理学療法ジャーナル 52巻9号 (2018年9月)

特集 バランス再考

EOI(essences of the issue)
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 さまざまな疾病・障害によって起こる動作困難に対してどのように理解し,評価し,治療していくかは理学療法臨床において最大の課題である.この動作障害を規定する中核的概念が「バランス」であると考えられる.しかし「バランス」は各人が多様相性,多義性を含む各々の定義によって頻用されていると思われる.そこで本特集では,姿勢制御にかかわる「バランス」に関して概観し,その評価方法,バランス障害への治療的アプローチに言及し今後の展望を含め再考することとした.

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はじめに

 本稿では,バランスについての考え方の変遷の概略を示したのちに,神経系理学療法領域におけるバランスの捉え方の今日的理解について述べる.バランスの全体像およびバランスについて考える際の視点を提供することで,読者のバランスについての理解に役立つことを期待している.

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はじめに

 バランス障害に対して古典的に効果が認められている運動療法は数多く,筋骨格系・感覚系・神経系に対するアプローチが存在する1).Horakら2)はバランス制御にかかわる要因を生体力学的制約,安定性限界と垂直性,予測的姿勢制御,姿勢反応,感覚指向性,歩行安定性に分けて評価手法を確立した.これら各要因を原因としたバランス障害に対するアプローチ方法はおのおの異なる.

 バランス機能にかかわる神経機構も明らかになってきた.随意運動の発現には上下肢遠位筋優位に制御する外側運動制御系(四肢の運動)と,体幹および上下肢近位筋に優位な内側運動制御系(姿勢制御)が大脳基底核・視床を介して密接に関与し,特に姿勢制御に関与する神経機構には内側脊髄路系が関連している3).内側運動制御系の運動関連領野(補足運動野・運動前野)は豊富な皮質-網様体投射を介して網様体脊髄路を動員し,その経路は姿勢制御に重要な役割を果たす3).また,大脳基底核・小脳も姿勢制御に密接なかかわりをもっている.大脳基底核の障害として代表的なパーキンソン病(Parkinson disease:PD)では,歩行障害や姿勢調節の異常など運動機能障害が生じる.また,体幹機能を司る小脳が起因となって失調様の症状により,姿勢制御が困難となる.

 近年,これらのネットワークまたは中枢神経の領域に物理的な刺激を加え,その働きを修飾する手法(ニューロモジュレーション)による研究が発展し神経局在・ネットワークの解明が進むとともに,広く臨床研究が展開されるなかで,バランス障害の改善に関する報告が数多くなされている.

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はじめに

 なぜ,小脳の障害によりバランスの障害が生じるのか.小脳がバランスに重要な役割を担っていることは,萬年1)によれば1899年のバビンスキーによる症例H. M. の記載にまで遡るとされている.バビンスキーが病理解剖により小脳萎縮があることを突き止めた症例H. M. の現象の観察から,アシネルジー(asynergy:共同運動不能)という病態メカニズムを提案して1世紀余り,小脳に関する膨大な神経科学の知見の蓄積による飛躍的な理解の高まりを受け,理学療法においても小脳障害の病態機序に立脚した理学療法が望まれるが,いまだその壁は高い.

 小脳の神経学的障害によって生じる運動障害は,同一部位の障害にもかかわらず,多くのバリエーションがあることを臨床的に経験する.図1,動画1に示す2症例はともに純粋小脳型の一病型である皮質性小脳萎縮症(cortical cerebellar atrophy:CCA)だが,対照的な姿勢動揺を示している.同じ病型でこのような現象の違いが生じるのは,小脳のどのようなはたらきによって説明できるのか,それとも小脳系以外の関与によるものなのか.患者個々に最適な理学療法を考案していくためには,このような類似症例の現象の異同を適切に捉えることが求められるだろう.

