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バランスという言葉は日常的に使用されており,経済用語では収支のバランス,軍事的脅威のバランス,ファッションコーディネートにおける美的バランスなどそれぞれの世界において多様な意味をもつことが知られています.一方,理学療法領域においては「バランス」は各人が各々の定義(?)によって頻用されていると思われ,ここで「 」がついているのはそのような多様相性,多義性を含むという意味を示しています.そこで本号では,姿勢制御にかかわる「バランス」に関する考え方の変遷を概観し,その評価方法,バランス障害への治療的アプローチに言及し今後の展望を含め「再考」することをお願いしました.
望月論文では,バランスについての考え方の変遷,定義,バランス能力を構成する機能的要素,バランスに影響する要因などについて極めて平易に解説されています.特に図2(ぜひ本文をご覧ください)に示される時間軸を取り入れたまとめはわかりやすいだけでなく美しさも感じます.曰く「バランス能力を改善するためには……機能的要素の向上と関連性の再調整が,バランスを改善するためには動作課題や動作環境の調整」がポイントとなると指摘されています.松田論文ではバランス障害とニューロモジュレーション(NIBS)に関して,NIBSの身体機能への効果,方法,適応,限界などが最新の実験結果に基づいて報告されています.菊地論文では,小脳障害によるバランス障害について,神経生理学的分析を基盤として,歩行開始動作時が困難であった症例に対する,歩行の視覚情報処理に着目した興味深い理学療法が述べられています.福富論文では高齢者のバランス障害に対する理学療法に関して,転倒の理由,転倒予防などについて言及され,さらに右片麻痺の事例を分析し遠位部分からの固有感覚情報付与に焦点を当てた治療によってバランスが改善したという興味深い報告になっています.深田論文では垂直性とバランスに関して,垂直性の測定方法,バランスとの関連,Pusher現象例の特性,そして垂直性を考慮した理学療法のポイントについて述べられています.こうしてみるとバランスについて「再考」する秋が来たのだとあらためて感じます.これからも第2弾,第3弾とこの「再考」は続くかもしれません.
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