臨床外科 74巻4号 (2019年4月)

特集 こんなときどうする!?—消化器外科の術中トラブル対処法

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 術後合併症は一定の頻度で起こりうるものであり,その発生率を少しでも低下させるために様々な工夫がなされているところである.また,起きた場合の対処法もある程度定型化しており,外科医にはそれを学ぶ機会も十分にある.一方で,術中のトラブルには待ったなしでの対応が必要である.時には,さらに事態が悪化しないよう応急処置を施したうえで応援を求めるほうが賢明な場合もある.多くのトラブルは一瞬にして起きるものであり,文字通り頭が真っ白になる場合もあるが,まずは起きてしまったことに対する最善の対処が求められる.そこでは術者,チームのみならず,最終的には施設全体の力量も問われる.トラブルを未然に防ぐためのノウハウをもち,実践することも重要であるが,本特集では特に「起きてしまった場合の対処」を中心に,対処場面のビデオも可能な範囲で呈示していただいた.いざという時の対応を学んでいただければ幸いである.

甲状腺・食道

術中反回神経損傷 日比 八束
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【ポイント】

◆反回神経の誤切離を防ぐためには,下甲状腺動脈を切離してから探すことは避けたほうがよい.

◆反回神経を誤切離した場合は,マイクロサージェーリー用の手術器具を用いて即時再建すべきである.

◆反回神経同士の縫合が難しい場合は,頸神経ワナを用いて反回神経末梢側断端と縫合するとよい.

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【ポイント】

◆気管損傷時には,慌てず換気の維持を図ること,そして損傷部位の縫合閉鎖と裏打ち組織を用いた補強による気道の確実な確保を行う.

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【ポイント】

◆術前準備:画像診断では病態把握に加えて血管走行のバリエーションなど解剖学的特徴を3D CT検査などで把握しておく.

◆丁寧な剝離,切離:必要十分で安定した視野確保のもと,切離の対象物は周囲組織から十分に剝離することが肝要である.

◆冷静な止血:出血が動脈性であるのか静脈性であるのか,損傷血管の血流保持が必要かあるいは血流遮断が可能かを判断し,適切な止血法を選択する.

*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画(Flash形式)を見ることができます(公開期間:2022年4月末まで)。

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【ポイント】

◆膵損傷の原因は,デバイスによる熱損傷,鋭的損傷,鈍的損傷など多岐にわたる.起こった場合の起死回生の一打は存在せず,その予防に細心の注意を払う必要がある.膵損傷が疑われた場合は,術後のドレーン管理が極めて重要となる.

◆脾損傷は被膜損傷による出血が大部分を占める.ソフト凝固,酸化セルロース止血パッド(サージセル®),組織接着シート(タコシール®)と圧迫の組み合わせで止血できることがほとんどであり,止血目的に脾臓摘出が必要となることは稀である.

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【ポイント】

◆Linear staplerを使用する場合は,staplerの食道粘膜下への迷入,挙上空腸の穿孔に注意する.

◆Circular staplerを使用する場合は,挙上空腸の噛み込みに注意する.

◆両方法ともに,胃管の噛み込みに注意が必要である.器械の不具合が起こりうるので対応法は把握しておく必要がある.

◆ファイヤーする前の準備を確実に行い,焦らずゆっくり操作し吻合することで,トラブルが起こるリスクを最小限にすることができる.

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【ポイント】

◆One by one technique:体腔内でステイプラーを用いて腸管吻合する際,術者と助手の協調がうまくいかないと腸管に過度な緊張が加わり,思わぬトラブルを招く恐れがある.このことを克服するため,術者と助手が協調し,腸管へのステイプラーの挿入を一つずつ行うことが肝要である.

◆組織の軸をステイプラーの軸に合わせる:共通孔閉鎖の際,術者あるいは助手が把持している組織を,ステイプラーの軸に合わせるように調整し,仮閉鎖部の直下でファイヤし挿入孔を閉鎖する.

◆出来上がりの形,血流:再建終了後の形や腸管の血流に問題がないことを確認する.

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【ポイント】

◆静脈分岐部からの出血が多く,適切なガーゼ圧迫の後に確実なクリッピング・凝固止血を行う.

◆過剰な牽引操作を避けながら,出血部位の周囲を剝離し視野確保を試みる.

◆開腹操作への移行をためらわないことが重要である.

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【ポイント】

◆直腸手術における術中出血は,依然として頻度の高い術中偶発症の一つである.

◆出血しやすいポイントを把握し,出血させない手術を心がけることが最も肝要である.

◆各種止血方法に精通し,出血部位や出血の程度に合わせて使い分ける技量を身につける必要がある.