 そこで,本稿では小脳障害の代表疾患である脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration:SCD)の立位・歩行のバランス障害について,その現象と背景にある神経系の機能変化および修飾要因について概説する.続いて症例提示では小脳失調症のバランス障害が小脳の神経学的欠損(neurological deficit)だけによらず,脳のシステム的な影響を受け得ることについて提示し,小脳障害によるバランス障害を脳のシステム障害として捉える視点を提案したい.なお,SCDは小脳運動失調を共通した症候としつつも,病型により多系統障害が加わり多様な表現型をとるため,本稿では純粋小脳型のspinocerebellar ataxia(SCA)6,SCA31,CCAについて述べていく.

*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2020年8月20日)。

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はじめに

 超高齢社会の現在では,65歳以上の高齢者の年間転倒発生率が約20%であり,そのうちの約10%は骨折に至る1)とされ,重大な問題となっている.転倒の要因は外的要因と内的要因との大きく2つに分けられる.外的要因とは床面の状況や照明といった環境要因を指し,内的要因とは立位バランス能力を含めた主に身体機能を指す.高齢者の転倒予防には両要因ともに改善が必須となる.

 立位バランス能力の評価には,重心動揺計などの測定機器を用いる評価指標とファンクショナル・リーチなどの臨床場面で使用されている評価指標とがある.多くのバランス能力の評価指標では,目に見える結果で良し悪しを判断することになるが,結果のみでは問題点の詳細は不明確である.高齢者のバランス障害への理学療法を提供するためには,目に見えない運動・姿勢制御の過程を理解することも重要と考える2).本稿では,転倒の内的要因(認知プロセスを除く)と加齢変化について述べ,転倒予防に向けた臨床上の私見を加えて概説する.

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はじめに

 ヒトは重力環境下において,視覚,体性感覚,前庭系の情報を統合することで身体を垂直に定位している.この垂直性は,姿勢定位と安定性にかかわる要因として重要視されている1).身体の垂直性は,脳損傷後の運動麻痺や体幹機能障害,感覚障害などによって損なわれ得るが,近年,姿勢定位にかかわる認知的側面として主観的垂直認知が重要であることが指摘されている.これは,自己が感じる垂直位を視覚的・徒手的・身体的に定位する課題であり,半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)やPusher現象により,垂直認知の平均偏倚量(傾斜方向性)や標準偏差値(動揺性)が変容することが示されている.すなわち,自己が認識している垂直軸を誤って認知することや垂直判断の不確実性が姿勢バランスに影響すると考えられている.

 本稿では,垂直認知の測定の実際,垂直認知の障害特性とバランスとの関連,および垂直認知を考慮した理学療法介入について概説する.

特別企画 理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則改正のポイント・1【新連載】

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改定の背景

 「理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則」とは理学療法士・作業療法士教育のミニマムな基準を定めたものであり,修業年限,教育内容,教員の人数・条件,教育上必要な機械器具等の設備,臨床実習施設・実習指導者等についての規則である.表1に指定規則をめぐる歴史について示した.ここで注目すべきは1966年に制定された当時から比較して総時間数に対する臨床実習時間の割合の減少と,1999年に実施されたカリキュラムの大綱化と単位制の導入である.2009年に内山1)は「最近10年間の社会の変化は目まぐるしく,また,これまでの改正の頻度等から勘案しても近いうちに改正の議論がなされる可能性が大きい」と指摘し,これに備えるべく日本理学療法士協会では2012年4月に「指定規則等特別委員会」による答申書を作成した.

 その内容の骨子は,以下のとおりであった.

 ① 養成課程の修業年限を4年とすることを前提とするが,現状で3年制課程が多数設置されていることを考慮して修業年限3年での教育課程も併記した.

 ② 養成課程教員の要件について,理学療法関連業務の経験年数に加えて学士学位を有することを条件とした.

 ③ 理学療法士である教員の定数は,現行より2名増員とした.

 ④ 臨床実習施設の要件として,設備要件に代えて人的要件を設けた.

とびら

新しい扉 原田 和宏
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 日常で起こる問題の対処作業がようやく少し“楽しい”と思えるようになった.それまで自分の内側に向いていた何かが外向きになったと感じられ,人として丸くなれたとうれしく,同時に年齢が進んだきざしと寂しくもある.裏を返せば,青年期の私は日々の些末な問題対応や周囲との調整対応が心情的には大嫌い(やるべきことはやったがまあまあの面倒くさがり)だった.振り返るにこの変容には過去の経験(世話になったこと,失敗や努力)すべてが役立っている.

