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1.はじめに
輸血の安全管理というテーマに沿っていえば,輸血はまだまだ安全とは言い難い印象を受ける.たとえABO,Rhなどの血液型が一緒であっても遺伝的にすべてが同一ではない(もちろん一卵性双生児からの輸血は別だが)ので実際起こりうる生体反応がすべて理解できているわけではない.凝集反応だけに限ってみても,クロスマッチは毎回の輸血に必要であるし,たとえクロスマッチ陰性の血液を輸血したとしても,副作用が起きないとは保証できない.輸血の副作用に関しては,今まであまりにも副作用がありすぎたので,軽微な副作用は仕方がないというような雰囲気がある.しかし,やはり重篤な副作用に関する知識は必要であり,輸血は薬剤ではないが,(最近の薬事法では血液製剤も医薬品らしいが)一般的に薬剤を処方するときには,重篤な副作用については知っておかねばならないことはいうまでもない.
最近,医薬品医療機器総合機構(pharmaceuticals and medical devices agency;PMDA)のホームページから「重篤副作用疾患別対応マニュアル」なるものが提供されており,個々の薬剤について重篤な副作用を調べるだけでなく,逆にどのような症状が出たら,どのような薬剤の副作用の可能性があるかを調べられるようにもなっている1).薬物の副作用は知らないと診断できない.例えば降圧剤としてACE阻害剤を飲んでいる患者の慢性咳そうや,ファモチジンによる無顆粒球症,メトクロプラミドによる錐体外路症状など本来の薬剤の働きからは考えにくい副作用も多くある.
血液製剤による急性の肺障害もそのような反応の1つであり,その機序についての解明も道半ばである.よく知られた輸血によるアレルギー反応とは違い,輸血開始直後に起こるわけではない.時間的には輸血中もしくは輸血後1~2時間くらいで起きてくる副作用であり,ときに数時間後に起こることもあるので因果関係がはっきりしないこともある.時間的な観点からみると輸血による循環血漿量の増加による心不全~肺水腫という病態が起こりうる時期と似ているため,診断は難しい.実際この輸血関連急性肺障害(transfusion-related acute lung injury;TRALI)の概念が一般に広く知られるようになって,日赤に寄せられる副作用報告のなかでTRALI疑いと報告される症例のなかにかなりの確率で循環負荷の症例がある2).もちろん肺障害の起きた結果,低酸素から心機能が低下するという場合もありうるので,一概にすべてを心不全→心原性肺水腫と言い切ることはできないのだが,輸血後に心不全による肺水腫ではない呼吸障害が起きた症例のなかに,TRALIと診断できていなかった症例が今までもあったのかもしれない.
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