳の男性です。貴金属加工職人として自営業を手伝っていましたが,突然の右麻痺,呂律障害にて3月4日に脳神経外科を受診して脳梗塞と診断,入院しました。保存療法とともにリハも低頻度ながら行われていたようです。入院2週後,感染性喘息発作が認められリハ中止となりました。発作は改善傾向となりましたが,食事がほとんど食べられなくなりました。元気がありません。奥さんは毎日病室へ通い,伊藤さんのベッドサイドで過ごしていました。帰ろうとすると伊藤さんが大変嫌がる様子を見て,ご家族は「家に帰りたいのではないか」と思っていたようです。結局リハは再開できず,主治医と家族の話し合いのうえ,呼吸器症状がコントロールできた時点で,4月14日に自宅退院となりました。

 訪問診療を受けることになり,訪問医よりリハ導入の話がありました。4月20日ご自宅にうかがいますと,伊藤さんはベッド上に端座位で迎えてくれました。退院直前,身長160cm,体重49kg,BMI 19.1,若い頃結核を患い右肺切除の既往があり,もともと細身でしたが入院中の摂食障害で2kgほどやせたとのことでした。しかし退院後,食欲は改善傾向とのことでした。発語失行がありましたが,アイコンタクト・言語理解は良好で挺舌など口頭指示には従えます。「リハ,頑張れますか?」の問にしっかりうなずかれる姿が印象的でした。状況判断良好で,協力的と判断しました。右利き,握力右0kg左13.2kg。右麻痺重度,排泄はおむつを利用されていますが,家族のお話では尿意はありそうです。4点杖と下肢の振り出しを介助してわずかな距離の歩行を試しておられました。ただし数mの移動で頻脈となり,息切れあるとのことでした。入浴後(介助浴)は疲れて動けないなど易疲労性が目立ちます。また右上下肢の浮腫も著明でした。介護保険では要介護3の認定を受けていました。

連載 高次脳機能障害児を地域で育む—高次脳機能障害児のすこやかな未来づくりを願って・第7回

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はじめに

 1〜6回までは,平成23年度に千葉県千葉リハビリテーションセンターが全国の支援拠点機関の協力を得て実施した小児期発症者の実態調査結果1)をもとに,小児期発症者の生活実態を中心に述べてきました。今回からは,学校生活家庭生活上の困難さを抱えた人たちの支援の実際をもとに,高次脳機能障害を有する子どもたち支援の課題解決への糸口を提案できれば幸いです。

連載 攻めの地域介護予防—健康生成論に基づいた地域リハビリテーション・第7回

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はじめに

 私はスウェーデンに移住して42年間という年月,一教師として障がい児教育に携わり,OTの資格を取ってからは,「ハビリテーリングセンター」で,約20年間OTとして働いてきた。

 障がい者に対して,日本とスウェーデンとの支援の相違があまりにも大きいと痛感したのは言うまでもない。両国に優劣はないが,障がいの有無にかかわらず個人の人権を尊重し,社会で共存できる風潮,対等の価値観がスウェーデンの社会には自然な形としてある。一歩街へ出れば,車いす,ウォーカーなどの補助器具を用いて散歩している人に出会う。また,学校や職場にもなんらかの障害を持っている人は存在し,クラスメイトや同僚として仕事を共有している。ショッピングモールなどでは,重度の障がい者を補助するパーソナルアシスタントというヘルパーが,携帯の痰の吸引機や呼吸器機を持って付き添い,共に買い物を楽しんでいるのを見かける。だから,障がい者を見かけるのになんら違和感を感じないのである。これがいわゆる弱者が住みやすい共存の社会と言えるだろう。

 昨今,日本にも障害者総合支援法が施行されている。基本理念を読めばすばらしく,支援方法も多方面にわたっている。しかし,現実の社会では,いまだに偏見がはびこり,重度の障がい者たちは,集団施設への入居を余儀なくされ,隔離されている現状がそこにはある。また,すべての支援には経済枠や厳しい規律があり,支援の要望があっても貧しい障がい者たちには思うように利用できない。なぜ,このように差が出るのだろうか?

 スウェーデンでは,それが可能な社会で,高い税金を支払う代わりに,ニーズがあればほとんど無料で支援がいくらでも受けられるシステムがそこにはある。疾病別支援ではなく,日常生活に支障をきたす人々すべてに還元される支援である。もちろん,問題は例外的に必ずあるが,弱者にとって少なからず日本よりは住みやすい社会だと言える。

 さて,本連載でこれまで地域への介護予防におけるICFと健康生成論に触れているので,それらについて詳しく説明する必要はないと思う。それよりもそれらの理論をスウェーデンでは,いかに具体的に実践しているかを紹介したい。

連載 今,地域で歯科は何をしているのか?・第7回

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はじめに

 歯科では歯の欠損に対して,義歯やブリッジ,インプラントのような補綴(ほてつ)装置(prosthesis)を用いて機能回復を図る治療が行われています。これを補綴治療と言います。近年,摂食嚥下障害に対して補綴治療の特性を応用したアプローチが行われるようになりました。摂食嚥下障害に対してはさまざまなアプローチがありますが,今回はその中で特に歯科の専門性を生かした対応方法を紹介します1)2)

連載 地域包括ケアシステムにおける訪問薬剤師・第4回

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はじめに

 2025年に向け高齢化率が急増している。現在65歳以上の高齢者は25%に達し,2025年には30%を超えると言われている。2025年に向け,「団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に重度な要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう,住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築」が急務となっている。

 医療は「病院完結型」から,地域全体で支える「地域完結型」の医療に変わってきており,薬剤師の業務も転換期を迎えている。従来の「待つ薬局」から,「地域に飛び出していく薬局・薬剤師」にならなくてはならない。

連載 医療・介護に役立つアロマリハビリテーション・第4回

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はじめに

 今回,訪問リハにおいて,高度アルツハイマー病の2症例に対してアロマセラピーを実施した経緯と結果を報告させていただきます。

連載 当事者,支援者に聞く 高次脳機能障害を生きること—家族・専門職との関係を通じて・第7回

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 本連載で順次紹介する6名の方々は,いずれも受傷後,長期にわたって地域で暮らす高次脳機能障害の方々です。NPO法人VIVIDでは彼らが受傷からこれまでどのような変化があったのか調査してきました(2008〜2014)。本連載では,調査結果を踏まえながら,本人にとって転機になった出来事やかかわりについて,支援者と一緒に振り返ってもらいます。(2017年2月18日:於ウェルピアかつしか)

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要旨 本研究の目的は,有料老人ホームに入居している85名の高齢者を対象に,上下肢機能や活動能力などの身体機能評価に加えて,認知機能や精神機能を評価し,低速歩行高齢者の身体・認知・精神機能の特徴を明らかにすることである。分析の結果,通常歩行速度が1m/sec未満の低速歩行高齢者(25名)は非該当者(60名)と比較して,下肢筋力の指標である30秒間椅子立ち上がりテストと活動能力の指標とした老研式活動能力指標,および健康関連QOLの得点が有意に低く,年齢と抑うつ傾向が有意に高かった。さらに,共分散分析によって年齢を調整すると,抑うつ傾向のみに有意差が認められた。これらの結果から,低速歩行高齢者は下肢筋力の弱化や活動性の低下に加え,抑うつ傾向やQOLなどの精神機能面の低下が生じていることが示唆された。さらに,年齢を調整しても抑うつ傾向が高かったことから,高齢者の介護予防対策には,精神機能面の維持・向上を図る重要性が再確認された。

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地域リハビリテーション
12巻7号 (2017年7月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1880-5523 三輪書店

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