臨床検査 45巻7号 (2001年7月)

今月の主題 鉄銅代謝

巻頭言

鉄銅代謝 新津 洋司郎
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 46億年前,地球が誕生してしばらくの間は藻,細菌などの,海中生物の時代であった.これらの海中生物は空気(O2)もない状態で太陽光のエネルギーを利用し,嫌気性の代謝を行いながら生存を続けた.

 その結果,海中生物から大気中にO2が放出,蓄積され,それを利用する好気性生物が席巻するようになった.一方,地球の冷却が始まり,地上が生じてきた.この地球には様々なミネラルが出現し,なかでも鉄,銅は最も重要な土壌の構成金属として存在するようになった.やがて生物は大気中のO2と地中の鉄イオンを利用し,有効な呼吸を営むようになった.

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 この数年の間に,鉄の細胞内(生体内)への取り込み機構とその調節に関する理解が急速に進んだ.その背景には,長年捜し求められて来た鉄代謝におけるkey proteinsの遺伝子が次々とクローニングされたという事実がある.またmRNA上のiron responsive element (IRE)についても点突然変異と鉄過剰症との関係が報告された.他方,鉄イオンについてもアポトーシスシグナルにおける重要性が認識されるようになり,まさに鉄研究は一気に黎明を迎えた感がある.

銅代謝研究の現況 宮嶋 裕明
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 近年,代表的な遺伝性銅代謝異常症であるメンケス(Menkes)病,ウィルソン(Wilson)病の病因が,細胞内の銅輸送膜蛋白質であることが判明した.またシトクロームCオキシダーゼの構造解析が成功し,銅酵素の遺伝子異常に起因する病態について新たな知見が得られ,銅代謝と鉄代謝との関連が証明され,多くの疾患において銅代謝が深く関与していることが分子レベルで明らかになってきている.

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 鉄はわれわれに最もなじみの深い金属微量元素の1つであるが,その代謝制御に関してはいまだに不明な部分が多い.しかし,近年HFEをはじめ,DMT 1, hephaestin, TfR 2, ferroportin 1など,鉄代謝に関連する遺伝子が次々に同定され,多くの知見が得られるようになった.本稿では,それら鉄代謝関連遺伝子と,鉄代謝異常による代表的疾患であるヘモクロマトーシスについて概説する.

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 Wilson病は常染色体劣性遺伝の銅代謝異常で,胆汁への銅の排泄障害およびセルロプラスミンへの銅の取り込みの障害が本態である.染色体13番のATP7B遺伝子が原因である.肝臓への銅の沈着に引き続き,脳,腎,角膜などに,銅の沈着による障害を引き起こす.遺伝子の保因者は,わが国では100~150人に1人で,ホモ保因者で発症するのは,4~9万人に1人で,決して稀な疾患ではない.

技術解説

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 フェリチンは貯蔵鉄を構成する蛋白で,なかに鉄を含有する.血清中に微量が存在し,血清フェリチンとして測定することが可能である.測定法にはラジオイムノアッセイ,酵素抗体法などがある.血清フェリチン測定の臨床的意義は,鉄欠乏と鉄過剰の診断である.減少をみるときは鉄欠乏と考えてよいが,増加した際は鉄過剰のほか悪性腫瘍,肝障害,急性および慢性炎症の場合があり,鑑別が必要である.

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 可溶性トランスフェリン受容体は,細胞表面のトランスフェリン受容体が膜近傍で切断され血清中に遊離したものである.血清中のその量は,主に骨髄赤芽球膜表面の発現量を反映しており,赤芽球総量(赤芽球造血能)および赤芽球における鉄欠乏の程度を表している.従来からの鉄代謝血清マーカーとは異なる新たな血清マーカーとして,各種貧血鑑別診断,非侵襲的な骨髄赤血球造血能の推定などに有用である.

