呼吸と循環 44巻8号 (1996年8月)

特集 呼吸・循環器治療薬の狙いと効果の現実

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 はじめに

 交感神経興奮は心筋β(β1)受容体を介して心臓に陽性変時作用,陽性変力作用,伝導促進作用などを発揮する.労作性狭心症や一部の不整脈では交感神経の陽性心臓作用が病態発現に中心的な役割を演じており,β遮断薬は古典的な治療薬となっている.一方,心不全では交感神経興奮は低下した心機能を維持するための重要な代償機序であり,β遮断薬は禁忌とされてきた.この常識を覆したのが1975年のWaagsteinらの報告であり,彼らはβ遮断薬を慎重に長期投与した結果,慢性心不全患者の自覚症状が改善することを見出した(表1の文献1)).最近の大規模長期臨床試験では延命効果も証明され,現在,β遮断薬は慢性心不全治療薬として非常に有望視されている.

 本稿では,慢性心不全に対するβ遮断薬療法についての最近の動向を概説するが,まず心不全の病態形成における交感神経の役割について述べる.β遮断薬は,有害な交感神経作用から不全心筋を保護することにより長期的有効性をもたらすと考えられているからである.

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 はじめに

 1995年8月末にNIHがnifedipineカプセルについて注意を促す声明を発表した.そして,Cir—culationの1995年9月1日号にFurbergの論文“nifedipine”1,1b)が掲載された.さらにPastyらも2)カルシウム拮抗薬による降圧療法が心筋梗塞の危険を高めると発表した.これらの発表は大きな反響を呼び,多くの議論を引き起こした.Cir—culationの1996年4月1日号にFurbergの論文に対する投書が多数掲載され,その反響の大きさを物語っている.わが国でも1995年10月16日付の読売新聞にもそのことが特集され,一般の関心も高いことがうかがえる.このようにカルシウム拮抗薬,特にジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬は,今新たな視点から見直されつつあるようである.虚血性心疾患の治療薬がどうして悪者にされるのか.カルシウム拮抗薬の本当の位置づけはどこにあるのかを考えたい.

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 1879年にニトログリセリンが初めて臨床応用されて1)100余年,硝酸薬はいくつかの変遷と発展を遂げながら,虚血性心疾患治療に大きな役割を果たしてきた.狭心症の発作寛解薬や治療薬としての効果は既に確立されたものであり,今日においても狭心症治療の第一選択薬としての地位は変わっていない.一方,はじめは禁忌とされていた急性心筋梗塞症への治療にも応用され普及しだしたのは,1974年にJ.N.Cohn2)が心不全治療法としての血管拡張療法理論を支持して以来のことである.この20年間に心筋梗塞症の急性期ポンプ失調への治療効果をはじめとして,梗塞巣の縮小効果,左室心筋リモデリング防止効果,死亡率減少効果などに関する知見が集積し,心筋梗塞症での硝酸薬の効用に期待がもたれた.しかし,1994年のGISSI−3,1995年のISIS−4と,大規模臨床試験において相次いでその有用性が否定されたことは周知の事実である.急性期のポンプ失調や梗塞後狭心症での有用性を示す報告は枚挙に暇がなく,AHA/ACC task force3)においても標準的治療法としての地位が定まっているので,本稿では,梗塞巣の大きさや合併症発生率,生命予後に及ぼす影響を検討した報告を整理し,心筋梗塞症での硝酸薬の意義と今後の方向性について考察する.

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 はじめに

 従来より欧米では虚血性心疾患を対象として抗不整脈薬の大規模臨床試験が行われてきており,長期予後に対する抗不整脈薬の効果が検討されている.日本での臨床試験では,比較的良性とされる心室期外収縮(PVC)に対する効果から抗不整脈薬の評価が行われてきた.対象としては重症の心疾患患者は除外されており,多くは基礎疾患のないPVC患者が選ばれてきている.しかしながら,PVC抑制作用からの評価は必ずしも長期予後を予知し得ない.強力な抗不整脈作用を持つ薬剤の中には逆に長期予後を悪化させるものがあり,期待されて登場した新薬の多くが催不整脈作用のため試験が中断されているのが現状である.

