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嫌なことを忘れることはヒトが生きていく上での重要な資質だそうです.トラウマが癒えないうちに次々に新たなトラウマに襲われては,精神的にもちこたえることはできませんので.しかし,外科医の中には忘れる機能が異常に発達している人がいるらしく,「縫合不全も合併症も経験がありません」などという発言を学会でしばしば耳にします.本当にそうなのであれば,ごめんなさい.しかし,多くの場合は真実ではないのではないかと私は強く疑っていますが,言っている本人に悪気がないのであれば,それはそれで幸せなことなのかもしれません.この仕事をしていると嫌なこともいろいろと起きます.何故こんなことが?ということも起きます.一つ一つに傷ついていては身がもたないという側面は,確かにあります.楽観的すぎるのも問題ですが,あまりに悲観的過ぎても患者さんにとって望ましい判断ができない場合があるのかもしれません.
無防備に家で過ごしている時に「先生のオペ患の心臓が止まり,今蘇生中です」という連絡が入った瞬間,そして,病院に駆けつけてあまりのことに呆然としている時に無慈悲にも「患者さんのご家族が到着しました」と告げられる瞬間などは,本当に思い出したくもない,頭が真っ白になる瞬間です.それに加えて,私は術中にも何度か頭が真っ白になった経験があります(自慢ではありません).多少は成長した現在であればそれほど慌てないような事象でも,若いうちは手が止まって情けない姿を露呈しました(お恥ずかしい).そういう時のための特集(ちょっと大げさか)を組んでみましたが,予想以上に落ち着いた重厚な内容に仕上がっていて,著者の先生方の練達ぶりが感じ取れます.アッと思った瞬間に,この特集の内容を思い出していただき,少しでも気を落ち着けて対処していただければこんなに幸せなことはありません.が,しかし,読者の多くはまだ若手の先生方だと思いますので,とにかくまず上司を呼ぶことも有用な一手とお考えください.そして,そこで呼ばれる立場をめざす皆様のいっそうの成長を祈念します.
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