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はじめに
なぜ,小脳の障害によりバランスの障害が生じるのか.小脳がバランスに重要な役割を担っていることは,萬年1)によれば1899年のバビンスキーによる症例H. M. の記載にまで遡るとされている.バビンスキーが病理解剖により小脳萎縮があることを突き止めた症例H. M. の現象の観察から,アシネルジー(asynergy:共同運動不能)という病態メカニズムを提案して1世紀余り,小脳に関する膨大な神経科学の知見の蓄積による飛躍的な理解の高まりを受け,理学療法においても小脳障害の病態機序に立脚した理学療法が望まれるが,いまだその壁は高い.
小脳の神経学的障害によって生じる運動障害は,同一部位の障害にもかかわらず,多くのバリエーションがあることを臨床的に経験する.図1,動画1に示す2症例はともに純粋小脳型の一病型である皮質性小脳萎縮症(cortical cerebellar atrophy:CCA)だが,対照的な姿勢動揺を示している.同じ病型でこのような現象の違いが生じるのは,小脳のどのようなはたらきによって説明できるのか,それとも小脳系以外の関与によるものなのか.患者個々に最適な理学療法を考案していくためには,このような類似症例の現象の異同を適切に捉えることが求められるだろう.
そこで,本稿では小脳障害の代表疾患である脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration:SCD)の立位・歩行のバランス障害について,その現象と背景にある神経系の機能変化および修飾要因について概説する.続いて症例提示では小脳失調症のバランス障害が小脳の神経学的欠損(neurological deficit)だけによらず,脳のシステム的な影響を受け得ることについて提示し,小脳障害によるバランス障害を脳のシステム障害として捉える視点を提案したい.なお,SCDは小脳運動失調を共通した症候としつつも,病型により多系統障害が加わり多様な表現型をとるため,本稿では純粋小脳型のspinocerebellar ataxia(SCA)6,SCA31,CCAについて述べていく.
*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2020年8月20日)。
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