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1.はじめに

 ヘム鉄はヘム蛋白の補欠分子族として用いられ生体における分子状酸素の運搬と利用に極めて重要な役割を果たしている.しかしながら遊離のヘム鉄は生体内のprooxidantとして細胞毒性を発揮するため,これを急速に分解解毒するシステムが必要である.ヘムの分解・解毒はヘムオキシゲナーゼ(heme oxygenase; HO)により行われる(図1).生体内に最も多く存在するヘム蛋白質であるヘモグロビンは赤血球内に存在し,そのヘム鉄は赤血球寿命に伴い主に網内系で代謝されると考えられてきた.本酵素反応ではヘムのポルフィリン環への酸素添加反応により同モルの一酸化炭素と鉄,ビリベルジンを生成する1).ビリベルジンはビリベルジンリダクターゼによりビリルビンとなり,抱合されて胆汁中に排泄される.したがってこの反応は,ヘム鉄を遊離の鉄として再回収する反応系でもあると考えられる.同時に鉄の再回収と併行して,HO反応の副生成物であるCOやビリルビンが生成されて,前者は細胞情報伝達物質として2,3),後者は活性酸素の消去物質として4)鉄回収のコンパートメント周辺の細胞の機能を制御するものと考えられる.最近になりHOの生体における臓器内分布が明らかにされ,その発現パターンが生体侵襲に応じて大きく変化することが明らかにされた.また本酵素の欠損症例が見いだされ鉄代謝パラメータに大きな変動が現れることも明らかになった5)

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1.はじめに

 肝炎や膵炎など広範な組織障害がある場合,頻回の輸血症例,悪性腫瘍や慢性炎症,再生不良性貧血や腎不全など造血能が低下している場合以外にも血中フェリチンが高値を示すことが稀にある.ことに血清鉄もある程度高く,組織(骨髄や肝)生検で鉄沈着がみられるときには,いわゆる鉄過剰症を疑う.一般に輸血や鉄剤の静注など非経口的に鉄分が体内に入ると,まずマクロファージやクッパー細胞などの網内系に蓄積する(ヘモシデローシス).同様の鉄負荷が続くと,次第に肝細胞,膵細胞,皮膚上皮,心筋など実質細胞にも鉄が沈着する.このような状態は二次性のヘモクロマトーシスと呼称されるが,他方,特別の誘因がなくてもこれらの実質細胞に鉄の沈着をみることがある.いわゆる原発性鉄過剰症(原発性ヘモクロマトーシス)である.この原発性ヘモクロマトーシスは欧米社会では最も頻度の高い遺伝性疾患である.その原因遺伝子として最近HFE-1が同定されたが,この異常をもたない鉄過剰症が欧米でも約10%あり,アジア,アフリカでは大部分がそうである1,2)

 HFE-1遺伝子異常については,本誌又木紀和・三浦総一郎氏のヘモクロマトーシスの遺伝子異常の稿で詳述されると思うので,本稿ではそれ以外の鉄過剰症遺伝子異常について最近われわれが見いだした3)H-フェリチンサブユニット遺伝子を中心に述べてみたい.

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1.はじめに

 鉄は必須栄養素の1つで,様々な生体内でのプロセスに必須のコファクターであるが,過剰に体内に存在すると有毒である.そのため,体内の鉄量は綿密に調整されている.発症頻度の高い貧血あるいはヘモクロマトーシスに代表される鉄過剰症は,このバランスが崩れた結果と考えられる.鉄が関与するこれら頻度の高い疾病の原因を探り治療するうえで鍵となるのは,鉄の吸収について理解することであるが,それに関する分子生物学的な情報はこれまでほとんどなかった.従来,食事中の鉄は,鉄還元酵素やビタミンCによって2価の形態(Fe2+)で吸収されることはすでに知られていた.しかし,このFe2+の,小腸からの吸収についての詳細な分子レベルでのメカニズム,あるいは鉄還元酵素の本体,エンドゾームから細胞質への鉄の受け渡しについては,分子レベルで明らかではなかった.本稿では,筆者の携わったDMT 1/DCT 1/Nramp 2(以下DMT 1と記載)を中心に,近年報告された鉄吸収に関連するいくつかの遺伝子について述べる.

