胃と腸 11巻5号 (1976年5月)

今月の主題 胃潰瘍癌の考え方

主題

胃潰瘍癌―考え方の変遷 村上 忠重
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 胃潰瘍が先行し,それが癌化したと考えられる癌性潰瘍を潰瘍癌Ulcuskrebsと呼ぶ.

 もともと胃癌は他の癌と同じように,先天性の迷芽がもとになって発生すると考えられていた.後になって迷芽は迷芽でも,後天性に生じた迷芽が問題になるようになった.やがて迷芽説の影がうすれ慢性刺激説が誕生した.その慢性刺激説の一現象として,胃癌においては慢性潰瘍癌化説が生れた.潰瘍の辺縁には慢性の刺激がいつも働いていると考えられたからである.それを組織学的に証明した(と考えた)のがHauserである.Hauserはすでに1890年頃,大きな慢性潰瘍の辺縁の一部のみが癌化している例に遭遇(組織学的に証明)して報告しているが,その時にはまだはっきりとは潰瘍癌化説を打出してはいない.1926年Henke und LubarschのHandbuchの中で,彼は初めて慢性潰瘍が癌化しうるとし,その組織学的証拠として,潰瘍底の固有筋層が断裂し,できればそれが潰瘍底表面にむけて切れ上っており(今の言葉でいえばUl-Ⅳの潰瘍が存在しており),癌はその辺縁のみに存在し,潰瘍底には全く存在しないときに,先行した慢性潰瘍が癌化したと考えてよいと主張した.

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 潰瘍からの癌化の可能性の有無につき論じた研究は数多い.しかし,これを論ずる方法には,①切除された胃について,組織学的に検討する方法(主として,外科医,病理学者の行っている研究の方法)1)~6)と,②潰瘍患者の長い経過を追って検討する方法(主として,内科医の行っている研究の方法)7)~13)16)とに大別できる.そして後者,すなわち潰瘍患者を長い経過を追って検討する場合にも,さらに(a)灘治性潰瘍をずっと追跡する方法と,(b)搬痕治癒した潰瘍患者を追跡する方法とがある.しかし,(a)灘治性良性潰瘍と思って追跡しているうちに癌であった場合,果してその潰瘍が最初から悪性でなかったとの完全な証拠はない.というのは,生検,細胞診がひろく行われるようになってきた今日でも,生検が陰性であったからといって,その潰瘍が悪性でなかったとの断定は完全に正しいとはいえない.そのうえ,難治性潰瘍は多くが早晩手術されてしまい,長い経過を追求することが難しい.また,(b)瘢痕治癒した潰瘍の瘢痕部から癌が発生するか否かを検討する潰瘍治癒後のfollow up studyについても村上ら14),岡部ら15),その他により,悪性サイクルなる事実が実証されて以来,療痕治癒したその部から癌が発生したとして,それが良性潰瘍瘢痕からの癌化とはいえなくなった.したがって,このような事実をふまえて,なお潰瘍の癌化を証明するためには,瘢痕化したさい,その部の完全な生検を行うことが必要である.そして陰性だったことを確認し,そのような多くの症例が後に癌にならなかったか,あるいはかなりの率で癌になったかを判定すればよい.しかし私共は,せっかく治した潰瘍患者の療痕部を生検して,再び潰瘍をつくることに良心的に賛同できず,これは行わなかった.勿論,悪性サイクル症例が疑われる場合,発赤など,周囲粘膜との色調の変化を呈する揚合,凹凸の強いものなどには必らず生検を行った.

 いずれにせよ,潰瘍から癌化した瞬間,1つの細胞が癌化したとき,それを目撃する方法がない今日,本当にそれが潰瘍搬痕からの癌化であったという断定は誰にもできないのであって,多数例につき検討してその趨勢を知り,その上に仮説を立てることしか,現在とるべき道はないと考える.そこで,私共は昭和36年4月より,新潟がんセンターにおいて取扱った胃潰瘍患者のうち,治癒した症例をできる限りその後も忠実に追跡して,その中で潰瘍と思っていたものが胃癌となったというものについて,検討した結果をこれまでも報告したが16)ここに更に詳しく報告してみたい.

