精神看護 22巻6号 (2019年11月)

特集 琵琶湖病院で始まっているオープンダイアローグを取り入れた日常診療

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オープンダイアローグを精神科医療の現場で実際に活用する医療機関が出現し始めました。

その1つが琵琶湖病院(滋賀県)です。

この特集では、組織としてオープンダイアローグを取り入れるまでの経緯と、オープンダイアローグの導入で何が変わったのかを率直に紹介していただきます。

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過去から現在を振り返る

2001年:パワーに頼って精神医療を行っていた頃

 ここから、少し痛みを伴いますが、過去を少し振り返りながらオープンダイアローグを導入するに至った経緯を紹介します。

 かつて私は、精神医療には「強制的な処遇」「隔離」「拘束」「長期入院」が不可避だと認識していました。当事者の話す内容は理解ができないものであり、保護する役割は精神科病院の社会的必要悪のようなものだと信じていました。一時的に強制的に介入せざるを得ないことがあっても、やがて薬物療法と環境によって自分を取り戻し、多くの人は感謝して退院していく、そう考えていました。

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《事例1》 本人の声を聞いたからこそ、守ることができた「一人暮らしの自由」

医療者の不安

 10年以上の長期入院から地域移行し、1Kのマンションに一人暮らししているMさんのケースです。

 体調の崩れをきっかけに生活の不安が強まり、Mさんを脅かす声から逃れるため2階から落ちてしまい、入院となりました。入院直後から治療ミーティングが開始され、2週間に一度のペースでミーティングは続き、2か月後に退院が決まりました。

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Q1 話をするニーズがないように思える患者さんがいます。そういう人ともオープンダイアローグをすることには意味があるのでしょうか。

A 誰であっても導入すべき、と考えているわけではありません。琵琶湖病院の外来に通院している方の中には「いつものお薬」をもらいに来ている方が一定割合いて、話をするというニーズは友だちや家族や学校や職場などのネットワークで充足できている方が多いです。ですから毎回、こちらは関心をもって「何かお話ししたいことはありませんか?」とうかがいますけれども、「ない」と応えられたならそれでいいと思っています。ちなみに、開かれた問いが苦手な方もいらっしゃるので、体調に絞って質問するなどの閉じた問いも大切にしています。

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圧倒されるような話をチームで、複数回聞く意味

山中さんが入職した2年前には、もう琵琶湖病院ではオープンダイアローグをベースにした治療ミーティングが始まっていたそうですね。参加した初期の頃の感想を教えてください。

 (山中さん、以下同)最初に戸惑ったのは、長期入院中の方との対話でした。話をするニーズがないように見える人に、「話したいことが何かありますか」と問うことにすごく違和感があったんです。だけどそれは間違いでした。その人は語りたいことがあるのに諦めてしまっていたり、うまくこちらが引き出せていなかっただけだった。20年、30年入院させてきてしまった経過のなかで、外に出ることが怖くなってしまったとか、いろんな要因によって「語れなかった」だけなんだとわかったんです。

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1.対象者Pさんの語り

対象行為を感じさせない穏やかさ

 Pさんは小柄で非常に物静かな人である。こちらの問いかけにも、ほとんど一言短く返すだけだ。私が今まで会話した誰よりも小声で、近づいて耳をそばだてないと聞こえない声でお話しされた。そこで、Pさんの横で心理士の方がPさんの言葉を速記してくれて、私が理解できるように補助してくれた。Pさんとのインタビューは断片的な語りになったので、普段行っている現象学的質的研究の書き方はできない。そのためいくつかの要点をまとめる形にしたい。

 Pさんはインタビューのあいだ何度もほほえみを浮かべ、とても穏やかな印象を受けた。「対象行為」★1(他害)におよんだとは思えないほどの物腰の柔らかさであった。

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セクシュアルマイノリティの貧困とはどのようなものか

 LGBTハウジングファーストプロジェクトは、生活困窮を理由に住まいを失ったLGBT当事者(主にゲイ・バイセクシュアル男性やトランスジェンダーの方)へ、ハウジングファースト★1の考え方に基づき、安心して居住できる場所を提供する支援をしています。