 昔読んだ本の1つを読み返した.植村直己著『北極点グリーンランド単独行』(文春文庫).稀代の冒険家が犬ぞりで挑んだ日記で,命からがらのハプニングや生死を分ける決断が次々に淡々と書かれていてあらためて感動した.単独行にはそれまでの冒険と比較して,空輸による物資補給や人工衛星を活用した位置確認といった科学的技術が加わったこと,事前情報も多めに得られたことを幸いとしながらも,しかし現場では繰り返し危険に遭遇し,相棒の犬もクレバスに失い,瞬時の判断をそれらが和らげてくれるわけではなかったとしている.“危険”とはこの場合,絶命のことであり,『何かが自分を守ってくれていると思うことが,かえってその危険を大きくする』とする戒めがあった.北極点をめざして北極海上にいたときには氷点下40℃を下回り,時に氷点下50℃を突破する極限環境で手足の感覚を失い生死の狭間で進んでいた.それに比べて,続くグリーンランド縦断は気温については氷点下10℃台の行程であったにもかかわらず,あるとき氷点下20℃まで冷え込んだ瞬間に指が凍えて音を上げそうになったとある.『人間なんて本当に甘えだしたらきりのない存在』とする戒めが印象に再び残った.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

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 運動をしている物体がもつ仕事をする能力を運動エネルギーという.運動エネルギーは物体の質量と速度の2乗に比例する.物体の質量をm,速度をvとすると運動エネルギーKEは,下記の式で表される.

  KE=1/2mv2

オリパラ関連企画 理学療法士が知っておきたい重要なスポーツ動作・9

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ボッチャとは

 ボッチャは脳性麻痺を中心とする重度四肢麻痺者が参加可能なスポーツで,赤・青の2チームに分かれ,ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールに,自身のチームカラーのボール(各色6球)を投げたり転がしたり,ほかのボールに当てたりして,いかに近づけるかを競うターゲットスポーツである.障害に応じてBC 1〜BC 4の4クラスがあり,特にBC 3は,障害が最も重く自身の上下肢を用いて直接ボールを投げたり蹴ったりすることができない選手が該当する.彼らは,競技アシスタントやランプ(勾配具)という専用の補装具を用い,自身の意思と責任にもとづき,すべての競技を遂行する.その際,競技アシスタントが,ボールが転がる状況やジャックボールの位置を振り返って目視してはならず,そのような行為は反則として扱われる.

 このように,自身が直接ボールを投げられなくても,パラリンピック選手になり得るところが,ほかのどの障がい者スポーツ競技よりも重度障がい者が参加できるスポーツとしてボッチャが位置づけられているゆえんである.

入門講座 高齢者の理学療法を行うために知っておこう—検査・栄養・薬・運動・1【新連載】

高齢者の検査値の特徴 佐藤 尚武
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はじめに

 「高齢者の検査値の特徴」を語るうえで難しい点は,高齢者の健康状態の定義が困難であるため,検査値の判断指標である基準範囲の設定が難しいことである.基準範囲(基準値)の設定手順を表1に示す.後述するが,検査値には加齢変動を示すものがあるので,高齢者に対しては高齢者用の基準範囲を設定し,これを指標として検査値を判断することが望ましい.

 高齢者の基準範囲を設定するためには,高齢者の基準個体を選定する必要がある.基準個体を健康な高齢者とした場合,加齢に伴って身体機能の個人差が大きくなるため(図),この健康な高齢者の定義が難しいのである.一定年齢の成人までは,身体機能の個人差は比較的小さいので,肥満度や自覚症状,慢性疾患,服薬などの有無で選別すれば,健康成人を基準個体として選別することは比較的容易である.しかし高齢者の場合は,自覚症状や診断されている慢性疾患がなくとも,身体機能が低下し図のグレーゾーンに至っている個体が少なからず存在する.このグレイゾーンの個体を基準個体としてよいかどうかという点と,健康な個体とグレイゾーンにある個体との識別が難しい点が,高齢者の検査値を考える際の問題点となる.

