胃と腸 11巻4号 (1976年4月)

今月の主題 研究・症例特集

研究

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 萎縮性胃炎を実験的に作る方法として,古くから温水や化学薬品などを直接胃に投与したり1),胃の一部を切除する2)という方法で,まず急性胃炎を起させて,その後に慢性胃炎を作るというやり方とか,自己,同種および異種の胃液3)や胃組織を投与して萎縮性胃炎を起す方法4)などが知られている.

 臨床的立場から萎縮性胃炎を考える場合,この疾患が自己免疫性であるという考え方が支持されているため5),実験的には胃抗原投与を行なって同疾患を誘発させるという方面からの研究が進められてきている.このような方法に用いられてきた実験動物はイヌ3)4)であって,モルモット,ラットやマウスにおいては抗原処理による萎縮性胃炎の発生の報告はない6).もし小動物を用いてイヌに見られるような萎縮性胃炎を発生させることが可能であるならば,その発生過程を多くの動物を用いて詳細に追跡研究することができるはずである.われわれは最近マウスにラットやマウスの胃抗原を投与することにより萎縮性胃炎を発生させることができた7)~9).同様な方法により,ICRマウスの胃抗原を同系のマウスに投与したところ,異種の抗原投与の場合と異なった結果が得られたので,その結果を報告する.

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 一般に胃に発生する腫瘍は大部分が癌腫で,それ以外の非癌性腫瘍は比較的少ない.この非癌性胃腫瘍のなかで,比較的しばしばみられるのは上皮性の良性腫瘍であるポリープである.その他の非上皮性腫瘍が所謂胃粘膜下腫瘍である.さらに非上皮性腫瘍ではないが,迷入膵,好酸性肉芽腫等も粘膜下にある時には胃粘膜下腫瘍として取り扱われている.本邦に於ける胃腫瘍の診断は,胃癌,殊に早期胃癌の診断に努力がはらわれ,診断率は100%近くに達している.一方,胃粘膜下腫瘍の診断に関しては種々の試みがなされているが,未だ満足すべき方法はない.われわれは胃癌の診断に,胃生検と併用して胃穿刺吸引細胞診を行い良好な成績を得たので,さらに胃粘膜下腫瘍の診断にも応用した.先ず胃穿刺吸引細胞診の方法を述べ,本法が胃病変,特に胃粘膜下腫瘍の診断に有効であることを強調したい.

器具および方法

 胃穿刺吸引細胞診は,胃生検用ファイバースコープ(GFB2)を用い,生検鉗子の代りに穿刺吸引針(Fig.1)を直視下に病巣に刺入,直接病変部より細胞を吸引採取する方法である.長さの異る2種類の穿刺吸引針(4mm,6mm)を準備し,病巣の深さに応じて適宜使用している.以下本法の実施方法を述べる.

①生検用ファイバースコープを挿入,目的の病変をとらえる.

②鉗子孔を通して穿刺吸引針を挿入,目的の部位を粘膜を通して穿刺する(Fig.2).

③20mlのディスポ注射器に1mlの生理的食塩水を容れ,これを穿刺吸引針に接続.注射器に陰圧を加えることにより,粘膜下組織の吸引を行う.

④この操作を部位を変え,あるいは針の長さを変え数回行う.

⑤採取された検体は主として穿刺針内に留っており,あらかじめ注射器内に容れた生理的食塩水にて99.5%エチルアルコール2ml内に噴射する.この操作により細胞は約70%エチルアルコールにて直ちに固定されることになる.

⑥遠沈によって得られた沈渣よりPapanicolaou染色塗沫標本ならびにH-E染色Cell-Block標本を作製する.

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 胃癌の大部分は腫瘤の崩壊によって潰瘍を形成し,その表面から出血する.しかし,胃潰瘍の揚合にみられるような大量出血をみることは稀で,潜血反応で認められる程度の微量出血であることが多い1).筆者らは最近,6例の吐血を主訴とする胃癌症例を経験したが,1例を除き,癌性潰瘍の大きさや深達度は必ずしも高度なものではなく,全例とも十分根治手術可能であった.これらの症例を供覧するとともに,顕出血を主訴とする胃癌症例の術前診断,切除胃標本の性状等について若干の文献的考察を加えて検討してみた.

症例

 〔症例1〕26歳 男

 生来,健康で特に自覚症状はなかった.通勤途中,約400mlの吐血をし,当院外科に入院した.入院直後,再度約300mlの吐血をした.