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 Hauser(1926)1),Newcomb(1932)2)らによって胃潰瘍癌の病理組織学的判定基準が発表された.しかしStromyer(1912)3)らはこれに反論し,Mallory(1940)4),Palmer & Humphrey5)らは癌巣中の二次的な消化性潰瘍が縮小することを示してHauserらの基準が消化性潰瘍先行を証拠立てるものではないとした.

 わが国においても,その論争のレベルこそちがえ1950年代の後半から1968年にかけ,殊に早期癌を中心に潰瘍癌をめぐる論議は活発に行なわれたが,いずれとも結着がつかないまま今日に至っている.

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 胃潰瘍が母地となって癌ができるのか,癌があってこれが二次的に潰瘍化するのか,すなわち,潰瘍が先か,癌が先かの問題は古くから論じられてきてはいるものの,なお,解明されていない問題である.近時,内視鏡,生検などの診断技術の進歩によって,長期間にわたって胃病変を観察できるようになった結果,悪性(癌性)の潰瘍も良性の潰瘍と同じように,治癒と再発をくりかえすという,いわゆる悪性サイクルの概念がでてきた2).このような知見から,Hauserによって示されたいわゆる潰瘍癌の組織学的特徴も,いささかぐらついてきているのが現状で,癌先行か,潰瘍先行かを切除標本の病理組織所見からのみの判定には限界があるように思われる.すなわち,Hauserによって規定された潰瘍癌も,悪性サイクルの中のある病期の所見にすぎず,はじめに癌があって,これが二次的に潰瘍化した時期の病像にすぎないとの考えが出されるようになってきた1)

 では,この癌巣の二次的潰瘍化はどうして起こってくるのであろうかということが問題となってくる.これにはいろいろの要因があるかと思われるが,まず,胃液による消化作用が考えられよう.癌粘膜は正常粘膜と異っているため,胃液による消化,すなわち,潰瘍化が起こるであろうことは容易に推測される.そこで,本稿では切除早期胃癌例をえらび,これら症例の術前胃液酸度の面から,早期胃癌巣の潰瘍化について,若干の考察を行ってみたい.

胃潰瘍の癌化について 大原 毅
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 慢性胃潰瘍が癌化するか否か,即ち胃潰瘍癌が存在するか否かの問題は,Hauser1)がその基準を示し,Newcomb11)が更に詳細にその基準を設定して以来,論議の対象となってきた.そして,その頻度も3.5~100%の差を示している11).わが国でも,久留4),村上6)7),太田12),長与10)らの研究により,胃潰瘍癌は比較的多いとされていた時期があった(32~79%)13).しかるに近年,中村ら8)9)の微小胃癌の研究によって,一転,胃潰瘍癌は殆んど存在しないという説にかたむいている.その後は,臨床的および病理組織学的な胃潰瘍癌の研究は現われておらず,わずかに,大原16),斎藤17),白井ら20)による実験的な胃潰瘍癌発生の検討がなされているのみである.このように胃潰瘍癌の頻度が大きくゆれ動いたのは,検索材料による差もさることながら,①慢性胃潰瘍からの癌化といっても,潰瘍を覆うべき未熟な再生上皮からの発癌であるか,あるいは,潰瘍辺縁の胃炎性の変化からの発癌か,それとも単に潰瘍と癌とが重なっていることだけを考えたのか,それが論じられることが少なかったこと,②潰瘍癌とする病理組織学的な判定基準が,きわめてあいまいであったこと

―すなわち潰瘍先行と考えられた粘膜筋板と固有筋層との融合の所見が11)12),事実であるかどうかの点,③臨床的な経過観察により,慢性胃潰瘍から癌化したと思われる症例がきわめて少なく,一方内視鏡的経過観察の結果,悪性サイクル5)7)という概念が明らかになってきたこと―などによると思われる.

 したがって,胃潰瘍癌は,すべての面から再検討されるべきものであり,本稿では,はたしてそれが存在するか否かの原点にたち帰って検討し,次に,存在するとすれば,どのような組織病理学的な特徴を有するかを考えてみたい.