講座 発達障害・3

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知的遅れを伴わない発達障害における治療教育とソーシャルスキルトレーニング

 注意欠如・多動性障害(attention deficit/hyperactivity disorder:AD/HD),自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder:ASD),限局性学習障害(specific learning disorder:SLD),発達性協調運動障害(developmental coordination disorder:DCD)など,知的遅れを伴わない発達障害(以下,発達障害)の本質的問題はそれぞれ異なる.しかし,いずれの障害も,行動や認知発達上のアンバランスや困難があり,しかも知的遅れがないことによりそのアンバランスや困難が周囲から理解されにくいという点で共通している.

 特に,知的レベルが高いほど周囲の理解を得にくく,本人自身も高い能力をもっているにもかかわらず自分の困難さの本質がよくわかっていないことから日常生活での悩みも深まる.このような発達障害では,幼少期から年齢に見合った障害の自覚を促しつつ,行動や認知のアンバランスや困難に対処する方法を見出すよう支援していく必要がある.

臨床実習サブノート どうする? 情報収集・評価・プログラム立案—複雑な病態や社会的背景の症例・6

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はじめに

 脳血管障害は,脳血管に生じた異常により虚血や出血を来し,その部位により種々の機能障害を呈する疾患の総称です.長らく日本人の死因の上位を占め,厚生労働省1)の調査では総患者数は117万9000人とされています.寝たきりの原因疾患では第1位です.

 脳血管障害の多くは,脳卒中として急激に発症します.一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)を除く脳卒中は,最重症例では発症後間もなく死亡しますし,軽症例では何の障害も残さず短期間の入院の後に元の生活に戻ることができます.その間を埋める障害の程度はやはりさまざまです.脳は部位によって機能局在があるので,損傷部位や範囲によって運動麻痺や感覚障害,高次脳機能障害といった神経脱落症状が生じます.それらが引き起こす日常生活における種々の不便を最小限にして,いかに充実した生活,ひいては人生を営める状態にするかが回復期リハビリテーションの重要な役割です.その人ごとの生活の再建を図るには,国際生活機能分類(International classification of functioning,disability and health:ICF)を用いて障害を包括的に捉える視点が必要です.

 回復期と言うと,急性期よりも時間の流れがゆったりとしていて1人ひとりの対象者にじっくり向き合えるというイメージをもっている人も多いかと思います.これはある意味では正しいですが,ある意味では間違っています.たしかに,対象者とともにする時間は相対的に長いかもしれません.しかし,ゆったりなどしてはいられません.脳卒中では効果的に機能回復を望める期間が限られます.その間に最大限の結果を出さなければなりません(図1)2).また,時期によって回復のメカニズムが異なります(図2)3).その時々に最も適した理学療法を提供するためには,的確な評価と考察に基づいたリアルタイムの障害像把握が不可欠です.また,評価に際しては,ガイドラインなどで推奨される標準的な指標を用いることも大切です.

 ここでは,2度目の脳卒中発症という,障害像の理解が少々難しい症例に対する理学療法の介入について考えてみたいと思います.

甃のうへ・第62回

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 少子化によりとうとう人口減少が始まりました.そんな時代なのになぜか私のところに通われるこどものお母さんは子だくさんです.兄弟姉妹の赤ちゃんを連れてみえるお母さんについ,「私の分までありがとうございます」なんて冗談交じりに会話が進みます.私はこどもの急性期病院に理学療法士として勤務し31年目になりますが,未婚でこどももいません.ですからお母さん業の本当の大変さは実感しておらず,想像を働かせて歩み寄る努力しかできません.

 私が20歳台のころ,患児のお母さんに課題をお願いし,そのほとんどができていないことに「どうして3つか4つぐらいの課題ができないのだろう.昼間この子が1人いるだけなのに」と本気で思っていました.そんなとき,甥が生まれ,新生児発達評価をさせてもらうために毎週末泊まりで通いました.こどもがいる家庭で過ごす機会は貴重な経験となりました.お母さんは毎日何をやっているのだろうか? 私はそこにいると「何もしないまま時間が過ぎた」と感じました.下田昌克著『今日』(福音館書店)にあるように「こどもを育てる」とはそういうことなのだ,そしてそれが毎日,何年も続くと.

