臨床検査 52巻2号 (2008年2月)

今月の主題 輸血の安全管理

巻頭言

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 輸血は出血を伴う患者の治療や移植医療を行うために不可欠な補助療法である.売血時代には輸血後患者の約半数に輸血後肝炎が発生していたが,行政や日本赤十字社の間断ない努力により輸血用血液の安全性は飛躍的に向上し,現在では輸血後肝炎の発生は著しく減少した.しかし,輸血用血液に潜むウイルスの検査精度向上によっても,ウィンドウピリオド内の血液を輸血することによるウイルス伝播は根絶されていない.また,細菌により汚染された血液を輸血したことによる死亡例も報告されている.さらに,輸血による新興・再興感染症,プリオンや未知の病原体の輸血による伝播の可能性が最近問題となっている.

 輸血は非自己の血液細胞を移植する行為である.したがって,放射線照射により防げるようになったGVHD(graft-versus-host disease;移植片対宿主病)のような自己細胞を攻撃する重篤な副作用が発生したり,非自己の抗原が移入されることによって免疫反応が生じ,ABO血液型不適合輸血のように最悪の場合には受血者に死をもたらすこともある.また,輸血関連急性肺障害のように受血者の生命にかかわる重篤な非溶血性副作用も存在する.

総説

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 輸血の安全管理に関する法令には,輸血血液の安定供給と適正な使用を定めた「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律(血液法)」と安全確保対策を示した薬事法の2つの法律がある.これらの2つの法律が,相まって輸血医療の安全性を確保する仕組みとなっており,なかでも,特定生物由来製剤として位置づけられる血液製剤は,血液製剤を介した感染症対策の一環として,使用にあたっての適切な説明や使用記録の保存義務など医療関係者に対する責務が明記されている.

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 血液センターの業務は血液法,薬事法で規制されており,これを遵守して安全で品質の高い血液を安定的に供給することが求められている.血液の安全性を高めるため,輸血感染症や副作用に対する対策を行っているが,本稿では輸血感染症に対する安全対策について概説する.また,安全で品質の高い血液を支える,①製品標準書,基準書,標準作業手順書などの文書類,②業務の自動化,③組織体制,④職員の教育訓練体制,⑤情報システム,⑥過誤,事故を予防し,対応するためのインシデントレポート体制,リスク管理などについても紹介する.

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 輸血部門における安全管理には,検査機器,冷蔵庫,冷凍庫などのハードウエアー,採血,検査,払い出しなどソフトウエアーの両面があり,一方を欠いてもその保障は不可能である.輸血に関する技術的な進歩は自動機器,コンピューターの導入により,迅速性と,高感度,合理性に基づいた技術により可能になってきている.しかしながら,安全な輸血には検体の採取から,検査の実施,払い出し,実際の輸血まで多くの過程が存在しており,輸血部門のみならず,すべての関係部門における十分な対策,対応が求められる.

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 本邦における輸血療法の安全性の飛躍的な向上は,国,赤十字血液センター,医療従事者の努力によって可能となっている.特に,国は輸血療法に関する指針や法令を公示し,赤十字血液センターは安全な血液の供給のために様々な取組みを行ってきた.今後,2003(平成15)年に施行された血液新法にも明記されている,医療従事者の責務である輸血用血液の適正な使用,安全管理にわれわれは努めていく必要がある.そのためには,輸血療法委員会を積極的に活動することが重要と考えている.東大病院の輸血療法委員会の活動を例示し,安全かつ適切な輸血療法の実践への取組みについて述べる.

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 輸血の安全性をさらに高いレベルにまで引き上げるために,輸血血液および血液製剤による副作用の一貫した監視体制が構築されることが急務である.とくに全国の医療機関よりあまねく情報を収集し,統一した報告基準で解析を行う全国網羅のサーベイランスシステムの構築を行い,ヘモビジランスの強化を図っていくべきであろう.日本におけるこれまでの取組みと今後の改善点・将来構想について概説する.

