LiSA 26巻5号 (2019年5月)

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左不全麻痺という神経学的異常を有する患者に対する麻酔法を選択するうえで,何を基準とするかが今回のテーマである。特に今回は,認知症のために詳細な神経学的評価が困難という,判断の難しい状況を想定した。

 高齢化が著しい日本では,多くの施設で同様の症例を経験する可能性がある。脊髄くも膜下麻酔および全身麻酔ともにリスクを有する患者に,どのように麻酔法の選択を行うか,3施設にPLANを立ててもらった。

 読者の施設ではどのような周術期管理を行うか。また,選択した麻酔法でうまくいかなかったとき,どのようなバックアッププランを準備するのか。ぜひとも一緒に考えていただきたい。

予告編
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次号の症例カンファレンスの提示症例を,一足先に紹介する。

自施設にこのような症例が来たら,どのような麻酔計画を立てるか,事前に考えておいてほしい。次回,

各施設のPLANをお楽しみに!

徹底分析シリーズ 筋弛緩モニタリング リターンズ!

巻頭言 高木 俊一
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折よく,日本麻酔科学会「安全な麻酔のためのモニター指針」が改訂(第4回)された(2019年3月)。注目すべき点は,筋弛緩モニタリングに関する項目のみが変更になったことである。欧米のガイドラインに先行する踏み込んだ画期的な判断である。具体的には「筋弛緩モニターは必要に応じて行うこと」から,「筋弛緩薬および拮抗薬を使用する際には,筋弛緩状態をモニタリングすること」に変更された。

 この文言は,今回の改訂に携わった委員らが熟考した結果である。筋弛緩モニターは,まだまだ普及率が低く,常備している筋弛緩モニターの種類によっては母指のみにしか使用できないなど,すべての症例への使用を義務付けることが難しい。そのため「筋弛緩モニターを使用して筋弛緩状態をモニタリングすること」とはしなかったと推察される。

 筋弛緩状態をモニタリングすることには,握力テスト,挙上テスト,舌圧子テストなど,臨床的評価も含まれる。しかし,臨床的評価が回復の指標にならないことは周知の事実であるから,安全性や訴訟の可能性などを考慮すると,筋弛緩モニターを使用して客観的評価を記録として残すことが求められる。

 本徹底分析では,筋弛緩モニターの歴史に始まり,神経刺激の原理,刺激による反応をとらえる各種トランスデューサの特徴と具体的機器の使い方,これから日本に導入される機器の情報までを網羅した。この特集が,筋弛緩モニタリングを再考する機会となり,さらなる普及の後押しになれば幸いである。

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筋弛緩の指標といえば,四連反応train-of-four(TOF)比が頭に浮かぶと思います。TOF比はコントロールを必要としない便利な指標で,モニタリング機器としては,日常臨床で使用できるTOFウォッチ®やTOF-cuffなどがあります。しかし,心電図,パルスオキシメータ,自動血圧計などが必須のモニターとなっている中で,術中管理や術後合併症対策として重要と考えられる筋弛緩モニターの使用頻度は非常に低い状態です。まずは,筋弛緩モニタリングの歴史から振り返ってみましょう。

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神経刺激

個々の神経とそれが支配する筋線維群を「運動単位」と呼ぶが,同じ運動単位内でも筋線維ごとに電気刺激に対する感受性が異なる。よって刺激が不十分な場合には,閾値を超えない筋線維では脱分極できず,閾値を超えれば脱分極するといった全か無かの法則が混在した状態となっている。神経電気刺激時,電流値を増大していくと,初めて筋収縮が得られる電流値を「閾値刺激」と呼ぶ(図1)。その後,S字カーブ状に急激に筋収縮反応が増大し,反応がプラトーとなる際の電流値を「最大刺激」と呼ぶ。最大刺激時には対応するすべての神経線維が脱分極し,その神経に支配されるすべての筋線維が収縮していることになる。よって,最大刺激でモニタリングを継続すればいいように思われるが,その最大刺激値を変化させる要因が麻酔の時間経過とともに加わる。

 例えば,経皮的な神経刺激の場合,全身麻酔中に電極と皮膚との接触性変化や皮膚の乾燥などの因子により,インピーダンス(皮膚抵抗)が増加する可能性がある。そして,抵抗が増加すれば神経に到達できる電流値が減少してしまう(オームの法則「電流=電圧/抵抗」から推定できる)。また,肢位が変われば電極と神経間距離も容易に変化する。そこで持続的な筋弛緩モニタリングをする場合には,それらの変化に対応でき,安定した筋収縮反応が得られるよう,あらかじめ最大刺激の10〜20%増の「最大上刺激(supramaximal stimulation)」を用いるのが一般的である。

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近年,腹腔鏡下手術など低侵襲で長時間の手術が普及している。腹腔鏡下手術はもとより,開腹手術や呼吸器外科手術などは,術中の不動化,視野確保のために筋弛緩薬投与は必須である。ロクロニウムとそれに続くスガマデクスの登場以降,より安全に適切な筋弛緩状態が維持できるようになった。しかし,安易な筋弛緩薬の使用は,術後の残存筋弛緩や呼吸器合併症のリスクになる1,2)。より有効にかつ安全に筋弛緩薬を使用するためには,筋弛緩モニタリングが必須である。

