整形・災害外科 61巻12号 (2018年11月)

特集 臨床解剖学の新たな知見

鈴木 大輔
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整形外科の新しい術式が開発されるのは,多くの場合,解剖学的に新たな知見や認識が生まれたことに基づいている。さらに近年は器具や技術の発達に伴い,損傷部位の解剖学的な修復のみならず,骨の動きや靱帯の張力復元まで考慮に入れた再建が行われている。そのような意味で整形外科には解剖学だけでなく,バイオメカニクス的な知識も必要であると思える。筆者の属していた札幌医科大学の解剖学講座では,全国的に先駆けて未固定遺体(ホルマリン固定をせずに冷凍保存した遺体)を用いたバイオメカニクス実験を行っていた。そのため,全国から多くの整形外科医が研究しに来られ,様々な方々と知り合う機会が生まれた。今回の特集は,この時知り合った方々を中心に脊柱,肩,肘,手,股,膝,足という主要な関節について基礎的であるが重要な解剖学的・バイオメカニクス的な研究を行ってきた先生方に寄稿をお願いした。

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要旨:通常の手術は危険な部位を展開せずにアプローチすることが推奨される。低侵襲化手術ではさらに周囲組織,臓器を確認困難な状況で術野を確保しなければならない。各分野,正常解剖を再学習する機会は乏しく解剖書においてもすべてを網羅することは困難である。臨床解剖では手術アプローチでは展開できない部位を観察でき,各臓器との関連性などを検証することができる。腰神経叢は解剖書では主な神経しか説明されていないが,実際の解剖を行うと多数の神経線維のネットワークを確認することができる。腰椎の前方および側方からの手術の際には注意すべき点である。また黄色靱帯は画一的に上下椎弓に付着しているのではなく,腰椎ではより背側に肥厚し関節を覆っているのがわかる。バイオメカニクスの過去の研究からは前屈への安定性に寄与していると報告されている。基本成分としてエラスチンの含有が他の組織に比較し多いが,加齢とともに軟骨化生を生じており弾力性を消失していると推測できる。一例ではあるが手術を行う際は,解剖および機能的な側面を考慮し施行するべきと考える。

肩の解剖 村木 孝行
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要旨:近年,献体を用いた肩関節のバイオメカニクス研究が盛んに行われている。肩峰下インピンジメントに関しては烏口肩峰アーチ下の接触圧を計測することで,構造異常のない肩関節でも肩関節運動時は肩峰下インピンジメント現象が生じていることが証明されている。さらに肩峰下インピンジメントに影響する因子について調べられており,肩関節筋群のアンバランスや関節拘縮が上腕骨頭の変位に作用し,肩峰下インピンジメントを増強する可能性が報告されている。関節拘縮や筋短縮に関しても,どの部位が関節可動域を制限するか調べられており,同時に選択的にストレッチングをするために有効な肢位についても検討されている。また,腱板断裂術後の後療法で行われる関節可動域運動を安全に行うための可動範囲についての報告もある。これらの研究は肩関節疾患の病態理解および保存療法や後療法における治療手技の根拠として役立てられている。

肘の解剖 大歳 憲一
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要旨:肘関節の安定化には,骨性要素と軟部組織要素の両者が相補的に関与している。軟部組織要素である腱膜,靱帯,および関節包は,関節包靱帯複合体として一体化して機能しており,その骨付着部も含めて関節の安定性に寄与している。肘関節の不安定性を評価する場合は,骨性要素と軟部組織要素を別々に論じるのではなく,関節包靱帯複合体と骨性要素との関連も含めて,総合的に判断する必要がある。肘関節の痛みに関連する因子は,関節外要因と関節内要因に分けられる。関節外要因としては,外側,内側上顆炎に代表される腱付着部障害が代表的であり,主病変部の正確な把握とそれに対する適切な対処が重要である。滑膜ヒダは,その特徴的な構造から,関節内由来の痛みの原因となりうる。しかし滑膜ヒダそのものは正常肘関節にも認められる組織であり,関節内の炎症や摩擦などによる滑膜ヒダの後天的な性状の変化が症状発現に関与している可能性が高い。

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要旨:遠位橈尺関節不安定症のなかで,尺骨に対して橈骨が掌側に不安定なものについてわれわれが行っている掌側橈尺靱帯再建術に関して概説した。本法は,尺骨に対する橈骨の掌側移動を制動する因子である掌側橈尺靱帯を再建する方法で,特に,回内外中間位で橈骨が掌側に亜脱臼している場合が対象となる。掌側よりアプローチし,採取した自家長掌筋腱を,残存する掌側橈尺靱帯および尺骨手根靱帯複合体に編み込み縫合し,尺骨小窩に作成した骨孔に引き込み,縫合固定する。新鮮凍結屍体を用いた,生体力学試験において,再建した掌側橈尺靱帯により,掌背側方向への不安定性が改善することが証明され,臨床応用も行っている。