 図1にPVCに対する抗不整脈薬の効果を示す1).I群薬ではPVC抑制効果はIc群薬が最も強く,次いでIa群薬で,Ib群薬が最も弱い.II群薬はIb群薬とほぼ同程度で,III群薬はIc群薬とほぼ同等の効果を示す.IV群薬はほとんど抗不整脈作用を示さない.もしPVC抑制効果がそのまま致死性心室性不整脈予防に結びついて突然死率を低下させるのなら,Ic群薬とIII群薬が最も心筋梗塞患者の予後を改善させるはずである.しかし,心筋梗塞後の患者に対する抗不整脈薬の予後改善効果を検討した多数の前向き研究のmeta-analysisによると(図22)),I群のNaチャネル阻害薬とIV群薬のCa拮抗薬は予後を改善せず,II群のβ遮断薬とIII群のamiodaroneが予後を改善する.さらにCardiac ArrhythmiaSuppression Test(CAST3,4))は,心筋梗塞後の心室性不整脈に対して強力な抗不整脈薬であるIc群薬を投与した場合に長期予後は逆に悪化することを明らかにした.以来,心筋梗塞患者における抗不整脈薬治療がいかにあるべきかが問い直されることとなった.

強心薬と慢性心不全 横田 慶之
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 はじめに

 心不全では心筋収縮心不全に基づく心ポンプ機能の低下や末梢循環不全を防止するため,神経体液性因子をはじめとする種々の代償機転が働いている.交感神経系やレニン・アンジオテンシン系の賦活は心筋に対する陽性変時・変力作用や末梢血管収縮作用,体液貯留作用を介して心拍出量と末梢重要臓器灌流圧を保持する.このような心不全における代償機転は短期的には極めて有用であるが,これら代償機転の長期間の作動は逆に心不全をさらに悪化させることが明らかとなってきた.すなわち長期間持続する交感神経刺激は心筋β受容体のdown regulationを招くため,心筋収縮性の増大にも結び付かず,心拍数増加は心筋酸素消費量を増加させて心筋虚血を増大させる.また,カテコラミンやアンジオテンシンIIは末梢動脈収縮による後負荷増大や心筋障害をもたらし,心ポンプ機能はさらに悪化していく.また,容量血管収縮や体液貯留は心臓に対する前負荷を増大させて,肺あるいは諸臓器のうっ血をもたらす.

 このような心不全の悪循環を断ち切るのが心不全治療の基本となる.すなわち,心筋収縮力低下に対しては強心薬,前負荷増大に対しては利尿薬,後負荷増大に対しては血管拡張薬を用いるが,特に心筋収縮性を増強させる強心薬は慢性心不全の基本病態を改善させる薬剤として最も期待され,その開発に努力が注がれた.

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 はじめに

 1971年のdisodium cromoglycate(DSCG)の登場は,わが国の気管支喘息に対する治療体系に「予防薬」という概念を導入した.その後種々の経口喘息発作予防薬が開発され,「抗アレルギー薬」という呼称も定着した.では現時点において,抗アレルギー薬はどう位置付けられ,どの程度の有効性を発揮し得るのか?本稿ではこのような観点から,抗アレルギー薬の現況を述べる.

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 はじめに

 原発性肺高血圧症(primary pulmonary hyper—tension:PPH)などの血管原性肺高血圧に限らず,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pul—monary disease:COPD)や特発性肺線維症などの肺実質性の疾患においても,その病期の進展に伴い肺高血圧(pulmonary hypertension:PH)が惹き起こされてくる1,2)こうしたPHの存在は,患者の運動耐応能や生活の質(quality of life:QOL)を制限するばかりでなく,予後にも大きく影響を及ぼすことが知られていることからも3,4),その対策は臨床的に極めて重要な課題といえる.

 著明なPHを来すことで知られるPPHでは,その肺血管抵抗上昇の成因として,何らかの機能的な肺血管攣縮が関与している可能性が示唆されることから5,6),こうした肺血管攣縮を解除する目的で各種血管拡張薬による治療が試みられてきている7,8).初期には種々の血管拡張薬による有効例が報告され9,10),内科的治療法の一つとして有望視されていたが,その後肺血管拡張の評価法や薬剤投与後の副作用を含め様々な問題点が明らかとなってきている11)