 胃X線所見:2度のX線検査で特記すべき所見を発見できず,胃内視鏡診断後,3度目のX線検査で,胃体上部大彎に不整皺襞集中を認めた.

 胃内視鏡所見:胃体上部大彎に皺襞集中を伴った辺縁不整な潰瘍があり,Ⅱc+Ⅲ型早期胃癌と診断した.

 胃生検でgroupⅤと診断し,幽門側胃亜全摘出術(リンパ節廓清度R2)を施行した.

 切除胃肉眼所見:胃体上部大彎に1.5×1.2cm大の皺襞集中を伴った不整潰瘍があり,その潰瘍底部に露出した血管の断端を認めた.組織学的所見はTable6参照.

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 高齢者に発生する疾患はより若年者層のものと本質的には変るものではないと言えるが,ただ加齢による機能的・器質的変化に多分に修飾され,それ故にその老化の変遷と疾患像の推移とを追求することは本質の解明に大きく役立つと考えられ,重要である.例えば,萎縮性胃炎の程度の増強と慢性胃炎の位置の問題,びらん性胃炎,ポリープあるいは早期胃癌の発生状況等は検索を要するにたる素材である.

 この意味において薬物性潰瘍が高齢者に発生することを探求することは,その発生機構の解明にかなりの比重をもちうると考えうるので,今度われわれが経験した薬物初発の潰瘍を内視鏡並びに一部病理学的に検討し報告したい.

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 良性疾患で胃切除を受け,術後数年を経て発生した胃癌は一般に残胃癌といわれている.残胃癌の報告例は欧米では多いが,本邦では少なく,山下ら1)によると中村ら2)(1953年)の報告以来1971年までに106例の報告例があるのみである.これら残胃癌の報告例のほとんどは進行癌で,山下らは残胃早期癌の報告はわずか5例に過ぎないと述べている.山岸ら3)も残胃早期癌の報告はわずかに7例のみであると述べている.しかしながら,山下ら1),山岸ら3)の報告例の中には,学会報告のみで詳細が不明なもの,あるいは胃切除後5年以内に発見された例も含まれている.したがって,胃切除5年以上経過した残胃早期癌の文献的報告例はさらに少ないものと思われる.

 著者らが文献的に調査したところ,残胃に発生した早期癌の報告は6例のみであり,きわめて稀であると思われる.このたび著者らは,胃潰瘍術後27年目に発見された残胃早期癌を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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 幽門近旁部は粘膜の萎縮および腸上皮化性を強く来し,さらにビランや潰瘍などの修復に伴う変形を生じやすく,その上,胃の旺盛な蠕動運動の影響をうける部位である.それにX線検査では,十二指腸とか脊柱との重なりのために鮮明な描出が困難で,また内視鏡検査でも従来は変形とか遠景のために目的部位の観察が充分でなかったり,生検も不正確に終ることが多かった.したがって悪性病変を疑いながらも確診を得るに至らないままに胃切除術を施行したが,その後の組織学的検索にて良性であったものや,悪性を強く疑いながらも確診できず,そのまま経過観察のやむなきにいたった症例も経験してきた.

 しかし,最近の側視式十二指腸ファイバースコープ(JF-B),またGIF-Dを中心とした直視式のPanendoscopeの開発により,幽門およびその近傍部を直視下に正面像をとらえ,詳細な観察と正確な生検により,幽門近旁部病変の診断を正確に,とりわけ微小胃癌の術前診断をも可能にした.

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 一般に胃腸管系に発生母地の違った悪性腫瘍が共存することは極めて稀である.最近,我々は臨床的にボールマンⅠ型の胃癌の診断のもとに胃切除術を行った症例に,噴開部から胃底部にかけて平滑筋肉腫と,それとは独立して体部後壁にⅡc型早期癌とが共存した非常に稀な1症例を経験したので報告する.

症例

 患 者:42歳 男 会社員

 主 訴:えん下困難

 家族歴・既応歴:特記事項なし

 現病歴:1973年8月ごろより物を食べると呑込みにくくなったり,また腹部膨満感が時々あるも放置していた.しかし前記症状が1974年3月ごろより次第に強くなったので同年5月当科を受診した,なお,上腹部痛,下血等の胃腸症状はなかった.