 住まいを失った人たちが宿泊するために利用できる支援としては、更生施設や民間の無料低額宿泊所などがありますが、それらは一般的に、相部屋であるなどプライバシーが十分に守られる住環境にないことが多く、同性からのいじめや暴力を受けたゲイ・バイセクシュアル男性が心理的な負担をかかえたり、トランスジェンダー当事者が、ご本人が望むのとは異なる性別での入所を余儀なくされることもあり、これらが社会復帰に向けて妨げとなることもあります。

レポート

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自分で掘り返さなければ技術が獲得できない精神科

 精神科の看護師は「10年でやっと1人前」と言われるように、その看護技術は獲得することが困難なものである。新人は、熟練看護師に備わっている能力を明らかにしたいと、質的研究*1やガイドライン*2を読み込み、謎に挑もうとしたりもする。ただ、理解と実践はまた別であり、わかっていてもうまくいかない。疾患の理解ができても患者さんとのやり取りが理解できない、という状態に陥ることはしばしばある。対人関係において生じる感情をどう処理するかが、看護実践の卓越性に関連する要因である*3ともされている。

 ただ精神科実践のやや怖いところは、一看護師がそのような状態であっても、病棟というチームがある程度成熟していれば、なんとなく毎日をこなせてしまうところである。

連載 編集部がすっごくオススメする映画「これ観たほうがいいですよ!」・1【新連載】

『人生、ただいま修行中』 武井 麻子
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フィリベール監督が学校を描く理由

 ニコラ・フィリベール監督の最新作『人生、ただいま修行中』が11月1日から日本で公開される。フィリベール監督といえば、『すべての些細な出来事』(1996年製作)で、フランスのロワール渓谷近くのブロワの森の中にあるラ・ボルド精神科病院での患者たちによるオペラの公演というイベントを縦軸に、そこに暮らす患者たちを生き生きと描き出し、日本でも好評を博した映画の名監督である。

 『人生、ただいま修行中』は、フランス・パリ郊外のモントゥイユという街にあるクロワ・サンシモン看護学校の学生たちを追ったドキュメンタリーである。監督自身が塞栓症で救急救命室に運ばれ、集中治療室で治療を受けた経験から、この映画が生まれたという。

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 『王子と乞食』という児童文学がある。有名な話なのでご存知の方も多いと思うが、ともに自分の境遇を憂いていた王子と乞食が、互いの立場を入れ替えて生活するというマーク・トウェイン作の物語だ。王子は乞食に、乞食は王子に。「対」になる2人が入れ替わるという話は、これ以外にもさまざまな例がある。

 確かに実生活の中でも、対になる2つの立場が入れ替わるような感覚を持つことはある。たとえば、「教えることこそ最大の学び」。自分1人で理解してわかった気になっていたことも、いざ人に教えようとするとしどろもどろになったり、相手の鋭い質問によって新たな発見が生まれたりする。教えようとするとき、学んでいるのは実はこちらのほうなのだ。

連載 {発達障害当事者マンガ}私が経験している世界・3【最終回】

集中が不器用な話 白井 風子

連載 家庭で生活できない高年齢児のための「自立援助ホーム」を運営しています・3【最終回】

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 前回の原稿では、社会的養護の援助者も障害福祉の知識が求められる、と書いた。派生して司法の知識、医療の知識などもあれば、なおさら援助者の応用力は高まるだろう。

 ただ、自身の率直な支援観として今感じているのは、専門性を備えているに越したことはないが、それがすべてではないということだ。目の前の支援を要する人と誠実に向き合い、その人にとって何が必要なのかを真剣に考え、行動に移す。非常にシンプルだが、それが対人援助の本質であり、それができる人が求められると思う。

