訪問看護と介護 15巻7号 (2010年7月)

特集 たんの吸引,医行為をめぐる連携

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4月1日,特別養護老人ホームにおけるたんの吸引等の取扱いについて(医政発0401第17号)において,特養の介護職員が一定の研修を受け,医師の指示の下で看護師と連携しながら口腔内の吸引や経管栄養を行なうことは「やむを得ない」とする通知が出されました。

今後は特養以外の施設や在宅においても行なえるよう,法律の改正も視野に入れた動きが始まっているとも耳にします。

介護職によるたんの吸引,医行為について,介護と看護,それぞれを尊重したスムーズな連携について特集します。

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はじめに

 在宅医療とは,生活の場に,過不足のない適切な医療サービスを提供するものである。自宅だけの医療支援に限定されるものではなく,医師や看護師が不在の介護施設においても,医療が必要となれば在宅医療の手法を応用して医療依存度の高い利用者を支えることができる。在宅医療とは,暮らしの場で行なわれる機動力ある医療,すなわちvisiting medical serviceである。

 本稿では,介護職が行なえる医行為が拡大された背景にも触れながら,いま在宅医療で必要とされていること,そして介護と看護の協働の意義について述べたい。

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 近年,とくに医療の安全確保に関する国民の意識が高まり,医療事故に対する責任追及が厳しくなってきている。

 わが国では,医療を提供する者はその知識を学習し技術を習得し,その水準を国家試験によって試され,合格して初めて医療を提供する者としての資格を与えられ(医師,看護師など医療有資格者),資格を得てから後に医行為を実施することができる。

 また医療を提供できる場や環境は法律において定められ,社会として,医療の安全性確保を保証する仕組みが構築されている。

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 私は,千葉市で「りべるたす」という在宅介護サービス事業所(常勤換算18.9人)の管理者とサービス提供責任者をしています。サービスは難病の方を中心に行なっており,現在,筋萎縮性側索硬化症(以下,ALS)の方11名,筋ジストロフィーの方2名,脊髄性筋萎縮症(以下,SMA)の方1名が利用されています。

 これらの利用者は,千葉県の7つの市町村にわたって生活されていますが,保健区域ごとに保健師さんや行政の考え方が異なり,「地域格差」が大きいように感じています。たとえば「ヘルパーによる胃ろうへの流動食の注入」についての対応も,保健区域によってまったく異なっています。

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 さる4月1日,厚生労働省医政局長より各都道府県知事宛に,「特別養護老人ホームにおけるたんの吸引等の取扱いについて」が出されました(p.530)。前文の老健局高齢者支援課長より各都道府県民生主管部(局)長宛の通知は「医療安全が確保されるような一定の条件が示されるとともに,当該条件が満たされれば,介護職員によるたんの吸引等を特別養護老人ホーム全体に許容することはやむを得ない」とあり,「口腔内のたんの吸引等が安全に行われるため,都道府県単位での研修などの取り組みについてご配慮願いたい」と結ばれています。

 「介護職による医行為」をめぐる介護と看護の連携について,千葉県船橋市で介護研究会を主宰する安達マツ子さん,介護研究会の研修講師を務めてきた小池洋子さんにうかがいました。

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はじめに

 介護の現場に人手が少ないという報道がされて久しく,法制化した介護福祉士も介護の職場を離れていく傾向です。世界に類をみない急速な高齢化が進む日本で,介護の現場がどのような状況にあり,ケアの質をどのように整えれば利用者が安心して“終の棲家”として身を置けるのか。これは世代を超えて考えなくてはならない問題です。

 私の母は歳を経るごとに介護の手が必要となり,90歳から97歳で亡くなるまでの7年間,北海道網走郡大空町の福祉寮,生活支援ハウス,グループホームなどの介護施設でお世話になりました。札幌に住む私は,毎月2泊3日の日程で介護施設の母を見舞い,そこでできるだけの介護をしながら施設と介護スタッフ,そして利用者の方々をかいま見てきました。

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 訪問看護と訪問介護は居宅サービスの利用者が地域での生活を継続する要となる支援であり,包括的ケアのためには看護と介護の相互理解のもと連携・協働することが不可欠である。最近の動向として,2010年4月「特別養護老人ホームにおけるたんの吸引等の取り扱いについて」の通知など,「医行為」を中心とした介護と看護の役割分担や業務範囲について新たな展開がみられる。看護と介護の連携・協働のあり方が今後の重要な課題となることは必須である。

 本稿では介護人材の育成と課題について考察することで,訪問看護との連携と協働の基盤となる訪問介護を担う人材への理解を深め,今後の介護職による医療的ケアの動向について示唆を与えたい。

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 このたび,「特別養護老人ホームにおける看護職員と介護職員の連携によるケアの在り方に関する取りまとめ」(平成22年3月31日)が取りまとめられたことを受け,医政局長から各都道府県知事宛に,別添のとおり通知が発出されたところである。

 同通知において,医療安全が確保されるような一定の条件が示されるとともに,当該条件が満たされれば,介護職員によるたんの吸引等を特別養護老人ホーム全体に許容することはやむを得ないとの整理が示されたところである。