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【ポイント】

◆一般に,大腸疾患における術中の尿路損傷の頻度は少ないが,尿管損傷は隣接臓器に浸潤が疑われるclinical T4の局所進行癌,放射線治療既往例,膿瘍形成などの高度炎症並存例,骨盤手術後の高度癒着例,腹腔鏡手術中の出血などの偶発症発生時に,尿道損傷は腹会陰式直腸切断術時の会陰操作における直腸前壁の切離・授動時に発生しやすい.

◆解剖学的に,尿管損傷は左側の総腸骨動脈と,直腸近傍の遠位1/3の部位で発生が多い.

◆術前から尿管浸潤などで尿管の同定が難しいと予想される症例においては,尿管ステントの留置を行う.尿管ステントの留置による尿管の走行の同定は,尿管を合併切除するときの切離範囲設定の際にも有用な方法である.

◆尿管損傷では,損傷部位と範囲から様々な再建法があるが,下部尿管の再建では膀胱-尿管新吻合が施行されることが多い.再建にあたっては,術後の吻合部狭窄には留意が必要である.

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【ポイント】

◆直腸癌に対する腹腔鏡下手術は,内視鏡の拡大視効果というメリットを享受できる術式であるが,従来の開腹手術と違ったトラブルが発生しうる.

◆特に直腸低位前方切除術における直腸切離,吻合におけるトラブルは術後の縫合不全につながる可能性があり,注意が必要である.

◆われわれは内痔核硬化療法(ALTA療法)後の直腸切除術において,自動縫合器による直腸切離が困難であった症例を経験したため実際の症例を提示し解説する.

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【ポイント】

◆「肝静脈出血」対処法のポイント:何より出血させない操作を心がける.出血したらまずは圧迫止血する.そして,送水により出血点を確認する.その後に血管鉗子や着脱式血管クリップにより出血制御して出血点を縫合止血する.

◆「グリソン系出血」対処法のポイント:Pringle法による肝門遮断が有効である.ソフト凝固で止血はできるが,同一部位に長時間連続通電した場合には脆弱になるため胆汁漏に注意する.

◆「術中胆汁漏」対処法のポイント:非系統的切除または切除範囲外のグリソンの切離を行った場合は,確実に結紮またはクリッピングする.そして胆汁漏を認めた場合には,CUSAなどを用いて確実に責任グリソンを同定する.C-Tubeなどによる胆管内減圧を行う.

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【ポイント】

◆様々なトラブルが起きてしまう原因を理解し,常に発生を避ける努力をすべきである.

◆日頃から安全な手術手順(層構造を意識し胆囊壁に沿った剝離操作,critical view of safety,bailout surgery)や基本的な手術手技を身に着けておくことが必要である.

◆万が一トラブルが発生した場合に,どのように対処するか事前に検討しておくことが望ましい.

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【ポイント】

◆経胆囊管法,胆管切開法の適応と基本手技により,ほとんどの症例で完遂できる.

◆胆囊管へのカニュレーションは必須の手技である.

◆バスケット鉗子による切石と電気水圧衝撃波胆管結石破砕装置(EHL)による切石を習得する.

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【ポイント】

◆高度な膵炎を伴う症例:高度膵炎のために上腸間膜静脈(SMV)の同定に難渋する場合,mesenteric approachが選択肢となる.

◆術中出血:止血の大原則は,出血点の背側からの挙上であるため,あらかじめ備えておくことが賢明である.

◆膵のトンネリングが困難な場合:一般的には門脈直上で膵のトンネリングを行うが,困難な場合はSMA直上でのトンネリングを考慮する.

◆門脈合併切除の尾側限界:第1空腸静脈よりさらに尾側まで腫瘍浸潤している場合,空腸静脈が泣き別れになってしまうことが一般的であるため,再建は困難である.ただし,腸間膜系の静脈をドレナージする静脈があればそれを利用する.

◆脾静脈合併切除による左側門脈圧亢進症:脾静脈を切離した場合には左側門脈圧亢進症が危惧されるが,特に左胃静脈を温存することによりうっ血が軽減される.

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【ポイント】

◆可能な限り,早い段階で脾動脈確保を安全に施行することが,出血コントロールで重要である.

◆膵切離では,切離前に膵圧挫用クリップでしっかり圧挫し,自動縫合器にてゆっくり切離する.

◆出血したら,まずガーゼ圧迫と脾動脈テープを牽引する.脾動脈の枝からの出血ならクリップ,脾動脈本幹からの出血なら縫合閉鎖する.

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【ポイント】

◆適切な体位をとり,脾臓の圧排だけでなく,体位変換も加えた操作により適切な術野展開を行えるようにする.

◆出血のリスクが高いと判断される症例では,用手補助下手術へスムーズに移行できるようなポート位置設定を行う,スムーズに開腹移行ができるよう手術開始前からケントリトラクターを立てておくなど,事前準備を怠らない.巨脾症例の場合,いったん出血をきたすと数分で1 Lを超える出血をきたす場合もあるため,十分な輸血の準備も必要である.