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1.はじめに

 ヒト疾患の本態解明,治療・予防法の確立にはモデル動物を用いた研究が有用である.Menkes症とWilson病はヒトの代表的な遺伝性銅代謝異常症である.幸運にも両疾患のモデルとして有用な自然発症ミュータント動物が存在する.Menkes症のモデル動物の一連のMottledマウス系統群とWilson病のモデル動物のLECラットである.これらのモデル動物はヒト患者に非常に類似した症状を呈し,しかも同じ遺伝子の異常が原因であることが証明されている.しかしながら,ヒトとモデル動物の症状には相違もあり,銅代謝にも種差があることが示唆される.

鉄銅組織傷害 岡田 茂
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1.鉄銅の物理的性質と生体における利用

 鉄銅の主たる役割は電子伝達を含む酸化還元反応の触媒である.生物は酸化還元反応を通じてエネルギー(ATPとして)を獲得している.必須微量金属のうち,成人男子では鉄が最も多く約4gであり,2位は亜鉛(非遷移金属)2g,3位の銅は80mgとなっている.遷移金属は多種類の電荷数をもつ陽イオンとなり,多くの化合物を作りやすい.

 鉄は通常+2または+3の酸化数をもつ.種々の陰イオンまたは中性分子が電子ドナー(配位子またはリガンド.複数個のリガンドを有する物質をキレート物質という)となって,鉄との化合物,すなわち,鉄錯体(鉄キレート化合物)を作る.鉄錯体は中性付近でも水溶性であり,触媒活性を有する.

今月の表紙 帰ってきた寄生虫シリーズ・19

リーシュマニア 藤田 紘一郎
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 リーシュマニア症はLeishmania属の原虫によって起こる人畜共通感染症であり,ヒト以外にも多くの家畜や野生動物も保虫宿主になっている.病態により,脾・肝腫を伴う内臓リーシュマニア症(カラ・アザール),皮膚に潰瘍を形成する皮膚リーシュマニア症および鼻・咽頭腔や口腔などの粘膜組織の破壊や欠損を起こす粘膜リーシュマニア症とに分けられている.これらはいずれも吸血性昆虫のサシチョウバエ(sand fly,大きさ2~3mm)によって媒介される.ヒトやその他の脊椎動物の細網内皮系細胞,特にマクロファージ内では無鞭毛期(アマスチゴート,2~5μm)として寄生・増殖しているが(図1),サシチョウバエ体内では1本の鞭毛を形成し,運動性のある前鞭毛期(プロマスチゴート,10~25×1.5~6μm)として二分裂で増殖している(図2).

 ヒトへはサシチョウバエの吸血時にプロマスチゴートが体内に取り込まれて感染する.プロマスチゴートはヒト体内に入ると,24時間くらいでアマスチゴートになり,分裂・増殖を繰り返す.

コーヒーブレイク

作家への回想 屋形 稔
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 太宰治という作家が玉川上水に身を投じて死亡したのは敗戦数年後で,私の医大卒業も真近い頃であった.母校の新聞から何か書けといわれて「自虐作家の死」という題で作品を通じてみた作家の彼に対する感想をしたためたことがある.学生の頃は濫読の限りを尽くしたが当時なりに彼の作品には心を揺さぶられるものがあった.

 戦後の流行作家はカストリに象徴されるように泡沫のごとき運命を辿るのではと思われたが,半世紀たっても彼のみは息長く読者から愛されてきたし,私自身も陰に陽に生活の底に彼の影響が残映しているのを感じる.彼の死後暫くした頃大新聞のコラムに彼と志賀直哉の文学上の葛藤を取り扱った一文が載り,今でも印象深く覚えている."太宰は小刀を滅茶苦茶に振り廻して立ち向うのに対し,志賀は大刀一閃水もたまらず切り捨てる概がある"といったもので,マスコミもまた権威の旗持ちかと感じたことである.