 入院時現症・検査所見:体格中等度で栄養状態は可.眼瞼結膜および球結膜に貧血,黄疸はなし.頸部および鎖骨上窩リンパ節は触知しない,心肺は特に異常なし.腹部は平坦で圧痛などもなく肝,脾腫もなし.腱反射は正常.血圧120-70mmHg.尿検査は正常.便潜血反応は陰性.赤血球418万.Ht38%,Hb129/dl.白血球8,700.肝機能はほぼ正常.梅毒反応は陰性.胸部レ線およびECGには異常なし.血沈1時間値17mm.

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 胃に発生する癌肉腫は稀な疾患である.著者らがここに報告するものは肉眼的にはBorrmannⅡ型進行胃癌が疑われたが,組織学的に著明な間質反応を伴う腫瘍であって,これを癌肉腫とすべきか,肉腫様形態を伴う異型的な癌腫とすべきか判断に迷うものである.元来,癌肉腫のentityに関しては諸家により見解を異にし,その存在自体を疑うものも多いが,本症例の特異な組織像より著者らは“いわゆる癌肉腫”として報告する.

症例

 患 者:63歳 男性

 主 訴:心窩部重圧感

 家族歴:父(43歳)と母(80歳)共に胃癌で死亡.同胞5人には特記事項なし.

 現病歴:約20年前より某院で便秘のため冶療を受けていた.1970年8月30日,心窩部に重圧感および膨満感があり是真会東望病院を訪れたが,心窩部痛,胸やけ,嘔気その他の消化器症状はなかった.同年9月1日,胃X線検査を受け前庭部小彎に巨大潰瘍があり穿通性胃潰瘍を疑われ同院に入院した.

 入院時現症:体格大,栄養状態良好.眼瞼結膜に貧血なく,眼球結膜に黄疸なし,脈拍80整,緊張良好,血圧130/70.口腔および咽頭に著変なく,舌苔厚し.頸部リンパ節腫脹なし.心肺に理学的所見なし.腹部は平坦.軟で圧痛,抵抗もなく腫瘤触知せず.肝,脾,腎はともに触知せず.下肢に浮腫なく腱反射正常で病的反射なし.

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 近年胃のX線検査,内視鏡検査,細胞診,直視下生検などの検査法の発達は著しく,胃癌をはじめとする各種胃疾患の診断治療を容易ならしめるとともに,臨床病理学的知見の進歩に大きく貢献している.しかし胃癌や胃潰瘍に比べ胃リンパ腫やその類縁疾患は発生頻度も低く,その臨床病理学的知見の確立にはなお個々の症例の集積や解析が必要と思われる.

 筆者らは最近臨床的にⅡc型早期胃癌と考えられ,生検組織の鏡検においてreactive lymphoid hyperplasia(以後RLHと略す)を示唆されたが,最終的には切除胃の組織学的検索によって多発性濾胞性リンパ腫と診断された1例を経験したので,その臨床経過の概要と病理学的知見を報告する.

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 Double pylorusは稀なもので,文献的にもわずかの報告がみられるにすぎない1)~7).しかし,最近ではレントゲン検査技術が進歩し,内視鏡検査も頻繁に行われるようになってdouble pylorusの診断は増加してきている.文献的にはその発生について後天的とするものと先天的とする2つの説がある1)~7).また,診断は外科手術の時にやっと得られるものも多いが,一方double pylorusがレントゲン的ないし内視鏡的に特徴ある所見を示したという報告もある.

 著者らの例は幽門前部潰瘍の穿通に続いて発生した後天的double pylorusの1例である.

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 従来日本ではクローン病といえば急性クローン病のことを指し,欧米に多い慢性クローン病の報告は少なかった.しかし最近のCIOMS1)の分類によれば,この急性型はクローン病とは別の疾患単位とされている.慢性型クローン病(以下クローン病と呼称)は既に本誌2)で特集が組まれ,第17回日本消化器内視鏡学会シンポジウム3)にもとりあげられたように,今日最も注目されている疾患の1っである.学会シンポジウムでは大腸クローン病に比し小腸クローン病の報告が少ないことが指摘されたが,このことは小腸X線検査に二重造影法がまだ十分とり入れられておらず,内視鏡検査も困難で,小腸疾患に対する関心がまだ高いとはいえないことも一因であろう.

 クローン病は今日なお概念や病態に不明の点が多い疾患である4)5).このような状態においては疑わしい症例を詳細に検討することも大切であるが,一方においては臨床・病理両面から積極的にクローン病といえる症例を検討,集積することが必要であろう.今回長大な縦走潰瘍を有した小腸クローン病の1例を経験したので報告する.

