コーヒーブレイク
作家への回想
屋形 稔
1
1新潟大学
pp.725
発行日 2001年7月15日
Published Date 2001/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542904808
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太宰治という作家が玉川上水に身を投じて死亡したのは敗戦数年後で,私の医大卒業も真近い頃であった.母校の新聞から何か書けといわれて「自虐作家の死」という題で作品を通じてみた作家の彼に対する感想をしたためたことがある.学生の頃は濫読の限りを尽くしたが当時なりに彼の作品には心を揺さぶられるものがあった.
戦後の流行作家はカストリに象徴されるように泡沫のごとき運命を辿るのではと思われたが,半世紀たっても彼のみは息長く読者から愛されてきたし,私自身も陰に陽に生活の底に彼の影響が残映しているのを感じる.彼の死後暫くした頃大新聞のコラムに彼と志賀直哉の文学上の葛藤を取り扱った一文が載り,今でも印象深く覚えている."太宰は小刀を滅茶苦茶に振り廻して立ち向うのに対し,志賀は大刀一閃水もたまらず切り捨てる概がある"といったもので,マスコミもまた権威の旗持ちかと感じたことである.
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