連載 ほんとの出会い・52
紅紫の花の妖精と 純白の水芭蕉
岡田 真紀
pp.555
発行日 2010年7月15日
Published Date 2010/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101649
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紅紫の小さな花びらをピンと反り返らせたカタクリの花が,宮沢賢治の世界を思わせる古びた小屋の周り一面に広がる写真を友人が見せてくれた。これは昨年のゴールデンウィークに撮ったもの。そして,このカタクリを見に行こうと誘われた。自然には疎いほうだが,観光地ではない場所を旅する魅力に誘われて,東北新幹線に乗った。
ところが今年は東京でも4月に雪が降るほどの寒さ。果たして,カタクリの里,岩手県西和賀町は5月というのに雪がたっぷり残っている。長靴を履いて雪道を踏みしめ,林に分け入っていく。案内の人が「ほら,そこに」と指さすほうに目を凝らすと,高さ5センチくらいのカタクリがすっくと雪の下から顔をのぞかせている。茎の先にはつぼみが固く巻いているが,その根元周囲2センチばかり雪が溶け黒い土が見える。か細いカタクリだけれども,春を感じ,芽を出し,花を開かせようとするエネルギーを発散させているのだ。
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