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 Peutz-Jeghers症候群は1921年Peutz1)によりはじめて記録され,1949年Jeghersら2)によって確立された口唇,口腔粘膜,指趾の色素斑,および胃,腸ポリポージス,単性優性遺伝を示す疾患である.最近われわれは腸重積症を併発したこの典型的な1症例を経験したので報告し,あわせて若干の文献的考察を試みる.

症例

 患 者:11歳 女子 小学生

 主 訴:腹痛及び嘔吐

 既往歴:2歳頃より口唇に色素斑を認め,1973年1月に腹痛,嘔吐を認めた.

 家族歴:父系には口唇の色素斑,腸疾患を認めた者はいない.母系には口唇に色素斑を認める者6名,うち3名が腸手術を受けている,Table1のように祖父①は色素斑を認め腸の手術を受け,腸疾患で死亡している,病名不明.叔父②,③は戦死,⑥は色素斑を認め,その子供⑨も色素斑を認め,時々腹痛を訴えている.叔母④は45歳で子宮癌にて死亡しているが,色素斑を認め,20歳の時,腸軸捻転の手術を受けている.母⑤も色素斑を認め,検査により胃と小腸にポリープを認めた(後述).叔母⑦(35歳)にも色素斑を認め,16歳の時,旅行先にて腸手術を受けている.病名不明.なお腸手術を受けた3症例にポリープが存在したかは不明である.

 現病歴:1974年3月22日,突然激しい腹痛,嘔吐を認め某医を受診し,急性腹症の疑いで当院に入院した.

 入院時現症:体格小,顔貌苦悶性,眼瞼結膜貧血性,口唇および口腔粘膜に粟粒大より小豆大の黒褐色色素斑を認めた.上腹部に大人手挙大の腫瘤を触知し,腹部は鼓音を呈した.手掌,足底および指先にも黒褐色色素斑を認めた(後述).下血は認めない.

 検査成績:便の潜血反応が強陽性であった.腹部単純撮影では鏡面形成みられず,注腸造影でも結腸に異常は認めなかった(Table2).

 入院後経過:入院後も腹痛,嘔吐は続き,入院第3病日に施行した涜腸後,多量の1血便がみられた.入院第4病日に小腸重積症の診断のもとに開腹手術を行なった.

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 本邦における潰瘍性大腸炎の研究は最近著しく活発となり,特に本症が慢性かつ難治性であるため注目される疾患の1つに数えられている,本症は欧米では比較的稀でない疾患として内科,外科両域から種々の点について研究がなされており,特にその癌化は古くから問題とされてきた.本邦でも潰瘍性大腸炎の手術症例は次第に増加しているが,なおこの癌化についての報告例は少ない.最近われわれは潰瘍性大腸炎で長期経過中に直腸に癌の発生した1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

症例

 症 例:加○幸 62歳 女性

 主 訴:血便,下腹部不快感

 家族歴:父系祖母,父:糖尿病.長兄:直腸癌

 既往歴:22歳時に肋膜炎,約5年前より糖尿病にて食事療法,薬物療法を受けていた.

 現病歴:約35年前より時々鮮血便に気づいていた.1941年,某医にて潰瘍性大腸炎の診断を受け,キノヨシン,ヤテミンを投与され,症状の改善をみていたが,同様の症状は年4~5回あり,いずれも約1カ月位で上記薬物投与により寛解し,1953年頃には完全に症状は消失した.しかし1973年1月,再び排便時に軽度の血便が出現したため,3カ月後に某医を受診.サラゾピリン3錠/日で3カ月間服用した.その後自覚症状は特になく経過していたが,1974年9月裏急後重が増強して,本学内科受診,直腸鏡検査および生検の結果,直腸癌の診断を受け,当科に入院した.

 現 症:体格中等度,栄養良好.眼球,眼瞼結膜に黄疸,貧血はなく,胸部は理学的に異常を認めない.脈拍72で整.血圧140/90mmHg.腹部は平坦で圧痛認めず,腫瘤も触知しない.肝,脾,腎はふれない.

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 Colitis cystica profundaは結腸または直腸の粘膜下層およびそれより深層に異所的に存在する粘液囊胞よりなる無茎ポリープ状の良性非腫瘍性病変であり,存在状況によって大腸の広い範囲に見られるびまん型(diffuse type)と,主として直腸に弧在性または少数個よりなる限局型(localized type)とに分けられる.腺上皮の異所的存在や粘液貯留のために粘液性腺癌との鑑別が問題となるが,本病変のなかには直腸の腺癌として取り扱われた症例が相当数あると考えられる.Goodall and Sinclair(1957)が本病変名を提唱して以来,今日までに57例の報告がなされているが,最近われわれは本症の1例を経験したので,その概略を紹介し,若干の文献的考察を加えながらその病理発生について検討した.