『逝かない身体――ALS的日常を生きる』大宅壮一ノンフィクション賞受賞記念企画

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川口有美子さんが『逝かない身体――ALS的日常を生きる』(医学書院刊)で,第41回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。川口さんがALSの母親を12年間介護したつぶさな記録だ。はじめ,川口さんは「安楽死」にも肯定的だった。しかし彼女は,介護の過程で変わっていく。なぜ,川口さんは変わったのか? 同賞の審査委員であり,息子さんを脳死の末に亡くした柳田邦男さんと,「逝かない身体」をめぐって語り合っていただきました。

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 3年前に母を亡くしても,立ち止まることもできずに,ALSの人たちと走り続けてきた私だが,本誌の企画,柳田邦男さんとの対談では,まるで柳田さんからグリーフケアを受けているような,心休まる時間をいただいた。

 柳田さんはご著書『犠牲(サクリファイス)――わが息子・脳死の11日』(文藝春秋)に,次男の洋二郎さんの臓器を提供するまでの11日間の葛藤を,克明に描いておられる。柳田さんは,息子さんの生きた意味を臓器提供という手段で実現しようと考えた。これは,私が母の身体の声を聞いては,「生きる意味」を与え続けたのと,同じ感情から発生した行為なのである。柳田さんは同じ家族の立場として,『逝かない身体』に共感してくださったのだと私には思われた。

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 川口が初めてわが家にやって来たのはいつだったかな。たしか,ゆで卵のような妹と一緒でした。母親がALSを発症した場合,「成人した娘が2人いること」が療養の最低条件の時代。まさにこの家は理想的ではないかと思いました。5分話すと,5分泣いているような川口だったのです。

 私はたぶん,世界で一番ALSが好きなALS患者だと思っています。たしかに,発症時は,他のALS患者と同じように医学書を鵜呑みにして,「私が死ぬの,まさか私が火葬されるの?」と思ったほどで,心底驚いたものです。

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――『逝かない身体』にしばしば登場され,難病ケアに長年かかわってこられたお2人に,当時のご経験や思い,そして介護職・看護職として今感じられていることをおうかがいしたいと思います。

塩田 1996年のたしか6月の終わりごろだったと思います。当時登録していた人材会社に派遣されて川口さんのお宅にうかがいました。とくに事前の面談等もなく,電話一本で「ALSという病気はご存知ですか?」「いえ,知りません」「じゃあ,とりあえず行ってみてください」という感じで(笑)。それが,川口さんと,そのお母様でALSの島田祐子さんとの出会いです。それから,島田さんが亡くなるまでの約11年間はヘルパーとして,また,2003年に川口さんがご自宅を事務所に立ち上げられた訪問介護派遣事業所の責任者になって今に至ります。

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それは、文字通り不眠不休の介護でした。ほとんど外出もできず、ALSの母のベッドサイドで鬱々と過ごした日々。人生に絶望しかけていた私の魂を救ってくれた十冊の本をご紹介します。

読者の声

世の中は変わりました!/他1件
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世の中は変わりました!

角田直枝

茨城県立中央病院看護局長

印象的だった立花隆氏のコメント

匿名希望

自治体職員

連載 訪問看護 時事刻々・136

勤労統計調査 石田 昌宏
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 毎年,このころになると「勤労統計調査」の年報が発表される。これを見ると,業種ごとの給与や労働などが比較でき,平均年齢等が異なるため単純に比較して考えてはならないが,医療福祉業界の待遇について,おおよその状況がつかめる。

 一番気になる給与。所定内+所定外(ボーナス等特別な給与は除く)の月額は,医療福祉で25万5008円(前年度比-0.8%)。これより高い業種は,電気・ガス45万294円,情報通信36万6391円,金融・保険36万2337円,建設32万2836円,教育・学習支援30万9019円など。一方低いのは,卸・小売22万482円だけ。

連載 在宅ケア もっとやさしく,もっと自由に!・10

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 先週のこと,特別養護老人ホームに勤務する友人(看護師)から以下のようなメールが送られてきました。

連載 せんねん村村長 老いを地域で活かす・10

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 私の姑は,舅が平成15(2003)年に死去して以来,1人暮らしをしていました。「私たちと住みますか?」と尋ねたとき,「2人とも日中留守なのでしょ? 私,留守番なんて嫌よ」と答えました。義妹が「私たちのところに来る?」と尋ねたときは,「昼間,あなたは仕事で,婿が店やりながら留守番しているのでしょ? 婿と2人なんて嫌よ」と答えました。

連載 ほんとの出会い・52

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 紅紫の小さな花びらをピンと反り返らせたカタクリの花が,宮沢賢治の世界を思わせる古びた小屋の周り一面に広がる写真を友人が見せてくれた。これは昨年のゴールデンウィークに撮ったもの。そして,このカタクリを見に行こうと誘われた。自然には疎いほうだが,観光地ではない場所を旅する魅力に誘われて,東北新幹線に乗った。