各論:安全な輸血医療と輸血検査

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 日本輸血・細胞治療学会は,医療施設の輸血医療の安全管理を認証するI & A認定を法人事業として開始した.第三者による点検と認証は,自己評価で見落としたり先送りされる事項を明らかにして,改善の契機となるとともに,患者側に安全管理をアピールする手段となる.認定基準は,輸血管理料Ⅱの算定基準と同等であり,多くの施設が認証されると思われる.申し込みから認証までの手順を示すとともに,視察員(inspector)の資格について示した.

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 輸血事故を防止するためには,日常業務において,どのような作業時に,どのようなミス発生の危険性があるのかを知ることが重要である.そのためには,輸血の準備から終了までの一連のプロセスを細かく分解し,それぞれの場面でどのようなミスが発生するのか分析することが重要となる.輸血事故やインシデントの多くは,ルールどおりに作業を行わないことにより発生する.これを予防するためには,マニュアルの作成とその実行が要となる.同時にセイフティネットとしてルールを無視すると次の作業に進めないような総合的な仕組みを作り,検査プロセスの中で起こりうるミスとその対策,予防,さらにチェックポイントを示し,安全な輸血業務を進める指針を示すことが重要である.

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 ABO不適合輸血の半数以上が時間外に発生しており,安全な輸血療法を実施するためには,輸血業務の24時間体制の構築が不可欠である.時間外輸血業務を輸血部門の技師だけで行うことは難しく,他部門の技師と合同して行う方式が現実的である.しかし,不慣れな技師により実施されることになるため,実施手順を手順書に具体的に記載する,輸血依頼を電話で受ける際の受付票を作るなど,輸血専門技師でなくても安心して時間外業務ができる体制を作らなければならない.

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 2004(平成16)年9月厚生労働省は輸血前後の感染症マーカー検査の在り方について検討し,「輸血療法の実施に関する指針」を一部改定した.これを受けて日本輸血・細胞治療学会が,全国の状況が異なる医療機関において指針内容を実践するための具体的方策である運用マニュアルを作成した.その内容は,①輸血前に核酸増幅検査に耐えうる検体を凍結保存する,②輸血前検査として厚生労働省が推奨するHBs抗原,HBs抗体,HBc抗体,HCV抗体,HCVコア抗原,HIV抗体を必要に応じて適宜施行する,③輸血3か月後をめどに肝機能検査,HBs抗原,HCV抗体,必要に応じてHIV抗体を測定し感染を早期に発見する.

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 適合血の選択は安全な輸血医療の第一歩である.わが国ではABO不適合は医療過誤と認識されているので,実態よりはるかに報告が少なく,危険性が過小評価されている.一方,不規則抗体による不適合の半数は実際には溶血を生じない冷式や自己抗体であり,必要のない適合血選択が技師の負担になっている.37℃間接抗グロブリン試験で検出される場合にのみ,適合血を日赤と協力して選択すればよい.カード法による交差試験は検査のトレーサビリティが担保できる点で優れている.

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 緊急輸血を必要とするような危機的出血は,外傷や大動脈瘤破裂,産科出血,術中の血管損傷などにより起こる.適切な輸血療法が行われないと,その死亡率は高く,永久的脳障害などの重大な後遺症を起こしうる.「危機的出血への対応ガイドライン」においては,救命を最優先した輸血療法と,手術室や救急室,病院輸血部,検査部,血液センターが一体となった対応の重要性について強調している.

話題

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1.はじめに

 輸血療法は,現時点において,代替のない必要不可欠な治療である.大量出血等で緊急性を優先した輸血療法が,夜間や休祝日の時間外に行われることもしばしば発生する.手術室での致死性の輸血過誤が多いこと1),重症患者における治療で予想以上に医療過誤が発生しやすい2)ことが指摘されている.したがって,24時間体制で質を保った迅速性と確実性が要求される.

