臨床外科 20巻11号 (1965年11月)

特集 熱傷の治療

熱傷 福田 保
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はじめに

 生体の細胞組織はある温度(50℃で白血球破壊,70℃で凝固)以上の加熱によつて損傷を受けるものであるが,その傷害の程度は温度の高さと作用時間によつてさまざまである.皮膚の表面から受けた熱が深部に及ぶにはある時間を要するので,湯タンポなどによる熱傷では温度は高くなくとも作用時間が長ければ,熱傷は深部に及び小範囲でありながら全治までには長時間を要することは,しばしば経験されることである.

 熱傷の原因としては直接火焔によるもののほかに,加熱された固体や気体,液体に触れたり,高熱物体などからの輻射によるものなどがある.平時にあつては一般家庭で起こるものが多いが,火災や爆発,戦争などでは集団的に多発することがあり,特に重症者の多発するときには,充分の処置ができないまま死亡する患者の多いことは従来の事実が示している.

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 熱傷直後におこる1次ショック,これに続く2次ショックの発生機序,病態生理,処置などに関する研究は,最近10数年間にきわめて活溌に行なわれ,大きな成果をあげてきた.そして重症熱傷の治療におけるショック対策は確立され,早期ショックによる致命率は減少し,早期死は未然に防がれるようになつた.現在では輸液,輸血などの適切,迅速な全身療法の駆使により,80%の重症熱傷すら早期死から救い得るようになつた.

 しかし,この早期死を乗り越えた熱傷患者を,つぎの感染などの問題から完全に庇護する方法はなおしばらくの感が深い.熱傷創面からの持続的な体液の滲出(蛋白の喪失は体表1%当り2.89g/24hといわれている1).これに続発する低蛋白血漿,貧血などにより,全身抵抗力は極度に低下する.このような状態の下では熱傷面の皮膚欠損部から侵入する細菌は強い毒力を発揮するようになる.他の疾患ではあまり病原性をもたないと考えられている緑膿菌などまでかなりの病原性をもつようになり,そのためのSepsisが発生して死にいたる場合が少なくない.

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はじめに

 われわれは,すでに熱傷の病態生理,一般的治療,合併症などに関し数回述べてきているが2,3,4,5,6),今回は熱傷の早期治療の一つとして表題のごとく局所冷却について述べてみたい.

 われわれは,日常しばしば指をやけどした場合など,すぐに冷い水につけると,疼痛,浮腫の軽減,治癒の早いことなどを経験しているのであるが,Shulman9)も,このような自らの経験から氷水療法を臨床例150例に応用し著明な効果を認めた.

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 われわれは東京警察病院形成外科において,昭和35年1月から昭和40年6月にいたるまで,186例の四肢(特に手足部)の熱傷患者に対し,入院,手術を施行した.

 本紙上にあつては,われわれが経験した症例についてその原因,年齢,部位および熱傷性瘢痕の状態を分析,観察し,とくに現在われわれが行なつている治療法について詳述することにする.

重症熱傷の臨床 赤沢 喜三郎 , 村松 正久
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はじめに

 重症熱傷の死亡率は初期のショック期の治療の進歩にもかかわらずその後に起こる感染のためあまり改善されていない1)2)3).東京消防庁の昭和39年度1ヵ年間の統計によれば第1表のごとく救急車による熱傷患者の収容数は合計835名である.

 また東京都鑑察医務院の死因調査統計によれば同年度の火熱傷に原因する死亡例は55例に及んでおり,そのうち0〜4歳が12例(22%)を占めている点は注目に価する.

熱傷の局所治療 安西 喬
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はじめに

 われわれが熱傷の局所治療の眼目としていることは,無菌的処置によつて細菌感染を防止することと,局所の安静を保持して表皮細胞の再生過程に無益な刺戟を加えないことによつて,表皮再生ができるだけ短期間のうちに,順調に進行するようにし,これだけで表皮再生の自然治癒を望めない第3度熱傷では,これに引き続いて,できるだけ早明に皮膚移植を行なつて,肉芽層を被覆することである.このことから出発して,われわれは閉鎖包帯療法と植皮術を,熱傷の局所治療の主軸として日常の診療を行なつているが,それについて述べるに先立つて,今まで行なわれてきたいろいろな局所療法について,もう一度反省してみることも,大切なことではないかと思われる.

