脊椎脊髄ジャーナル 32巻8号 (2019年8月)

特集 頸椎前方手術Up To Date 2

特集にあたって 飛驒 一利
  • 文献概要を表示

 頸椎前方アプローチは脊椎脊髄外科医にとって基本手技の1つであり,整形外科と脳神経外科の共通専門医の取得にあたって,現在すべてのspinal surgeonが行うべき手技となっている.しかしながら,頸椎症性脊髄症・頸椎OPLLに対して,前方からの手術に興味をもちつつも,手技の容易さ,そして医療施設の治療方針,年配の先生がしないとなかなか若い先生は手を出しづらいという社会的事情から,頸椎変性疾患に対し,すべて椎弓形成術によって対応している医療施設もあると聞いている.

 本特集は,31巻(2018年)8月号の「頸椎前方手術Up To Date」の第2弾である.前回の第1弾では,頸椎前方手術での基本解剖,合併症と対策,Midline groove法,経椎体キーホール,PEEK cage,titan cage,前方からの脊髄腫瘍,脊髄動静脈瘻,前方からの椎弓根スクリュー,人工椎間板置換術などを特集させていただいたので,興味のある方は参考にしていただきたい.

  • 文献概要を表示

はじめに

 頸椎後縦靭帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament:OPLL)に対する前方除圧固定術を的確に施行するためには,前方からの骨化巣摘出操作を安全確実に行うことが求められる.本稿では,われわれが開発した頸椎前方からの骨化巣摘出手技(Mid-split open-up法,以下本法)について,特に骨化巣摘出の注意点および摘出手技の実際について論述する.骨化巣摘出操作を完遂するためには,術前からの準備,椎体の展開方法も含め,骨化巣摘出手技以外にもいくつかの注意ポイントがある1).特に術後の気道狭窄および誤嚥性肺炎の管理には,特別な配慮を払わなければならない2,8).本法ではすべての操作が安全に施行可能となるように工夫されており,結果として周術期の合併症軽減にもつながっている.

  • 文献概要を表示

はじめに

 頸椎後縦靭帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament:OPLL)の手術には前方法と後方法がある.多くの症例は拡大椎弓形成術など間接的に脊髄を減圧する方法で対処可能であるが,間接的な減圧がなし得ない症例が存在する.われわれはこのような症例に対して,前方から後縦靭帯を直接切除して脊髄の減圧を達成する方法を選択している.

 一般的に行われる前方手術は,広い幅でcorpectomyを行い,メッシュケージや自家骨を移植してプレートで固定する方法である.われわれは,椎体骨を椎間板ごとブロックとして摘出するosteoplastic partial vertebrotomyによるOPLL除去術を行っている(図 1).この方法は,これまでに報告されているoblique approachを踏襲し,改良を加えた方法である10,11)

 この手術手技の適応病態と手術の実際について論述する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 本術式は,頸椎後縦靭帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament:OPLL)に対する骨化切除術の危険性を顧みて,現在の九段坂病院山浦伊裟吉顧問が提唱した7).すなわち,骨化を菲薄化した後に前方に浮上させることによって脊髄除圧を図る術式である.脊髄および脊髄前角への直接的な圧迫は解除され,さらに前脊髄動脈の血行改善が期待できる.

 よい適応は,骨化占拠率が50〜60%を超える厚い骨化あるいは頸椎の側面アライメントが後弯を呈する場合である.本稿では,その基本的な手技とピットフォールへの対処について述べ,最近の工夫について紹介する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 頸椎前方固定術は,頸椎椎間板ヘルニア,頸椎症性脊髄症,頸椎後縦靭帯骨化症などさまざまな頸椎疾患に適応可能な術式である.頸椎椎間板ヘルニアに代表されるような椎間高位に圧迫病変が限局している疾患では,椎間除圧固定術(anterior cervical discectomy and fusion:ACDF)にて対応可能である.しかしながら,多椎間に進展する後縦靭帯骨化症,破壊性脊椎症,頸椎後弯症変形矯正や脊椎腫瘍手術では,椎体亜全摘(以下,corpectomy)および前方再建手術が必要となる.長範囲前方手術において,移植骨やインプラントの脱転は細心の注意を払うべき合併症の1つである.本稿では,長範囲頸椎前方手術における骨移植および移植骨の安定性を補うインストゥルメンテーション固定の実際について,筆頭著者や共著者の施設での取り組みを中心に紹介する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 頸椎後縦靭帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament:OPLL)での頸椎前方除圧固定術における手術のコツとピットフォール,OPLL骨化巣の摘出方法,硬膜損傷をきたさないための工夫と髄液漏予防,さらにチタンメッシュのみの(AC plateを使用しない)固定術などについて報告する.

