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私がPTの道を選んだ背景には,一冊の本との出会いがあった。小学1年生から剣道を習い,中学・高校では主将を務めた。当時憧れていた剣道部の先輩が警察官の道へ進んだことをきっかけに,私も同じ道を目指していた。部活を引退した高校3年生の夏,参考書を買いに出向いた本屋で,ふと中学生の頃に通っていた塾の講師から「理学療法士」という職業について教えてもらったことを思い出した。私はPTに関する本を何冊か立ち読み,故 砂原茂一先生の『リハビリテーション』1)を購入した。「重度障がい者であっても,生きているかぎり生きがいを感じさせるのがリハビリテーションである」「自らの生きがいを感じ,自分の人間としての価値を自ら認めることができるためには,価値観の大きな転換が必要である」「何もできなくても存在していることだけで生きる意味がある」夢中になって読み進め,出てくるキーワードの数々に心打たれた。そして高校生の私は,進路を変える決断をした。
年齢や障がいの程度にかかわらず,理学療法を必要とするすべての方に対応できる専門職でありたいと願い,現職である八尾はぁとふる病院に就職した。回復期リハ病棟と外来リハを兼務して4年目になる頃,院内で訪問リハを立ち上げる話が浮上した。好奇心旺盛な私は,当時の上司に「ぜひかかわらせてほしい」と懇願し,3つの部署を5年間兼務させてもらった。利用者を受け渡す双方の立場(入院と在宅生活)を同時期に経験できたことは,互いの役割への理解が深まるだけでなく,時間の使い方の習熟にも功を奏した。加えて,8年間夜診でスポーツ選手の支援に携われたことも現在の訪問リハ業務に役立っている。特に,在宅の場で転倒や急変を発見した時の対応力や目標達成に向けた計画とその実行能力は,スポーツ復帰を目指す方への支援から学んだと言っても過言ではない。
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