 熱傷の局所療法として,数多くの方法が今までに行なわれてきているが,まとみてみると,凝固法と包帯法の二つに大別することができる.

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故高橋喜久夫教授の思いで 田北 周平
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 昭和40年7月19日徳島大学医学部第2外科講座の高橋喜久夫教授は多数の人に惜しまれて幽明境を異にした.

 思いかえせば昭和29年10月に本学大学院発足と同時に同君をお迎えしてから,はや10年を越えるが,おたがいに本学教授として苦楽をともにした.九大医学部の卒業は昭和6年であるが,こんなに年をとつてみると,どちらが古いのか判らない気持ちになる.同君に初めて接したのは,九大医学部内での対教室リレーであつたのだから奇妙な機縁である.学生時代小生はスパイクとなじんでいた関係上,赤岩外科メンバーのアンカーをつとめていたが,マネージャが小生に試合直前に忠告した.それは,対抗の後藤外科では,ナンバーワン走者を前にだしてトツプを奪い,アンカーには名前は判らぬが柔道の猛者を起用して走らせる作戦だということだつた.その意味はチョットでも接触すると当方がころぶことを意味するので,小生は慄然とした.小生はその被害を防ぐため遠廻りをしてゴールに逃げ込んだ事件を思いだす.そんなことは,いつしか忘れて長年月を経た終戦直後,小生が九州の国立大村病院に勤めていたころ,同じ系統の国立福岡療養所において肺結核の治療に打ち込んでおられる高橋外科部長を改めて知り,篠崎院長が両方を兼務しておられた関係もあり,手術を見学したり有益な教示を受けることもあつた.

人事消息
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沢 政一(新潟大学教授 脳外科研究施設)    医学部教授に配置換え 神経精神医学

松永 守雄 倉敷中央病院 脳神経外科転任

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 昭和40年8月22日から27日まで,東京ブリンスホテルで開かれた国際ME学会は,正式には The 6th InternationalConference on Medical Electronics and Biological Engineeringという.一昨年のリェージュ(ベルギー)の会議で日本が第6回の開催国の栄を担つたのである.日本のME&BEの実力は欧米の列国並みということであろうか.

 参加20数国,外国人参会者約300人,日本人400人を数え,演題300がすべて英語で発表された.名実ともに国際学会であつたわけである.

グラフ 外科病理アトラス

化学療法期の肺結核 鈴木 千賀志
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 肺結核空洞の治癒形式とたて昔から,(1)瘢痕化治癒,(2)開放性治癒および(3)被包化治癒の3形式があげられていたが,近代化学療法以前においても(3)治癒形成は肺虚脱療法例などにおいてしばしばみられたが,(1)および(2)は剖検例などにおいて偶然に発見されるきわめて稀な治癒形式であつた.近年抗結核剤による化学療法が取り入れられてから肺結核空洞が治癒するものがかなり多くなつてきた.つぎに化学療法によつて治癒した空洞例をご覧に入れよう.

外科の焦点

急性腹症の計量診断 四方 淳一 , 黒田 慧
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Ⅰ.計量診断の必要性について

 急性腹症の診断は簡便な手段で,迅速に行なわなければならないという制約があるために時間のかかる複雑な検査は不適当である.したがつて問診とか理学的検査とかに比重がおかれ,これに加えて補助診断法としてのX線検査と臨床検査が利用されている現状である.このうちX線検査については単純撮影のみによて診断が確定する場合がある.すなわち,胃・十二指腸穿孔は腹腔内遊離空気像によつて,またS状結腸捻転は特有の巨大な結腸ガス像で診断される.また,臨床検査の中で疾患特異性の比較的高いものの一つは血清または尿アミラーゼ値であるが,それが異常高値を示せげ急性膵炎と診断される.

