Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
原発性肺高血圧症(primary pulmonary hyper—tension:PPH)などの血管原性肺高血圧に限らず,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pul—monary disease:COPD)や特発性肺線維症などの肺実質性の疾患においても,その病期の進展に伴い肺高血圧(pulmonary hypertension:PH)が惹き起こされてくる1,2)こうしたPHの存在は,患者の運動耐応能や生活の質(quality of life:QOL)を制限するばかりでなく,予後にも大きく影響を及ぼすことが知られていることからも3,4),その対策は臨床的に極めて重要な課題といえる.
著明なPHを来すことで知られるPPHでは,その肺血管抵抗上昇の成因として,何らかの機能的な肺血管攣縮が関与している可能性が示唆されることから5,6),こうした肺血管攣縮を解除する目的で各種血管拡張薬による治療が試みられてきている7,8).初期には種々の血管拡張薬による有効例が報告され9,10),内科的治療法の一つとして有望視されていたが,その後肺血管拡張の評価法や薬剤投与後の副作用を含め様々な問題点が明らかとなってきている11).
一方,COPDや特発性肺線維症などに代表される慢性肺疾患にみられるPHの成因としては,換気不良部分に生じる低酸素性肺血管攣縮(hypoxic pulmonary vasoconstriction:HPV)が重要な位置を占めているものと考えられており12,13),この機能的ともいえるHPVを解除する目的で同じく各種血管拡張薬の投与が試みられてきた14,15).しかしながら,このHPVは肺内での局所レベルでの換気・血流比を効率よく保ち,生体が低酸素状態に陥らないようにする防御機構の一つでもあるため16),このHPVの解除は確かにPHの改善という面では有効といえるが,同時に動脈血酸素分圧(PaO2)も低下すること17)が大きな問題とされてきている.また,こうした血管拡張薬は,血管平滑筋のみならず気道の平滑筋をも弛緩させる作用を有することがあるため,COPDなどのいわゆる換気障害型の肺高血圧症において,その肺循環動態へ及ぼす影響を評価する際には,直接的な肺血管系への影響に加え,気道系を介した間接的な影響をも考慮する必要があり,これが症例間および薬剤間での比較検討を困難にしている要因の一つともいえる。
そこで本稿では,まず肺血管拡張薬の肺高血圧へ及ぼす直接的効果を理解するため,これまでに多くの血管拡張薬による治療が積み重ねられてきたPPHを取り上げ,代表的血管拡張薬に関するこれまでの成績について概説したうえで,肺血管拡張反応の評価法に関する問題点,ならびに最近の肺血管拡張薬の動向について解説を加えたい.次に,COPDや特発性肺線維症などの肺実質性の疾患における肺血管拡張薬の臨床的役割についても併せて触れてみたい.
Copyright © 1996, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.