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このモノグラフの内容を紹介するに先立って年余をSt. Mark's病院で共に生活した者として著者Dr. Bussey(バッシー)の紹介をしておきたい.彼は17歳でカレッジを卒業すると直ちにSt. Mark's病院のDr. Dukesの下に勤務して以来50年同病院に勤続している同病院のエンサイクロペディア的人物である.Non-medical manであるが,Dr. Dukesの下で標本作りからはじめて,病理組織診断学も習得し,大腸癌,大腸ポリープの研究を続けてきた.St. Mark's病院から出されるあの素晴らしいデーターのほとんどすべてはDr. Busseyの詳細な記録に負うところが大きいのである.Dr. Dukesと共に最初にはじめた仕事がfamilial polyposisに関するものであり,以来50年間コツコツと自ら集め分析した研究成果によって1970年,Lodon大学のPH. D. を取得した.そしてその50年間の功績に対して女王よりの0. B. E.(The Order of British Empire)称号が授与された.
本書は著者50年にわたるlife workをまとめたものである.衆知のように,1952年Dukesによってfamilial polyposisの臨床病理学的概念が確立されたのであるが,その骨子となったのは1925年Lockhart-Mummeryによって発表された3家系を中心とするSt. Mark's Hospital Polyposis Registerであった.本書にはこの病院に登録された294家系,617例の患者の中で,St. Mark's病院で手術された170例を中心とした統計的分析,臨床病理学的分析が詳細に記載されている.患者の性差,年齢分布からはじまって腺癌の分布,大きさなど,われわれの知りたい全ての情報が示されている.いわゆるnon-familial typeのpolyposisに対する明確な解答も出されているし,20~30個のmultiple adenomasの例の位置づけも明かにされている.病理学的事項についてはadenoma formationの初期像および癌とfamilal polyposisについての関係に多くの紙面が割かれている.ここに示されている統計的数字から,われわれはどれほど恩恵を蒙るか知れないだろう.Familal polyposis posisのnatural course,治療の結果,残存直腸における癌発生のriskについても,息の長い経過観察の結果が示されており大変参考になる.合併病変の中に胃疾患が含まれてはいないが,これは将来日本の研究成果が取り入れられることになろう.
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