連載 うんこあるある・5

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 入浴介助の時などに患者さんのお腹を観て、想像以上に腹満のある方っていませんか? 「○○さんは便秘だからね」「身体は痩せてるのに、お腹だけ出てるよね」とスタッフ同士で話題になったりします。

 ポンポコリンのお腹の中に「嵌入便」ソフトボール3個が入っていることもありますが、他に考えられる原因はないでしょうか。

連載 患者さんが「怒った」事例をアセスメントして今日からの精神科看護に活かしたい・2

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学生の受け持ちがつかなかった人からの思わぬ行動

 Aさんは、大学生が実習の病棟で出会った女性患者さんです。40代の女性で、病名はパーソナリティ障害でした。実習は2週間で、学生は患者さん1人を受け持って看護過程を展開していくのですが、Aさんには学生の受け持ちはつきませんでした。

 事件は実習3日目に起きました。

連載 精神科に入職して初めて働く時に、やったほうがいいこと、やらないほうがいいこと・4

私が患者さんから学んだ「精神科仕事術」

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■価値ある仕事をしていくために

▷毎日の当たり前の業務に流されないで仕事をしよう

 毎日の業務をこなせるようになると、そのうち慣れが生じ、業務をうまく回すことを優先に考えやすくなります。慣れてきた時こそ、毎日の当たり前に流されないで、今行っている1つ1つの業務の流れやスタッフの動きについて、これでいいのかどうかと疑う姿勢がもてるとよいと思います。もしそれで気づきや疑問が湧いたら、それを大切にして自分で考えてみましょう。答えが出なくても、考える先に、あなたにとっての価値ある仕事が見えてきます。

連載 MSEを穴埋め式問題で練習してみよう・8

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 今回は認知症の症状アセスメントがテーマですが、記憶や認知機能は、認知症以外の精神疾患でも非常に重要なアセスメントに位置づけられています。たとえば統合失調症は、今をさかのぼること160年前の1860年には「早発性痴呆」と呼ばれ、すでに認知機能障害がその中核的な症状として示されていましたし、現在も「陽性症状、陰性症状、認知機能障害」の3大症状から理解されています。また、老年うつ病や妄想性障害などの患者に認知症の症状が観察されることもあります。今回は、“記憶や認知機能に焦点を当てた精神機能のアセスメント”の学習として、身体科病棟に入院した認知症が疑われる患者の事例を読み進めましょう。

 身体科でも精神科でも「認知症」の診断を受けた人やそれが疑われる人(以下、認知症の人)の入院が急増しています。認知症の人は入院という大きな環境変化によって精神症状・行動異常(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)やせん妄を発症し、深夜に大声を発したり、転倒の恐れが高いのに不意に離床したり、点滴ルートや膀胱留置カテーテルを自己抜去したりといった想定外の行動で、看護の負担は著しく増大します。また、高齢の患者を、指示動作がほんの数回できなかっただけで「認知症」だと看護師が思い込み、それが一人歩きして看護師間で共有されてしまい、「認知症だから説明しても理解できない」とされ、「慣れない入院環境は認知症を悪化させるから」という理由で「早く退院させよう」とあきらめてしまうことがあります。こうした事態に陥らないようにするために、MSEをしっかり行います。

連載 栄養精神医学・11

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精神科患者に見られる腸の問題

 精神科患者は、さまざまな要因により腸の状態が悪いと推測される。表1に、精神科患者の腸へ悪影響を及ぼし得るものを挙げた。

 経済的な理由などでおかずが少なく、糖質中心の食事になっている人が多い。さらに、お菓子をたくさん食べ、清涼飲料水を多飲している人も多い。栄養価の少ないものでお腹をいっぱいにしている傾向がある。肉や魚を食べても、よく噛まずに早食いで十分に消化できず、胃腸に負担をかけている人も多い。

連載

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目次

次号予告・編集後記

精神看護 第22巻 総目次

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精神看護
22巻6号 (2019年11月)
電子版ISSN:1347-8370 印刷版ISSN:1343-2761 医学書院

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