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 Meckel憩室は多彩な合併症を伴う奇形であるが,なかでもカルチノイドの合併は極めて稀であり,本邦における報告例は見当らない.著者らは下血と汎発性腹膜炎を呈した19歳男子を手術し,Meckel憩室穿孔を確認し,その後,病理組織学的検索により,偶然,カルチノイドの合併を認めたので,若干の考察を加えて報告する.

症例

 患 者:19歳男子学生

 主 訴:右下腹部痛.

 現病歴:本院入院の半年前,下腹部痛および下血をきたし,約1週間入院4カ月後,再び下血をきたしたが,原因不明のまま放置.入院1週間前より,下腹部痛が続き,急に激痛となり,昭和48年10月8日来院.

 初診時,下腹部全般に著明なBlumberg徴候およびデファンスを認め,圧痛は右下腹部に強かった.眼瞼結膜は貧血性で,Ht29%,Hb8.敬/dl,WBC19,900であった.

 穿孔性虫垂炎の診断のもとに直ちに開腹.腹腔内には混濁した滲出液を多量に認め,穿孔性腹膜炎を思わせた.虫垂は浮腫状を呈するのみで穿孔を認めず,回盲弁より40cmの回腸に,穿孔を伴ったMeckel憩室を見出した(Fig.1).これを回腸部分切除を加えて摘出し,回腸端々吻合を施して手術完了.

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 現在癌の治療法としては,手術治療が中心ではあるが,化学療法の分野にもその進歩に著しいものがあり,薬剤の開発だけでなく,多剤併用,間歇あるいは連続投与,動脈内注入などその投与方法の改善により,副作用を少なくしつつ制癌効果をあげるべく努力がなされている.最近は切除不能例ばかりでなく,根治手術が行われたと判断されたものに対しても,再発予防的な化学療法を行う傾向になっている.5-FUはこれらの薬剤の中でも,結腸,直腸,および乳腺の腺癌に対し,かなり特異的に効果を示すといわれている1)~4)

 筆者らは今回,直腸進行癌と診断されてから,8カ月にわたる5-FUを主とした化学療法を施行した後に手術を行い,癌の浸潤が粘膜下層にとどまり,リンパ節転移のない,いわゆる大腸早期癌であり,しかも組織学的に,5-FUの効果と思われる所見を示した1例を経験し,5-FUによるものと思われる粘膜変化について,若干の知見を得たので発表する

胃と腸ノート

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 K. S. 53歳 男

 レ線所見:立位充盈像で胃体部小彎の辺縁がやや不整で,少しく伸展性がさまたげられている.図1の二重造影像ではこれに一致する胃体上部後壁に粘膜ひだの集中像をみる.この集合ひだの先端は棍棒状に肥大し,一部で融合様の像を呈している.Ⅱc様陥凹の有無は読みとれないが,その周辺には大小不整の凹凸を示している.一方,これとは別に小彎側にも粘膜模様の引きつれが見られるが,わずかなひだ先端の様相や,周辺の粘膜像は不明瞭である.しかし,ここにも小隆起を思わせる不揃いな凹凸陰影が集簇して先述の後壁の潰瘍性変化に連なっている.

 内視鏡所見では噴門部に接して,小彎をまたぐ一部瘢痕化した線状潰瘍を見る.この潰瘍を中に周辺は平坦に近い浅いⅡc様陥凹があり,その辺縁で大小不揃いのきわめて低い隆起が取り巻くのが見られる.病変が噴門に接しているので観察は胃壁の過伸展となり,このため隆起は目立たず,Ⅱc様陥凹が目立ち,かつ易出血性である.

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 コンピューター断層撮影装置はCTあるいはCATスキャナーの総称名の口本語直訳で,その妥当性はともかくEMI-Scanner,ACTA-Scannerをはじめ10種類以上に及ぶ機種が続々と生みだされ,改良を加えられている.その優れた診断能は従来のX線写真より更に詳細なデでテイルと体軸に垂直な面での三次元的な表現があり,かつ被写体への被曝を含めて侵襲の少いこと,画像を必要に応じてコンピュータとの対話により変え診断に適する像が得られることなどの特微があり,世界中でブームを呼んでおり,日本もこの2~3年間に2,30台に及ぶ受注が予定され,ますます過熱状態にあるといえよう.