 一方,COPDや特発性肺線維症などに代表される慢性肺疾患にみられるPHの成因としては,換気不良部分に生じる低酸素性肺血管攣縮(hypoxic pulmonary vasoconstriction:HPV)が重要な位置を占めているものと考えられており12,13),この機能的ともいえるHPVを解除する目的で同じく各種血管拡張薬の投与が試みられてきた14,15).しかしながら,このHPVは肺内での局所レベルでの換気・血流比を効率よく保ち,生体が低酸素状態に陥らないようにする防御機構の一つでもあるため16),このHPVの解除は確かにPHの改善という面では有効といえるが,同時に動脈血酸素分圧(PaO2)も低下すること17)が大きな問題とされてきている.また,こうした血管拡張薬は,血管平滑筋のみならず気道の平滑筋をも弛緩させる作用を有することがあるため,COPDなどのいわゆる換気障害型の肺高血圧症において,その肺循環動態へ及ぼす影響を評価する際には,直接的な肺血管系への影響に加え,気道系を介した間接的な影響をも考慮する必要があり,これが症例間および薬剤間での比較検討を困難にしている要因の一つともいえる。

 そこで本稿では,まず肺血管拡張薬の肺高血圧へ及ぼす直接的効果を理解するため,これまでに多くの血管拡張薬による治療が積み重ねられてきたPPHを取り上げ,代表的血管拡張薬に関するこれまでの成績について概説したうえで,肺血管拡張反応の評価法に関する問題点,ならびに最近の肺血管拡張薬の動向について解説を加えたい.次に,COPDや特発性肺線維症などの肺実質性の疾患における肺血管拡張薬の臨床的役割についても併せて触れてみたい.

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 はじめに

 呼吸促進薬とは直接あるいは間接に呼吸中枢を刺激して換気量を増加させ,血液ガスの改善を図る薬剤である.今日,わが国において呼吸不全の治療薬として呼吸促進薬が使用される頻度は決して多くない.というのは,近年の呼吸管理に関する知識の蓄積と普及,高性能なレスピレーターの開発と普及およびIRCUの設置などにより,目的とする換気量を確実に確保できる挿管あるいは無挿管(BiPAPやnCPAP)による人工呼吸が使用されることが多いからである.

 しかしながら,睡眠剤などの呼吸抑制薬の拮抗薬として,また麻酔からの覚醒遅延時,人工呼吸からの離脱時などに,あるいは未熟児の無呼吸発作に対しての有用な薬剤として用いられることがある.われわれ呼吸器科領域での呼吸促進薬の使用は慢性閉塞性肺疾患の急性増悪時,睡眠時無呼吸症候群,あるいは原発性肺胞低換気症候群患者などの限られた症例に使用されているのが現状である.しかし,このような呼吸促進薬の使用状況は国によって多少の差異があり,ヨーロッパではアメリカや日本と比べて慢性呼吸不全に対する呼吸促進薬の報告が多く,呼吸促進薬の可能性の追求が積極的である.

 以下本稿では,それぞれ異なる作用機序を持つ呼吸促進薬であるストリキニーネ,ドキサプラム,Thyrotropin releasing hormone(TRH),キサンチン製剤およびプロゲステロンについて作用機序の解説を中心にわれわれの得た最新の知見を紹介しながら概説することを試み,それを通して今後の呼吸促進薬の方向性を考えてみたい.

巻頭言

分化と統合 高折 益彦
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 “分化と統合”という言葉をしばしば耳にする.しかし,これが本当に行われているのであろうか.分化は非常に容易に行われているが,統合が実際にどのくらい行われて来たであろうか.生物の進化の歴史を見ても分化に当たる事実はあっても統合に当たることはなかった.すなわち統合(エントロピーを減少させること?)は自然界には存在しないのではなかろうか.ただ人間が創作したもので,人間の意志で制御出来るものではある程度はあったかもしれない.