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 1998年秋私は幸運にもジョージア州(Georgia State)のWarm Springsにある小さなホワイトハウスを訪れる機会があり,初めて知った多くの事実に強い感銘を受けた.第32代大統領フランクリン・デエラノ・ルーズベルト(Franklin Delano Roosevelt 1882~1945)が1924年に初めてこの地を訪れ,幼い頃罹患した小児麻痺による不自由な身体の治療のために,この地にある自然の温泉と荘厳な高い樹木に囲まれた森を非常に気に入って,丘陵の北側斜面に素朴な小山屋を建てたのである.その後,彼はワシントンでの激しい政務に疲れると,Warm Springsに戻り温泉で身体を休めた.そして,精神の疲れを回復させてワシントンに戻り,有名なニューデイル政策を敢行して,当時の経済的大恐慌を切り抜けた.また,4回も大統額選挙にチャレンジするとともに,この小さな山荘に小児麻痺の子供たちを招いたり,また,小児麻痺患者の治療や医学研究のための財団を設立するとともに,医学的・職業的リハビリテーション設備をつくり,今でも毎年3,000人以上の人たちが利用しているといわれる.

 現在ポリオによる小児麻痺の発症は日本で皆無に等しく,東南アジアの一部にしかみられない.

シリーズ最新医学講座―免疫機能検査・7

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はじめに

 ホルモンの合成,分泌,輸送,受容体との結合,作用あるいは不活化を阻害することにより生体の恒常性維持,生殖,発達,行動などに関与する正常なホルモン作用を障害する外因性の化学物質を内分泌攪乱化学物質と称している.最近,環境中に存在する化学物質が野生生物のホルモン作用を攪乱し,生殖機能の阻害,悪性腫瘍の発生,免疫能の低下などを引き起こす可能性が指摘されている.このような内分泌攪乱作用を有すると疑われている化学物質のなかで特に人体に影響を与えるものとしてポリ塩化ビフェニール(PCB),ダイオキシン類などが注目されている.PCBは化学的安定性,不燃性,電気絶縁性などの諸性質から,一時期大量に生産され使用されてきた.また,ダイオキシン類はベトナム戦争で使用された枯葉剤中の不純物として社会的に知られたが,廃棄物の熱処理過程や有機塩素化合物の生産過程などで非意図的に生成される.これらの物質は,環境中において極めて難分解性であり,生物やヒトに摂取されると排泄が極めて遅く,脂溶性のため脂肪組織に蓄積される.

 わが国ではPCB混入ライスオイル摂取による油症がPCB中毒事件として知られているが,発症後30年以上を経過した現在においても重症例では体内のPCB濃度がいまだに高値である.最近,乳児における母乳からのダイオキシン類摂取による影響が注目されているが,内分泌攪乱化学物質のヒトへの影響についての詳細はいまだ不明である.

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1.はじめに

 慢性関節リウマチ(RA)は,多関節炎,骨破壊,そして関節変形をきたす自己免疫疾患である.罹患関節では炎症細胞の浸潤と滑膜線維芽細胞の増殖により,著しい滑膜増生が認められる.病因として,未知の自己抗原に反応するT細胞により炎症が引き起こされると考えられているが,いったん炎症が起こると,活性化マクロファージが主役を担うようになり,腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor-α;TNF-α)に代表されるサイトカインを大量に産生する.これに刺激され増殖した滑膜線維芽細胞は,パンヌスと称される肉芽様組織を形成する.このような病的環境では,蛋白分解酵素や活性酸素の産生,破骨細胞の活性化が盛んになり,最終的に骨・軟骨を破壊して重大な機能障害を招く.以上のように,RAの病態は,炎症→滑膜増殖→関節破壊の3つのステージに分けることができる(図1).

 RA治療の最終目的は,関節破壊の阻止である.従来の治療法は,ほとんどが炎症の抑制をターゲットにしたものであった.しかし,関節炎の形成・維持には様々な分子が関与しているため,1つの分子を抑制しても他の分子の活性に変化が見られるせいか,効果は長続きしないことがある.そのため,最終的に関節破壊に至ってしまう可能性があった.