 しかし,X線所見からはつきりとした診断が得られない場合や,血清または尿アミラーゼ値の上昇が中等度以下の場合のように,疾患特異の情報が得られない時には,急性腹症の診断は問診や理学的所見を主体として行なわれ,X線所見や臨床検査は文字通り補助的な診断法となる.

緊急検査法

梅毒の血清学的迅速検査法 鈴田 達男
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 とつぜんの大出血または急を要する手術のさいに,まず必要なのは輸血であるが,保存血が手に入らなかつたり,検査サービスが受けられない場合が非常に多い,このような時に欠かすことの出来ない血清学的検査が二つある.一つは血液型の不適合がないかどうかをしらべる交叉適合試験であり他は給血者が梅毒に罹患していないかどうかをしらべる反応である.後者については幾多の訴訟問題をひきおこした輸血梅毒事件が報道されているにもかかわらず,これまでは簡単迅速に結果の判定できる方法がなかつたために,必要性は認識されながら半ばあきらめられていたかの感がある.しかし最近では以下にのべるような新しい検査法が実用に供せられ始めたので,今後の利用が大いに期待される.

 簡易検査法の話の前に,ふつうの日常検査では検体が検査室に送られてから結果が判明するまでどの位かかつているかを一覧してみたい.第1表に示すように最も簡単で短時間に施行できるガラス板法でも1時間以上かかるが,ここで注目されることは,抗原の準備と試験そのものに要する時間は全体の20%に過ぎず,それ以外の時間の占める割合が意外に多いことである.したがつてこの血清分離と不活化の時間を短縮すればこの方法をそのままもちいても迅速化の目的を達することができる.

実地医家のための診断シリーズ・10 対談

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 長洲 外科医も心電図くらいは一応見るわけですが,ただ心電図をとつたというだけで,あまりポイントをつかんで見ているわけではないので、そのポイントをお尋ねしたいと思います.

 最初に手術不能の心臓疾患,これは手術をしてはいけないというようなものがあつたら,そんなものからお話を始めて下さい.

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 本文の記述は,教室におけるこれまでの経験と研究成果がその基礎となつている.しかも,それだけに限定されていて,他から報告された資料や他の学者の見解などは,少なくとも表面上は全く無視されている.この意味で,本文の記述は片寄つた記述といわねばならないが,心のなかでは,かなり強くこの記述の普遍妥当性を意識しながら書いたものである.

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 食道気管(気管支)瘻の治療に当つて,最も重要なことは,瘻孔部に炎症がある時は根治的手術を行なわないことである.そのため,新鮮な外傷性食道気管(気管支)瘻を除いては,ただちに手術を行なわず,まず局所の炎症消褪をはかる.抗生剤の投与,必要あれば切開,ドレナージを行なうが,その間には,肺合併症の予防と局所の安静をはかる意味で,経口摂食を禁じ,鼻腔を通して栄養管を胃に挿入しこれによつて経管栄養を行ない,唾液もできるだけ嚥下させないようにする.炎症消褪まで非常に長期間を要する時には胃瘻を造設するのがよい.組織欠損のあまり大きくない後天性食道気管(気管支)瘻では,このような処置のみで手術を行なわなくても治癒しうる.経管栄養を行なう場合にはカロリー量と各栄養素のバランスに注意することが肝要で,栄養が悪いと姑息的治療のみで治るべきものが治らず,また手術を行なつた場合にはその成否に影響する.

 陳旧性のもの,あるいは先天性と思われる症例でも局所の炎症の有無を慎重に確かめることが必要である.

外来の治療 実地医家のための外来治療・6

開放性損傷の治療(2) 安冨 徹
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Ⅴ.縫合法の実際

 創の縫合はあくまで無菌的に行なわねばならないから,術者は原則どおり「手洗い」をして操作を行なうべきである.しかし1〜2針の縫合ですむような小さい創を,いそがしい外来診療時間中に処置するのに,いちいち「手洗い」をするのも面倒である.そこで,はじめに2,3の簡便法を紹介しておこう.