 脳診断を中心とする頭部専用装置の一つであるEMI-Scannerはほぼ完成した装置であり,脳出血を陽性像とし脳栓塞を陰性像とする最も鑑別のむつかしく,かつ緊急処置の異なる疾患を見わけ得る点や脳腫瘍,水頭症,脳動静脈奇形,動脈瘤,頭部外傷の鑑別など血管造影や気脳法のようなある種の危険と患者の負担が少い点で救急検査,早期診断,サーベイとして偉力を発揮する点で,脳外科は勿論神経内科,精神科,小児科領域に広く応用されている.また眼科領域でも骨侵蝕に至る前に軟部である視神経,後眼部腫瘍の診断にも用いられる等,すでに受注は米国で250台,英国で27台,日本で35台といわれている.機種も上述ACTA-Scannerを含め,Siretom(シーメンス社),Neurological CAT(Arthronix社),CT-H250(日立メディコ社),CT/N(G.E社)など次次と作られ,ユスライスあたりの所要時間も4~5分を要したものを9秒(Arthronix)まで短縮したり,カラーディスプレイを併用するなどの工夫をされている.

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 〔症例5〕T. K. 67歳 男

 図1は腰の曲った入で撮封影条件が悪く,明瞭に病変が描出されていないが,矢印の部位に小さいポリープ状隆起のあるのが辛うじてわかる.図2はGF-B2による内視鏡像で幽門前庭部大彎後壁よりに小さい扁平な隆起を認める.図3はGIFD2による空気量の少なめの近接像で,半球形のポリープ状隆起があり,その表面に軽度の発赤がみられた.周辺の粘膜ひだに多少連珠状のニュアンスがあるが,不明瞭である.Ⅱa様隆起を示す病変を考慮しつつ生検したところ癌と診断された(なお,本例は胃体部後壁のポリープで3年間経過を見ていた).

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 われわれが胃・十二指腸潰瘍の内視鏡的局所注射療法を始めてから,すでに10年を過ぎ,症例も2,000例になろうとしている.

 現在,わが国でこの療法を行なっている医療機関は150箇所を越えるが,最近では外国からの問い合わせや見学者も多い.本療法が普及するのは結構であるが,それが正しい方向に発展することを願うものである.そこで要望に応じ,今回あらためて潰瘍の局所療法のコツを述べてみたい.

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欧文目次

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 Papillary Adenomas of the Colon and Rectum: A Twelve-year Review: M. R. Jahadi and W. Bailey (Dis. Col. Rect. 18: 249, 1975)

 1960年より12年間に絨毛状腺腫として切除された大腸直腸polypの中,組織学的に確診した185例について検討.年齢は28~87歳で平均63歳.85%は50歳以上で60歳台に最高頻度.良性の場合平均年齢57歳.悪性69歳男性84例,女性101例で10%女性が多い.94%はcaucasia人,残りは黒人.臨床的には直腸出血を訴える者が最多で40%,次いで下痢22%.11%は無症状で健診にて発見1例のみに電解質不均衝あり.病悩期間と良悪性の相関なし.32%は直腸指診で触知.直腸鏡にて70%を確認.145例に注腸X線検査を行い68%を描出.分布は下部腸管に密で,71%が直腸とrectosigmoidに存在し,13%がS状結腸に存在.62例が合併病変を有し,内57例は腸管病変であった.その内36%は悪性,64%は良性病変で,悪性病変中腺癌が最多.形状は83%が無茎.有茎の内25%が悪性変化を示し,茎の有無で良悪性を述べるべきでない.大きさは直径2cmと5cmとに区切って分類すると,2cm以下に悪性変化18%,2cm以上では69%.5cm以上の良性は27%と少い.104例の初回生検診断において43%誤診.最終組織診断にて良性48%.97例が悪性部分を含んでいた.このうち40例は上皮内癌であり,42例は浸潤癌.初回治療として良性88例の内,7例は他に腺癌を合併していたため根治手術を,48例は局所切除を,15例は前方切開または分節切除を,15例は腸切開後polyp摘除をそれぞれ施行.これらの内10例は経過観察中再発し,7例は良性,3例は悪性であった.97例の悪性では14例が再発し,このうち10例では初回に局所切除を施行していた.これら全例再手術施行,再度再発が3例に認められた,悪性の67例は1969年までに手術され,1例を除いて経過観察しえた.2例の手術死を含めて10例が死亡.悪性の場合5年生存率75%.6例のみ転移により死亡.うち5例は初回手術時浸潤癌.従って浸潤癌が存在,または疑われる場合以外は妓息的外科手術でよいことを示唆している.