股関節の解剖 伊藤 芳章 , 松下 功
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要旨:人工股関節置換術(total hip arthroplasty;THA)の合併症の一つに脱臼がある。後方軟部組織の温存により脱臼抵抗性を高めることが期待できるが,それぞれの筋腱・関節包の大腿骨付着部を熟知していなければ手術時操作で損傷してしまう可能性がある。大腿骨大転子内側面において,内閉鎖筋と上・下双子筋の付着部は接しておりconjoined tendonを形成し,短外旋筋郡の中では最も前方に付着していた。梨状筋はconjoined tendon付着部より後上方の大転子頂部近くに付着していた。外閉鎖筋はconjoined tendon付着部と接することなく,その後下方にある骨性のくぼみに単独で付着していた。関節包はconjoined tendon付着部と外閉鎖筋付着部に近接して付着しており,前方が厚く,後方の外閉鎖筋付着部近くでは薄い膜状になっていた。股関節屈曲時における筋の走行や作用からは短外旋筋郡の中では外閉鎖筋が最も内旋制動性を有すると考えられる。また,static stabilizerとして関節包は重要であり,できるだけ温存,修復を行うべきである。

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要旨:近年,膝前十字靱帯(ACL)再建術では,形態的にも機能的にも正常靱帯に近い靱帯を再建するために,正常靱帯付着部に骨孔を作成し自家腱を移植固定する解剖学的再建術が行われている。われわれは,新鮮屍体膝を用いた解剖学的研究を行い,ヒト正常ACLは,前内側線維束(AM束)と後外側線維束(PL束)の2線維束に分けられ,さらにAM束は内側部分(AM-M束)と外側部分(AM-L束)に分けられ,3線維束を構成することを明らかにした。さらに,線維束の配列と断面積計測,付着部位置および面積計測,MRIによる生体内画像解析,透過型電子顕微鏡(TEM)によるコラーゲン線維の微細構造についての詳細な検討を行い,ACL 3線維束の解剖学的な特徴を明らかにした。これの結果は,各線維束が力学的に異なる役割を担っていることを示しており,靱帯再建術式の決定や移植腱の選択においては,これらの線維束構造の機能解剖学的特徴を十分に考慮すべきである。

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要旨:足関節の中でも足関節外側靱帯と脛腓靱帯結合は臨床解剖学の知見が診療に大きく活用されている。外側靱帯は関節鏡手術の普及に伴い解剖学的理解がより重要になってきている。また,ロボットシステムを用いた未固定標本のキネマティクス解析は足関節外側靱帯の機能をより詳細に評価することができる。そして,脛腓靱帯結合はバイオメカニクス研究の結果から手術手技の変化が起きている。このように,解剖学的研究とバイオメカニクス研究によって明らかになったことが足関節疾患の診療の発展に直結している。

Personal View

間接除圧と固定 西田 康太郎
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先日米国の若手ドクターと意見交換する機会があった。その中でどうも違和感を感じたのだが,その違和感が今も続いている。

整形外科手術 名人のknow-how

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母指多指症は手の先天異常の中で頻度の高い疾患であり(0.5~1/1000出生),比較的多くの整形外科医が診療に携わる上肢先天異常疾患である1)。一方,術後の10~20%が成績不良とされ,重要な術後機能障害として関節偏位や不安定性によるつまみ・握り障害が挙げられる2)。関節偏位や不安定性の原因として,骨軸の弯曲や関節面の傾斜など骨や軟骨に原因があるものと,腱の走行異常や側副靱帯の緩みなど軟部組織に原因があるものが考えられる。そのため,術前の画像所見より骨軸偏位や関節面の傾きなどを正確に判定することや,術中に靱帯や筋膜・骨膜の処置により軟部組織のバランスが取れていることを確認することが必要である。一方,母指多指症手術を行う乳児期の骨格未熟時期では軟骨成分が多く,X線所見より関節の状態を正確に把握することが困難である(図1)。筆者らは,関節を展開する前に術中関節造影を行い,関節軟骨の状態を把握してから手術方法を最終決定している。本稿では温存母指の機能再建を重視した母指多指症手術について概説する。

新しい医療技術

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要旨:3Dプリンターが一般的に使用されるようになり,術前3D-CTやMRIデータを用いた骨・関節のシミュレーションから術前の骨モデルが作製できるようになってきた。樹脂3Dプリンティングによる手術支援ガイド(patient specific guide)が開発され,臨床応用されている。股関節分野では,人工股関節置換術,寛骨臼回転骨切り術,大腿骨の矯正骨切り術などへ応用ができる。この技術は,術野において患者特有の骨表面形状にフィットする任意の形状ガイドを3Dプリンティングにて立体的構造物として作製し,手術野の座標空間において,獲得したい任意の三次元方向を術野に指し示す技術であり,今後さらに発展すると思われる。