アンケート

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"イレウスの場合に救急開腹を決  意する診断上の根拠"

 1.小児イレウスについて

 嘔吐腹痛はIleusを疑う出発点であるが,乳幼児のIleusでは決定的診断要素となり得ない.しかし自然または浣腸による血性便はかなり重要な診断のよりどころとなる.しかし他覚的所見についても,腸重積症の場合の腫瘤を除き,腹部膨満,腸雑音亢進、有響性腸雑音などどれ一つとして決定的診断要素はないといつて過言でない.

 立体レ線透視下でNiveau像と異常Gas貯溜像を発見すればIleusと診断して良い.さらに確定診断を得る目的にて,つぎの段階として経肛門Barlum注腸透視を行なう.この場合、結腸のlnvaginaationを発見できなくとも,結腸を通つて回腸に注入したBariulnがある特定の位置で断裂した場合にはIleusが回腸にあるのではないかという疑いで,さらに精査しなければならない.またレ線透視下でInvaginationの整復を試みて成功しても,細心にIleocaecal Junctionの部分を観察して完全に整復したか否かを確認しなければならない.

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 癌の末期の疼痛にたいする治療法はいろいろある.この場合レントゲン照射とか外科的な治療法の有効なことが多いが一般にはモルフインなどの鎮痛剤を大量に使用してゆく方法がとられている.

 現在の一般の傾向として,大量の鎮痛剤を使用しないで疼痛のみをのぞこうとする努力が多くの人々によつてなされ,しばしば疼痛外来の対称となる.われわれは現在,末梢神経のアルコールブロック,長時間にわたる持続硬膜外麻酔,硬膜外腔アルコール注人などいろいろのこころみをやつてきたが,やはりもつとも有効でしかも合併症の少ないものは,くも膜下腔アルコール注人法であると考えている.

外国文献

大きい色素母斑,他
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 juvenile melanomaを除けば美容上の問題だけで悪性化はしないという意見がつよい.Shaw (Brit,J.Plast.Surg.15;426,1962),Liaboa (Arch.argent.derm.11:395,1961)まで,悪性化したというのは20例ぐらいしか報告されていない.Greeley (Plast,Rec-onst Surg.36:26,1965)はIllinois大学形成外科で過去25年間に,体表900cm2以上の大きさの色素母斑56例経験,うち6例が悪性化し,その6例のうち4例は転移で死亡した.諸文献を徴し,本症は少なくとも10%が癌化するという頻度に注FIすべきことを強調している.juvenile melanomaは思春期になるまでは癌化しないという通説はむしろ誤りであろうといつている.1年半女児,背部・項・臀部にひろがる大母斑で脳・肺・肝に転移し死亡した例,10歳で転移した2例を写真,組織像で呈示している.2歳半の1例は切除,皮膚移植で14年後も健存という.38歳男の1例も切除,皮膚移植で23年後健存.早く正しく診断し治療の要あり.

他科の知識 外科領域に必要な泌尿器科的疾患・3

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はじめに

 副腎は腎の上方に左右1対存在する小さな器官であるが,生体にはたしている役割ははなはだ大きい.副腎は衆知のとおり皮質と髄質とに分けられ,皮質はさらに組織学的に3層に分類される.最外層の球状層からはaldosteroneを主とするmineralocorticoidsが分泌され,つぎの束状層からはcortisone,hyclrocortisoneを主とするglucocor-ticoidsが分泌され,皮質最内層の網状層からは各種の副腎性androgenが分泌されるといわれる.また髄質ではcatechol amineと総称されるadr-enaline,noradrenalineが生成される.これらのホルモンはそれぞれ他の内分泌器官と密接な関連を保ちながら,生体の維持に重要なはたらきを及ぼしているのである.

 そこで副腎に腫瘍が発生すると,そこから過剰に分泌されるホルモンの薬理作用によつて,種々の特徴的な副腎機能昂進症が出現する.

他科の意見

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Ⅳ.Dumping症候群

 胃癌の場合には,現段階では胃切除手術以外に有効適切な方法は今の処存在していないから,早期診断と早期手術の重要なことは異論のないところであろう.

