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はじめに
私はスウェーデンに移住して42年間という年月,一教師として障がい児教育に携わり,OTの資格を取ってからは,「ハビリテーリングセンター」で,約20年間OTとして働いてきた。
障がい者に対して,日本とスウェーデンとの支援の相違があまりにも大きいと痛感したのは言うまでもない。両国に優劣はないが,障がいの有無にかかわらず個人の人権を尊重し,社会で共存できる風潮,対等の価値観がスウェーデンの社会には自然な形としてある。一歩街へ出れば,車いす,ウォーカーなどの補助器具を用いて散歩している人に出会う。また,学校や職場にもなんらかの障害を持っている人は存在し,クラスメイトや同僚として仕事を共有している。ショッピングモールなどでは,重度の障がい者を補助するパーソナルアシスタントというヘルパーが,携帯の痰の吸引機や呼吸器機を持って付き添い,共に買い物を楽しんでいるのを見かける。だから,障がい者を見かけるのになんら違和感を感じないのである。これがいわゆる弱者が住みやすい共存の社会と言えるだろう。
昨今,日本にも障害者総合支援法が施行されている。基本理念を読めばすばらしく,支援方法も多方面にわたっている。しかし,現実の社会では,いまだに偏見がはびこり,重度の障がい者たちは,集団施設への入居を余儀なくされ,隔離されている現状がそこにはある。また,すべての支援には経済枠や厳しい規律があり,支援の要望があっても貧しい障がい者たちには思うように利用できない。なぜ,このように差が出るのだろうか?
スウェーデンでは,それが可能な社会で,高い税金を支払う代わりに,ニーズがあればほとんど無料で支援がいくらでも受けられるシステムがそこにはある。疾病別支援ではなく,日常生活に支障をきたす人々すべてに還元される支援である。もちろん,問題は例外的に必ずあるが,弱者にとって少なからず日本よりは住みやすい社会だと言える。
さて,本連載でこれまで地域への介護予防におけるICFと健康生成論に触れているので,それらについて詳しく説明する必要はないと思う。それよりもそれらの理論をスウェーデンでは,いかに具体的に実践しているかを紹介したい。
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