  • 文献概要を表示

背景

 頸椎後弯による矢状面アライメント不良に起因する前方注視障害や頸部痛などの症状を訴える場合や脊髄除圧のために必要な場合に,後弯の矯正を検討する必要がある.基本的には,後方のinstrumentを用いた矯正・固定が後弯矯正の主役であることには異論がないだろう7).では,頸椎後弯矯正において前方手術の併用が必須または望ましい状況とはいかなるものであろうか? 筆者の考える前方手術の併用が必須である状況は,①椎体骨折後変形治癒などによる明らかな椎体変形自体が後弯の主因である場合,②後弯を呈したまま椎体間が骨癒合しており後方単独では到底矯正できない場合,③椎間板変性・骨棘形成が高度で後方単独では矯正不足が予想され前方からの解離が必要な場合などが想定される.一方,前方手術の併用が必須ではないが考慮してもよい状況としては,①椎間板変性が高度で後方から単独の後弯矯正がしにくい場合(前方からの解離・固定による椎間板高の増大により矯正が容易になる),②前方固定による椎間高増大で医原性椎間孔狭窄の予防を図る場合などが想定される6)

 術式の選択に際しては,術式ごとに起こりやすい合併症についても考慮する必要がある.頸椎変形に対する矯正手術において,前方単独・後方単独・前後合併それぞれの術式ごとに術後合併症を調べた報告では,後方単独手術に神経合併症が,前後合併手術に嚥下障害がそれぞれ有意に多く発生していた4).特に術前から上肢麻痺や嚥下障害などを併発している症例においては十分な検討が必要であろう.

  • 文献概要を表示

背景

 下顎骨・舌縦割による経口進入法の最初の報告は,1911年のKocherによる耳鼻咽頭科領域の手術である.脊椎外科領域に応用されたのは,1977年のHallらの報告が最初である2).彼らは頭頸移行部の重度後弯変形による脊髄麻痺に対して,本アプローチを用いてC2-5の前方固定を行った.本邦では1980年にHakubaらが環軸関節亜脱臼例1),渡部ら7)やHonmaら3)が脊索腫例,松本らが軟骨肉腫例と間葉系軟骨肉腫例6)に対する本アプローチを用いた手術例の報告をしているが,本術式の報告例は少ない.

 環軸関節上位〜中位頸椎に伸展する椎体腫瘍の摘出術は,周囲の重要臓器(椎骨動脈,脊髄,神経根,食道,気管,頸動静脈)によりアプローチや手術操作に難渋する.棘突起,椎弓,外側塊,椎弓根に局在する腫瘍であれば後方アプローチで対応可能であるが,脊髄より前方部に局在する腫瘍に対しては前方アプローチが必要である.その際の代表的なアプローチに経口進入法があるが,腫瘍が外側や頭尾側に広く伸展する場合は,通常の経口進入法では術野や視野が狭いため十分な摘出が困難となる.そのため,下顎骨と舌を縦割することによりC4までの術野を確保する.本稿では,上位〜中位頸椎椎体に伸展する脊椎腫瘍に対する下顎・舌縦割による経口進入法について概説する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 上位胸椎における前方に存在する脊髄圧迫病変(胸椎椎間板ヘルニア,後縦靭帯骨化症〔ossification of the posterior longitudinal ligament:OPLL〕,腫瘍など)による脊髄症は,脊椎が後弯を有する解剖学的特性上,前方除圧術・前方除圧固定術が有効である場合が多い.近年,後方除圧固定(dekyphosis stabilization)という概念も浸透しており,アプローチの容易さより,選択される頻度が増加しているが,頸椎胸椎移行部の後方インストゥルメンテーションにおいては,ロッドの径に限界があるなど,強度が十分でないという問題も有する.一方,上位胸椎に対する前方アプローチは胸骨,心臓・大血管が存在するため,脊椎外科医にとって難問題の1つである.上位胸椎への前方進入法にはその高位によって,1A)頸椎前方アプローチを尾側に単純に延長する(胸骨温存),1B)頸椎前方アプローチを尾側に単純に延長し,さらに胸骨柄の部分切除を加える4),2)胸鎖関節切除アプローチ(Sundaresan)5),3A)本邦にて藤村らが開発した胸骨柄縦割アプローチ2),3B)胸骨全縦割アプローチ1)などがある.それぞれの長所,短所があり,慎重に選択することが肝要である.