 本稿では,筋弛緩モニタリング時に用いられる刺激パターンと刺激部位について解説する。

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最初の主役はMMG

電位感知型筋弛緩モニターelectromyography(EMG)から始まった臨床における筋収縮モニターは,幾多の輪廻を重ねている。筋収縮を感知する方式のゴールドスタンダードは,筋の収縮を力トランスデューサでとらえる「力感知式」である。筋弛緩モニターに関する刺激方法を含めた基礎研究,安全性を評価する方法の検討など,蓄積されたデータの多くは力感知型筋弛緩モニターmechanomyaography(MMG)によるものである。

 EMGが筋弛緩モニタリングの初期にゴールドスタンダードとならなかったのは,数mVという微弱な電位変化をとらえてインピーダンスを変換し,約100万倍(120dB)に増幅させ,フィルターを通してノイズから分離して記録する,ということが難しかったからである。複雑な解析システムのために,その当時は必要機器がとても大きかった(図1)。これに対してMMGは,セットアップこそ大変ではあるが,力はトランスデューサで容易にとらえることができ,ノイズのない電気信号に変換しやすいことが有利に働いた。そして,MMGは筋収縮センシングのゴールドスタンダードとなり,一世を風靡した。

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本稿で記載する加速度感知型筋弛緩モニターacceleromyography(AMG)の代表は,TOFウォッチ®(Organon社)であり,現時点で最も普及している筋弛緩モニターといってよいであろう。最近掲載されたconsensus statementでは,筋弛緩モニターが広く用いられるに至らない背景は,コストではなく取り扱いが簡便ではない点が障壁,と述べられている1)。また,理想の筋弛緩モニターの必要条件として,手のポジションの影響を受けない,キャリブレーションが容易,結果の再現性が良好で,セットアップが容易,などが挙げられており,これらはある意味,現在のAMGの欠点ともいえる。

 とはいえ,筋弛緩モニターを各手術室に配備することによって,残存筋弛緩の発生頻度が低下することが示されており2),理想に近い筋弛緩モニターが広く普及するまでの間は,現有の資産を最大限に活用して残存筋弛緩を回避していく必要がある。

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ヒトの筋弛緩状態の評価を行った記録として最も古いものは,1941年のHarverらによる筋電図を用いた報告1)だと思われる。この研究では,キニーネメトクロライドを使用したときに,筋電図で電位や持続時間が減少したと報告した。臨床的な筋弛緩薬を使用した報告としては,1959年にデカメトニウム,スキサメトニウム,d-ツボクラリン,ガラミンの投与前後の筋弛緩状態の変化を研究したChurchill-Davidsonらの報告2)が最も古いとされている。このように,電位感知型筋弛緩モニターelectromyography(EMG)が,筋弛緩モニターとしては最古の測定方法に位置付けられる。

 一方,圧感知型筋弛緩モニターcompressomyography(CMG)であるTOF-cuff®に筆者が初めて触れたのが,2014年のヨーロッパ麻酔科学会(ESA)の年次集会時。すなわち,EMGとCMGには70年以上の開きがある。

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筋弛緩モニターを使用していても,その測定原理やピットフォールを知らないと思わぬところで足をすくわれてしまう。モニターに表示された値が患者の筋弛緩状態を正しく表しているのかどうか,常に自問自答しながら上手に付き合っていくことが重要である。

快人快説

D&I研究:EBMの次の一手 島津 太一
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公衆衛生,医療の領域で関心が高まっているのが「D&I研究」である。dissemination and implementation researchのことで,「普及と実装研究」と訳される。エビデンスを効果的,効率的に日常の保健医療活動に取り入れることができるか,という問いに答えるための研究である。

 保健医療の分野では,evidence-based medicine(EBM)の考え方が浸透し,ランダム化比較試験(RCT)を代表とする研究知見の蓄積により,何を(what)すればよいかが診療ガイドラインなどで示されるようになった。しかし,その多くのエビデンスにもとづく介入が,日常の診療に十分に活用されているとは言えない。そこで,D&I研究の出番である。

連載 判例ピックアップ 第26回

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●Summary

深頸部膿瘍患者の切開排膿手術に対する全身麻酔で,意識下挿管が試みられたが,挿管時の偶発的口腔内出血後に患者は呼吸困難となり,気道確保に難渋し,結果的に重度の低酸素脳症に陥って植物状態を経て死亡した。患者側は,医師には気管切開又は気管穿刺を行うべき時期の判断を誤った過失があったと主張したが,裁判官は認めなかった。

連載

THE Editorials
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The New England Journal of Medicine

Perspective:

Macario A, Harman AE, Hosansky T, et al. Evolving board certification - glimpses of success. N Engl J Med 2019;380:115-8.