 輸血過誤,特にABO不適合輸血は,単純なヒューマンエラーが重篤な有害事象を招きうる医療過誤の典型的事例として取り上げられ,社会問題化している.迅速性が要求される場合でも,決して間違えることが許されない状況で,輸血検査技師(場合によっては薬剤師),看護師,医師は常に高度な注意力が要求されることとなる.特に時間外は,対応する人員が減少し,各個人に要求されるタスクがさらに増大する.しかしながら,ABO不適合輸血のような発生頻度の少ない間違えを防止するために常に注意力を持続することに対して,人は無力である3).医療従事者の記憶,注意力に過度に依存するプロセスに対しては,人の介在(human intervention)を可能な限り排除できるInformation Technology(IT)を導入することの重要性が指摘されている3).輸血過誤を防止するために,患者が被害に合わないように安全を保障するプロセスを組織的に設計し,間違うことが難しく,正しくすることがやさしいシステムの構築が要求される.手術室,ICU等で,緊急に大量に輸血を行う必要性が生じる場合には特に,Fail Safe/Fool Proof systemとして輸血システムのIT化は重要となる4)

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1.欧米での輸血副作用報告と赤十字血液センターによる輸血副作用報告の違い  世界的な副作用の調査体制の動向について,われわれは,本年の輸血細胞治療学会総会において報告を行った1).英国では,国からの要請に基づく輸血副作用の自発的報告からなる血液安全監視体制(ヘモビジランス)がSerious Hazards of Transfusion(SHOT)研究2)の形で機能している.英国に引き続き,ヨーロッパ,北米で様々な制度に基づくヘモビジランスの構築が進められている.しかし,ヘモビジランスを実現するためには輸血副作用の病態分類,重症度分類,原因検索方法の標準化が重要であり,その存在なしには,国際的な副作用の発生状況の比較はできない.このため,国際輸血学会(International Society of Blood Transfusion;ISBT)のヘモビジランス委員会3)では輸血副作用の病態分類,重症度分類の標準化案の作成がなされている(表1).

 さて,赤十字血液センターへ報告された副作用の内訳4)を見るとABO型不適合輸血を含めた溶血性副作用の報告件数が極めて少ない(表2).これはABO型不適合輸血を含めた輸血間違いの報告が80%と大部分を占める前述のSHOT報告2)と大きな違いがある.一方で,輸血後肝炎の調査体制5)は,欧米に比較してわが国が優れている点である.

輸血関連急性肺障害 岡崎 仁
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1.はじめに

 輸血の安全管理というテーマに沿っていえば,輸血はまだまだ安全とは言い難い印象を受ける.たとえABO,Rhなどの血液型が一緒であっても遺伝的にすべてが同一ではない(もちろん一卵性双生児からの輸血は別だが)ので実際起こりうる生体反応がすべて理解できているわけではない.凝集反応だけに限ってみても,クロスマッチは毎回の輸血に必要であるし,たとえクロスマッチ陰性の血液を輸血したとしても,副作用が起きないとは保証できない.輸血の副作用に関しては,今まであまりにも副作用がありすぎたので,軽微な副作用は仕方がないというような雰囲気がある.しかし,やはり重篤な副作用に関する知識は必要であり,輸血は薬剤ではないが,(最近の薬事法では血液製剤も医薬品らしいが)一般的に薬剤を処方するときには,重篤な副作用については知っておかねばならないことはいうまでもない.

 最近,医薬品医療機器総合機構(pharmaceuticals and medical devices agency;PMDA)のホームページから「重篤副作用疾患別対応マニュアル」なるものが提供されており,個々の薬剤について重篤な副作用を調べるだけでなく,逆にどのような症状が出たら,どのような薬剤の副作用の可能性があるかを調べられるようにもなっている1).薬物の副作用は知らないと診断できない.例えば降圧剤としてACE阻害剤を飲んでいる患者の慢性咳そうや,ファモチジンによる無顆粒球症,メトクロプラミドによる錐体外路症状など本来の薬剤の働きからは考えにくい副作用も多くある.