 ところが今年は東京でも4月に雪が降るほどの寒さ。果たして,カタクリの里,岩手県西和賀町は5月というのに雪がたっぷり残っている。長靴を履いて雪道を踏みしめ,林に分け入っていく。案内の人が「ほら,そこに」と指さすほうに目を凝らすと,高さ5センチくらいのカタクリがすっくと雪の下から顔をのぞかせている。茎の先にはつぼみが固く巻いているが,その根元周囲2センチばかり雪が溶け黒い土が見える。か細いカタクリだけれども,春を感じ,芽を出し,花を開かせようとするエネルギーを発散させているのだ。

連載 すっきり&やすらぎアロマ・4

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 アロマ(芳香)は薬草を意味するハーブからつくられます。ハーブは人の歴史とともにあり,病いや傷を治し,心をも癒してきました。「ああ,いい香り」と私たちが思えるのも,その香りに潜んでいる治癒の力を心のどこかで求めてのことかもしれません。

 今回は見た目も人を魅了するバラを取り上げます。意外なことにバラは古代からその香りと薬効のためにのみ注目され,その姿かたちの美しさが品種改良もあって愛でられるようになったのは後々のこと。バラの精油はその1滴にも大量の花びらが必要とされるため驚くほど高価です。

連載 読むことと旅すること 人との出会いに魅せられて・4

6月に寄せて 服部 祥子
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 梅雨,アジサイ,蛇の目傘,普通はこうでしょうが,今回はシェイクスピア,6月の風,桜桃忌,としましょう。6月に誘われて,今,頭に思い浮かぶものを並べるとこうなりました。

 イギリスの文豪シェイクスピアの作品のなかに,素敵に楽しい戯曲『夏の夜の夢』があります。これは超自然界の王とその妃の他愛ない夫婦げんかと,いたずら好きの小妖精が惚(ほ)れ薬を間違って使ったために若い恋人たちが思いがけない行き違いに巻き込まれてしまうという,どたばたを演じるお話ですが,最後は一夜の夢として,すべてが丸く収まる幻想喜劇です。原題は“A Midsummer-Night's Dream”。

連載 お母さんといっしょ・19

薬局のバカヤロー 横谷 順子

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ついに薬事承認された気管カニューレ

 1990年の保険収載以来,わが国では多くの神経難病患者に対して在宅人工呼吸管理が実施されてきた。また,人工呼吸器を用いずとも,気管切開のみの患者も多い。これら患者のケアに対し,在宅現場で責任をもってマネージメントができるのは,実は医師ではなく,看護師,それも訪問看護師である。

 これらの患者のケアにおいて,気管カニューレからの喀痰吸引は非常に重要な課題といえる。病院内であるならば,常時看護師が勤務しているため,喀痰吸引は問題にはなりにくい。なるとしたら,個別の病室にいる患者の状態の把握や,院内感染等の問題であろう。

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 このたび,私たち「(社)認知症の人と家族の会東京都支部」は,『若年認知症の人と家族のために~サービス利用のてびき~』を発行しました。この発行に至る背景として,若年認知症の現状と実態と,私たちの活動についてご紹介いたします。

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 「病院では,どうしてこんなに多くの種類の薬が処方されるのだろう」「必要な薬をきちんと内服してもらうためには,どうしたらいいかしら」「こんなに厳しい血糖コントロールがこの人に必要なのかしら」「もしかしたら薬の副作用かもしれない」などなど,訪問看護現場で,薬剤について悩んだ覚えがあると思います。

 とくに筆者が専門とする在宅ホスピス緩和ケアでは,痛みなどの症状緩和のために,医師と協働で,麻薬やその他の薬剤をどのように内服してもらうかが訪問看護師の数ある役割のなかでも大きなものになっています。本書はその役割を果たす際に役立つ一冊です。

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編集後記 伊藤 , 杉本
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●特集・上之園論文の表1で,さまざまな教育課程を修了した15万6000人(常勤換算)もの介護職が訪問介護に携わっていることを知りました。訪問看護師よりはるかに多い人数の介護職が在宅ケアの現場を支えている。医行為をめぐる待ったなしの状況に,看護師だけではできないことも,多くの介護職の力をもってすればのり越えることができるはずと国は考えたのですね。被介護者・家族も含めて,そこには相互の信頼感がないとなりませんが,納得のいく養成教育や今後のあり方へのステップが準備されてこその連携・協働の実現と思いました。……伊藤

●洞爺湖の縄文遺跡で,重度の小児麻痺だが20歳すぎまで生きたと推定される遺骨が発掘されている。四肢他に強い筋萎縮の跡があり,長年介護を受けていたと推測されている。唯でさえ厳しい環境の北海道で,医療も制度もなかった時代に,「この子を生かそう」とする働きが,意志的にか当たり前にか,そのムラでは機能したのだ。縄文人の心境やいかに? 彼の地を訪れた時,その骨を納めた資料館は積雪で休館。気温は零下,天気は曇天。でも一瞬,雪雲の途切れて青空がのぞき,洞爺の湖面を輝かせた。『逝かない身体』は,その瞬間を思い出させてくれる。……杉本

基本情報

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訪問看護と介護
15巻7号 (2010年7月)
電子版ISSN:1882-143X 印刷版ISSN:1341-7045 医学書院

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