医療史回り舞台

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本稿第214回で「人気漫画『Dr. コトー診療所』の先駆者」と題して関ヶ原の合戦に敗れ,八丈島に流された宇喜多秀家(備前岡山57万石城主)と秀家の主治医として同行した加賀藩医の村田助六(道珍斎)について述べた。

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要旨:当院では大腿骨頚部骨折非転位型に対する骨接合術後のスクリューのback out例が散見され,それを予防すべくバレルタイプスクリューシステムを使用するようになった。従来法に比してやはりスクリューがback outせずに良好な術後成績を獲得でき,軟部組織トラブルを回避できる可能性があり非常に有用であると考えた。しかし,従来法より有意に手術時間が長かったことが今後の課題と考えられた。

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要旨:閉鎖的整復固定に難渋する転子部骨折の中に,通常の転子部骨折とは明らかに異なり転子間を貫通するかのような骨折線が存在する症例がある。3D-CTにて観察すると転子部骨折に特徴的な転子窩から転子間窩に走る基本骨折線の後方成分を認めず,大転子頂部やや末梢から小転子頂部に向かって転子間を貫通するように単純な骨折線が走行している。本骨折は当院において3年間で治療した大腿骨転子部骨折342例のうちの4例(1.2%)に存在し,平均年齢は56歳(50~62歳)と比較的若年で高エネルギー外傷による受傷であった。骨頭骨片が屈曲・外旋転位し骨幹部骨片に乗り上がるように腹側へ転位した症例では,特に整復位獲得に難渋した。転子部骨折と診断される疾患の中に,基本骨折線の後方成分が存在せず転子間を貫通するような特殊な骨折線を認める骨折がある。これらの骨折は,真の関節包外骨折で転子貫通骨折と定義すべき骨折型であると考える。

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要旨:寛骨臼回転骨切り術(RAO)において,大転子切離アプローチは良好な視野を広範囲で得られ手術を容易にする利点があるが,その一方で偽関節の合併症が問題となる。当院で大転子切離アプローチによるRAOを施行した症例について調査した。径6.5mmの吸収性スクリューにより再固定を行った術者2名による症例102例134股を対象とした。手術時平均年齢は33歳(14~51歳),経過観察期間は平均5年(6カ月~16年)であった。折損したスクリューヘッド部が皮下へ移動し長期間疼痛を訴えた症例が1例存在した。偽関節症例は4股(3%)に発生し,そのうちの3股(2.2%)で再手術を要した。再固定を施行した2股ではさらに追加手術を要しており重篤な合併症となった。大転子切離アプローチと吸収性スクリューの併用は合併症自体は少ないといえるが,固定力不足や折損の問題による偽関節症があり固定方法の工夫や後療法への注意が必要である。

机上の想いのままに

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楽器やフィギュアスケートなど「技能」に対する幼い頃からの英才教育の価値は歴然としている。しかし,あくまでも「技能」に過ぎない。

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要旨:手の腫脹に対するHand Incubator(HI)の腫脹改善効果を評価するために,3Dスキャナーを用いて定量的測定を行った。手の腫脹をきたした20歳以上の患者23名24手を対象に,健側手,患側手,HI使用直後,HI使用1週後のタイミングで3Dスキャナーを用いて手の体積を計測した。その結果,健側の手体積は平均311ml,HI使用前の患側の手体積は平均342ml,HI使用直後335ml,1週使用後323mlであった。手の体積減少量と体積減少率はそれぞれHI使用直後平均7.3mlで2.4%,HI使用1週後19mlで5.2%であった。HI使用前と比較してどちらの時点でも有意に体積が減少した(p<0.01)。HIは腫脹を改善させる物理療法であると考えられる。

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要旨:腰椎固定術術後に肺塞栓症(pulmonary embolism;PE)を発症した1例を経験した。腰部脊柱管狭窄症および腰椎椎間孔狭窄症の診断で椎体間固定術を施行した。術中移植骨がALLを穿破したため,術翌日造影CTを撮影し偶発的に左腸骨静脈から末梢に深部静脈血栓症(deep vein thrombosis;DVT)を認めた。術後2日目に胸部症状なく頻脈となりCTでPEを発症したため転院した。術前よりDVTが存在していた可能性もあり,スクリーニングの重要性が示唆された。

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要旨:保存療法に抵抗性の変形性外側環軸関節症(以下,C1-2 OA)に対し固定術を3例に行った。術前MRIでは後頭骨顆部,環椎・軸椎外側塊にSTIRまたはT2強調像で高信号像を認めた。術前CTでは環軸椎関節,後頭環椎関節に著明な変性を認めた。術後疼痛はVASで術前平均80.3mmから最終観察時平均11.3mmに改善した。保存療法抵抗性のC1-2 OAに後方固定術は有用である。

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整形・災害外科
61巻12号 (2018年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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