 血液製剤による急性の肺障害もそのような反応の1つであり,その機序についての解明も道半ばである.よく知られた輸血によるアレルギー反応とは違い,輸血開始直後に起こるわけではない.時間的には輸血中もしくは輸血後1~2時間くらいで起きてくる副作用であり,ときに数時間後に起こることもあるので因果関係がはっきりしないこともある.時間的な観点からみると輸血による循環血漿量の増加による心不全~肺水腫という病態が起こりうる時期と似ているため,診断は難しい.実際この輸血関連急性肺障害(transfusion-related acute lung injury;TRALI)の概念が一般に広く知られるようになって,日赤に寄せられる副作用報告のなかでTRALI疑いと報告される症例のなかにかなりの確率で循環負荷の症例がある2).もちろん肺障害の起きた結果,低酸素から心機能が低下するという場合もありうるので,一概にすべてを心不全→心原性肺水腫と言い切ることはできないのだが,輸血後に心不全による肺水腫ではない呼吸障害が起きた症例のなかに,TRALIと診断できていなかった症例が今までもあったのかもしれない.

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1.はじめに

 細菌に汚染された輸血用血液製剤を輸血されて細菌感染症を発症する患者が,少数ではあるが報告されている.

 近年,輸血用血液製剤による細菌汚染の原因が解明されて,その防止対策が講じられている.本稿では,同種血および自己血による細菌感染症の実態とその防止対策について略述する.

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1.はじめに

 本邦では,献血血液は日本赤十字社において病原体スクリーニングすなわち,HBV(hepatitis B virus),HCV(hepatitis C virus),HIV(human immunodeficiency virus),HTLV(human T-cell leukemia virus type Ⅰ)-Ⅰ,ヒトパルボウイルスB19(human parvovirus;PV-B19),サイトメガロウイルス(cytomegalovirus;CMV),梅毒の血清学的検査およびHBV,HCV,HIVの核酸増幅検査(nucleic acid amplification test;NAT)が実施されている(表1)1).NATの導入によってHIV/HBV/HCVのウイルス感染のリスクは海外と比較しても限りなく減少し2),輸血血液における感染症対策は飛躍的に向上したといえる.

 しかし,地球規模の気候変化,生活環境の変化や高速移動手段の発達に伴い新興・再興感染症の脅威は増大している.1985年にウシ海綿状脳症(bovine spongiform encephalopathy;BSE),1997年に高病原性トリインフルエンザ,1999年にウエストナイル熱,2003年に重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome;SARS)が発生した3).特に,1999年にニューヨークで発生したウエストナイルウイルス(west nile virus;WNV)は多数の感染者・死亡者を出しただけではなく,輸血や臓器移植による感染が報告され,緊急対策が講じられた.2007年現在でも終息の気配はなく,米国のみならずロシアやシベリアでも発生が認められ,日本への移入も時間の問題と言われている.今回,われわれは,献血血液におけるWNVの安全性対策としてNATの体制整備を行ったので,献血血液における新興・再興感染症対策を含めてここに紹介する.

今月の表紙 臨床微生物検査・2

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 バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant enterococci:VRE)は抗MRSA薬であるバンコマイシンに耐性を示す腸球菌である.腸球菌自体はヒトの腸管や陰部に常在しており,便や尿,喀痰などから日常的に検出される.VRE感染症は感染症法で5類に分類され,全数把握の対象疾患となっており2006年の報告数は(発症者)80件程度である.国内での臨床材料からのVREの分離頻度は高くないと推定されるが,米国ではICUから分離される腸球菌のうちVREが30%程度と高頻度である.また,英国では2004~2005年のサーベイランス報告では,VRE菌血症患者数は年間700件を超える.VREは,本来病原性は低いものの血液悪性疾患患者など免疫の極度に低下した患者では敗血症などを起こし,致命率は20%以上にもなる1,2)

