呼吸と循環 25巻4号 (1977年4月)

特集 冠動脈造影

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 冠動脈造影法は今や虚血性心疾患の確定診断には欠くことのできない重要な検査法として多くの大学病院あるいは市中の大病院で施行されるようになって来た。確かにこの検査法の出現は,従来の心電図あるいは血清酵素値の分析のみで知りえなかった病態が具体的に把握できるようになり,この分野において画期的な進歩をもたらしたことは事実である。特に冠動脈外科の発展には絶対不可欠な検査法としてますます盛んになりつつあるのが現状である。

 しかし,このように急速に普及しているこの検査法もその背後に重大な問題をかかえ,現時点ではその普及がかえって罪悪にすらなっているといえる現状も見逃すわけにはいかないのである。如何なる医療検査でも技能知識の不足による,また不完全,不適合な装置器具を用いることから生ずる誤診と患者への損傷は常につきまとうものであるが,冠動脈造影法(左室造影法を含む)は観血的検査法であるばかりでなく心臓の最も重要かつ危険をはらむ部位の検査法であるために,そこから生ずる合併症もきわめて重大な問題となって来るのである。

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 選択的冠動脈造影および左心室造影は,虚血性心臓病の臨床検査法として,冠動脈の形態学的病変と,左心室の運動形態を客観的データとして与え,鑑別診断,リハビリテーションプログラムへの応用,自然歴の調査などに広く利用されるに至っている。また虚血性心疾患の外科的療法としてのAorto-Coronaryバイパス手術や心室瘤切除術には不可欠のものである。これら冠動脈および心室造影の読影にあたっては,一定の基準が必要なことは単に自然歴あるいは内科的,外科的療法の成績比較に際してだけでも必要なことは言うまでもない。冠動脈造影の読影の基準としては多くの場合,正常状態の冠動脈(通常狭窄されている部分より中枢側の大きさ)の内径の何%が狭窄されているかという方法がとられている。Friesinger1)は内腔の面積の狭窄程度を使用しているが,理論的には血流の通過障害を知るのが目的であるので,面積で表現するのが正しいと思われるが,実際に造影されたものは平面に投影されたものであり,更に冠動脈内腔は,常に円形をもって狭窄されるとは考えられず扁平に狭窄されることも多い。従って現在は内径の狭窄程度によって表現される方法が広く使用されるようになった。

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 normal variationとは最も頻度の多い普通の型とは異なる形態を示すが,それ自体では機能的に悪影響を与えないものをいう。即ち,冠状動脈に瘻孔や瘤形成あるいは肺動脈からの起始異常(Bland-White-Garland症候群など)は冠動脈の奇形としてとりあつかう。

 また,機能的に悪影響を与えないが,冠状動脈の走行異常やsingle coronary arteryあるいは前下行枝が直接,大動脈より起始するようないわゆるEdwards1)がいう"minor anomaly"は本稿ではとりあつかわない。

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 冠動脈造影検査が導入された当初は,造影法の技術やカテーテルの工夫,また造影装置の問題があった。これらの諸問題が解決されるにつれ,検査法が普及化してくると,次は得られた造影所見を如何に適切に判読してゆくかという事になる。さらに造影所見は形態的観察であるから,これと臨床との関係,特に血流路としての役割などに注意が払われるようになってきた。もちろん観察された血流路は造影像であるから,簡単に説明することはできないし,この点については今後研究されなければならない点であろう。

 著者に与えられた題目の"起始異常および側副血行"は造影所見の適切な判読に必要な基礎知識にも含まれるもので,知っておくことにより判読の誤りを防止する可能性があると思われるもので,前者に関してはGensiniの成書24)では"Pitfalls of Coronary Angiography"の題目(表1)の中に含まれている。また後者に関しては,Interconnecting anastomotic vesselsとして正常心に存在するものが,主要冠動脈に高度の狭窄や閉塞が生ずると,Visible collateral circulationとして造影上観察されるものである。

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 冠不全は心筋の需要に応ずる冠動脈の血流量が不足している状態で,その原因の大部分は冠動脈のアテローム変性に基づく内腔狭窄である。冠動脈造影法は臨床的に冠動脈の形態的な変化の詳細を明らかにできる唯一の方法で,冠動脈病変を知ることは冠不全の診断の裏付けの一つとして重要である。しかし冠動脈造影所見が冠不全のすべてを直接表現するわけではないが,種々の病態下の心電図と造影所見を対比検討し相関関係を明かにすることが臨床上有意味である。

 本稿では主に虚血性疾患の各病態別に心電図所見を冠動脈造影所見と対比し,また房室ブロック、脚ブロック等の不整脈と冠動脈造影所見についても述べる。

呼と循ゼミナール

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 肺内気相におけるガスのseriesの濃度勾配,すなわち層状不均等stratified inhomogeneityと同時に,肺血流の,それもいわゆるrespiratory zoneにおける血流分布のあり方は,換気・血流比分布を考える場合,ガス輸送の効率を考える場合に重要である。

 終末細気管支より末梢のsecondary lobuleの構造は,数次にわたり分枝した呼吸細気管支と肺胞管および肺胞嚢であるが,多くの呼吸細気管支および肺胞管の壁は肺胞化alveolatedされたものと考えるべきものであるらしい。J. Readの2つの論文(1966)は,このような肺の構造単位において,吸気の分布がseriesの濃度勾配,すなわちstratificationを作ること,同時に血流もdistalになるにつれ減少することを,Ar,O2,N2の混合ガス1回吸入後の呼気ガス分析の成績の解析によって示唆している。