Nomade

Neurospineとは? 尾原 裕康
  • 文献概要を表示

 1992年に弘前大学を卒業後,私が医師としての基礎を学んだのは順天堂大学脳神経外科でした.当初の医局の方針はgeneral neurosurgeonの育成であり,subspecialtyという概念はありませんでした.現教授の新井一先生の采配により,順天堂大学脳神経外科で特に弱かったsubspecialtyの再確立のため,血管内治療,てんかん手術施設へ医局員が出向しました.その流れで私は愛知医科大学にspine fellowとしてお世話になることになりました.中川洋教授の下で修業を積みつつ,中川先生のお計らいで榊原温泉病院の久保和親先生にも師事させていただきました.修行後順天堂大学に戻りましたが,「subspecialtyも含めてgeneralであり,subspecialtyは不要」というスタンスが根強く残っていました.確かに欧米の脳神経外科医は当たり前のように脊椎脊髄手術を行っており,術式に脳神経外科医の名前が冠されているものも多々あります.また,医局内とは別に脳神経外科医があらためてspinal surgeryに手を広げていくことに対する批判もあり,総合的に歓迎ムードとは程遠い状況にありました.上級医が多い環境で一般脳神経外科診療を行いつつ,大学ないし関連施設のspine症例の診療に主張は控えめながら手間は惜しまず積極的に関わるようにしていくうちに,徐々に大学を含め関連施設の脳神経外科,整形外科の先生とも仕事をする機会が増えていきました.特に当時の順天堂大学脳神経外科は小児神経外科疾患手術が非常に多く,小児神経外科疾患の大半は頭蓋頸椎移行部ないし腰仙骨部の病態に関わっているため,大学在籍中は小児脊椎脊髄疾患を多く経験できました.その後,後輩が育ってきたこともあり,2012年に新百合ヶ丘総合病院に異動いたしました.新百合ヶ丘総合病院では脊椎脊髄診療を専門とする部署の立ち上げを行い,周囲の整形外科の先生方とも交流する機会を得ることができました.特に川崎,多摩の脊椎脊髄外科の先生方にはお世話になっています.多くの先生方に手術見学のご許可をいただき,ハンズオンなどでも手術を教えていただきました.中でも経皮内視鏡手術では,小見川総合病院の清水純人先生にお世話になっています.近隣施設の先生方との関係では,セカンドオピニオンなどをお願いする機会も多く,弘前大学同門会会長の石戸谷欣一先生が繰り返し学生にお話しされていた「養生訓」の「前医をそしる我また前医」の言葉を実感したことも一度ではありません.そのたび感謝しています.

 新百合ヶ丘総合病院では脊椎脊髄末梢神経外科と銘打ったため,早くから運動器としての脊椎,骨代謝の問題の重要性を強く実感して診療にあたる必要がありました.そういった背景からか,Neurospineという言葉について深く考えさせられています.脊椎脊髄手術を神経組織の除圧を行う手技としてとらえると,姿勢異常や筋骨系の緊張に伴う痛みなどの症状には考えが及び難い事実があります.画像上の神経障害部位がないからといって,痛みやしびれを気のせいにしてはいけない.一方で,すべての姿勢異常が矯正を求められる「疾病」状態ではなく,第34回日本脊髄外科学会の最終日シンポジウムの最後に金彪理事長がおっしゃった「正しい部位の神経除圧を十分かつ最小限で行うことで改善される姿勢異常もある」ことも,紛れもない事実です.

イラストレイテッド・サージェリー 手術編Ⅱ-108

  • 文献概要を表示

適応疾患

 Pedicle subtraction osteotomy(PSO)は後方から椎体を骨切りして短縮するclosed osteotomyで,主に脊椎の後弯を矯正する種々の手術に用いられる.脊柱変形の中でも,可動性の乏しい硬い後弯変形や椎体変形のために椎体間操作での矯正が困難である症例,つまり医原性を代表とする椎体間の癒合例あるいは隣接した椎体変形例などがよい適応である.PSOには種々の術式があるが,現在では上位の椎間板まで切除する方法が多く用いられている1,2).PSOを施行する椎体レベルは基本的に最も後弯の強い頂椎の椎体,もしくは椎体間が頂椎の場合は1つ尾側の椎体としている(図 1).

書評

脊髄病理学 亀山 隆
  • 文献概要を表示

 ついに待望の『脊髄病理学』が発刊された.本書は本誌「脊椎脊髄ジャーナル」に約8年間の長期にわたって連載されたカラーアトラス「脊髄病理」をまとめたものが基礎となっている.ありとあらゆる脊髄疾患の病理標本がきれいなカラー写真で提示されており,よくこれだけの数の病理標本を集められたものとあらためて感心させられる.脊髄の病理に特化した本としては,古く英国OxfordのJ. Trevor Hughes著Pathology of the Spinal Cord(1966年に第1版,1978年に第2版)が発刊されているが,同書には限られた疾患の病理標本しか掲載されていない.その点で橋詰良夫先生とその後継者である吉田眞理先生による本書は,脊髄疾患がほぼ網羅されており(各論では84の疾患・項目を記載),世界に類をみない大作となっている.

 評者はかつて橋詰先生のもとで脊髄病理の勉強をさせていただいたが,先生の脊髄病理研究への並々ならぬ情熱と執念(「脊髄愛」といってもよい)を感じていた.病理解剖例は神経疾患に限らず全例脊髄を採取し,しかも脊髄全髄節の標本を作製していた.これまでの約40年間で切り出した脊髄は2,000本を超えるそうで,その数は間違いなく世界一であろう.硬い脊椎の中に埋もれている脊髄の採取は,大変骨の折れる仕事であるが,先生は頸髄から馬尾まで硬膜と後根神経節をつけた状態であっという間にきれいに取り出していた.そのみごとな技は重要無形文化財(人間国宝)といってよい.本書は,そのような長年の脊髄病理研究の情熱と苦労の集大成である.

--------------------

目次

次号予告

ご案内

バックナンバー 特集一覧

学会・研究会 事務局一覧

会告案内一覧

編集後記

基本情報

09144412.32.8.jpg
脊椎脊髄ジャーナル
32巻8号 (2019年8月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0914-4412 三輪書店

文献閲覧数ランキング(
9月9日~9月15日
)