 VREにはいくつかのクラスがあるが,臨床的に問題となるのは主にVanAとVanBである.それぞれ,耐性遺伝子をPCR(polymerase chain reaction)によって検出するが感受性ディスク(VCMとTEICをそれぞれ30μg/ml含有)を用いて,vanAvanBvanCの遺伝子型の推定が可能である(図1).ただし,図2のようにVanAでも,ある程度TEICに感受性を示し,VanBと紛らわしい株があるので感受性結果だけでは必ずしも区別できないことに注意しておく3)

随筆・紀行

柳都情感 屋形 稔
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 私の住んでいる新潟市は昔から柳都と呼ばれ,堀端の柳の風情からそう呼ばれたといわれる.それは江戸時代から昭和30年までの街並に見られたもので,古い小唄にも“あだな西堀,東堀”と唱われる町の名物でもあった.

 道路がアスファルトになり,堀も埋められるとこの風情も少なくなったが,柳は依然として今の街の中や大川端にも残す努力は行われている.もう一つ柳にちなんだ花柳界という存在も,北前船という湊の生み出した名残りとして承け継がれた街の文化でもある.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 糖鎖と臨床検査・2

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はじめに

 腫瘍マーカーを抗体で検出する簡便迅速な血清診断が今日繁用されている.しかし,先進医療技術の進展や個別化医療の実現が期待されるなか,これに寄与する腫瘍マーカーはほとんどないといっても過言ではない.すなわち,その精度および特異度が十分ではないのである.高性能質量分析装置の台頭により,新規のバイオマーカーを探索するプロテオミクスが盛んに行われてきたが,実用化されたものはまだない.糖鎖解析が新規マーカー開発の鍵を握ると考えられ,グライコミクスやグライコプロテオミクスも着手され始めた.本稿では,糖鎖構造の複雑さとそれを解析する新しい質量分析法の開発,さらにそれを応用した新規診断法開発について述べる.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ 臨床検査用に開発された分析法および試薬・2

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はじめに

 一般に,新しい技術が発見・開発されるとそれが実用化されるには,長い低迷期の後に,指数関数的な爆発的急拡大期があり,その後は緩やかな増加期となるとされる.酵素を試薬とする臨床検査を見ると,まさにその軌跡を踏んでいるように見える.そこで,本総説では酵素法をⅠ期,Ⅱ期前期,Ⅱ期後期,Ⅲ期とし,現在進行中であろうⅢ期を除き含窒素成分を中心に臨床検査に大きな影響を与えた検査項目の分析の特徴と,分析が与えた・あるいは与えつつあるインパクトについて概観したい.なお,ここではその名称として「酵素法」を使用するが(note参照),この技術は,今や化学検査・電極法・免疫化学的検査・遺伝子検査と並び臨床化学検査に不可欠の主要な分析法の1つである.

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1.はじめに

 検診センター(予防医療センター)のわが国での起源は,「人間ドック」という言葉から始まる.この言葉は昭和29年(1954年)9月19日の読売新聞の日曜特集に初めて登場した言葉で,人間が長い人生航路を歩む過程で病院にドック入りして総合的な健康診断を受け,再び健康で実生活を続けるという意味で,非常にユニークなかつ一般の人々にもわかりやすい言葉のため,今日まで広く用いられている.その内容は施設により差異があるが,「泊り」と「日帰り」の2種類に大別され,その仕事はあくまで総合健診と生活指導までである.

 昭和39年(1964年)に米国カイザー財団ガオークランドクリニックで,世界で最初に自動化健診(automated multiphasic health testing and services;AMHTS)を開始して以後,わが国でも広く導入され今日に至っている.AMHTSでは自動化された検査機器とコンピュータシステムの接合によって,速やかに生理・生化学検査・X線検査などを行い,データの収集整理や印刷などシステム工学的技法を取り入れたもので,それらの結果を速やかに受診者に報告し,健康管理を指導している.

