- 有料閲覧
- 文献概要
我々は昭和37年より群馬県対がん協会とタイアップして年間32,000~34,000名の胃集検を行っている.年間受診者総数が群馬県の35歳以上人口の5%たらずという問題はあるにしても,年間50~60例の胃癌(うち早期胃癌40~50%)が毎年確実に発見されており,それなりの成果はあがっていると思われる.しかし一方で,第一次スクリーニングである胃間接X線写真の読影にたずさわっている我々にとって常に「癌を見落してはいまいか」「見落し率はどの程度か」という不安がつきまとっていることも否めない事実である.間接X線の読影能はいわゆる「専門家」を対象にしてもその異常者発見率は60%以下といわれており1),また内視鏡を併用した場合の胃癌発見率が間接X線単独に比して2倍以上になるとの報告2)3)からみても,我々が第一次スクリーニングですでに何%かの癌を見落していることはまぎれもない事実であろう.しかし実際問題として,対象人口が多い場合,全例に内視鏡を併用したり,いたずらに要精検率をますことは不可能である.そこでせめて間接X線像正常群に対する何らかのcheckが定期的に行われ,読影者各自の心のひきしめと,見落しの程度を把握することができればと思い今回の検討を試みた.
方法は胃間接X線像正常群より10名に1名の割合で無作為に100名を抽出して内視鏡検査を施行し,見落し例の有無を検討した.対照は間接X線像で何らかの異常を指摘され内視鏡検査を施行された100名を無作為に抽出,比較検討した.両群の対象被検者は一般住民検診者および職域検診者を含み,年齢,性比もほぼ近似していた.その結果は以下の通りであった.内視鏡的胃炎の診断は診断医によりかなり幅がみられることと,どこまでを病的と考えるのかという難しい面があるので一応胃炎群と異常なし群を合せて広義の内視鏡的正常群とすると,間接X線正常群で内視鏡的にも正常であったもの97%,間接X線異常群で内視鏡的には正常であったもの82%である.胃潰瘍およびその瘢痕,胃ポリープなど粘膜の凹凸または変形を示す病変についてみると,胃潰瘍は間接正常群対異常群の比が1対5,胃潰瘍瘢痕は0対7,胃ポリープは1対6で,間接X線異常群における有病率がやや高いながらも,病変が存在すればおおむね間接X線でcheckされうることがわかる.しかし問題は正常群から発見された胃潰瘍(幽門直下後壁1cm未満)および胃ポリープ(前庭部大彎,1cm未満の発赤を伴ったポリープ)の各1例で,たまたま今回のサンプルには両群とも胃癌は含まれていないが,もし存在した場合,これが間接X線正常群にも含まれうることが示唆されたわけである.
Copyright © 1976, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.