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 胃潰瘍を発生母地とする潰瘍癌の存在については臨床的に極めて重要な意義を背負って古くより多くの研究がなされてきた.近年,内視鏡などの診断技術の向上と共に直接胃潰瘍の経時的観察が可能となり,潰瘍癌をめぐる種々の問題に解決のきざしが見えたかに思われた.しかし悪性サイクルの概念9)とそれに伴う組織学的判定の困難さゆえに,潰瘍癌の頻度にも相当のばらつきがみられ,胃潰瘍癌の否定的意見3)11)15)と肯定的意見6)14)の対立となって表われているのが現状である.

 このような臨床的研究の進展と共に実験的解析が問題解決の重要な1手段として取りあげられ,多くの努力がなされてきた.しかし実験的解明には2つの大きな問題が立ちはだかってきた.1つは実験的慢性胃潰瘍の作成であり,1つは実験的胃癌の作成である.両者には共にその確実性と作成法の容易さが要求される.前者においては種々の化学物質の投与1)5),胃壁内への異物や化学物質の挿入2)あるいは外科的粘膜切除13)が試みられてきたが,潰瘍の慢性化,確実性,手技の容易性,潰瘍の非穿孔などを満足する方法としては不充分であった.その中でヨードアセトアミドを飲料水に混じ経口投与するという自然に近い簡単な手法によるラット胃潰瘍の発生実験7)17)は上記の条件をある程度満すものとして注目されるわけである.ヨードアセトアミド胃潰瘍は潰瘍発生部位に特徴があり胃底腺領域に限局性に形成される.本論文ではすぐれた胃癌発生物質としてのMNNGを用い胃底腺部慢性潰瘍の意義について最近の成果を中心に述べてみたい.

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 最近,開発されたイヌの実験胃癌1)~3)は,胃癌の有力な疾患モデルとして広く注目を集めている.特に,同一個体における胃癌の発生過程をprospectiveに観察することが可能なことから,前癌病変と胃癌発生の関連性や胃癌の発育に伴う諸現象などを明らかにしうると期待されている,著者らは,N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)によって誘発されるイヌ胃癌の発生過程を4年2カ月にわたり追跡し,びらんならびに潰瘍性変化が胃癌に先行して発生すること,初期の胃癌には癌巣の潰瘍化やその見かけ上の縮小化(所謂悪性サイクル)がおこることなどの重要な知見をうることができた4).ここでは,経時的観察を行った15頭のうちの代表的な1例,すなわち,胃角部に陥凹型胃癌が発生したNo.3のイヌをとりあげ,その胃癌発生までの経過ならびに初期の胃癌にみられた変化について詳細に述べるとともに,実験胃癌の経過からみた胃癌と潰瘍およびびらん性変化との関連について考えてみたい.なお,この胃癌のその後における発育進展状況ならびにその終末像を次報(Ⅲ)5)に示す関係上,本報の一部には全経過を含めた記載がなされている.

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〔症例6〕T. S. 66歳 女(早期胃癌検診センター例)

 Fig.1は幽門前庭部の圧迫像で,大きさ3.5×2.0cmの蛇行形の粘膜隆起がみられ,完全な環状ではなく大彎側の開放した馬蹄型を呈している.周辺粘膜をみると粗大顆粒状のアレア像があり,それらはFig.2の圧迫像では粘膜ヒダの上にのり,軽度の連珠状配列を認め,一部は小彎軸に平行に“タテー列”を示している.以上より疣状胃炎と診断したが,Fig.1の小彎の蛇行型隆起は周辺の隆起より目立ちⅡa+Ⅱc型の早期胃癌を疑った.

 肉眼及び組織学的所見:幽門部粘膜は粗大顆粒状変化を示し,一部ではポリープ状あるいは蛇行型の隆起を来した疣状胃炎である.小彎の蛇行型の隆起は中心陥凹を有し,周辺に比して目立ちⅡa+Ⅱc型早期胃癌が考えられる(Fig.3).組織学的にはFig.4のように隆起した部分は幽門腺の著明な過形成よりなる疣状胃炎を示し,その中心陥凹に一致して粘膜内癌をまたこの部位に接した口側隆起の表面には異型上皮を認めた.一方,幽門部の顆粒変化も疣状胃炎を示し,腸上皮化生はほとんど認めなかった.