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 本誌の「早期胃癌肉眼分類の再検討」特集号(1976年1月)を読んで感じたことを述べたい.

 Hermanekの論文(Endoscopy,1973)に対する見解

 Dr.Hermanekが最も力説したのは,日本の早期胃癌肉眼分類は,発表者により各病型の頻度が著しく異るということであった.まず,その中で文献引用をされた私の論文(Leber Magen Darm,1973)について説明しておきたい.これは日本の早期胃癌の臨床病理についてドイツ語で読む人のために簡明に記載したもので,この中に私達の施設での早期胃癌の各病型の実数を記した.その際,複合型は副病型を略してその主病型で表したが,Ⅱc+ⅢとⅢ+Ⅱcのみはそのまま記した.Ⅱa+Ⅱc,あるいはⅡc+Ⅱa等は,外人の初心者に説明するのが難しく混乱を招くと考えたので,それぞれの主病変をとってⅡa,あるいはⅡcとした.このため私達の早期胃癌は,基本型の頻度が最も高く,Ⅱc型が極端に多いと指摘された.

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 日常診療において,診療のすすめ方はそれぞれの分野で一定の順序があるが,X線診断部門においては特にこれが基本であり,重要である.しかし,X線診断方法のめざましい進歩に伴い,とかく術技を重点にしステップをふまないX線撮影が行なわれることがあるが,急性腹症の場合はもちろんのこと,腹部のX線診断に際し,第一のステップとして必要なのは単純撮影であることは,今さら改めていうまでもない.また日常,腹部単純撮影の件数は比較的多いが,いざ撮影フィルムを読影する場合,読影者に充分な知識がなければ,撮影フィルムはただ単なるフィルムベースでしかなく,患者にとってはむだな被曝となってしまうだろう.Susmanは,「We see only what we look for and we look for only what we know」と述べているが,まさに腹部単純フィルムの読影にあたっても,どのようなポイントに留意して読影するか,また正常像と異常像とに対する確実な知識をもっているか否かなどが基本として大切となる.

 本書は以上の諸点に意を用い,単純フィルムを読影するにあたって必要な項目を網羅し,かつそれらに対する適切な解説を行い,さらにポイントとなる所見は,鮮明なフィルムを配して,学生のみならず,放射線医学に志すものや,第一線の実地医家に反覆してひもとく興味をおぼえさせるように工夫してあるなど,座右の書としてきわめて適切である.特に学生や,これから臨床医学の分野で活躍する若い医師のために,代表的なフィルムを基本に,永年の臨床経験に基づく教訓的なフィルムや極めてまれな症例をも加え,それらの特徴的パターンについての解説を行い,さらに,いわゆるサインといわれる所見の内容を,きわめて豊富にとり入れてある.

編集後記 崎田 隆夫
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 「胃と腸」も10年を過ぎ,11年目になった.益々発展の道をたどっているようで,読者の皆様と共に,心から喜こびたいと思う.

 本号は,恒例の年2回の症例・研究の特集号であるが,研究欄は,胃3,症例欄は,胃7,腸6で,早期胃癌研究会症例は,今回は胃の2例であった.腸の6例はいずれもすぐれた症例報告であり,本誌が腸を益益大きく包含してきていることは喜ぶべきことかと考えられる.

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 Synopsisという名のついた本はかなりでている.本棚のなかをみわたしてたいへん懐しい思いがするものはRudolf Schindlerが書いたGrune & StrattonのSynopsis of Gastroenterology(1957)だ.しかしそれもとりだしてきて調べることもなくなった.

 MeschanのSynposis of Roentgen SignsはSaundersから1962年刊行された本でドイツ語版もでているらしい.この本はおもちになっている先生が少なくないであろう.

追悼

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 この世は不定とは言いながら何という残酷なことが起ったのだろう.こんな有力なこんな信頼出来る同志が若くして逝くとは.

 今年の初め佐野さんが入院されたときいて私は自分の耳を疑った.勿論私は彼が8年前に胃切除を受けたことを知っていたし,それが印環細胞癌による早期胃癌であることも知っていた.彼が時々飴玉をなめ乍ら後期ダンピング症状?を打ち消していることも知っていた.だからこそ私は安心していた.再発することはないと.