 本誌の第1巻第1号を持っていたものの一人として感じるのであるが,当時の呼吸と循環の関係(生理学,薬理学,そして臨床において)は現在のそれと著しく異なるものであった.当時,この方面の臨床に関係する医師たるものは“呼吸を知らずして循環を語るなかれ”と言われ,そしてその逆もいわれた.私自身は当時心臓外科の臨床に携わっていたが,手術患者を対象にスパイロメトリーを担当させられていた.現在でも医学部卒業以前ならば同様のことを説いても認容されよう.しかし一度実地臨床に入り込んでみると,両者を並行して学び,身に付けて行くことは非常に困難である.そのためどちらか一方を選択し,さらに安易さも手伝ってややもすればさらにその中の狭い範囲に引きずり込まれてしまうことが多い.事実,“循環”についても,最近の各専門雑誌は心臓,脈管部門とに,さらに前者もその代謝,力学,電気生理などに区分して来ている.そしてこれに対応してそれぞれに研究会,学会ができて来ている.さらに問題となるのは,それぞれの分野で臨床から離れて基礎医学にと向って行くことである.確かに臨床での研究ではその成果が極めて明確に提示されることが少ない.それゆえにもう少し歯切れの良い発表がしてみたいと思うことも無理ではないが,citation indexが気になるという人間的な一面も作用しているかもしれない.citation index云々となれば当然,邦文ではなくて欧文で発表することを目指してくる.確かに欧文での発表でないと引用もされないし,後世に残ることもない.しかし,ここでもう一度我々はなぜ研究をするのか考えてみることが必要であろう.新しいことを発見しておけばそれは必ず人類の役に立つ.このことは間違いはない.しかし,自分の職域から著しくかけ離れた研究に没頭することに問題はなかろうか.まず自己の職域においてためになる,あるいはそれを用いて身近な社会に奉仕するための研究をまず考えるべきではなかろうか.さりとて自己の職域から遠く離れたことには関係すべきでないと言うものではない.要はいろいろのジャンルの研究それぞれに各自がどの程度の配分で力を注ぐか,それが職業人的立場からみて本当に適切であるかということにかかっているように思われる.かつて我々がわが国で初めて悪性高熱症を経験し,このことを本症が比較的多く報告されているカナダの雑誌に報告しようとしたところ,ある先輩から“まず日本の雑誌に報告し,我々の明日の臨床に役立てるべきである”と注意を受けたことがあった.この厳しい忠告は今も心に焼きついている.

Bedside Teaching

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 はじめに

 テオフィリンは強力な気管支拡張薬で,気管支喘息(以下喘息)の主要な治療薬の一つである.とくに作用時間が長い徐放剤は最近の気管支喘息の長期的な治療のなかでも,夜間,早朝の発作に薦められている1〜3).わが国では諸外国と異なり,テオフィリンは急性発作に対してもβ2刺激薬の吸入とともによく用いられる.血中濃度からみればテオフィリンの治療域は比較的狭い.しかし,最近は血中濃度のモニターも簡便になり,使用上の注意を守れば,有効かつ安全な薬剤である.

 テオフィリンには気管支拡張作用以外に強心利尿作用,呼吸中枢の刺激作用,呼吸筋力の増強作用がある.最近では抗アレルギー(抗炎症)作用も注目されている.本稿では最初にテオフィリンの体内での動態,薬剤間相互作用を説明し,テオフィリンの薬効に注目しながら各疾患毎の使用法を解説する.

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 術後早期および遠隔期に冠動脈造影(CAG)を施行した冠動脈バイパス術(CABG)203症例,伏在静脈グラフト(SVG)442本を対象にSVGの自然歴を検討し,また遠隔期に2カ月以上の間隔をおいて複数回CAGを施行したCABG 83症例,SVG 183本を対象に遠隔期SVG狭窄病変の進展様式をretrospectiveに検討した.SVGは術後1年目までに約10%閉塞したが,その後5年目までは新たな病変の出現は稀であった.しかし,5年目以降は粥状硬化による狭窄,閉塞病変が出現し,その後は経年的に増加する傾向にあった.また,新たな虚血所見出現にてCAGを施行した群では,経過観察目的にCAGを施行した群に比べ,高率に新規閉塞,有意病変の出現をみた.一方,術後遠隔期SVGの中等度狭窄病変の約半数は平均2年以内に進展し,高度狭窄病変の約70%はやはり平均約2年以内に進展,しかも約半数は完全閉塞への進展であった.また,造影上,正常あるいは軽度狭窄病変を認めるのみであっても,比較的短期間に高度狭窄病変に進展する急速進行病変も存在した.

 以上より,CABG術後患者の管理にあたっては,新たな虚血所見出現に注意し,中等度狭窄病変が出現した場合は1年毎の反復造影を施行し,症例によっては積極的な血行再建術を考慮すべきであると思われた.