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 S. K. 57歳 男

 レ線所見:立位充盈像では特に異常と思われる所見はない,しかしFig.1,2二重造影像では幽門前庭部後壁に明瞭な粘膜ひだ集中像を見る.集中点はほぼ一点で,ことに大彎側から集まるひだが幅広く肥大して見える.集中ひだ先端の蚕蝕様所見ははっきりしないが,中心の潰瘍をとりまいて周囲にⅡcの輪廓を思わせるごく浅いバリウムの溜りが読める.このⅡc様陥凹の小彎側から幽門側にかけて広い範囲で大小不整,結節様の隆起が集簇して見える.その一部の粘膜面からの立ち上りは明瞭であるが,胃壁の過伸展では不鮮明となる.比較的柔かい感じをうけるところもあるが,診断は広いⅡc+Ⅲ,進行型の癌を疑った.

 内視鏡所見:レ線像の如く胃角後壁に粘膜ひだ集中所見があり,中心部はビランを有している.その周辺に褪色のはっきりした大小不整の隆起がとりまいて,ことに大彎側から集まるひだが太く肥大し,やや突張ってみえる,前庭部には点状出血が散在している.内視鏡的にはまずリンパ腫,次には進行癌を疑った.

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 我々は昭和37年より群馬県対がん協会とタイアップして年間32,000~34,000名の胃集検を行っている.年間受診者総数が群馬県の35歳以上人口の5%たらずという問題はあるにしても,年間50~60例の胃癌(うち早期胃癌40~50%)が毎年確実に発見されており,それなりの成果はあがっていると思われる.しかし一方で,第一次スクリーニングである胃間接X線写真の読影にたずさわっている我々にとって常に「癌を見落してはいまいか」「見落し率はどの程度か」という不安がつきまとっていることも否めない事実である.間接X線の読影能はいわゆる「専門家」を対象にしてもその異常者発見率は60%以下といわれており1),また内視鏡を併用した場合の胃癌発見率が間接X線単独に比して2倍以上になるとの報告2)3)からみても,我々が第一次スクリーニングですでに何%かの癌を見落していることはまぎれもない事実であろう.しかし実際問題として,対象人口が多い場合,全例に内視鏡を併用したり,いたずらに要精検率をますことは不可能である.そこでせめて間接X線像正常群に対する何らかのcheckが定期的に行われ,読影者各自の心のひきしめと,見落しの程度を把握することができればと思い今回の検討を試みた.

 方法は胃間接X線像正常群より10名に1名の割合で無作為に100名を抽出して内視鏡検査を施行し,見落し例の有無を検討した.対照は間接X線像で何らかの異常を指摘され内視鏡検査を施行された100名を無作為に抽出,比較検討した.両群の対象被検者は一般住民検診者および職域検診者を含み,年齢,性比もほぼ近似していた.その結果は以下の通りであった.内視鏡的胃炎の診断は診断医によりかなり幅がみられることと,どこまでを病的と考えるのかという難しい面があるので一応胃炎群と異常なし群を合せて広義の内視鏡的正常群とすると,間接X線正常群で内視鏡的にも正常であったもの97%,間接X線異常群で内視鏡的には正常であったもの82%である.胃潰瘍およびその瘢痕,胃ポリープなど粘膜の凹凸または変形を示す病変についてみると,胃潰瘍は間接正常群対異常群の比が1対5,胃潰瘍瘢痕は0対7,胃ポリープは1対6で,間接X線異常群における有病率がやや高いながらも,病変が存在すればおおむね間接X線でcheckされうることがわかる.しかし問題は正常群から発見された胃潰瘍(幽門直下後壁1cm未満)および胃ポリープ(前庭部大彎,1cm未満の発赤を伴ったポリープ)の各1例で,たまたま今回のサンプルには両群とも胃癌は含まれていないが,もし存在した場合,これが間接X線正常群にも含まれうることが示唆されたわけである.