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 「お互いに亥年だから,我が強いんだね,アッハハ」というセリフは,彼が,がんセンターに着任して早々から,死を迎える病床を見舞った時まで,何度聞いたことか.

 豪快さの中に,意外に気弱なところがチラつく彼,国立がんセンターの同じ4階の斜めに向い合った研究室同志,出身校は違っても,同年であるということのための気易さから,随分とお互いに勝手なことを言い合った彼.性格が似ていると本人はいうが,意志の強さの点では,遙かに私より上であった彼.その意志の強さが,病理学の畑では,むしろ未開の分野に近かった胃の微細な病変について,肉眼所見と組織学的所見とを,丹念に結びつける貴重な仕事を継続させ発展させるのにカがあった.これが,胃の診断学の進歩にどれぐらい役に立っていたか,言うべくして行われ難い,臨床と基礎のかけ橋の役目をどんなに立派に成し遂げて来たことか.だから彼の研究室に入りびたっている研修生や,定例の彼の研究室主催の研究会のご常連の中には,病理を専門とする人達のみならず,外科,内科の診断治療医がどんなに多かったことか.診療に携る第一線の医師の悩みに,ずばり答えてくれる迫力をしたって,どんなに多くの熱心な開業医が,彼に弟子入りしたことか.やや,教祖的風格があった.あんまり研修医の出入りが多すぎるという批判も出る程であった.

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 佐野量造先生がなくなった.まだ52歳の若さであった.昨年8月の早期胃癌肉眼分類についての座談会で会ったのが,最後だった.この問題のために,先生は多くの検討症例を準備して下ごしらへをし,また席上でも自己の考へ方をいつもの様に卒直にはっきり話して,いくつかの論点を明にした.その折,先生の議論が,以前よりすこしおだやかになった様に思へた.10月に,先生が長崎での学会で,Skirrhusのシンポジウムの司会をしたとき,参会した同僚からきいたとこころによると,何となく元気がなかったとのことであった.すでに宿痾が進んでいたのだらうか.それ以後,種々の会合で先生と会ふことはなかった.

 先生と私の出会ひは,私が1963年に帰国して早期胃癌研究会に出席したときから始った.互に10数年間病理形態学に携はりながら,相触れなかったが,先生が上京後,新設の国立がんセンターに働き場を作って後は,胃癌についての諸種のArbeitskreisでは,しばしば会ひよく話し合った.公開の席で討論しあふことも多かった.先生は実に粘り強い病理形態学者であった.それに加うるに,厖大な資料と広汎な文献的考察を用いて,消化管腫瘍について数々の優れた仕事をあきらかにした.これらについては,国立がんセンターを中心とする多くの共同研究者の協力と共に,この道の先達としての故久留勝先生の誘掖があったことと思はれる.又,以前より師事した故木村哲二先生の考を踏襲しておしすすめた,各臓器や組織の肉腫についての仕事も,高く評価されるべきである.

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 1976年2月16日午前9時32分に佐野量造先生が逝去されました.この事実はこれをお読み頂くすべての人々に極めて極めて言いあらわしようもない不快感,悲痛,無情,脱力感のために涙も出ない感慨に落し入れるでしょう.人間にとって涙を流しうる悲しみは,まだ程度がかるいがほんとうの深い悲しみに直面すると涙が出ない.ただ茫然と当惑とがあるのみである.

 私事にわたって恐縮に思われるが,小生が佐野先生と面識をえたのは国立がんセンターが出来た時からである.先生は平素「宗教」については語られたことはなかったと思う.もしこれを読まれたかたで,先生から「宗教」についておききになったかたがおありならば,極めて幸福な人であると思う.しかし,先生の平素の小生との会話の中に,この先生は深い宗教的信念をもっていられることは早くから小生にはわかっていた.しかし,小生は先生に一度も宗教の話をしたことはなかったし,話す必要もないと感じた.それほど宗教的なかたであったからである.先生から,小生に頂いた手紙の中で一度だけ,先生の宗教感を充分にしたためてあったのが昭和45年の初秋であった.また先生が医学書院から「胃疾患の臨床病理」を出版され,その発刊祝賀会を行ったときに先生が宗教感をのべられた.ただ二回であった.

基本情報

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胃と腸
11巻4号 (1976年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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