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 Doppler flowireによるcoronary flow reserve測定に要するアデノシン三リン酸二ナトリウム(ATP)の至適用量を検討するために,冠動脈造影にて正常冠動脈を呈した11症例の主要冠動脈の近位部にDoppler fiowireを挿入しcoronary flow reserveを検討した.左前下行枝,左回旋枝ではATPを10μg,20μg,30μg投与し,ついでニトログリセリン(NTG)200μg,造影剤7mlおよび塩酸papaverine 6mgを順に冠動脈内に投与した.また,右冠動脈ではATP(5μg,10μg,15μg),NTG 200μg,造影剤3.5mlおよび塩酸papaverine 3mgを投与した.その結果,左前下行枝ではATP 10μgに比較し,20μg,30μgおよび塩酸papaverine投与時のcoronary flow reserveはそれぞれ有意に大であり,ATP 20μg,30 μgと塩酸papaverine投与ではcoronary flow reserveは同程度であった.また,左回旋枝では左前下行枝と同様であり,右冠動脈ではATP 5μgに比べ,10μg,15μg,NTG 200μg,塩酸papaverine投与時のcoronary flow reserveは有意に大で,これらによるcoronary flow reserve値には有意差はなかった.いずれの主要冠動脈枝においてもcoronary flow reserve値の最大値は安静時の値の約3〜4倍に達していた.Coronaryflow reserveを検討する際のATPの用量は,左冠動脈は20μg,右冠動脈は10μgで十分であることが示唆された.

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 腹部大動脈瘤の血栓性完全閉塞によりLeriche症候群を来した症例を経験した.腹部大動脈瘤が慢性に完全閉塞してLeriche症候群を呈する例は稀であり,その報告も少ない.症例は70歳,男性で,約10年前より次第に増悪する間欠性跛行,下肢の萎縮および陰萎などの典型的なLeriche症候群の症状を主訴に当科を受診した.血管造影で腹部大動脈は両側の腎動脈分岐部直下で完全閉塞し,側副血行路を介して両側の外腸骨動脈以下が造影されていた.腹部CTで腎動脈下の腹部大動脈に,血栓により完全閉塞した腹部大動脈瘤を認めた.以上より,腹部大動脈瘤に合併したLeriche症候群と診断し,腋窩動脈—両側大腿動脈バイパス術を行い症状は改善した.しかし,大動脈内血栓の上行進展による諸臓器障害や瘤の拡大破裂の危険性が残る.

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 症例は56歳,男性.結核性胸膜炎にてリファンピシン(RFP)450mg/dayを投与中であった.慢性心房細動(Af)に対しワルファリン(Wa)投与下に直流除細動(DCC)を施行,洞調律化後に燐酸ジソピラミド300mg/dayを開始したが,Afが再発した.21日後の血中濃度は感度以下で本剤を中止した.再度DCC施行し洞調律後に塩酸ピルジカイニド150mg/dayに変更したが,Afが再発した.14日後の血中濃度は感度以下で,本剤を中止した.その後,胸膜炎は著明に改善し,RFPの投与を終了した.Wa投与下にDCCを施行し,洞調律後に塩酸ピルジカイニド150mg/dayを再開した.以後6カ月間以上洞調律は維持され,血中濃度はすべて治療域に入り,コントロール不良であったトロンボテストも改善した.

 RFPは肝のチトクロームP450酵素を誘導し,多くの薬剤の代謝速度を速めることが知られている.本例のように同一症例で3剤抑制や,塩酸ピルジカイニドとの相互作用報告はなく報告した.

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 症例は69歳,男性.1987年洞不全症候群に対しAAIペースメーカー植え込み施行,1995年2月generator交換目的に入院,現在無症状.既往歴は1991年糖尿病性腎症による慢性腎不全で人工透析導入,現在週3回の慢性透析中.入院時の断層心エコーで僧帽弁輪の高度石灰化,左室流出路に直径約1cmでエコー輝度の高い可動性腫瘤を認めた.経食道心エコーでも同様の所見.冠動脈造影では栄養血管は認めず,可動性のため塞栓の危険性が高いと考え1995年3月29日摘出術を施行した.手術は体外循環下に経大動脈弁的に摘出.右・無冠尖交連の下方,僧帽弁前尖弁輪付近に白色一部赤色の硬い8×3mm大の腫瘤を認め,鉗子で容易に摘出できた.病理所見は高度な石灰沈着を伴うverruca様組織で,表面は結合織で被われていた.僧帽弁の弁輪石灰化が左房や左室流入路側に成長するという報告はあるが,本例のように左室流出路側に腫瘤として突出するのは非常に稀である.