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 局所注射療法のコツは,それぞれの患者について,その病態を的確に把握し,潰瘍の病期stageに応じて薬剤を選択し,薬用量を考慮することであると前回述べたが,薬剤の面では,とくにベーターメサゾンの用い方が一番のポイントである.潰瘍をつくるとさえいわれ,また本症には一般に禁忌とされているステロイドホルモンを,胃潰瘍の治療にあえて用いたのには,それだけの考えと裏づけがあってのことである.治りづらい潰瘍というものは,その治癒過程において歪が生じ,ことに潰瘍辺縁に過剰な結合織の増生,つまり線維化fibrosisがおこり,硬くなり,それがひいては潰瘍自体の縮小をさまたげる大きな原因になっていると考えた.潰瘍の辺縁が非常に硬ければ,いくら潰瘍治療剤を服用したとて縮小しようにも縮小できないのではなかろうか.それではこの辺縁の強い線維化をとり除き,柔らかくしてやれば,縮小への方向に向うであろうと考えた.いいかえれば,旧い潰瘍は治りにくいが,新しい潰瘍は治りやすい,それなら旧い潰瘍をいったん新しい潰瘍にしてやれば,治りやすくなるのではなかろうかと思い,この目的にステロイドホルモンを用いたわけである.もちろんステロイドホルモンの効果としてこれがもつ抗炎症作用に期待するところも大であった,そして数あるステロイドホルモンの中からとくにべ一ターメサゾンを選んだのは,その強い抗炎症,抗アレルギー作用についての期待もさることながら,水溶性で速効的である点,好都合であったからである.このような作用を有するステロイドをどのstageで用い,どこで中止し,またどういった時に再度追加するかが用い方のポイントであり,本療法のコツでもある.それは個々の例によって違うが,基本的には辺縁の硬い潰瘍が柔らかくなり,内視鏡的に新鮮潰瘍の顔付きをしたところでステロイドの使用をいったん中止し,アラントイン単独注射にする.ステロイドホルモンはやはりむやみに打ち続けてはいけない.下手をすると潰瘍を増大させる可能性があるからだ.

 一週に一度のアラントインの局注によって,やがてそのまま治癒してしまえばよいが,もし潰瘍がぐっと縮小しながらも,あるところまできて治癒傾向がストップしてしまったような場合は,その時点でいま一度,潰瘍底に少量のステロイド(ベーターメサゾン0.8~1.2mgを1~2回)を注射してみる.そうすると,それを契機に治癒に向うことがしばしばある.またベーターメサゾンの注入のコツは1カ所に多量注入するのではなく,少量(0.8~1.2mg)を数ヵ所に分注するのがよい.十二指腸潰瘍にはステロイドホルモンは用いていない.

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 Acanthosis nigricans(黒色表皮腫)は皮膚の乳頭状増殖,色素沈着,角化増生を三徴とし,悪性型(Malignant acanthosis nigricans, MAN)では悪性腫瘍,とりわけ胃癌に併発するため,消化器を扱う者は熟知すべき疾患である.本症は皮膚のみならず,口唇,口腔,食道,直腸,胃,膣などの粘膜をおかすことも知られている.

 しかし,本症が主に皮膚科領域で取り扱オれることもあり,食道病変に関する臨床的報告はきわめて少ない.本症の食道病変は後述のように内視鏡的にもレ線的にもきわめて特異な病像を呈し,食道病変として興味深い.胃癌に併発した典型的Acanthosis nigricansの特異な食道病変を内視鏡像を中心に報告する.

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 胃生検で胃結核,あるいはサルコイドージスを疑い,手術でサルコイドージスと診断した1例を報告する.

症例

 患 者:塗○美○ 42歳の男子

 主 訴:胃部重圧感

 既往歴:家族歴:特記すべきものはない.

 経過:数カ月前から主訴あり.昭和50年2月25目人間ドック(AMHT,自動化検診システム)を受診した.胃X線検査でⅡc様病変を指摘され精査をうけ入院し,4月25日胃切除術をうけた.

 入院時検査所見:顔貌正常,皮膚・眼瞼結膜に貧血,黄疸なし.表在リンパ節腫脹なし.胸部打聴診異常なし.腹部平坦,圧痛抵抗なし.腫瘤触れず.肝,脾を触れない.その他サルコイドージス,または,結核を思わせる所見なし.