◆各種エネルギーデバイスの特性を理解するとともに,止血のための体内結紮術を修練しておくことにより,出血への対応力を身につけておく.

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ヘルニア

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【ポイント】

◆鼠径部切開法の手術であっても,可能であれば術前画像診断を行い解剖学的に十分なイメージをもって手術に臨むことが必要である.

◆通常の鼠径部切開法だけでなく,腹膜前腔からのアプローチ(後方到達法)も習得したほうが,トラブルに対応しやすい.

◆TAPP法で腹膜修復に困った際には内側臍ヒダを利用できないか検討する.

◆TEP法では,手術早期での精索外側の十分な剝離が,腹膜損傷の予防やその後のスムーズな手術操作のうえで極めて重要である.

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はじめに

 近年,疾患部位の組織ではなく,血液,尿,唾液といった体液を用いて診断を行うリキッドバイオプシーが注目されている.特に,プレシジョンメデイシンによるゲノム医療が現実のものとなってきた今,組織での遺伝子解析に留まらず,リキッドバイオプシーへの展開が期待されている.リキッドバイオプシーの利点として,まず患者に低侵襲であること,さらに腫瘍組織の採取が困難ながん患者でも診断や治療薬選択の可能性が広がること,継続した治療効果のモニタリングが行えることなどが挙げられる.これまで,リキッドバイオプシーの対象として,血中循環腫瘍細胞(circulating tumor cell:CTC),cell free DNA(cfDNA)や腫瘍細胞由来DNA(circulating tumor cell DNA:ctDNA),エクソソーム(exosome)とそこに内包されている核酸(microRNA, mRNA)やタンパク質などが報告されている.本稿では,これらのバイオマーカーの特徴と,新たな展開および今後の課題などを概説する.

病院めぐり

中野胃腸病院外科 安藤 拓也
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 当院は1967(昭和42)年4月に愛知県知立市に中野胃腸科として創立され,1982(昭和57)年10月に現在地の愛知県豊田市駒新町に中野胃腸病院(67床)として移転し,地域の消化器専門病院として地域医療にかかわってきました.昭和50年代の早い段階から内視鏡検査には特に力を入れており,できるだけ苦痛なく検査を受けられるように鎮静下での内視鏡検査を行ってきました.当院のある愛知県の三河地域はトヨタ自動車のお膝元であり,デンソーやアイシンなどのトヨタ関連企業も多いため,企業健診での精密検査として胃や大腸の内視鏡検査のニーズも多くあり,胃癌や大腸癌の早期発見や治療に貢献してきました.1993年には健診センターを併設して胃カメラを積極的に導入しています.2000年に日本病院機能評価機構の認定を受けており,2017年には開院50周年を迎えました.

 現在は病院と健診センターをあわせて,上部消化管内視鏡検査は年間約20,000件,下部消化管内視鏡検査は年間約6,500件と多数の内視鏡検査を行っています.多数の内視鏡検査から見つかった消化器疾患を中心に,内視鏡治療から外科治療まで当院にて行っています.

Reduced Port Surgery—制限克服のための達人からの提言・16

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はじめに

 噴門側胃切除術が適応となる食道胃接合部は腹腔内の深い位置にあるため,手術操作の難易度が高い.術者・助手の持針器や把持鉗子,スコープが狭い手術野に密集するためclashing(器機の干渉)が起きやすい.reduced port surgery(needlescopic surgery,単孔式内視鏡手術)は整容性・低侵襲性において優れた術式であるが,われわれは噴門側胃切除術において,細径鉗子と単孔式プラットフォームを併用することで,器機の干渉を低減する工夫を行っている.

 本稿では当科で行っているRPSによる腹腔鏡下噴門側胃切除・観音開きNo-knife法について,再建を中心に解説する.

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要旨

61歳,男性.発熱,意識障害で救急搬送され,急性腎不全,高浸透圧性高血糖症候群,肝機能障害,敗血症と診断された.腹部単純CT検査で腹腔内膿瘍,門脈気腫を認め抗菌薬での加療を行った.腎機能改善後の造影CT検査で膿瘍の増悪,上腸間膜静脈から門脈に至る血栓を認めた.腸間膜膿瘍ドレナージ,膿瘍に接する虫垂切除,小腸部分切除,小腸人工肛門造設術とともに,肝円索から門脈内カテーテルを留置し,血栓吸引,溶解療法を行った.術後も血栓溶解療法を継続したが,門脈は完全閉塞した.血液検査でプロテインC活性の低下を認めた.腹腔内膿瘍を伴うプロテインC欠乏症による門脈・上腸間膜静脈血栓症は稀であり,経過を報告する.

