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はじめに
介護保険制度において,2006年に「予防重視型システム」への転換が図られてから,早くも10年が経過した。この間,さまざまな自治体で多様な介護予防事業が展開され,介護予防に関するエビデンスやノウハウが蓄積されてきている。しかし,この10年の間にも,要介護高齢者数は増加の一途をたどり,2015年の要介護(要支援)認定者(以下,認定者)の人数は620万人と,2006年度の440万人から約1.4倍となっている1)。一方,2013年度からスタートした健康日本21(第二次)2)では,その目標の一つに「健康寿命の延伸」が掲げられ,その達成に向けた方策の一つである介護予防の重要性はますます高まっている。このように,介護予防は2006年の介護保険制度改正からおよそ10年が経過した現在も,日本の健康長寿社会に向けた政策の中心課題の一つである。今後,全人口の約30%が75歳以上になることが予測されているが,“団塊の世代”が後期高齢者となる2025年を一つの目途として認定者数の抑制につながる具体策を提示したいところである。
近年,要介護につながる極めて重大なリスクとして,フレイルが注目されている。高齢者が要支援・要介護状態となる原因をみると,要支援者では,「関節疾患」に次いで「高齢による衰弱」が第2位に,要介護者では,「認知症」「脳血管疾患(脳卒中)」に次ぎ「高齢による衰弱」が第3位となっている3)。この「高齢による衰弱」とは,まさしくフレイルの状態を指す。フレイルは,日本老年医学会が「衰弱」や「虚弱」に代わる新たな用語として提案したものである。フレイルの定義は,「高齢期に生理的予備能力が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し,生活機能障害,要介護状態,死亡などの転帰に陥りやすい状態」とされている4)。なお,フレイルは,適切な介入によって再び健康な状態に戻ることが可能である。つまり,フレイルとは,不可逆的な不健康状態に陥る前段階の,健康状態の悪化を予防できる可逆的な要素を多く含む状態である。したがって,介護予防や健康寿命の延伸のために,フレイル予防および対策を講じる必要があることは言うまでもない。地域においてフレイル予防の啓発とともに,フレイル該当者をすみやかに発見し,早期に介入するシステムを確立することが喫緊の課題である。本稿では,地域在住高齢者のフレイルの実態を述べるとともに,われわれの研究グループが,地域の高齢者を対象に行った大規模介入試験について紹介し,地域在住高齢者におけるフレイル対策について考察する。
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