学会だより 第54回日本臨床検査医学会学術集会

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 第54回日本臨床検査医学会・第47回日本臨床化学会学術集会連合大会は2007年11月22~25日にかけて,それぞれ高橋伯夫関西医科大学臨床検査医学講座教授,熊谷俊一神戸大学臨床検査医学講座教授を会長として,大阪国際会議場にて開催された.「医療を活かす臨床検査」という大会テーマのもとに,2つの特別講演,それから招待講演,双方の会長講演をはじめとして,12の教育関連講演やエキスパートによるレビューシリーズ,さらに13のシンポジウムにワークショップや種々のセミナー,市民公開講座などが織り込まれ,そして最も重要といえる一般演題が口演・ポスターあわせて468演題発表された.

 両特別講演に象徴されるように,感銘を受けるすばらしいプレゼンテーションに満ちた会であったことには諸兄ともご異論がないと思われるが,ここでは日本臨床検査学教育学会との合同シンポジウム2「現場が求める臨床検査技師教育」の様子をご紹介したい.司会はこの分野を常に先導しておられる三村邦裕,岩谷良則両氏である.4人のシンポジストのご発表があったが,まず最初に登壇された聖路加国際病院・武田京子氏は「地域医療支援病院が求める技師像」と題して,西洋近代思想に立脚する同病院理念と現病院長が示された「医師を補佐し,あるところは任せられる検査技師像」を目標に,バランスのとれた検査室を構築すること,そして所属するスタッフは病院の知的財産であると同時に,環境に適応できる柔軟性ゆたかな人材たることを重視していると力説された.

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 第54回日本臨床検査医学会学術集会は,高橋伯夫大会長(関西医科大学臨床検査医学講座教授)のもと2007年11月22~25日までの4日間,「医療を活かす臨床検査」をメインテーマとして大阪国際会議場で開催された.今回は第47回日本臨床化学会年次学術集会,第50回近畿臨床検査技師会および臨床検査医学会近畿支部総会と4学会が合同開催されたこともあり,会場は期間を通して大盛況であった.話題であった大会初日夜のユニバーサルスタジオジャパン(USJ)での交流懇親会は,(筆者は都合で出席できなかったが)参加者にお聞きしたところでは,少々寒かったもののサービス満天のアトラクションで本場大阪のエンターテインメントを十分満喫できたとのことであった.

 講演は盛りだくさんだったが,特別講演が2つあり,1つは筑波大学村上和雄先生による「心と体の関係を遺伝子で解く」で,精神的因子と遺伝子発現の関係,遺伝子発現の調和を保つ「サムシンググレート」の存在などについてお話をいただいた.もう1つは先端医療振興財団の井村裕夫先生による「病因論の新しい展開―ゲノムから個体へ,そして集団へ」で,遺伝子発現が細胞の世代を越えて維持される発達プログラミングについてお話をされた.これはいわゆるエピジェネティックな変化で,様々な疾病の病因を考えるうえで注目すべきテーマと考えられた.また招待講演の演者は,あの「フォークル」で名を馳せた九州大学の北山修先生であった.昔ラジオでお聞きした懐かしい語りを満喫したものの講演内容は難しく,改めて「心の物語のつむぎ方」が容易ではないことだけは理解できた.

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 第54回日本臨床検査医学会学術集会が,関西医科大学医学部臨床検査医学講座の高橋伯夫教授を集会長として,2007年11月22日~25日に,大阪国際会議場で開催された.この学会は,第47回日本臨床化学会年次学術集会(熊谷俊一年会長 神戸大学大学院医学系研究科生体情報医学講座臨床病態・免疫学分野教授)との連合大会であり,また,2005年から近畿地方で同時開催されていた3つの臨床検査関連学会の連合大会も同時に開催された.その近畿の学会は,第47回近畿医学検査学会(森嶋祥之学会長 大阪府臨床検査技師会会長)と第50回日本臨床検査医学会近畿支部総会(岩谷良則総会長 大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻生体情報科学講座教授)と第27回日本衛生検査所教会近畿支部学術研究発表会(佐守友博学術委員長 日本医学臨床検査研究所所長)である.したがって,今回の学会は,臨床検査に携わるすべての医療人が参加する大連合大会となり,参加者総数が3,000人を超える大盛会となった.