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 頸動脈体(C.B.)は図に模式的に示すように,ほぼ円形のType I細胞とその周りをとり巻いている不整形のType II細胞,両者の細胞間に侵入する神経線維から成り立っている。これらの構成分が低酸素刺激pH,Pco2に対してどのように関与するかについて,3つの説が提唱されている。

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 T波は種々の原因により陽性であるべき誘導で陰性T波となる。それらは心筋の器質的変化に由来するものもあれば,過呼吸,食後,期外収縮後,アダムスーストークス発作後,各種の急拍症停止後,脳血管障害,自律神経の影響等によって,陰性T波をみることが知られている。さらに最近では心室ペーシングによってもT波が陰性化することが認められており(図),そのメカニズムに関して種々検討されているが詳細は未だ不明である。

 このペーシングによる陰性T波の特徴は,1)その出現頻度はきわめて高率でほとんどの例でみられる。2)洞調律のみならず異所性調律でも認められることがある。3)心拍数とは無関係である。4)心内膜電極でも心筋電極でもみられる。5)陰性T波の出現する誘導はペーシングの部位に関係する。6) T波の変化の程度はペーシングの期間および刺激の強さに相関する。7) T波の正常化までに要する時間はペーシングの行われていた期間に関係する。

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 左・右心収縮の非同時性に関しては,古くから関心がもたれ,Katz (1925)1),Braunwald (1956)2)らは動物実験により左・右心カテーテル法を同時に施行し,左・右心収縮時相を分析している。しかし,ヒトに関しては方法論的な問題もあって,研究はかならずしも進展せず,非観血的分析法の確立が期待されていた。

 Lang (1971)3)は左心収縮時相を頸動脈波,心電図,心音図の同時記録から,また右心収縮時相を右心カテーテル法による肺動脈圧波,心電図,心内心音図から求め対比した。氏らによればQIは右室で長く,駆血開始時相は左室で早期に生じ,駆血時間ETは右室で左室より6msec長いという。同様の手法による対比はLeighton,Weissler (1971)4)らによっても報告されている。しかし,これらたがいに異質な方法による左・右心収縮時相の対比については,その妥当性にかんし十分な吟味が必要である。可能なら,非観血的な同一手法で左・右心収縮時相が対比さるべきである。その1方法として,著者ら5,6,7)はエレクトロカイモグラムを,榊原ら8)は超音波ドプラ法による分析を試みている。

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 ショック時には,内臓虚血anoxia,アシドーシスなどにより,種々のショック因子(shock factor)が血中に出現し,種々の臓器障害の原因になると報告1,2)されている。これらのtoxic substanceは正常時であれば網内系において取り込まれ,解毒されるであろうが,ショック時には網内系自身の機能が低下3,4)しており,種々のtoxic substanceの血中からの消失は遅延され,生体は長時間toxic substanceの影響を受けることになり,ショックは悪化の方向へと進むことになる5)

 ショック時の内臓領域で産生されるショック因子の1つで,網内系機能に対し特異的に抑制的に働く物質であるとされ網内系抑制物質(Reticuloendothelial-system depressing substance, RDS)6,7)とよばれた。

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 膠原病の中でも進行性全身性硬化症(PSS)の肺病変は最も高率1)に出現するといわれており,病理組織学的に,その本態が間質性肺炎,肺線維症であることが明らかにされている2,3)。しかし,Hamman-Rich4)の報告にみられるような急性の経過をとって死亡する例はまれであり,一般には臨床像においても慢性びまん性間質性肺炎に近い経過を示すものが多い。このような慢性の線維化性肺疾患においては,間質性肺炎の発症早期から肺の線維化が進行するまでの種々相に応じて,呼吸機能障害もさまざまに変化しうるものと思われる。今回検査対象としたPSS例でも,発病後1年から18年に至る経過を示しており,拘束性換気障害,拡散能低下など共通の機能障害を示す一方,障害程度はさまざまであり,安静時に低酸素血症を示す例も少数で,X線所見でも病変の分布,陰影の性状に相違がみられた。われわれは133Xeによる局所肺機能を各種疾患について測定しており5,6),すでにPSSの肺病変についても限局性ながら,換気分布,血流分布ともに下肺野において著明に低下する例が多いことを報告した7)

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 心筋の肥大は持続的な心臓負荷の増加に対する適応現象と考えられ,この心臓負荷の過程は三段階に分類される1)

(I)進行性心筋の肥大時期:心筋成分の活発な蓄積時期

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 近年,Wolff-Parkinson-White (WPW)症候群1)でみられる独特の心電図波型の成因や発作性上室性頻拍(PSVT)の機序は,心内心電図記録,心房あるいは心室の刺激2〜11),薬物投与6〜8),epicardial Mapping12〜18)や外科的治療13〜19)など多方面からの研究により,さらに詳細に検討されるようになった。本症候群のPSVTは,正常房室伝導路を正伝導路,Kent束を逆伝導路とする旋回路を有することが多いと一般的に考えられている4,8〜11,16〜19)。このような機序によるPSVTと房室結節内のreentryに起因するPSVTとの鑑別は,本症候群に対する外科的治療の進歩とともに重要な問題となったが,なお困難な場合が多い。

 われわれはB型WPW症候群の1例において,His束心電図(HBE)および心房の多部位の電位を記録し,心房および心室刺激を試み,正常房室伝導路を正伝導しKent束を逆伝導するPSVTと診断しえたので,前述のPSVTの両機序の鑑別方法を中心に考察した。

基本情報

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呼吸と循環
25巻4号 (1977年4月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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