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 症例は一過性脳虚血発作の既往がある72歳の女性.1988年に僧帽弁狭窄症と心房細動を指摘され,心カテーテル検査を施行したが,冠動脈狭窄はなかった.以後,良好な抗凝固療法を施行していた.1994年2月,突然胸痛を生じ心電図上急性下壁梗塞症と診断された.発症4時間後に施行した冠動脈造影にて,右冠動脈末梢に血栓を示唆する完全閉塞所見を認めた.直ちに冠動脈内血栓溶解療法を行ったが,再疎通は得られなかった.発症17日後の冠動脈造影では閉塞部位は正常冠動脈像を呈していた.僧帽弁狭窄症に合併した急性心筋梗塞症に血栓溶解療法を施行した例は本例を含めて7例の報告がある,しかし,血栓溶解療法のみでは全例が急性期の再疎通が不成功であり,閉塞部位も心筋の灌流域が狭い部位が多く,全例慢性期に再疎通していた.本例は,僧帽弁狭窄症に合併した急性心筋梗塞症の治療は,保存的な治療を第一選択とすべきであることを示唆する症例と考えられた.

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 患者は50歳,男性.原発性肺高血圧症(primary pulmonary hypertension:PPH)と診断後,外来治療として,prostaglandin E1の持続経口投与および在宅酸素療法を中心に行ったが,約3年間の経過後,肺循環動態の悪化を来し,さらに右心不全を伴ってきたため入院.心不全の治療を行うと同時に,安定したprostaglandin I2誘導体であるベラプロストナトリウム(BPS)を60μg/日より経口投与開始し,3カ月後180μg/日に増量後,肺動脈圧と肺血管抵抗はともに低下し,肺循環動態の改善を認めた.これは,BPSの強力な血管拡張効果,血小板凝固抑制効果,血小板粘着抑制効果および抗血栓効果によるものと思われる.今後,本薬はPPHの有効な治療薬の1つとなり得ると思われる.

Topics Respiration & Circulation

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 ■最近の動向 人工呼吸管理を中心とした救命救急医療(Critical care medicine)が果たした医学への貢献は疑いがなく,その存在の重要性は今後さらに高まって行くと考えられるが,反面,回復の見込みのない患者に対する対応,進行した慢性疾患患者の急性増悪時の対応などに関し,人工呼吸器装着を含めた生命維持のための医療をどうすべきかが,Critical careの先進国たる欧米において大きな問題になりつつある.1970年代にもちあがった有名なカレン—アン嬢のケースは,医学面だけでなく社会的にも大きな問題となり,その後,米国では,この問題に関していくつかの基本的な考え方が示されているようであるが,極めて微妙な問題で,かつ医学的な要素以外のものが関与する可能性があるため,通常のガイドラインのようにクリアカットに割り切れないのが現状のようである.Criti—cal careをリードしてきた米国ならではの問題とも考えられるが,今後わが国でも当然起こってくる問題であり留意する必要があろう.

 最近,発表されたカナダとオランダでのCOPD患者,ICU患者,一般患者のdecision-makingに関する報告を紹介する.

Na/Ca2+,Na/H交換系 谷 正人
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 ■最近の動向 心筋がある時間の虚血に晒された後に再灌流されても,心機能・心筋代謝の回復は十分には得られず心筋壊死を来す.このような心筋虚血再灌流傷害の重要な機序の1つとして,虚血中に心筋細胞内に蓄積したHと細胞外Naの交換による細胞内Naの増加が重要視されている.増加した細胞内Naは虚血中のforward mode Na/Ca2+交換の抑制と二次的なsarcoplasmicreticulumからのCa2+.放出を来し,再灌流時にはreverse modeの同交換の活性化によりCa2+over—loadをもたらし,細胞傷害が生じると考えられる.しかし,Na/Ca2+交換が正常心筋で電気活動や収縮・弛緩調節に重要な役割を果していることを考えると同交換の直接抑制は危険であろう.

 一方,摘出灌流心を用いた実験では虚血中のH蓄積を軽減する試み,薬剤によるNa/H交換の抑制などが行われ,その有効性が報告されている.細胞内pH調節には多くの機序があり,Na/H交換抑制剤を生体に投与しても危険性が少ないかもしれない.Na/H交換抑制剤は虚血性心疾患患者への予防投与や再疎通療法・開心術・心移植における心筋保護への臨床的応用が考えられる.

基本情報

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呼吸と循環
44巻8号 (1996年8月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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