 今学会は「医療を活かす臨床検査」をテーマに,斬新な企画が盛り込まれていた.そのいくつかをここでご紹介したい.

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 腎機能は冠状動脈硬化の重要な決定因子であり,血清シスタチンCは新規のGFRの正確な尺度であり,冠状動脈疾患と死亡率の予測因子である.著者らは1型糖尿病において,①シスタチンCが潜在性冠状動脈硬化(subclinical coronary arteriosclerosis;SCA)の進行を予測し,②血清クレアチニン,GFRおよびアルブミン排泄速度よりもSCAの優れた予測因子であると仮定し,これらの点について検討した.冠状動脈の石灰化は1型糖尿病患者509人を対象としてCTを用いて2.5年前後の間隔で2回測定した.SCA進行の予測因子は逐次ロジステック回帰により選択されたモデルにおいて解析した.選択されたモデルでは,シスタチンC,年齢,基準の冠状動脈石灰化,性別,糖尿病罹病期間,収縮期血圧およびHDLがSCAの予測変量として有意であった.この逐次モデルは血清クレアチニン,GFRあるいはアルブミン排泄速度を用いる他の競合モデルよりも良好な予測性を示した.1型糖尿病においては,シスタチンCはSCAを適度に予測することができる.

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 1型糖尿病母親の子(OT1DM)では,子宮において脂肪沈着の増加,高インスリン血症,高レプチン血症が証明されている.著者らは出生時に母親の糖尿病の臍帯脂質への影響および生体成分,臍帯インスリン,レプチン,その他のホルモン値との関係についてOT1DM139人と対照48人を対象として検討した.総コレステロール,HDLコレステロールおよび遊離脂肪酸濃度は男子OT1DMにおいて有意に低値であった.臍帯脂質はOT1DMの出生体重とは関係なく,胎児インスリンと一致する関係を示さなかった.予想とは異なり,IGF-1は男女の対照およびOT1DMにおいてHDLコレステロールとは正の相関を,中性脂肪とは負の相関を示した.OT1DMにおいてはレプチンも独立的にHDLコレステロールと負の相関を示した.母親の糖尿病は男子胎児の脂質濃度の変動に関係しており,インスリンよりはむしろIGF-1,レプチンおよび男性であることが子宮におけるHDLコレステロールおよび中性脂肪の主要な決定因子であると考えられる.

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 Beta-trace protein(BTP)は低分子量の糖蛋白質であり,血清クレアチニンよりも高感度のGFRのマーカーである.BTPの有用性はBTPをGFRに変換するための計算式がないことにより制限されている.著者らは163人の安定した成人腎臓移植者においてBTPとテクネチウム化合物によるGFRの測定を行い,BTPをもとにしたGFRの計算式を考案した.体表面積補正したGFRの予測は逐次多変量回帰モデルにより行った.計算の変量には,BTP,尿素,性別,アルブミン,クレアチニン,年齢および人種を選択した.変量がBTPのみではGFRの変動の75.6%しか説明できなかったが,すべてを変量に含むモデルでは,最も高い決定係数(R2=0.821)が得られた.しかし,BTP,尿素および性別を変量としたときにも,決定係数はわずかに低いR2=0.81であり,計算式として,GFR=112.1×BTP-0.662×Urea-0.280×(0.88女性ならば)が得られた.尿素に代えてクレアチニンを変量としたときには,決定係数はR2=0.79であり,計算式として,GFR=1.678×BTP-0.758×creatinine-0.204×(0.871女性ならば)が得られた.BTPを含む簡単な式でGFRが予測できる.