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要旨 【目的】福祉用具の開発研究において,当事者を対象とした臨床評価は欠かせない.そこにはリハビリテーション専門職の関与が期待されるが,その評価手法に関して参照可能な情報は少ない.そこでわれわれは,近年における福祉用具の臨床評価研究の状況を調査した.【方法】Journal of Rehabilitation Research & Developmentに1999〜2016年に掲載された1,601文献を調査対象とした.福祉用具の臨床評価に関連する文献を抽出し,その機器種別,研究フェイズ,研究デザインを調べた.【結果】同誌において最も多く研究された機器種別は義肢装具であり,次いで医療機器と移動機器であった.開発機器を用いた大規模試験は少なく,市販製品の評価研究(第4相)が多数を占めた.研究デザインは自己対照試験が多く,ランダム化比較試験は少なかった.【結論】本結果は,調査対象が特定の学術誌に限定されたものであるが,得られた情報は多様な臨床評価研究の計画および実践に資するものであり,より科学的かつ効果的な研究推進への寄与が期待される.

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要旨 本研究の目的は,介護者(施設の介護職員)と将来の介護・治療者(リハビリテーション学部で学ぶ学生)に対して認知症の非薬物療法に関する意識調査を行い,その結果を踏まえて実践への提言を行うことである.本研究の目的を遂行するために,介護職員と本学の学生を対象とした質問紙調査を実施した.その結果,認知症の非薬物療法においては,自らの専門性を活かしやすい項目を選択する傾向が認められた.実践への提言として,今後の認知症者の非薬物療法の計画と実践においては,多職種で知識を共有し合い個々の専門性を相互に理解して活用していくことの有用性を言及するに至った.

臨床のコツ・私の裏ワザ

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股関節伸展時の内旋による代償

 股関節伸展時の代償として骨盤の後退がみられます.この状態で骨盤の後退を徒手的に修正すると股関節の内旋角度が増加します(図1).外見上は膝蓋骨の外側偏移により外旋しているようにみえますが,大転子,内・外側上顆で触診することで股関節の内旋方向に動いていることが確認できます.この状態で膝関節の屈曲(大腿直筋による影響),下腿の内旋操作(大腿筋膜張筋による影響)を加えても骨盤の動きはみられにくいです.また,股関節内旋の代償に注意して股関節の伸展方向への動きを行うと,上記の代償より早い段階で股関節の伸展へ影響を及ぼしていることが確認できます.内転筋群,体幹屈筋群にアプローチすることで相対的に挙上されていた骨盤が改善されます.骨盤の挙上位,股関節の内旋角度が十分に改善されることで大腿筋膜張筋や小臀筋の伸張位が改善され,中臀筋が収縮しやすい状態では上前腸骨棘と大転子の間で,2横指程度の窪みが触知できます.

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目次

文献抄録

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 「がんのリハビリテーション」の入門書が,辻哲也氏ご編集のもと医学書院から発刊された.本書の序で辻氏は,わが国では,国民の2人に1人は生涯のうちにがんに罹患し3人に1人はがんで死亡する一方,がん経験者(サバイバー)は現在の約500万人から,今後,1年で60万人ずつ増え,「不治の病」であった時代から「がんと共存」する時代になったと述べている.国を挙げてがん対策が進められているゆえんであり,そこにはリハビリテーションの必要性があると思う.続いて辻氏は,「がんのリハビリテーション」には,がん医療全般の知識が必要とされると同時に,周術期,化学療法・放射線療法中・後の対応,骨転移,摂食嚥下障害,コミュニケーション障害,リンパ浮腫,緩和ケア,心のケアなど高度な専門性が要求されることを示し,高い専門知識と多職種協働の必要性を説いている.このようにがんのリハビリテーションが必要とされる現在にあって,わが国においては「がんのリハビリテーション」を学ぶための実践的な入門書がほとんどなかった.