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1.はじめに

 近年,胃十二指腸潰瘍再発とHelicobacter pylori感染との関係が明確となってきた.その除菌治療において,プロトンポンプ阻害剤(PPI)と抗菌薬2剤の3剤併用療法が確立されつつあり,少ない副作用で90%に及ぶ効果的な除菌率が得られるようになっている.しかし,そのなかにおいてクラリスロマイシン(CAM)耐性菌の出現が指摘されている.

 本稿では,H.pylori除菌治療と抗菌薬との関係,マクロライド耐性菌出現の機序,問題点などについて述べてみたい.

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1.はじめに

 臨床医学の分野では,心臓の外科的治療の目的で40年以上も前から低体温の利用が試みられてきた.体温を低下させることにより細胞の代謝を抑制し,手術に必要な心臓の収縮と血流の停止から体細胞を保護するためである.この低体温により短時間の心停止状態が可能となったが,一方では,低温による細胞傷害が経時的に進行し致命的な結果をもたらすこともわかってきた.これは,哺乳類の細胞では低温に対する耐性が低いためであった.この低い低温耐性を克服するために注目されるようになったのが,哺乳類の冬眠現象である.

 哺乳類の冬眠に見られる最も特徴的な変化は,0℃近くまで低下する体温である.冬眠していない状態では,通常の恒温動物と同様に37℃の体温を維持しており,環境温度を低下させても体温が下がることはない.しかし,冬眠可能な時期には,体温は数℃にまで低下するにもかかわらず各器官は正常な機能を維持し生存できるようになる.この仕組みの理解が低体温に対する耐性の強化に利用できるとの考えから,低体温の臨床応用への期待が冬眠研究の大きな原動力になってきた.1980年代以後には,さらに,冬眠中の動物で細菌や放射線,発癌性化学物質などの有害因子に強い耐性が見られることや,低酸素状態でも脳に傷害が起きにくいことが観察されるとともに,心臓では冬眠により細胞機能が調節されることが見いだされた1)

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1.はじめに

 従来,生化学性状や形態によって同定を行っていた細菌検査においても,核酸を用いた同定検査が行われるようになってきた.核酸を用いた検査は核酸増幅法を用いることによって迅速にDNAの増幅が可能となるため,検査の迅速化が望まれている現在において期待される検査法である.現在結核菌やマイコプラズマ・淋菌などにおいて核酸増幅法を用いた検査が実用化されている.しかし,いずれも特定の病原体の検出が行えるだけで,何百種類とある病原体を1つのシステムで検出することはできない.また,菌株の同定では,抗酸菌やレジオネラにおいて核酸を用いた同定法がすでに存在するが,すべての病原体を1つのシステムで同定することは不可能である.

 一方,1990年以降,スライドグラス上の非常に狭い範囲にDNAを並べる技術であるDNAマイクロアレイが確立された.この技術を上記に述べた検査に応用することにより,日和見病原体を含めで数百種類あるといわれている病原体を1つの検査で検出,同定することが可能になると考えられる.ここでは,DNAマイクロアレイを用いた検出,同定について概略を述べたい.

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1.はじめに

 ペニシリンの臨床応用から幾年も経ないうちに,β―ラクタマーゼ産生能を獲得したペニシリン耐性ブドウ球菌が臨床で分離されたことはよく知られた事実である.しかし,時代を経ても新規抗菌薬の臨床応用とともに,常に耐性菌の出現は続いている.そして,今また「抗菌薬排出」という新しい機構を武器とする耐性菌が問題となってきた.この排出機構の問題は,抗菌薬耐性機構が1つ増えたということではなく,従来の耐性の概念を覆すものである.本稿では,エフラックスポンプによる抗菌薬耐性と,その耐性機構としての新規性について述べたい.