 検査成績:尿検査,蛋白(-),糖(2+).便潜血(-).末梢血,赤血球464×104,白血球5,600,Hb15.8g/dl.血液生化学異常なし.梅毒反応陰性.血糖負荷試験(100g T. G. 負荷),前82mg/dl,1時間値172mg/dl.ツ反応陰性.胸部X線検査異常なし.胃液検査BAO 0.008mEq/h,MAO 0.169mEq/h(ガストリン1μg 筋注).胃液培養結核菌陰性.なおKveim反応は施行しなかった.

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 血清蛋白漏失と過分泌過酸症を伴った胃粘膜の巨大皺襞症を経験し,胃全摘出術により臨床像の改善を得たので報告し,メネトリエ病,肥厚性胃炎,肥厚性過分泌性胃症と本症例との関連について若干の考察を行なった.

症例

 患 者:132707 38歳 男 事務系会社員

 主 訴:胸やけと水様性下痢.

 現病歴:10数年前より,時々空腹時に胸やけを自覚していたが,食事や市販の胃散を内服することにより症状は軽快ないし消失していた.約2年前より,食後に胃部のもたれ感を覚えるようになった.この頃より,軟便傾向となり,月に2~3回程度水様下痢便をきたすようになったが,腹痛を伴うことはなかった.この間,体重は不変であった.従兄2人が胃癌で死亡したので,胃腸症状が気になり,精査を希望して北里大学病院外来を受診した.(初診1974年8月5日).上部消化管X線造影ならびに胃内視鏡検査で胃粘膜の巨大皺襞症が指摘され,一般検査で低蛋白血症がみとめられたので,精査と加療のため入院となった.(入院1974年10月7日).

 既往歴:立ちくらみ(小学生時より).副鼻腔炎手術(16歳時).虫垂炎手術(25歳時).腰椎分離症手術(31歳時).輸血歴(-).

 家族歴:姉が胃十二指腸潰瘍で外来治療中(巨大皺襞症はない).従兄2人が胃癌で死亡.

 入院時現症:体格中等度身長166cm.体重57kg.皮膚粘膜に貧血,黄疸なく,異常色素斑なし.表在リンパ節触知せず.甲状腺腫大なし.血圧100~66mmHg,脈拍52/分整.心音清.呼吸音肺胞性.腹部平坦,圧痛なく,肝脾腎ならびに腫瘤触知せず.腹水なし.浮腫なし.

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 大腸のvillous tumorは比較的まれな疾患で,通常みられる腺腫とはその組織発生,形態,生物学的態度などを異にしているため,近年,癌と良性腺腫との境界領域病変1)~6)と考えられるようになってきた.従って本腫瘍の臨床的取り扱いも,次第に意見の統一2)~4)7)~9)がみられるようになってきたといえる.しかし本腫瘍が一つのentityを確立したようにみえても,その概念は今一つあいまいで,まだ臨床的にも病理学的にも未解決の問題を含んだ疾患8)10)~12)と考えられる.

 著者らは61歳の女子で数回の粘血便を主訴として来院し,直腸に6cm大のvillous tumorのあった1例を経験した.本例はわが国の胃生検分類13)のGroup Ⅲ~Ⅳ,Jackman14)らの大腸ポリープ分類の中等度,ないし,高度異型を示す腺管より構成され,ほぼ同じ組織水準で腸壁固有筋層にまで浸潤していた.本例の病理学的問題点,および,臨床像について文献的考察を加え報告する.

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 広範な集簇したポリポイド病変(Ⅱa)と,それに接して,噴門側に極く浅い陥凹病変(Ⅱb様Ⅱc)を有した,いわゆる,表層拡大型早期胃癌を経験したので報告する.

症例

 患 者:43歳女子

 主 訴:心窩部痛

 家族歴:特記すべきことなし.

 既往歴:気管支喘息.

