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はじめに
脊髄性運動失調は後索性運動失調と同義とされ,脊髄後索病変により深部感覚が障害されて四肢・体幹の運動失調が生ずるもので,閉眼により立位保持ができなくなる(Romberg徴候)など,視覚の代償がなくなると運動失調が悪化するという特徴がある.これが従来からの古典的な考え方で,筆者も学生時代にそのように教えられ,現在も医学教育で教えられているものと思われる.脊髄後索病変で運動失調が生ずるという古典的症候学は,19世紀末にRombergが脊髄癆における特徴的神経症候を記載して,脊髄癆における顕著な病理変化が脊髄後索を中心に認められたために確立され,その後もこの考え方が長く継続してきたものと思われる.しかし,この“古典的後索症候”が,後索病変のみでは永続的には生じず27),Romberg徴候を伴う体幹・下肢の運動失調が出現するためには,脊髄小脳路系の病変が必要であると考えられるようになってきた5).
本稿では,運動失調の歴史的原型であった「脊髄型(小脳ではなく脊髄に主病変があるの意)」の運動失調症の代表疾患について臨床病理を示し,局所性の脊髄後索病変における神経症候の特徴と病態をレベル別に論じて,脊髄後索のみの病変では古典的後索症候は生じないことを考察する.そして,脊髄のみの一次性病変により「脊髄性」の体幹・下肢の運動失調を生ずるには,体幹・下肢からの固有感覚の主要な伝導路である脊髄小脳路系の病変が必要であることを示す.また,直立二足歩行のヒトでは,四足動物と異なり,上肢と下肢では運動・感覚機能に際立った違いがあり,その点と脊髄内の機能解剖との関係についても考察し,従来からの脊髄の感覚症候学を修正したい.
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