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要旨

症例は69歳,男性.左背部の違和感を主訴に行われた精査で膵体部癌と診断された.腫瘍は脾動脈根部への浸潤が疑われたが,腹腔動脈幹への浸潤は認めず,先行分岐する左胃動脈は温存可能と判断し,左胃動脈を温存した腹腔動脈幹合併膵体尾部切除術を施行した.病理所見では浸潤性増殖を示す扁平上皮癌および管状腺癌が併存し,cytokeratin(CK)5/6が60%陽性であり,総肝動脈神経叢浸潤を伴う膵体部腺扁平上皮癌と診断され,R0切除であった.膵腺扁平上皮癌は比較的稀な組織型で,予後不良とされるが,R0切除と術後補助化学療法により長期無再発生存が得られている1例を経験したので報告する.

1200字通信・129

予備校 板野 聡
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 今年も多くの受験生が医学部への入学を果たされた一方で,夢破れ浪人生活に入る方も多いと思います.最近では,「大学全入時代」などと無責任な報道もありはしますが,己の人生を賭けた受験であればこそ,臥薪嘗胆,捲土重来を期して,是非にも頑張っていただきたいと願っています.

 実は,かく言う私も1年間の浪人生活を経験した一人ですが,現役生当時,無謀にも志望する国立大学(当時は一期校と二期校がありました)の1校のみを受験したことでした.親は親で,「まあ,浪人してもいいんじゃないか」といった風で,今から思えば実にいい加減なことではありました.

ひとやすみ・175

始めは誰もが未熟 中川 国利
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 医師に成りたての頃は誰もが知識や経験がなく,さまざまな失敗を重ねるものである.そしてすべてにわたり卒なくこなす先輩の姿を見るにつけ,己の将来に不安を覚える.しかし完璧な先輩にも,未熟な新人時代があった.今は外科医として,そして常識ある社会人として活躍する我が同輩の,研修医時代を紹介する.

 医局歓送会を市内の格式ある料亭で行った.誰もがそれなりの格好で集まったが,研修医Sはいつもながらのカジュアル姿で,しかも素足のサンダル履きであった.料亭の女将さんがさり気なく用意した靴下を履き,羞恥心は微塵も見せずに「得をした」と語った.

昨日の患者

最期は祖母のように 中川 国利
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 外科医を長らく務めていると,患者の子供,さらには孫までを診療し,元患者のその後を知ることがある.孫娘から聞いた元胃癌患者Oさんの最期を紹介する.

 「世の中には不思議なことがあるものですね.子や孫らが100歳の祖母の誕生日に久し振りで集まり,祖母に関する懐かしい昔話で盛り上がっている最中に来世に旅立つなんて,私も祖母のように死を迎えられたらいいな」と,外来で孫娘が微笑みながら語った.

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目次

原稿募集 「臨床外科」交見室

次号予告

あとがき 小寺 泰弘
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 嫌なことを忘れることはヒトが生きていく上での重要な資質だそうです.トラウマが癒えないうちに次々に新たなトラウマに襲われては,精神的にもちこたえることはできませんので.しかし,外科医の中には忘れる機能が異常に発達している人がいるらしく,「縫合不全も合併症も経験がありません」などという発言を学会でしばしば耳にします.本当にそうなのであれば,ごめんなさい.しかし,多くの場合は真実ではないのではないかと私は強く疑っていますが,言っている本人に悪気がないのであれば,それはそれで幸せなことなのかもしれません.この仕事をしていると嫌なこともいろいろと起きます.何故こんなことが?ということも起きます.一つ一つに傷ついていては身がもたないという側面は,確かにあります.楽観的すぎるのも問題ですが,あまりに悲観的過ぎても患者さんにとって望ましい判断ができない場合があるのかもしれません.

 無防備に家で過ごしている時に「先生のオペ患の心臓が止まり,今蘇生中です」という連絡が入った瞬間,そして,病院に駆けつけてあまりのことに呆然としている時に無慈悲にも「患者さんのご家族が到着しました」と告げられる瞬間などは,本当に思い出したくもない,頭が真っ白になる瞬間です.それに加えて,私は術中にも何度か頭が真っ白になった経験があります(自慢ではありません).多少は成長した現在であればそれほど慌てないような事象でも,若いうちは手が止まって情けない姿を露呈しました(お恥ずかしい).そういう時のための特集(ちょっと大げさか)を組んでみましたが,予想以上に落ち着いた重厚な内容に仕上がっていて,著者の先生方の練達ぶりが感じ取れます.アッと思った瞬間に,この特集の内容を思い出していただき,少しでも気を落ち着けて対処していただければこんなに幸せなことはありません.が,しかし,読者の多くはまだ若手の先生方だと思いますので,とにかくまず上司を呼ぶことも有用な一手とお考えください.そして,そこで呼ばれる立場をめざす皆様のいっそうの成長を祈念します.

基本情報

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臨床外科
74巻4号 (2019年4月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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