■日本と米国の医師免許と麻酔科専門医制度は異なっている

日本と米国では医師免許の取得や更新の方法,さらに専門医制度も異なっている。私の経験も含めて紹介したい。私たちレジデントが米国専門医を取得する際に言われたのは,「まず,人として立派であれ。次に医師として立派であれ。専門医はそれらがあって初めて成り立つものである」ということであった。

 米国では,州により医療関係の法律が異なっており,医師免許は州政府(State Medical Board)が発行する。全米共通の医師免許はない。私は,マサチューセッツ州の医師免許はもっているが,その州医師免許ではカリフォルニア州で医療をするわけにはいかず,新たにカリフォルニア州で医師免許を取得する必要がある。医師免許を得るための必須資格には,Accreditation Council for Graduate Medical Education(ACGME)に認定された研修病院での1〜2年間の研修が含まれている。私もEducational Commission For Foreign Medical Graduates(ECFMG)およびVisa Qualifying Examination(VQE)による限定的な医師免許によりマサチューセッツ総合病院(MGH)の麻酔科レジデントとなり,その1年目に3日間にわたる州医師免許試験を受験した。

 米国では医師免許も1〜2年ごとに更新する必要がある。私は現在はマサチューセッツ州で医療をしていないので,医師免許はinactiveとなっているが,2年ごとに1回2万円以上の更新料を支払っている。これをactiveに戻し,マサチューセッツ州で医療を行えるようにするには,患者安全を含む生涯教育制度Continuous Medical Education(CME)所定の単位を取得する必要があり,CME認定委員会〔Accreditation Council for Continuing Medical Education(ACCME)〕が認定した教育プログラムに参加する必要がある。これらは,米国および国際的な主要学会への参加や通信教育(米国麻酔科学会も生涯教育プログラムをもっている)で単位を取得できる。

 米国で麻酔科専門医になろうとすれば,Member Board of the American Board of Medical Specialtiesに属するAmerican Board of Anesthesiology(ABA)という,麻酔科に特化した委員会(Board)の認可を得る必要がある。ABAにより課される所定の試験に合格すれば,Diplomate of ABAという資格を得ることができる。私が取得したころのDiplomate of ABAは,更新が不要な無期限のものであったが,近年は更新が必要になっている。生涯教育を受け,Maintenance of Certification in Anesthesiology(MOCA®)programによる試験に合格する必要がある。ABAの従来のMOCAに代わるMOCA 2.0については,http://www.theaba.org/MOCA/About-MOCA-2-0を参照していただきたい。ちなみにMOCAでは,患者安全に関するABA認定のCMEを含み,250単位のCategory 1 CMEを取得する必要がある。初回の更新には年間210ドル,それ以降の更新には年間100ドルの費用がかかる。

こどものことをもっと知ろう 第2回

小児外来診療のコツ 児玉 和彦
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麻酔科研修中の医師

こどもの術前診察って難しいですね。

泣いちゃって診察にならないし,親も怒っているように見えるし,辛いです。

小児科医はよく毎日やっていられますね〜。

小児科医

あのねぇ,こどもを落ち着かせて,親とも仲良くなるコツがあるのですよ。

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NYSORAは,Dr. Admir Hadzicが運営している区域麻酔の教育プログラムです。

2016年からは,臨床現場で実際に神経ブロックを行う様子を見学するNYSORA Boot Campというプロジェクトが開始され,筆者は2018年12月に参加しました。

Tomochen風独記

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ドイツ小児心臓センターDeutsches Kinderherzzenrtum(DKHZ)における心臓麻酔について,これまで4回に分けて紹介しました。今回は前回(2018年6月号)お伝えできなかった部分も含めて,改めて執刀前からです。

クラシック音楽談義 ゆるりと音楽の話をしませんか 第1回【新連載】

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これから数回にわたって,クラシック音楽の歴史やトリビアなどを書いてみたいと思います。時々思い出したように医学ともつながっていくので,楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。

Enjoy! ワイン

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こんにちは。ワイン安部です。

南仏へのワインを巡る旅。今回は,渡仏のメインイベントであるオーガニックワインの展示会「ミレジム・ビオ」の様子と,生産者訪問です。

diary

富山県黒部市 片岡 久嗣
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富山県東部に位置する黒部市は人口4万人余り。トロッコ電車や宇奈月温泉が有名で,北アルプス(写真1)と黒部川の自然を中心とした土地です。最近ではトロッコ電車の終点から,黒部ダム建設当時に使われていた区域内をさらに進み,北アルプスの山々を間近に展望できるツアーも行われ,ちょっとした冒険体験ができます。また扇状地なので,湧き水も豊富で,市内には20か所近く水汲み場(写真2)があり,誰でも自由に利用することができます。近所の人は炊事や洗濯にも使っています。黒部市の魅力は山だけではありません。“天然のいけす”とも称される富山湾に面しており,1年中,旬の海の幸を味わうことができ,春のこの時期はホタルイカが有名です。ホタルイカ漁の見学ツアーでは,ホタルイカの発光が見られます。

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目次

基本情報

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LiSA
26巻5号 (2019年5月)
電子版ISSN:1883-5511 印刷版ISSN:1340-8836 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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