書評
脊髄病理学
亀山 隆
1
1中部ろうさい病院神経内科
pp.779
発行日 2019年8月25日
Published Date 2019/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5002201199
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ついに待望の『脊髄病理学』が発刊された.本書は本誌「脊椎脊髄ジャーナル」に約8年間の長期にわたって連載されたカラーアトラス「脊髄病理」をまとめたものが基礎となっている.ありとあらゆる脊髄疾患の病理標本がきれいなカラー写真で提示されており,よくこれだけの数の病理標本を集められたものとあらためて感心させられる.脊髄の病理に特化した本としては,古く英国OxfordのJ. Trevor Hughes著Pathology of the Spinal Cord(1966年に第1版,1978年に第2版)が発刊されているが,同書には限られた疾患の病理標本しか掲載されていない.その点で橋詰良夫先生とその後継者である吉田眞理先生による本書は,脊髄疾患がほぼ網羅されており(各論では84の疾患・項目を記載),世界に類をみない大作となっている.
評者はかつて橋詰先生のもとで脊髄病理の勉強をさせていただいたが,先生の脊髄病理研究への並々ならぬ情熱と執念(「脊髄愛」といってもよい)を感じていた.病理解剖例は神経疾患に限らず全例脊髄を採取し,しかも脊髄全髄節の標本を作製していた.これまでの約40年間で切り出した脊髄は2,000本を超えるそうで,その数は間違いなく世界一であろう.硬い脊椎の中に埋もれている脊髄の採取は,大変骨の折れる仕事であるが,先生は頸髄から馬尾まで硬膜と後根神経節をつけた状態であっという間にきれいに取り出していた.そのみごとな技は重要無形文化財(人間国宝)といってよい.本書は,そのような長年の脊髄病理研究の情熱と苦労の集大成である.
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