 しかし胃ポリープや胃潰瘍の場合には,時として胃切除手術の適応の決定に迷うことがしばしばである.もちろん,これらの癌変性の疑いがあれば,切除手術も止むを得ないことであるが,悪性化のおそれのない場合に手術に踏み切るかどうかは議論のわかれるところである.私は胃潰瘍穿孔の場合や失血死のおそれのある出血性潰瘍に対しては,手術をすすめることにしている.

薬剤の知識

抗生物質使用上の注意(3) 真下 啓明
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Ⅰ.抗生物質療法の副現象

 抗生物質療法を行なつた場合,抗生物質本来の作用である抗菌作用により,正常腸内菌叢その他に変動を与えることがある.とくに経口投与で難吸収性であるStreptomycin,Kanamycin,Neom-cycinなどで著しい.この場合当然感受性菌の減少,そして耐性菌の残存の結果,比較的耐性菌増加の状態になる,第1,2図はFradiomy cinl3g/day経口投与時のColi-group細菌およびEnterococcusの変動である.Candidaはこの場合ほとんど影響されずむしろ増加傾向がある.そして注目すべきことはこの際血中Cholesterolの低下をみることである.この理由はなお完全には説明しえないところであるが,一つにはFradiomycinにょる腸粘膜の障害が考えられる.しかし,われわれの研究においては動物実験では200mg/kgの投与でも腸粘膜に組織学的変化を認めていない.またウサギ,あるいはヒトで131I-Triolein吸収試験,d-Xylose吸収試験の結果からも吸収障害は証明されない.そこで腸内細菌の関与が問題になり,正常状態でCholesterolあらるいはBile acidsの腸肝循環が行なわれており,腸内細菌叢の変動が何らかの形で,この腸肝循環を障害した可能性が考えられる.

器械の使い方

麻酔器具の使い方(2) 若杉 文吉
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Ⅰ.マスク

 吸入麻酔の第1歩はマスクの選択とその使用法である,マスクの種類には第1図のようにいくつかの形式とそれぞれ大中小の大きさがある.これらの選択にあたつてはまず適当なサイズをきめることである.特に小児用においては死腔の小さいことも必要条件であるが,既製マスクにおいてはむしろサイズが重要で,できれば麻酔導入前によく患者に合わせて選ぶとか小児には慣れさせることも大切である.

 その他老人特に頬のこけてやせた人,義歯をとり外している人などはマスクが合わないことがある.このような場合は概して第1図の1.anato—mical mask がよい.

トピックス

門脈短絡手術の運命 堀 原一
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 門脈下大静脈吻合が1877年Eckによつてはじめて行なわれたといつても,近代外科の立場からそれが臨床的に門脈圧亢進による食道静脈瘤の治療手段として,最初米国においてとり上げられてからまだ25年を出ず,日本においてはさらに数年短い歴史を有する.これは本手術がなお実験的,臨床的論議の対象となるにふさわしい若さであるということと同時に,20年を経て来た本手術が過去にもたらした結果によつて批判されるに足る古さももつていることを意味する,

 主に肝循環の研究から門脈短絡手術は,門脈減圧や腹水軽減の適応に応じて門脈下大静脈端側,側々,double portacaval,上腸間膜静脈下大静脈側端,脾腎静脈吻合,最近本邦で創案された門脈血分離灌流法など,門脈減圧をはかりつつ術後いわゆるEck瘻症状群の発生をできる限りくい止めるよう,いろいろに考案されて今やテクニックの上では問題がないところに来たといつてよいであろう6)

海外だより

西ドイツに留学して 三島 好雄
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 筆者は過去2年間Köln大学外科Heberer教授の下で留学生活を送つた.今さら改めて述べるような事柄もないが留学生活で感じたことを記して責を果たしたいと思う.