 現病歴:昭和40年頃から食事とは無関係の軽度の心窩部痛があり,某内科医を訪れ,胃X線検査の結果,慢性胃炎の診断を受けた.その後,内科的治療で症状の軽快を認めたが,昭和47年6月頃から同様の症状が現れ,X線検査の結果,胃潰瘍と診断された.治療の結果,症状は不変で,昭和48年6月に再度X線検査を受け,内視鏡検査をすすめられたため,同12日に高原中央病院を受診した.なお食欲は普通で,体重減少なども気付いていない.同20日に胃切除の目的で,日赤長崎原爆病院へ転医し,同年7月2日に幽門側胃亜全摘術を受けた.

 現症:体格中等度.栄養やや不良.理学的所見,一般血液ならびに血清学的検査に異常を認めず.胃液検査(ガストロテスト)は無酸.便潜血反応陰性.血清総蛋白 7.0g/dlであった.

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 消化管疾患は診断と治療の進歩に伴って,大都市の総合病院では早期に発見され,全治する患者が激増している.一方,これらの病院には選択された患者が集中する傾向にあり,その疾患の発生頻度は統計的に高くなるであろう.したがって,地方に取り残された老人を主として診療している病院において剖検された症例から,良性隆起性病変を中心に消化管病変の発生頻度を調査しようと試みた.

 このような見地から,福岡県の旧筑豊炭田地区にあり,内科・精神科の診療を行なっている鞍手共立病院を選び,最近約9年間になされた連続500剖検例について,消化管の局在病変を検索したので報告する.

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 この調査はアメリカ内視鏡学会の後援のもとに学会の研究委員会が行った.著者も委員として調査に参加したので,日本の内視鏡医諸家にも参考になると思われるので発表したい.この論文に発表された意見は著者らのもので学会自体の意見ではない.

 ファイバースコープによる消化管内視鏡検査が臨床的に重要であり患者がよく耐えることについての報告は数多いが,新しい内視鏡による合併症についての報告は非常に少ない.1969年Katz1)による内視鏡合併症の広範囲な調査以後,全く新しい型のファイバースコープも使用され始めた.(大腸ファイバースコープ,内視鏡によるポリープ切除術,逆行性膵胆管造影術等々).1974年春にアメリカ内視鏡学会(U. S. G. E. )の研究委員会(The research committee)が内視鏡による合併症の調査を行った.この論文はその調査結果についての報告である.

一冊の本

The Esophagogastric Junction 竹本 忠良
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 長い上部消化管全体を考えれば,食道・胃境界部はほんのshort segmentにすぎないのであるが,この短かい領域はながい間,多くの臨床家と研究者の非常な関心の的となっている.

 前にもD. B. Skinnerほかの編集のモノグラフGastroesophageal Reflux and Hiatal Hernia(Little,Brown),1972年版をこの「1冊の本」に紹介したことがあるが,次号の「胃と腸」の特集号にちなんで,以前私がたいへん興味をもって読んだD. KatzとF. Hoffman編のThe Esophagogatric Junctionを紹介してみよう.

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欧文目次

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 第二次大戦後,物理化学,生化学の著しい進歩の成果が臨床医学に導入され,客観的な検査にもとづく,診断のための手段・施設として,各病院に臨床検査部がスタートした.

 しかし,当初はこの検査部の利用者である臨床各科との連絡が十分でなく,常に正当に評価されていたとはいい難く,現在なおこの傾向は残存しているといってよい.

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 この手術書は,Philippe Détrieの原著「Techniques Opératoires de l' Abdomen」が,Richard Preyer博士の手で英語版「Techniques in Abdominal Surgery」として出版され,また,今回石川教授,草間助教授が日本語版として出された国際的な出版物である.日本語訳は,原著に忠実,かつ,簡潔にして自然であり,しばしば経験する翻訳文の読みにくさを全く感じさせない.およそ,外科医のカンどころを捉えた名訳といえよう.また,理解を助けるためにところどころに,英訳者によるCommentとしての「註」が設けられ,それとは別に,石川教授,草間助教授による貴重なCommentが,「訳註」として付されている点も親切である.

 図譜は,原本(英訳版)のものと全く同一で,複写したものではないのできわめて鮮明,文宇通りfull colourのもの176図,119頁にわたり外科医の眼でみた実感を盛りあげた簡素な中にも,味わいのあるユニークな手術書である.