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 レチノール結合蛋白質(RBP)はビタミンAの状態を決定するレチノールの代理マーカーである.最近開発されたRBP測定の酵素免疫測定法は血清または乾燥血液スポット(DBS)として保存された全血を用いる.しかし,DBSにおけるRBPの安定性は検討されていない.そこで,著者らは北ケニアの野外と検査室においてRBPの安定性について検討した.検査室では,指穿刺により採取され,乾燥剤入りプラスチックバッグに密閉保存されたDBS63例を種々の温度と時間〔(a)対照,(b)30℃/7日,(c)30℃/14日,(d)30℃/28日,(e)4℃/38日〕で暴露をした.野外では,50ペアのDBSおよび血清をケニア人の静脈血から得て,DBSは12~28℃で13~42日間乾燥剤入りプラスチックバッグに密閉保存し,血清は-20℃~-70℃で保存した.検査室において,30℃で保存したDBSのRBPは2.4週間安定であったが,4℃/38日間の保存では対照以下の値に低下した.野外条件下では,RBPは2~6週間は安定であり,比較的高い周囲温度でも保存に耐え,血清の採取や保存が困難な地域の人々のビタミンAの正確な評価を容易にする.

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 私は現職中,全国の多くの学会関係者と識り合う機会が多かった.それゆえ学会や研究会,セミナー等の開催に携わる機会も多く,そのいづれも想い出多いものであった.あるときある友達から「君は仕掛け人だ」といわれ,一瞬褒められたのか注意されたのかわからなかった.しかし私が先立ち中心になって実施された関連研究会やユニークなセミナーは結構多かったと思う.以下代表的なものを振り返ってみよう.

 1.「日韓臨床病理学コンファレンス(JK-CCP)」:私は1973年韓国Seoulでの「臨床化学検査の自動化に関する会議」に招かれて講演をして来た.その際韓国側の臨床病理関係の重鎮─李三悦,金相仁や金箕洪の各教授と逢い,「両国のこの分野での知識や研究成果の交換のためのconferenceをしよう」との意見の一致をみた.早速日本側のボス小酒井望教授に伝えてその指示を受け,韓国側との交渉を重ね,1975年長崎での日本病理学会総会の後第1回JK-CCPへ参加の為Seoulへ向かった.日本側からの参加は僅か5名だったが,そのときの反省を踏まえ,日本側より参加者をもう少し増やすこと,および2年ごとに両国で交互に開催することにした.その結果日本側では東京,佐賀および札幌でも実施され,当初の計画に副うことができたと思う.後日小酒井会長が某紙上で「JK-CCPの成功は札幌医大の佐々木博士がその緒をつけた」といっていたのを想い出す.

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あとがき 伊藤 喜久
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 輸血の安全管理は,不適合輸血,感染をはじめとする医療事故,副作用の予防,防止に集約される.人は過ちを繰り返すもの,その頻度を下げ,もし不幸にしてトラブルが起きたとしても可及的に程度の軽減が得られるよう,国,血液センター,病院輸血検査室,臨床の現場が一体となって,安全医療のトータルシステムを構築してきました.国のレベルでは関連法規,規則の整備,血液センターは安全な製剤の供給,病院検査室ではマニュアルに従った正確な検査の実施と取り違えのない払い出し,医療の最前線ではマニュアル化された輸血,輸液の安全実施の励行,さらには外部,内部による評価点検としてISO15189の認定,病院評価機構の認証,精度管理,ヘモビジランスなどにより,より高いレベルに向けての安全医療の評価,監視が進められています.とりわけ病院内での輸血療法委員会が毎月開催され,常に関連部門との協力のもとで,総合的に安全確保があらゆる角度から推進されています.

 まだまだ本邦の病院の置かれた環境はお寒いばかりで,人手不足,設備不備のなかで,いまだに不慣れな医師,技師により実施が余儀なくされていることも少なくなく,輸血過誤が入り込む余地が残されています.輸血部では専門性の高い信頼できる医師,技師を養成し検査を委ねること,職員,学生などを対象とした教育・研修の実施,検査部,輸血部の枠組みを超えて質の向上の裾野が広がりを見せて,ようやくセーフティーネットが張り巡らされ,かなりの効果が得られてきています.

基本情報

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臨床検査
52巻2号 (2008年2月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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