 本書は入門書として,EBMに配慮しつつ,執筆者の豊富な臨床経験から培われた内容が盛り込まれており,多職種協働を前提として,がんのリハビリテーションに関する基本的な医学的知識,各専門職の取り組みを具体的に紹介した内容となっている.学生においては臨床実習前に,また,臨床においては,がん患者と接する前にまず読むべき本であるといえる.

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 私と高橋仁美先生の出会いは秋田大学医学部保健学科(当時秋田大学医療技術短期大学部)に着任した20年前の1997年にさかのぼる.当時,日本では,呼吸リハビリテーションは始まったばかりでその認知度は低く,手探りでリハビリテーション・プログラム作成にともに取り組んだことが思い出される.仁美先生は,熱血漢であり,アイデアマンでもある.また,仁美先生の強烈な個性は万人がよく知るところであり,お酒が入るとその人格が180度の変身を遂げるのも彼が皆から慕われるゆえんである.

 2005年に発表した「座ってできるCOPD体操」は彼のオリジナルである.自分の子供さんをモデルにして,簡単なステップ体操を考案したという.運動療法の普及が期待されていたが,冬期間は雪で外出がままならない秋田ではその実施は困難であった.椅子に座ったままかつDVDを見ながら簡単に楽しく行えるCOPD体操は,仁美先生の究極のアイデアであり,秋田県のみならず全国における呼吸リハビリテーションの実践,普及に大いに貢献した.その後,このCOPD体操は英語論文として掲載され,同氏の医学博士論文の一部にもなった.現在,こうしたCOPD体操や呼吸筋トレーニングを取り入れた低強度運動療法を中心とした在宅呼吸リハビリテーション・プログラムは全国展開しているのではないかと自負している.このような呼吸リハビリテーションの普及活動が評価され,同氏は秋田県医師会からの推薦を受けて第41回医療功労賞(県)を受賞している.

次号予告

編集後記 網本 和
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 バランスという言葉は日常的に使用されており,経済用語では収支のバランス,軍事的脅威のバランス,ファッションコーディネートにおける美的バランスなどそれぞれの世界において多様な意味をもつことが知られています.一方,理学療法領域においては「バランス」は各人が各々の定義(?)によって頻用されていると思われ,ここで「 」がついているのはそのような多様相性,多義性を含むという意味を示しています.そこで本号では,姿勢制御にかかわる「バランス」に関する考え方の変遷を概観し,その評価方法,バランス障害への治療的アプローチに言及し今後の展望を含め「再考」することをお願いしました.

 望月論文では,バランスについての考え方の変遷,定義,バランス能力を構成する機能的要素,バランスに影響する要因などについて極めて平易に解説されています.特に図2(ぜひ本文をご覧ください)に示される時間軸を取り入れたまとめはわかりやすいだけでなく美しさも感じます.曰く「バランス能力を改善するためには……機能的要素の向上と関連性の再調整が,バランスを改善するためには動作課題や動作環境の調整」がポイントとなると指摘されています.松田論文ではバランス障害とニューロモジュレーション(NIBS)に関して,NIBSの身体機能への効果,方法,適応,限界などが最新の実験結果に基づいて報告されています.菊地論文では,小脳障害によるバランス障害について,神経生理学的分析を基盤として,歩行開始動作時が困難であった症例に対する,歩行の視覚情報処理に着目した興味深い理学療法が述べられています.福富論文では高齢者のバランス障害に対する理学療法に関して,転倒の理由,転倒予防などについて言及され,さらに右片麻痺の事例を分析し遠位部分からの固有感覚情報付与に焦点を当てた治療によってバランスが改善したという興味深い報告になっています.深田論文では垂直性とバランスに関して,垂直性の測定方法,バランスとの関連,Pusher現象例の特性,そして垂直性を考慮した理学療法のポイントについて述べられています.こうしてみるとバランスについて「再考」する秋が来たのだとあらためて感じます.これからも第2弾,第3弾とこの「再考」は続くかもしれません.

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基本情報

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理学療法ジャーナル
52巻9号 (2018年9月)
電子版ISSN:1882-1359 印刷版ISSN:0915-0552 医学書院

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