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 アルコール性肝障害と薬物性肝障害について,臨床から基礎へ基礎から臨床への橋渡しの作業が遂行された.―これが本書をひもどいた第一印象である.

 伊藤 進博士は共同研究者とともに生検を活用しての探求をつづけてきたが,臨床と基礎とが一体となった病理として,それを本書に結実した.この書は,また深く広く扉を開いて,両疾患を中心に肝臓病への周到な入門の書へと配慮されている.

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 このモノグラフの内容を紹介するに先立って年余をSt. Mark's病院で共に生活した者として著者Dr. Bussey(バッシー)の紹介をしておきたい.彼は17歳でカレッジを卒業すると直ちにSt. Mark's病院のDr. Dukesの下に勤務して以来50年同病院に勤続している同病院のエンサイクロペディア的人物である.Non-medical manであるが,Dr. Dukesの下で標本作りからはじめて,病理組織診断学も習得し,大腸癌,大腸ポリープの研究を続けてきた.St. Mark's病院から出されるあの素晴らしいデーターのほとんどすべてはDr. Busseyの詳細な記録に負うところが大きいのである.Dr. Dukesと共に最初にはじめた仕事がfamilial polyposisに関するものであり,以来50年間コツコツと自ら集め分析した研究成果によって1970年,Lodon大学のPH. D. を取得した.そしてその50年間の功績に対して女王よりの0. B. E. (The Order of British Empire)称号が授与された.

 本書は著者50年にわたるlife workをまとめたものである.衆知のように,1952年Dukesによってfamilial polyposisの臨床病理学的概念が確立されたのであるが,その骨子となったのは1925年Lockhart-Mummeryによって発表された3家系を中心とするSt. Mark's Hospital Polyposis Registerであった.本書にはこの病院に登録された294家系,617例の患者の中で,St. Mark's病院で手術された170例を中心とした統計的分析,臨床病理学的分析が詳細に記載されている.患者の性差,年齢分布からはじまって腺癌の分布,大きさなど,われわれの知りたい全ての情報が示されている.いわゆるnon-familial typeのpolyposisに対する明確な解答も出されているし,20~30個のmultiple adenomasの例の位置づけも明かにされている.病理学的事項についてはadenoma formationの初期像および癌とfamilal polyposisについての関係に多くの紙面が割かれている.ここに示されている統計的数字から,われわれはどれほど恩恵を蒙るか知れないだろう.Familal polyposis posisのnatural course,治療の結果,残存直腸における癌発生のriskについても,息の長い経過観察の結果が示されており大変参考になる.合併病変の中に胃疾患が含まれてはいないが,これは将来日本の研究成果が取り入れられることになろう.

編集後記 常岡 健二
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 潰瘍と癌との因果関係は今世紀のはじめから今日まで種々論ぜられてきたが,最近の趨勢としては,両者の関係を全く否定しえないまでも,恐らく無縁のものと考えるようになった.臨床家にとっては,潰瘍性病変について,癌であるか,ないかを正しく診断することが大切であり,たとえ初診時にできなくとも,なるべく早いつぎの機会に正しく診断することが要求される.現在の診断技術はこれを十分に可能としている.ただ注意すべきは悪性潰瘍サイクルの存在である,これは日本で生れた概念であり,Hauserその他の潰瘍癌説を痛撃したものであるが,陥凹型癌性病変を正しく診断する上に大切である.

 本特集には,村上教授の潰瘍癌の変遷,八尾・渡辺,原先生の臨床経過からみた潰瘍癌発生の可能性,白井・花之内・伊藤,大原先生の実験胃癌から潰瘍癌発生の事実等が集められている.潰瘍癌に代る概念として瘢痕癌がどこまで立場を維持できるか,また臨床的には悪性サイクルを証明できれば潰瘍の癌化といえるものは殆んど零に近いという事実がある反面,実験的には強力な発癌物質を用いれば潰瘍癌作成が可能である等,基礎的問題としては未だ研究すべき点が多い.

基本情報

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胃と腸
11巻5号 (1976年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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