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1.中枢性疲労研究の背景

 近年の産業構造の著しい変化は,その疲労が「脳」に一局集中を呈してきているように思える.慢性疲労症候群(CFS)はもとより,情報疲労症候群,情報ストレス症候群,インターネット依存症などはその最たるものの象徴といえる.この大部分は中枢性の疲労を伴い,病態時のみならず,健康人の生理現象でもありその社会的意義は極めて大きい.にもかかわらず脳の疲労,つまり中枢神経系の疲労(中枢性疲労)に関する生化学的根拠に対する研究はあまりにも蓄積が乏しい.一方筋肉疲労(末梢性疲労)は解糖系促進に伴う消耗と蓄積に集約されるが,特に筋肉内プロトン蓄積とpH低下が筋小胞体からのCa2+の放出ならびに解糖系律速酵素(6―ホスホフルクトキナーゼ)の機能低下に影響を及ぼすことが原因と明確に結論づけられている.

 とはいえ,中枢性疲労の存在の概念的提唱はすでに1960年代初めから報告されている.猪飼(1961)5)は筋力の生理的限界と心理的限界という表現で筋出力にかかわる中枢性制御の重大さを指摘した.後にAsmussen (1979)6)は猪飼の報告した筋力に対する中枢性疲労説を明確に支持した.

学会だより 第90回日本病理学会総会

21世紀の病理学の指針 横山 繁生
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 2001年4月5日から3日間,第90回日本病理学会総会が,慶應義塾大学病理学講座教授秦順一会長のもと,東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催された.参加者は2千人を超え,宿題報告3題,ワークショップ10題,シンポジウム2題のほか,1130余りの一般口演・示説演題に対し,活発な討論・質疑応答が行われた.

 宿題報告Ⅰでは,大阪大学の青笹克之教授が慢性炎症を基盤にした悪性リンパ腫(特に,甲状腺リンパ腫と膿胸関連リンパ腫)の発生機序に関する講演をされた.また,宿題報告Ⅱでは,名古屋大学の高橋雅英教授が,多発性内分泌腺腫症2型・ヒルシュスプルング病・甲状腺乳頭癌におけるRET遺伝子変異と機能異常について,現在までの研究成果を解説された.ともに病理診断業務の現場で遭遇する腫瘍であり,興味深い内容であった.「疾患モデル研究の戦術・戦略:ポストゲノム時代への視座」と題された公開シンポジウムでは,分子病理学・遺伝学の今後の展望が語られ,ワークショップ6では,再生医療を視野に置いた「幹細胞と組織形成」が課題となっており,これらが今後の実験病理学の主流の1つになっていくと思われた.古くて新しい疾患である感染症もワークショップ7で取り上げられた.感染症に関しては,病理形態像のみでは確定診断困難な場合が多いので,より迅速・簡便かつ正確な血清学的診断法や遺伝子学的診断法の必要性を感じた.

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 Q 血管が見えづらい患者さんから採血する場合,手を握らせたり,軽く叩いたりしています.このようなことをしても,検査値に影響が無いのか日頃疑問に思っております.この点につきまして,ご教示下さい.

質疑応答 その他

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 Q 4月号に掲載された「米国の臨床検査室」を読んで,患者さんのために,24時間稼動する態勢がよくわかりました.米国の病院のシステムや考え方として,特徴的なものにはどのようなものがあるのか,ご紹介ください.

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 遺伝子治療において治療遺伝子の運搬役となるベクターの果たす役割は重要であるが,近年米国における臨床例で,ベクターによる副作用がいくつか報告されている.日本で実施されているベクターに対する安全性試験は厚生省が定めているガイドラインを基調としている.今後,急速に発達する遺伝子治療において,安全性に関する議論は不可欠であり,臨床試験に関する情報公開をはじめ,政府・企業・研究者による密接な協議が望まれる.

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 血小板活性化による血小板表面の変化を2種のモノクローナル抗体(MoAb),PAC1,5)および抗CD62P抗体1,6,7),を用いて測定する方法は血小板活性化測定の簡便で強力な手段である1~7).本稿では,この方法の基礎的検討を行い,優れた再現性,試薬調整後の安定性,MoAbとの反応,固定後の測定値の安定性を証明し,フローサイトメーターを持たない施設でも,固定した検体を中央施設で測定することが可能であることが示された.

基本情報

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臨床検査
45巻7号 (2001年7月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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