 西ドイツの大学外科教室の構成は日本のそれと大差がないが,それぞれ200〜400床のベットを持ち臨床的研究が中心となつている.学生は通常最後の学期にDo—ktorarbeitを終え,直ちに国家試験,それに合格するとMedizinalassistentとして2年間実地教育があり,その後始めて1人前の医師として大学あるいは病院に就職する,大学に入局した場合にはAssistenzarztとして一応6年間在籍することを許され,この間臨床あるいは実験に従事し,この中主任教授にみとめられたもののみがOberarztとなつてさらにHabilitationsarbeitを行ない,その他のものは他の病院に赴任して行く.ちなみにKöln大学外科では主任教授Hebererの下に7入のOberärzteがおり,それぞれ胸部・腹部・心血管・外傷・泌尿器・小児・麻酔と専門分野の分担がきまつており,外来は麻酔を除く6人が廻り持ちで担当している.主任教授は1年に6週間前後の休暇をとるがこの間はOberiirzteの1人が代理として全責任を持つ.

患者と私 患者に接して40年・2

医師の立場と患者の立場 桂 重次
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 教授生活がだんだん長くなつてくると忙しくなつて,患者と親しく接することがしだいしだいに少なくなつてくる.新患あるいは外来,あるいは手術ときまつた時間にきまつた患者をみて,患者と親しく接するという時間は少なくなつてくる.そんなになると患者側は大学のえらい先生にみてもらつたのだからとか手術してもらつたのだからというようなことを考える.やつている医師の方もしだいしだいに患者と人としての接触でなくなつてくる.これはまことに悪いことであると知りつつも忙しさにかまけてそれでいいものだとする考え方になる.

 大学を定年退職し病院の院長となり,別の意味で医師として再出発するに当つてこの点を深く考えさせられるのである.

雑感

医学教育と臨床の間で 村松 博雄
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 産婦人科の医局に入つて,新入り1年生の下働きの仕事からやりはじめて見て,「産婦人科の仕事というのは,随分体力のいるものだ」という印象を強く受けた.

 それは下働きの仕事がつらいというのではなく,お産の介助,外妊娠の手術,その他,産婦科医として,当然やらなければならぬ仕事が,私にとつては体力的にすごく負担に感じられて仕方なかつたのである.無論最初から1本だちの仕事をあたえられたわけではない.諸先輩の鉤引き,産泊の助手といつた,そう神経を使わないでも済むものにも,ひどい重荷を感じてしまつたのである.

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 「臨床外科」の購読者は,9割までは外科医で,かつ相当の%が開業医の諸先生かと思われる.世に"他人の花は赤い"というが,完全に外科開業に満足してはいない先生方も数々あるのではなかろうか.産婦人科も外科のパートではありながら,日常生活は他科の方には想像もできない悲惨な?ものであることを認識され,せめてもの慰めとして頂きたい.

 筆者のごとき産婦人科の一開業医の所にも,月に一つや二つはアッペがとび込んでくる.その度に,"外科は良いなあ"と三嘆する.第1に手術開始の時間は,自分の都合しだいだし終りの時間も,およそ見当がつく.外科のたいていのオペは,この原則から外れることがない,それにひきかえ,産科は完全にあちらただいであるからだ.

外国雑誌より

ドイツのUnfallchirurgie 渋沢 喜守雄
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 交通事故,鉱山事故・天変など相ついで起こり救急外科の必要性が,いまさらのように,痛感されるが,ドイツではBauer教授らが1950年台にすでに立派な医学的な交通事故統計,メカニズムの研究をやりあげており,日本の医学が社会情勢から遊離して白亜の殿堂の中にこもつているのではないかと反省させられる.Zuckschwerdt教授は昨年12月の第94回西北ドイツ外科学会でドィッUnfallchirurgieの進歩という特別講演をしているので,紹介して,本邦外科家の参考に供したい.Wien大学1904年Hoheneggの外科教室では9カ月間に外傷わずか28例だったが,Zuckschwerdt教室最近10年間に外来入院あわせて45,000の外傷が来ており,外科患者総数の1/4ちかくが外傷であるというほどに,外傷患者が激増した.ドイツではビスマルクが外傷保険をはじめて作り,ローマルがさらにこの制度を充実したが,これが今日のドイツのUnfallchirurgie発展の経済的基盤となった.

基本情報

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臨床外科
20巻11号 (1965年11月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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